《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Final Task 連中を送り屆けてやれ
冒険者共を順々に捌いていく。
まったく、口ほどにもない連中だったぜ。
クロエはナターリヤの所に送ったし、クレフは両足切斷と去勢の上で伊達にしてやった。
殘っている剣士、魔法使いが二人、鎧、眼鏡、シスター。
この順番で一人ずつ縄を解いてやった。
この場所から丸腰で帰すのは、流石に勘弁しておいてやろう。
格の違いを思い知った取り巻き共は、素直に帰って行った。
俺が投げて寄越した武を、俺に向ける事も無く。
フォルメーテと呼ばれていた眼鏡のが、憂げなツラでクレフを抱えたのが、何とも印象深いね。
「ゴブウン・・・・をお祈りしちゃうぜ」
『スーさん、なんかアクセントが変ですけど、まさか……いや、まさかですよね』
念話で、ロナが呆れた聲を出す。
『飯に混ぜをすりゃあ香りが変わるのは必然だろうよ』
『あー、その香りにまみれたクレフを持ち帰った彼らの運命や如何にって事ですかね』
『それが何を呼び寄せるのかは、襲われてからのお楽しみだ』
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ま、せいぜい協力しあって頑張って辿り著くこった。
碌な応援も無かった世間様を恨みながらな。
殺しにかかるような相手じゃないから、大丈夫だろう。
最後の一人、エウリアがぼんやりと歩いて帰る。
――と見せ掛けて、出り口で振り向いた。
「わたしは、彼らとは合流できません。結果がどうあれ仲間を売ったのです。もう、彼らに合わせる顔など……」
この、俺のしたことを見抜いて――いや、それは無さそうだ。
何しろ、目が本気だ。
諦めるべきか、諦めずに続けるべきか。
お前さんの揺れる眼差しは、そんな逡巡を吐き出しているようにも見える。
だから俺は、選択肢をわかりやすく提示してやったのさ。
ここでの出來事を悪夢として忘れるか。
それとも、このガキ共を攫っていくか。
さて、どうやって繋げていくかね。
こういう時は、話の一つでも振ってやるのが一番か。
「とりあえず、片付けたか」
「そうですねぇ。紀絵さんに、普段のスーさんがどういう戦い方をしてるのか魅力を伝えきれてないのが心殘りですね」
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「あ、いえ……大変結構でしてよ。わたくしは前回、充分に堪能させて頂きましたもの。こ、今回も、その……」
「そうでしたか。逆に、あたしはから見ていただけだったんでイマイチ消化不良気味というか」
「兎にも角にも、めでたしめでたし、ですわね。スー先生」
恩を売ったように見せ付けるには、丁度いい導じゃあないか。
橫目でガキ共を見やる。
つまり「何か言う事があるんじゃないかね」って奴さ。
目論見通り、カズ&タケはやってきた。
「あざっした! 俺、もうなんて言ったらいいのか……流石に、チンコ切り落とすのはやり過ぎじゃねって思いましたけど」
「やめろ、それは言うな!」
猛英を、一真が小突く。
それから、俺に向き直った。
「ありがとうございました。もし、良かったら……俺達を仲間に――」
「――やめときな。お前さん達の視界せかいでは、俺の左に弁護士バッジがあるように見えるのかい」
「「え……?」」
俺のほうからっておいて、にべもなく斷る!
一何を、と訝しむ奴もいるだろう。
ロナ、お前さんもそう思っているだろう。
いや、訂正だ。
お前さんの事だから「どうせ碌でもない事を考えている」と、さぞかしうんざりしているに違いない。
『どうせ碌でもない事を考えてるんでしょう』
イエス!
この通りさ!
じゃあ、いつも通り付き合ってもらうぜ。
「俺はあの野郎の失言を面白がってめてやっただけさ。お前さん達を守るつもりはこれっぽっちも無い。
ご理解いただけたかな? だったら、さっさとケツを手で押さえてトンズラぶっこいてくれ」
「え……!?」
その落膽と失が、お前さん達の授業料だ。
これに懲りたら手を組む相手は慎重に選ぶこった。
俺は、お前さん達の味方だとは一度も言っていないぜ。
「シスターさんよ、お前さんも何か言ってやってくれるかね。
夢見がちな仔羊が、二度とてめぇのに數を刻む事の無いように」
「でも……」
現実を目の當たりにして、理解した。
だったら後は立ち向かうだけだ。
俺はそっち側には行かない。
お前さん達も、こっち側には來るな。
「あなたの意図がどうあれ、それでも、結果的には守ってくれた。それだけは、どうか忘れないでください」
こいつはたまげたぜ。
これだけの目に遭いながら、まだそんな事が言えるとはね。
聖様気取りなら、やめとけよ。
お前さんの目に付いた涙の跡は、お前さんが人間であるという何よりの証拠だ。
人は、人である事をやめられやしないのさ。
姿形が変わろうと、最期まで人間でしかない。
だから……人にできる限界ってもんを教えてやろう。
さっさと立ち去ってくれ。
「報酬をくれ。楽しい追いかけっこという報酬を!」
ズドン!
ズドン!
リロード。
「そら逃げろ! さもなきゃケツか鼻かそれとも耳のを増やす事になっちまうぜ!」
風向きも、風量も、安全基準値だ。
風に揺られて弾が逸れるなんて事は、あっちゃいけない。
急所の橫、そのすぐ近くを掠めるように、狙って撃ってやる。
「ヤバい! マジ、ヤバい! 死ぬ!」
「走って!!」
ズドン!
