《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Extend1 否定すべき再會
本名、館場顕良たてば あきら。
ナイン・ロルクというのが、キャラクター名。
まず、俺は狀況を整理しないといけない。
落ち著いて考えれば、きっと答えは出る筈だ。
……“ロルク”というファミリーネームは、死んだ元カノのキャラクターと同じだ。
未練がましいと自分でも思う。
でも、アンデルトという名前をもう一度名乗るわけにはいかない。
あのキャラクターデータはもう消した。
それまでのけじめをつけるという意味合いで。
だからこそ、俺は忘れたくない。
ちひろを死なせた罪を。
今から二ヶ月前、業界最大手VRMMO『Sound of FAITH』が、突然のシステムダウンを起こした。
程なくして、プレイヤーが次々と行方不明となる。
俺も、その一人だった。
飛ばされてやってきた先は『Sound of FAITH』と瓜二つの世界。
行方不明になっていたプレイヤー達は、ここに來ていたのだ。
Advertisement
けれど、ゲームマスターもプレイヤーもNPCもない。
全てが本の人間として存在する世界にやってきてしまった。
それでいて、ステータスは見える。
自分達のだけじゃなく、特定のスキルさえ使えば他人のも見える。
俺達プレイヤーは、ゲームではNPCだった人達を “現地人”と呼んだ。
現地人達は、プレイヤーを“降おり人びと”と呼んだ。
元プレイヤー達の中でも特に飲み込みの早い連中は、いち早く原因究明の為のネットワークづくりに勤しんだ。
そうしてできたのが、舊Big Springが中心となって結した『王都アルヴァント帰參者連合』だった。
が、もちろん中心人があいつ・・・だから、表面上は取り繕っていても実態は碌でもない。
現地人を捨て駒にするなんて戦い方じゃ、當然ながら反発が出る。
そんな帰參者連合に異を唱え、獨自に行を起こす集団が出來るのは必然だった。
レジスタンスの名前は『初夏の旅団』。
初夏というのは、とどのつまり春の終わりだ。
そのネーミングからしてBig Springの終焉を暗示した、皮めいた言い回しだと思う。
俺は初夏の旅団にわれた。
かつての、汚職とは無縁な街道警察を再び作るという俺の目的を、あいつらは知っていた。
その集まりに、現地人と降り人の垣なんて無かった。
俺のようなクズでも、此処にいていいのかな。
やっと罪を償えるのかな。
なんて、そう思えた。
――今日までは。
「あきら!」
なんで、その名前で呼ぶ?
このゲームで二人きりになった時に俺をそう呼んでいたのは、ちひろだけだ。
振り返って聲の主を見た時の俺の顔は、こいつにはどう映ったのだろう?
「やっぱり、あきらだったんだ! 良かった! 心配したんだよ」
「なん、で……」
どうしてここにいる?
死んだ筈だし、俺を恨んでもいる筈だ。
もう俺を名前で呼ばなくなるくらいには。
なのにどうして、まるで一番楽しかった頃からタイムスリップでもしてきたかのような……?
