《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task9 力室に急行しろ
既に數えるのも面倒な程の死が、そこかしこに転がっている。
手榴弾にやられたのか、上半が原型をとどめていない奴もいた。
別に、いいさ。
同じような事をしてきた連中なんだ。
くたばって誰が悲しむ?
お前さん達ごとき・・・の仇討ちをしてやるつもりは無いが、俺は別の理由で戦ってやる。
生き殘りの連中に道を尋ね、目撃報のあった力室へとやってきた。
の匂いを辿って、しずつ奧へ。
金網の細い足場が壁際と、中央にある。
下ではエンジンらしき巨大な機械が、コンプレッサーをサイズアップしたような音を立てている。
タービンの橫に立つロイド・ゴース。
どうせお得意の弾でも仕掛けたんだろう。
すぐ近くのから、弾切れらしい兵士がナイフを片手に突撃していく。
ロイドは素早く足払いをして、変電裝置に叩きつけた。
頭から突っ込んだ兵士は、そのままかなくなった。
ちなみにロイドは、左手・・で拳銃を持っている。
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そこからし離れた所に、見覚えのある奴が二人ほどいた。
一人はブロンドの。
多分、あれがイゾーラだろう。
切れ長の目を得意げに細めて、もう一人に拳銃を向けていた。
その三日月のように歪めた口は、貴婦人の微笑みには程遠かった。
もう一人は、後ろ姿でもわかる。
図のでかい白髪の……あのステイン教授だ。
「ロイド・ゴース! イゾーラ君ン! ワタシの発明品の前には抵抗など無意味!」
その両手で抱えてるオモチャは、銃なのかい。
まるで、三角定規にカジキマグロを足して割ったようだ。
俺の腰くらいまでの長さだが、まさかそいつで倒そうってか?
お前さん、あいつらは巨人でもドラゴンでもなく、人だぜ。
いや、ビヨンドという線も捨てがたいが。
銀のオモチャから、青白くて太い線が放たれた。
イゾーラはそれを側転して避ける。
線は壁に真っ赤なを開けた。
に隠れ、黙ってり行きを見守るロイドとイゾーラ。
その二人をよそに、教授は長講釈を続ける。
「気になるでしょう。これは試作型線銃クラカタウ。
ナチスドイツ式學戦車砲の設計図を元に、ワタシが獨自に改良を加えて攜行型にしたものです!」
「……スーさん、援護します?」
「俺が行く」
忍び足で、壁沿いの通路を左へ。
ここからだと金網越しによく見えるが、ロイドとイゾーラは何やら相談中らしい。
「さァ! 覚悟はよろしいか!」
再び、青線が飛ぶ。
イゾーラは得意げなツラで飛び出し、自の腕時計のスイッチを押す。
すると、の板が腕時計から展開され、線を掻き消した。
「そんな中途半端な時代のより、こっちのほうが魅力的だわ」
「――! なんですと!」
「フフ……ありがたく頂戴するわよ。データもろともね」
お取り込み中ってわけかい。
「――おっと」
ロイドから挨拶代わりの一発が、俺の頭を目掛けて飛んできた。
俺は屈んでそれを避け、前転して腹ばいになる。
流石はスパイ野郎、気配には敏だね。
ズドン!
こっちも挨拶代わりの一発を、頭上からお見舞いしてやる。
ただし、狙いはロイドじゃない。
「――!」
俺の狙いは、シールドに守られていないイゾーラの足だった。
これは見事に命中。
ロイドは咄嗟に、橫に飛び込んで逃げる。
俺はその先、変電裝置に隠れているだろうあいつに狙いを定めた。
「イゾーラ!」
「ぐ、うう……!」
「……ごきげんよう、俺だ!」
久しぶりか、はじめましてか……まあ、どっちでもいい。
お前さんの正義を検証させてくれ。
「おお、おお、丁度いい所に來ましたね、ダーティ・スー君!」
「お前さんも援護してくれよ」
「無論!」
「行くぜ」
ズドン!
逃げ込んだ場所から再び出て來ると見せかけて、ロイドはその反対側から銃を向けてきた。
だから俺は先手を打って、ぶっ放した。
反撃のリスクはとりあえず無視して、俺は中央の足場を進む。
「イルリヒトを潰して、その先はどうする?