ズドン!
「山でも狩りの時間だ!」
村を抜けて、山間の道へ。
麓のほうへ、追いかけっこして進む。
ズドン!
撃って、掠めて、脅して、遊ぼう。
奴らがしでも息切れしたなら、その瞬間に俺は歩いて、わざと距離を置いてやる。
帰り道を覚えているのかい。
お前さん達も、街からやってきた筈だ。
逆戻りするだけじゃあ、逃げ場はなくなるぜ。
だが、ナターリヤの來た道を辿って、途中で曲がればこの通りだ。
導して、進ませりゃあ、俺の思うままさ。
実に爽快だ。
……おや。
の匂いが漂ってきやがるな。
こりゃあ、俺様を差し置いて刃傷沙汰かね。
誰だか知らんが、騒な真似しやがって。
まさか伏兵さんは、ここで遊んでやがったのかね。
それならそれで、理由をお聞かせ願おうか。
「どれ、避けてみな」
ズドン!
シスターの背骨を狙って放たれた弾丸は、奴には屆かなかった。
金屬で出來た何かが、それを弾いたからだ。
それから程なくして、あまりにも遅い伏兵が黒いコートを翻してやってきた。
「へーい、たのもーう! お目通り願いたい!」
聲からすると、だな。
染めたようにまだらな金髪、そのツラの中心には大きな十字傷がある。
両手両足の枷は、アクセサリーのつもりなんだろう。
そして何より、左手にゃ太刀で右手にゃ徳利と來たもんだ!
いい趣味してやがるぜ!
「――お前さん、名前は」
「おれはウィルマ。しがない人斬りだよ」
「この辺りで刃傷沙汰をしやがったのは、お前さんの仕業かい」
「おう、何だね。そこで散らばってるの、アンタの差し金だから弁償しろってか?」
よく見回せば、そこかしこで人がくたばってやがる。
なりは山賊じみちゃいるが、妙に小奇麗だ。
どっかで仕れたのかね。
もちろん俺にこんな友達はいない。
カマかけてやろう。
「だとしたら?」
「その下手な噓を思い切り笑ってやるよ。わっはっは」
噓笑いもここまで骨だと寧ろらしいね。
そして、シスターがウィルマを睨む。
「ウィルマ! 降りてと言った筈だけど!?」
シスターさんの追及に、ウィルマとやらは頭の後ろを掻きながら照れ笑いを始めた。
こりゃあ、解っていてやりやがったな。
それも誰が何をするか・・・・・・・まで読んだ上で、だ。
「あー、悪いね、お嬢。どうしても嫌な予がしてさ。
ここに散らばってる連中、なんかお嬢もろとも焼き殺す勢いだったから、こりゃあポイっとしなきゃヤバいかなって」
「そう……ごめん」
「お嬢、アンタが死ぬのは、見たくない。たまにゃあ契約不履行さして頂戴よ」
「……ありがとう」
なんでこいつがメインを張ってくれなかったかね。
クレフの小僧なんぞより、よっぽど楽しめただろうに。
「ところで余計なのが二人もいるけど……お嬢、持って帰るの?」
「馬鹿言わないで。わたしの、最後の希かもしれないのだから」
「へぇ、見つけたんだ? “真実の”って奴をさ」
「……うん」
ウィルマとお嬢はその“真実の”とやらについて語らった事があるようだ。
で、カズ&タケが念願の寶と。
そりゃ結構な事で。
この二人の世話をするのは俺の役目じゃない。
最初はほとぼりが覚めるまで何処かで靜かに隠れて貰おうかと思っていたから、そういう人材は渡りに船だ。
「あ、ごめん。三人目いたわ」
なんてウィルマはつぶやくと、近くの木に居合い斬りをかましやがった。
メリメリと音を立てて倒れる大木には、なんとでっかいセミ……もといマッチョ君がいた。
「――ひ!? お、お助けェ!?」
可哀想に。
俺とロナは、這って逃げるマッチョ君へ一杯の友好的な笑顔を見せてやる。
「よう、マッチョ君!」
「マッチョ君じゃないですか! 逃げたかと思ったらこんな所に!」
「この図でかいタコ坊主、木登りして隠れるとは蕓達者じゃん。おれの活躍、見てくれたかな?」
ウィルマはマッチョ君の首っこを引っ摑んで、倒木から引ッ剝がす。
こいつもどうやら、俺に負けずとも劣らない筋力の持ち主らしい。
「今日も変わらず、厄日だ……」
我慢しな。
もういい年なんだ。
「さて、茶番は済ませたかね。顔見せはこれくらいでいいだろう。ずらかるぜ」
「つれないじゃないの、スーちゃんよう」
馴れ馴れしいぜ、ウィルマ。
俺のをるんじゃねえ。
「あいにく、俺も余裕が無い」
「……まあ、そういう事にしてやるか。お嬢を無事におれの所に屆けてくれた事は、一応謝しといてやんよ。じゃあ~な」
「あばよ」
ウィルマとシスターとマッチョ君とカズ&タケの5人か。
とりあえず戦える奴ばかりだから、そうそうくたばる事もあるまいよ。
せいぜい生き延びてくれ。
特に、ウィルマとはサシでやりあってみたいもんだ。
なんて考えながら、俺は懐中時計を握りしめた。
その指の隙間からは、任務完了を示すがれ出ていた。
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