赤と黒を基調としたゴシックパンクな服裝じゃあ、ない。
かつて一緒に活していた頃と同じ――緑と白を基調とした、ふんわりしていながらも活的なショートパンツとビスチェ、ニーソックスだ。
金髪とエメラルドグリーンの瞳はくすんでもいないし、淀んでもいない。
いつごろからか付いていた目の下のクマも、今は無い。
口調も、態度も、あの頃に戻ったみたいだ。
まるで、まるきり無かった事にされたかのように。
ダーティ・スーとはどうなったんだろう。
「いきなり驚いたかもしれないけど、今はあたしを信じて」
「……ああ」
生返事しか返せないよ。
信じろって言ったって。
こんな世界に來るくらいなんだから今更、何が起きても驚いたりはしないつもりだった。
でも、やっぱり目を疑うよ……。
「「「――ごきげんよう、俺だ」」」
もう何百回と聞いた、お決まりのセリフ。
黃いコートをに纏った男が三人、全て同じ顔。
「來た、か……」
こいつらは単なるコピー。
……“あいつ”の軌跡をなぞるだけの、空虛な舞臺裝置でしかない。
クレイモア改+8の攻撃力なら、たやすく両斷できる。
武の名前、もうしどうにかならなかったのかな。
なんて思うけど、今は考えないようにする。
なくとも弾道を見極めて懐に潛り込んでしまえば、勝負はこっちのものだ。
遠近両方で“知能:極めて高い”のロジックが組まれていても、所詮はAI基準。
読み合いであれば負けない。
うち一に剣を一刺し、これで一目は倒れた。
そして、ちひろも同じく涼しい顔で戦っていた。
ゲーム中には職業ジョブ類型がアサシンとステータスに表示されていただけあって、丸鋸の刃を投げる姿もさま・・になっている。
二目の首が飛ぶ。
三目の足元に、丸鋸が刺さった。
「Star Shooter 燈火ひかりを僕らに、
Star Shooter 見せておくれよ」
隣で戦うちひろの歌聲が、耳に心地いい。
「僕のしたこの旅路を、僕をしたあの人々に。
僕のんだこの激を、僕を蔑むあの怪に――捧げよう」
この意味ありげで難解な歌詞は、ちひろの好きなヴィジュアル系バンドグループが歌っていたものだ。
……銃弾を剣で弾いて、踏み込む。
奴のを、突き刺す。
量産型ダーティ・スー、殲滅完了。
「懐かしいな。春姫銃スプリガンの“スターシューター”だっけ」
「そ。“捧げよう”の所がハモるまで、カラオケで練習したよね」
「ああ」
「新曲、楽しみだなぁ」
ちひろが死ぬ三ヶ月前に新曲の発表が出たばかりだった筈だ。
偽者――にしては、俺とちひろしか知り得ない報が沢山ある。
並行世界からやってきた、とかなのか?
……どんな事があっても、もう失いたくない。
だからこそ、確かめなくちゃならないし、謝らなくちゃいけない。
「ちひろ、あの時は、ごめん」
「ん?」
「実は……――」
――全て話した。
俺が知ってるちひろはもう死んでるって事。
その過程も、洗い浚い話した。
もしかしたら、記憶を失ってしまって、何かの間違いでこの世界に流れ著いただけなのかもしれないと思ったから。
じゃなきゃ、あの黃のガンマンを見て何とも思わないなんて、あり得ない。
何しろ、そもそも初めから面識が無かったかのような素振りを見せていたから……。
でも、記憶がない、にしては妙だ。
今の俺ナイン・ロルクを、館場顕良と認識していた。
昔の俺アンデルトではなく。
そこは何故か辻褄が合わないのだ。
それでも、目の前にいる人が、ちひろ本人以外にありえないと思う以上は。
伝えなきゃ駄目だ。
もしも記憶を失っていたなら、今の自分がどうなっているのかを知らせないと。
もしも別の平行世界から來たなら、目の前のこの俺・・・が何を仕出かしたのかを教えないと。
どちらにしても、俺の罪は消えない。
だからせめて、ここにいる俺・・・・・・がどんな奴なのかだけでも伝えないと。
伝えないと、もう一度ちひろを殺してしまうかもしれない。
「ギルドを大きくしたいって、みんなに認めさせたいって、それだけの理由で迷を掛けて、見捨てて、自殺するまで気づいてやれなかった事、本當にごめん……」
頭を下げて、謝罪する。
両膝から力が抜けて、涙が頬を止めどなく流れ行く。
「俺は、許されちゃ、駄目だ……」
……。
「……大丈夫。あたしは許すよ。きっと何かの間違いが続いて、あんな事になった」
……こんなに都合のいい返答があっていいんだろうか。
抱きしめられて、頭をでられながら、俺はその甘いにを委ねた。
- 連載中111 章
最弱な僕は<壁抜けバグ>で成り上がる ~壁をすり抜けたら、初回クリア報酬を無限回収できました!~【書籍化】
◆マガポケにて、コミカライズが始まりました! ◆Kラノベブックスにて書籍版発売中! 妹のため、冒険者としてお金を稼がなくてはいけない少年――アンリ。 しかし、〈回避〉というハズレスキルしか持っていないのと貧弱すぎるステータスのせいで、冒険者たちに無能と罵られていた。 それでもパーティーに入れてもらうが、ついにはクビを宣告されてしまう。 そんなアンリは絶望の中、ソロでダンジョンに潛る。 そして偶然にも気がついてしまう。 特定の條件下で〈回避〉を使うと、壁をすり抜けることに。 ダンジョンの壁をすり抜ければ、ボスモンスターを倒さずとも報酬を手に入れられる。 しかも、一度しか手に入らないはずの初回クリア報酬を無限に回収できる――! 壁抜けを利用して、アンリは急速に成長することに! 一方、アンリを無能と虐めてきた連中は巡り巡って最悪の事態に陥る。 ◆日間総合ランキング1位 ◆週間総合ランキング1位 ◆書籍化&コミカライズ化決定しました! ありがとうございます!
