……の冒険者は、數ランク上の男の冒険者に付き従う事が當たり前の世界。

教會と底はさして変わらないけれど、実態は更に酷い。

男に盡くせ、男を立てろ。

強い男に皆で群がれ。

【↑は一人では生きられないから。反抗的ななど潰されるだけだから】

いざ冒険指南書を分解してみれば、そのような容ばかりだ。

ハーレムパーティを形するにあたって、偶然を裝ったスキンシップなど基本中の基本だ。

下著を見せる、或いは出の多い服裝をする者も決してなくない。

そうやって男達の気を惹くのが、の冒険者達の正しい在り方・・・・・・と誰もが口を揃えて言う。

【↑それの何が悪い。自分達の意志で・・・・・・そうしているというのに】

この世界に於いて、は男無しには立しない“弱き者達”であり、理論よりが勝っている“白癡の者達”なのだ。

【↑紛れもない正論。浮かべてご覧、お前の反論を】

一人で立ち上がり、男に憑れずとも立する人だっている。

同士で手を取り合い、共に歩む人もいる。

……世界が、彼達を侮辱するのだ。

【↑被害者ぶるのも大概にすべき。弱すぎ。繊細すぎ。気にしすぎ。だから生きて行けない。

前世も合わせれば還暦を迎える程は生きたのに、まだそこで立ち止まっているのか。やはり、お前は死ぬべきだった】

うるさい。

黙れ。

【↑ならばお前が死ね】

修道院で學んだ治癒魔法を重寶がられる為か、わたしは何処へ行ってもすんなりとけれられた。

長く関わりすぎないよう考えながら、次から次へとパーティを渡り歩いた。

短い付き合いの中で、幾度となく悲劇を目の當たりにした。

なめは、協會と同じく発生する。

パーティのリーダーを獨占、ないしはハーレムのヒエラルキー上位に留まる為なのか。

周りに合わせて、つまりは同調圧力なのか。

理由は様々で、そして、そのどれもが一様に、人の業をじさせるには充分だった。

時には、それで命を落とす事もある。

……その全てを止める事など、わたしのように小さな軀のに出來る筈も無かった。

矛先がわたしに向かぬよう、必死にけ流した。

『ほら、あの人なんてどうでしょう。わたしが思うに、オススメ男子ナンバーワンではないかと』

『わ、ごめんなさい！　この前ご一緒したパーティのカップルの行く末が気になって！』

――などと、考え事と沙汰の観察が好きなだけの、ぼんやりしたポンコツの子という仮面をかぶって。

【↑そうしてお前は、また見捨てた】

今はまだその時ではない。

まだ力が足りない。

自にそう言い聞かせながら、黙々と敵を倒し続けた。

二人目の子を殺した、その両の手で。

活していく中でわたしと親しくなった冒険者の何割かは、普段はソロ活をしている人達だった。

そして、そのうちの三割は食事や飲みに薬を盛られて、眠らされている間に犯されて行った。

そうして誰かが孕んで、産んで、捨てていった子供が冒険者になる事もある。

そんな冒険者の中には、わたしの子が育てばこれくらいだろうか……という年頃の子もいた。

その事実を知るたび“彼ら”の嘲笑する聲が聞こえてくるような気がした。

【↑被害妄想も甚だしい】

だからわたしは獨り、耳を塞いで咽び泣いた。

『無事に生まれてきて、五満足なら、それでいいでしょ』

何度も。

『軽はずみに尾をするなんて、猿かよ』

何度も、何度も。

『わたしだって、産みたかった……育てたかったのに……』

涙が枯れゆく最後の瞬間まで。

『その子をわたしに寄越せ……寄越せよ！！　わたしに！！　わたしが育てるから！！』

本當は、彼ら、彼らに、面と向かってそう言ってやりたかった。

けれど苦悩も嘆きも、わたしはただ、ただ呑み込んだ。

人知れず涙するうち、やがて悲しみのは耗していき、憾みだけが募っていった。

【↑辛いのはお前だけではないのに、勝手に悲劇ぶるつもりか】

わたしは果たして、まだ正気を保てているのだろうか。

湖に飛び込んで死んでしまおうかと考える度に、見覚えのないが私の隣で囁いてきた。

――『あなたが叛逆をむなら、私はいつでも力を貸すわよ』

