《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Intro 激に至る邂逅と悔恨

朽ち果てた城塞の苔むした武庫に、その集団は陣取っていた。

つい數週間前までは生活の気配すら無かったようなテーブルに、書類が散らばる。

更にその上から、酒瓶が叩き付けられて破片とが飛び散った。

「まったく、どうなってやがる゛んだァ、この世界はよォ! 多額の報酬に二つ返事でオーケーしてやったら、ゲェ゛ーム通貨だっただあ゛ァ?

しかも、暇つぶしに読むものがほしいと俺が言ったら、あいつら何を寄越したと思う? そこに散らばってる紙屑がそうなんだけどさァ゛~」

頭頂部に拳大の髪を殘し、それ以外は刈り上げている。

それだけならば単なる柄の悪い大男だが、彼は自の風貌に更なる異様さを與えていた。

彼の顔は、まるでモダンテイストな床のように、白と黒のチェック柄のれ墨によって彩られていたのだ。

そのような奇々怪々な大男が當たり散らしているのだから、配下の者達も萎せざるを得ない。

「は、はあ……さあ? 何を貰ったんですかい?」

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遠慮がちに、おずおずと配下の一人が尋ねる。

「推理小説だよ、推゛・理・小・説! ああ、まどろっこしい! オチまでに時間が掛かりすぎなんじゃ!」

その宣言通り、小説は先刻テーブルに叩き付けられていた。

無殘に引き千切られた狀態であり、顔面チェック柄の男はその殘骸にナイフを何度も突き立てた。

「だいたい、なァ゛~にがダーティ・スーだ! 粋がってるだけの、ぽっと出の新米ビヨンドの分際で分なんざ作りやがって!

あのヒヨコちゃんが世界のあちこちに湧いて出てるとか、雑魚もついに雑魚を極めたかって! もォ゛~、笑いが止まらんね! ギャ゛ハ、ハハハハハ!」

などと椅子の殘骸に腰掛けて哄笑を響かせるこの男も、ビヨンドだ。

彼が今回引きけた依頼は、二つ。

アルヴァント帰參者連合に仇をなす“初夏の旅団”を洗い出す事。

そして“この世界”からダーティ・スーを一掃する・・・・事だ。

ビヨンド歴の長いこの男にとって、購スキルのみに頼る戦い方など片手落ちも良いところだった。

ましてダーティ・スーといえば“行き當たりばったりの小細工を弄して雑魚を相手に弱い者いじめをして小遣いを稼ぐだけの小者”というのが、この男と仕事仲間達に共通する見解だ。

まして、そのコピーなど。

ですら雑魚だろう。

大量生産品のコピーならば、よりいっそう弱かろう。

それに比べれば、この男は己の戦略に絶対の自信がある。

まずは現地で危機が迫っている事を伝え、協力者を確実に増やす。

充分に対策を練って、その傍らで裏工作を行う。

場合によっては追加でビヨンドを呼ぶ。

これによって彼は、功率99.95%の実績を叩き出し、文句なしのAランク・ビヨンドとして名を馳せた。

人呼んで――“戦略王”グリッド・ライナー。

任務遂行に伴う些事など、いちいち雇い主が詮索する筈もない。

如何なる不備も、素行不良も、完璧に近い功率の前には何もかもが霞む。

「せ、先生! 先生!」

「あ゛あ゛ッ!? セーフティーゾーンで何を騒がしい! 燃やしちゃうよォ゛~ン!?」

ゲーム世界だった頃の名殘なのか、この付近に魔に類する存在は現れない。

また狙撃などもされない。

敵対者は絶対に現れない。

「あの、後ろです!」

「後ろォ゛~? 後ろを向けば何かあるってか!? 例えば――」

――例えばダーティ・スーとか。

それを、グリッド・ライナーは言えなかった。

「ごきげんよう、俺だ。ちょいとお邪魔するぜ」

グリッドの視界にった、窓枠の殘骸に寄り掛かるその男こそが、當の本人……ダーティ・スーだからだ。

これが出て來るのは想定だったが、出くわす場所が想定の範囲外だった。

「んぎゃあああああァ゛~!?」

セーフティーゾーンを乗り越えてやってくるという事は、亡霊じみたNPCの量産品などではない。

ましてや、侵者対策は萬全だった筈だ。

拠點はこまめに移していたし、撹の為に用意した人員だって數千人はくだらない。

だからこそ、彼にとっては不可解だった。

――逆に照らされながら、ダーティ・スーの隣に並び立つ者達の顔ぶれが。

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