難民、移民、貧困、格差……人類の課題は、敵は、あまりにも多い。お前さんは銃をぶっ放して悪黨を殺すだけが能なのかい?」
「を抱く事もできる」
「カビ臭い答えで誤魔化すなよ」
を抱く?
そんなの結果はどうあれ、その気になれば誰にでもできるだろう。
男でも、でも、どっちでなくても、人でなくても……いや、生きですらなくても。
俺は、口付近で眉をひそめるロナに合図した。
挾み撃ちを仕掛ける為に回り込んでもらうって計算だ。
手すりを飛び越え、ロナは階下に降りる。
ううん、綺麗な著地だ。
「ファハハ! 隙だらけですねェ!」
得意げに距離を詰める教授。
雷のような音を立てて、ビームが何発も放たれる。
ロイドが隠れている柱にビームが當たるたびに、その柱は赤くえぐれていく。
俺も、位置調整しながら狙いを定める。
ズドン、ズドン、ズドン!
柱から柱へと、奴はしずつ距離を取っていく。
逆にイゾーラの距離がしずつまっていく。
おっと、そっちにゃ行かせないぜ。
「覚悟しなさァい!」
ここで、アクシデントだ。
ロイドの奴が、クラカタウの銃口に鉛弾・・を當てた。
「おンやァ? お、おおおッ!?」
あわれ、クラカタウはスパークして大発を起こし、教授の上半は黒焦げになっちまった。
あれじゃあ即死だろう。
正面から狙おうとした間抜け野郎にゃ、お似合いの最期だったな。
「まったく、むごい真似しやがる」
ズドン!
怪しげなタービンに、鉛弾が弾かれる。
今ので弾切れだ。
シリンダーから薬莢を外して、そこに次の弾を裝填していく。
ついさっき、形見になったばかりのプラズマ弾頭を。
ひとつ、ふたつ、みっつ……。
その間に、ロナが奴の橫合いからショットガンをぶっ放す。
太い鉄柱は鉛の粒をともしないが、それでもいくつかは奴の鼻先を掠めただろう。
ロナのショットガンが弾切れになるまで、そんなに時間は掛からない。
とっとと済ませよう。
「族に吐かれた恨み言を數えた事はあるかい?」
……よっつ、いつつ、むっつ。
リロード完了、さあ狙おう。
「よく喋る口だ」
「お前さんが無口すぎるのさ。どうせ、を口説く時は饒舌なんだろ?」
両腕を広げて、歓迎の姿勢を見せる。
すぐさま銃弾が頭を狙って飛んできたから、俺は橫に跳んだ。
そのまま、階下に降りて走る。
イゾーラを人質に取るために。
「あ、ぐ、ううう……! はぁ、はぁ……ッ!」
「捕まえたぜ」
両足を摑み上げ、逆さ吊りに。
腹を足蹴にして、バスタード・マグナムの銃はイゾーラの額を狙う。
「おい、スパイ野郎! 囚われのお姫様を助けたいかい!」
「私の事はどうでもいいわ! 行って、ロイド!」
「う……しかし!」
茶番かい。
いいぜ、付き合ってやるよ。
「この男は、もろとも始末するつもりだわ! 早くしないと大統領が危ない!
今は私の仲間が出の手伝いをしているけど、追い付かれるのは時間の問題よ!」
「……」
「けない野郎だぜ! の手を借りないと満足に仕事もできないのかい、ロイド!」
「君は違うとでも?」
「俺のあいつ・・・は勝手に付いて來ただけさ」
俺が指をさすと同時に、ロナはショットガンのリロードを終える。
「そういう事ですね。悔しかったら、自発的に手伝わせるよう調教したらどうです?」
「私はそんなに安いじゃないわ」
「今は割引セール中でね」
ズドン!
バスタード・マグナムから放たれたプラズマ弾頭は、イゾーラの両腕を焼き飛ばした。
「手詰まりね……殘念だけど、お別れよ。ロイド」
イゾーラはガリッと音を立てて、何かを噛み潰した。
數秒して、かなくなった。
服毒自殺か。
なるほど、スパイの自殺にゃおあつらえ向きだ。
殺害対象だから仕方ないとはいえ、あまりいい気分じゃないな。
「イゾーラ……!?」
予定とは違うが、ターゲットは一つ片付けた。
くたばって惜しい奴だとは思うがね。
仕掛けられていた弾が、次々と発していく。
ロイドの奴、いよいよヤケになったか?
こっちとしちゃあ好都合だ。
最終決戦を楽しもう。
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