そのを幾度となく跳ね除け、逡巡を繰り返した。

その聲に従えば、きっとわたしは、わたしではなくなってしまうだろうから。

ただ、悪いことばかりでもない。

おおよそ孤獨ばかりが幅を利かせた人生だけど、わたしにも友達ができたから。

【↑悪いとじた全ては、お前の我儘によるものだ】

ウィルマは、顔の正面に大きな十字傷のある金髪のだ。

得である無銘の太刀は、売人から仕れたものらしい。

『強者を屠る事で相対的に、おれが最強になる』

酒を片手に、そう豪語する彼の眼差しは何処か寂しげで、何かから疎外された者特有の暗さを纏っていた。

だから互いの過去は話さずとも、通じ合うものがあった。

相棒でもなければ人でもない。

ウィルマは、いうなれば“現狀で最も信頼できる同僚”だ。

彼の獲はいつでも、奢れる強者のみ。

挑戦狀を叩き付けて、斬り伏せた。

それが人であれ、人以外の何かであれ、例外なく屠った。

わたしには、その生き様や戦いぶりが眩しくて、とても眩しくて、だからこそ近付きすぎては危険だとじた。

ウィルマは考えながらでも殺しができるけど、わたしにはできないから。

いつからか、わたしは焦がれるように、人の善を探し求めるようになっていった。

わたしの信じる“人の善”――すなわちとは、如何なる苦境にも、周囲の嘲笑にも耐えて貫くものだ。

好きだけでなく、互いが納得できるものであってしい。

一度だけ一緒に仕事をしたルチアという巡禮者が、それを“真実の”と呼んでいた。

『真実のなんて、軽々しく名付けていいものかよ』

ウィルマは不平を述べはしたけど、わたしが頷いたのを茶化さずに見守ってくれた。

『ま、お嬢がそれを見つけたいなら、おれは付き合うよ』

平等など空想の産に過ぎないのだとしても、せめて真実のだけは手の屆くものであってしい。

無償のなんて、そんなものは必然の母を盲信して甘える者達の詭弁に過ぎない。

【↑それこそ弱者がそのままでいる為の方便でしかない】

それを伝えたくて、わたしは、巖を見つけてはそこに詩を刻みつけた。

或いは、あの“聲”を掻き消したかったのかもしれない。

【↑無駄】

“夕闇迫る冬の山にて”

“燈りも持たずに出ようなど”

“誰があの子に言えようか”

“燈火よ、巡れ”

“渦巻く大火をす前に”

“道を照らせ”

“夜闇が道を閉ざす前に”

燈火は富であり、コネでもあり、幸運かもしれない。

子を産み育てるには、わたしの生きてきた世界はあまりに過酷すぎる。

多くの人々が真実のに気付いて、もっと優しくなれるように。

己の生まれを後悔しなくて済むように。

この世界で、生きて良かったと思えるように。

【↑余計なお世話】

――けれど、それも今日という日までにした。

故郷に、グランロイス共和國に帰ってきた。

幾度となく繰り返される、答えのない自問自答に疲れ果てたわたしは、これで終わりにするよう決めた。

ウィルマにそう告げると、彼はうつむき、頷いた。

『おれの安っぽい命では、お嬢の心までは守りきれないか……それでもいい。好きにやっておいで』

転生者クレフ、転移者クロエ、それから他の子供達を目の當たりにしたとき、これが最後のチャンスだと思った。

今まで験してきたあらゆる不條理の図が、そこにはあった。

強大な力を持つ転生者による、圧倒的な躙。

様々なギフトを與えられた転移者による、力の格差。

『死んだなら三日以に蘇らせればセーフだし』

そして目的地で知った事。

社會的にげられた立場の人達に対する、驕りと侮蔑。

無自覚な欺瞞と嘲笑に彩られた、薄ら寒い平和。

これ以上探しても真実のが見つからないのであれば、ただ黙して死すのみだ。

もちろん、彼らを道連れにした上で。

その筈だった。

なのに、どうして……、

嗚呼、どうして今になって、わたしは見つけてしまったのだろう！！

この子達を、どうにか助け出すことは、出來ないものか。

ダーティ・スーの冷え切った眼差しが、わたしの口を固く閉ざさせる……。