8 188 - 連載中357 章
ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~
書籍化しました。小學館ガガガブックス様よりロメリア戦記のⅠ~Ⅲ巻が発売中です。 コミカライズしました。ロメリア戦記のコミックがBLADEコミックス様より発売中です。 漫畫アプリ、マンガドア様で見ることができますのでどうぞ。 「ロメ、いや、ロメリア伯爵令嬢。君とはもうやっていけない。君との婚約を破棄する。國に戻り次第別れよう」 アンリ王子にそう切り出されたのは、念願の魔王ゼルギスを打倒し、喜びの聲も収まらぬ時であった。 しかし王子たちは知らない。私には『恩寵』という奇跡の力があることを 過去に掲載したロメリア戦記~魔王を倒したら婚約破棄された~の再掲載版です 私の作品に対する、テキスト、畫像等の無斷転載・無斷使用を固く禁じます。 Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited.
8 190 - 連載中248 章
スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜
空に浮かぶ世界《スカイフォール》に暮らす少年ナトリは生まれながらに「飛ぶ」ことができないという致命的な欠陥を抱えていた。 王都で配達をこなす変わり映えのしない日常から、ある事件をきっかけに知り合った記憶喪失の少女と共に、少年は彼女の家族を探し出す旅に出る。 偶然に手にしたどんなものでも貫く特別な杖をきっかけに、彼は少女と自らをのみ込まんとする抗いようのない運命への叛逆を決意する。 やがて彼等の道行きは、世界に散らばる七つの迷宮に巣食う《影の軍勢》との世界の存亡を懸けた熾烈な戦いへと拡大していくのであった。 チートあり魔法ありダンジョンありたまにグロありの王道冒険ファンタジー、の予定です。 ※三部構成第一部完結済み
8 183 - 連載中9 章
神様になった少年の異世界冒険記
高校2年の藤鷹勇也(ふじたかゆうや)は夏休みが始まり學校から帰る途中で交通事故に合い死んでしまった。そこで、神と名乗る老人から神の力を貰い異世界を楽しむ物語
8 59 - 連載中56 章
S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、女神と出會い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜
ノベルバのランキング最高10位! 『ラック』というS級幸運の能力値を持った青年ネロは突如、自分のことしか考えていない最強のS級パーティ『漆黒の翼』からの戦力外通報を告げられ、叩き出されてしまう。 そんなネロは偶然にも腹を空かした赤髪の女神(幼女)と出會う。彼女を助けたことによりお禮に能力値を底上げされる。『女神の加護』と『幸運値最強』のネロは授けられた贈り物、女神とともに最強を目指す旅へとーー!! 勇者の妹より先に「魔王」の首を狙うハイファンタジー。 ※第2章辺りから急展開です。
8 177 - 連載中212 章
ルームメイトが幽霊で、座敷童。
とある日のこと。そうだ、その日だ。その日を境に、変わってしまったんだ。俺の日常は。幽霊や妖怪の退治からトイレ掃除まで行う『なんでも屋』を経営する俺にやって來た數々の依頼。さてと、今日も行きますか。 ◆攜帯版ので見づらい方は、エブリスタ版(http://estar.jp/.pc/_novel_view?w=21377746)をご覧ください。第七話までまとめた形となっています。 ◆第一部完。第二部は2016年連載開始。 ◆「電子書籍大賞2013」最終ノミネート作品です。
8 115