《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task6 ロイドを追い詰めろ

鉛弾が、俺の足元を掠める。

こりゃ參ったね、相手はまだピンピンしているらしい。

「一つ訊きたいんだが、イルリヒトを潰すのは何故だい」

「奴らは死の商人だ」

「それの何が悪い?」

いや、俺だって解るさ。

それはつまり俺が最も嫌っている“てめえの正義の為に人を殺す”という行為に他ならない。

だが、それを俺が言うべきじゃない。

なくとも、今この場では。

「――おっと」

またしても銃弾が飛んでくる。

なるほど、言葉より弾でモノを言うって主義かね。

それはそれでクールだし、何より俺好みだ。

だが悲しいかな。

馬鹿に馬鹿を自覚させるには、鉛弾の一発よりも數百の苦痛だ。

死なせて馬鹿のままにするよりも、俺様のありがたい暴力で啓蒙してやる・・・・・・ほうが何億倍も有意義だろう?

絶対に取っ捕まえて、終わりのない出劇を演じさせてやる。

「隠れても無駄だぜ、スパイ野郎」

さっきから俺の手元が狂うのを狙って、ちょこまかと逃げまわってやがる。

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時間稼ぎをする事で奴は何の得がある?

基地の座標を特定して、本部から増援を送るのか?

もしもその間に俺が戦闘機をオシャカにすれば、俺は報酬からその分を天引きされちまう。

スパイ野郎は、俺達が焦るのを狙っているわけだ。

大した余裕だぜ。

なら俺がする事は一つだ。

弾を外そうとするという作。

これで奴はリモコンを作して破しようとするだろう。

「ほら、早くその魔法の腕時計を使えよ」

「電波障害くらい想定済みさ」

お互い、聲を大きくしなくても聞こえる距離だ。

戦闘機を一つ隔ててすぐそこに、奴はいる。

「なら何故押さない」

「まだその時じゃない」

「気取りやがる」

……弾の取り外しを済ませた。

戦闘機の外裝にちょっと傷がついたが、どうせミサイル一発で吹き飛ぶジュラルミンのボディだ。

頼むから報酬は削らないでほしいね。

じゃあこの弾を奴の所に放り投げてやろう。

本當に電波対策は済ませてあるのか?

いや、奴は“想定済み”とは言ったが“対策済み”とは言っていない。

油斷させる為の罠も考えられるが、どうだ?

ステイン教授いわく、プラズマ弾頭は著弾點から半徑數メートルにわたって電磁波のれを生み出すらしい。

そいつが効いて・・・いるのか。

腕時計が調子を取り戻すのも、時間の問題だろうがね。

奴の腕時計だけでも壊せないか。

発信機が付いていたら、ここで消えたら察知されるかもしれん。

だが、幸いにも戦闘機がある。

腕時計だけミサイルにくっつけて、飛ばしちまえばいい。

面倒な所を選びやがって。

これだから防衛戦は嫌いなんだ。

……仕方ない。

「ロナ!」

「――!」

ロナは気配を消してくのが、とにかく人一倍上手い。

抜き足差し足忍び足で、気が付けば後ろにいる事もできる。

ロナは、ロイドの後ろからショットガンを構えた。

それだけなら良かったんだがね。

ロイドもすぐさま振り向いて、ロナに拳銃を向けていた。

どころか、奴はもう一丁の拳銃を死から拾っていたらしい。

左手に構えた拳銃は、寸分違わず俺の頭を狙っていた。

ここで格差が仇になった。

ロイドがロナの頭を狙っている以上、ロナのショットガンの位置からじゃどうやっても弾を掻き消せない。

「ロナといったか。できるなら、撃ちたくない」

「あたしを撃ちたくない? あんた、おめでてぇな。殺す命を、あんたの一存で選り好みしてる場合じゃ――」

だが言い切る前に、電子音が鳴った。

ロイドの腕時計からだ。

電波障害で通じないんじゃなかったって事は、いつでも起できるって事か。

そいつが録音じゃない事を祈るよ。

「……出ろよ。電話」

ロナと二人で銃を突き付け、促す。

ロイドは、渋々といった様子で端末をいじった。

ここまで顔一つ変えない辺りが、薄気味悪い。

「今は潛任務中だが?」

『ロイド、大変だ。大統領の居所は、そこじゃない!』

「何……?」

『一時間前にその基地から出港した空母だ! 君の協力者が座標を突き止めた! 航路は、大西洋に向かっている……陸路は使えない!』

「そう、か……」

いやあ、大変だね。

じゃあその協力者って奴が、ボスを裏切ったイゾーラかい。

「今から向かう。運が良ければ、出できる」

『解った。気をつけて』

腕時計のボタンを押して通話終了だ。

「ロナ、ところで応援は他にも頼んだよな?」

「そうですね。時間稼ぎは充分でしょう」

格納庫正面のゲートが開き、銃を構えたイルリヒト構員の連中が殺到する。

レーザーポインターの赤いが、次々とロイドの頭に集まっていく。

「そこまでだ! スパイ野郎!」

流れるような作で、あっという間に包囲網の完だ。

これには、流石のロイドもお手上げだ。

「休暇の続きは獨房で過ごすこった。噂じゃ死ぬほど快適らしいぜ」

「遠慮するよ」

スパイなら隠し玉の五つや六つ、そりゃ當然持っているだろうね。

この野郎ときたら、服の隙間から煙を出したかと思えば、その煙が急にバチバチと発しだした。

嫌な予がしたから、俺は咄嗟にロナを庇いながら回避する。

足元に銃弾の雨が降り注ぐ。

さすがイルリヒト……十把一絡げとは恐れるね。

「うわっ、前が見えない!」

スモークとフラッシュで目を開けていられないロナの手を引く。

そうしている間に、骸骨野郎はタラップを登って輸送機に乗り込もうとしていた。

俺は、ロナの耳元で囁く。

「ロナ、來るかい」

「ど、どこに……」

「俺の隣」

「行く!」

その返事を待っていた。

俺は輸送機の後ろにあるハッチに、ロナを放り込む。

「ひあああぁああ!? ――ぐえぇっ」

続いて俺もりこむようにして、輸送機の貨室にっていく。

どうやらスパイ野郎は走路に出る前に、輸送機のエンジンをかけていたようだ。

ハッチは開きっぱなしだから、よく見える。

スモークもろとも、構員共も吹っ飛ばされていく様子がね。

格納庫を出ると同時に離陸するって算段らしい。

暴な真似しやがって。

しずつ陸が遠くなっていく。

やがて、格納庫から風が吹き出た。

いつでも起できたに違いない。

恐れったぜ、このサディストめ!

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