《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task2 北平防衛隊の手厚い歓迎を堪能しろ
「北壁防衛隊、急出ッ!! コード・イエロー! 繰り返す、コード・イエローッ!!」
おいおい。
予想はしていたが、期待以上に熱烈な大歓迎じゃないか。
こっちはいつもの挨拶・・・・・・すら済ませちゃいねぇってのに、どでかい壁の上でスピーカーががなり立ててやがる。
壁の前には、見渡す限りの人だ。
野営地そのものといった様相で、あちこちでテントが張ってある。
これだけの大きさの壁ともなると、側から出るんじゃ間に合わないって事かね。
王都のすぐ近くで野営までさせられるとは、ご苦労なこった。
さて、メンツを見ておこうか……。
「奴を一歩たりとも関門に近付けるな! 我ら王都の衛兵団の矜持に於いて、斷固死守せよ!」
「「「「「応ッ!!」」」」」
銀の鎧姿の連中だろう。
「基本フォーメーションを忘れるな! 奴一につき一個中隊で臨め!」
「「「「「全ては陛下の為にッ!!」」」」」
青紫のローブの魔法使い共だろう。
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「我が方の怪我人は発見次第防の呪符を使用すること! 目標、死者ゼロ! 今日こそ中央の貍共に一泡吹かせておやりなさい!」
「「「「「イェス、マム! 地母神萬歳ッ!!」」」」」
白いコートの小坊主共だろう。
「説明しよう! ドラマチック☆ビギニング☆ファイヤーとは勝ちジョブである神にサブで戦士を上げた通稱神戦士のスキル“ホーリーエンチャント”を普通に強武であるデモリッシャーに付與して更に神戦士に次いで激アツな純正魔法職の通稱“専攻ウィズ”による“ファイヤーエンチャント”を仕様のを突いて時間差でバフを重ね威力をオーバーフローさせ――」
――あれは別にいい。
何故一言一句そのまんまなのかも含めて、俺が関與すべき容じゃない。
とりあえず、ざっと三千人くらいかね。
今までに比べると、破格の待遇だ。
こんなの、全部相手取るのは流石に骨が折れる。
(まったく無理って訳でもないが、全員倒れるまでやるのは時間の無駄だ)
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「ど、どどど、どうしましょう、わたくし、あんな大軍勢とやりあえませんわ……! 今までサシの勝負が関の山だったのに!?」
なんて、紀絵は真っ青になってやがる。
ここが檻と通路を隔てた園なら、そのまま放っておいて面白がってやったんだが。
あいにくここに檻は無いし、鼻がキツいからといってカフェで小休止もできない。
だから聲を掛けて落ち著かせてやるべきだ。
「そう喚くもんじゃないぜ。ここからはちょいと賭け事だ」
指から収納機能を呼び出す。
前の依頼で使っていたメガホンを片手に、それとステイン教授特製のサーマルセンサー付きサングラスを裝著だ。
たったこれだけで、そこらの偽者とは大違いって寸法さ。
「ごきげんよう、俺だ! ちょいとお邪魔するぜ!
お前さん達のボスに用があるから、小間使い共はさっさと仕事を切り上げな! 夕方のタイムセールに間に合わなくなっちまうぜ!」
なんて挨拶すりゃあ、お相手さん連中は隨分と驚いておいでだ!
こりゃあ傑作、なんとも愉快だね!
何せ「新型か!? 行パターンが違う!」だの「まさかオリジナルが……」だのとざわめいてやがる。
勝手に想像して結論付けて喚くとは、灑落た対応だ。
「怯むな! どちらにせよ、黃のガンマンは敵だ! あの服裝をしているならば、それは全人類への敵対と同義である! 詠唱開始!」
「「「――詠唱開始!」」」
連中の採った行は、幾つかある予想のうち一つだ。
このケースであれば俺は、二、三分だけ付き合ってやるとしよう。
「紀絵。ワルツだ」
「……へ?」
きょとんとした紀絵の両手を摑み、俺は口笛混じりにステップを踏む。
曲目は邦題『しく青きドナウ』だ。
(余談だが、誤訳を未だに改めないのが老人共の頑迷さを際立たせる)
俺達のステップは見よう見まねだが、我ながらサマになってやがる。
右へ、左へ。
飛びう魔法は指をパチンッと鳴らして煙の壁で弾く。
弓矢は左右に揺れて、ターンをすれば大丈夫だ。
「ひえぇ!?」
「大丈夫だ」
掠めそうな魔法は、煙の壁を纏った手で払いのける。
顔を目掛けて飛んできた矢は囓ってければいい。
「あ! わ、わ、わ!」
「ぺっ……ふぅ、矢じりに何か塗ってやがるな。嫌な味がしやがる」
バーボンで口を濯いで、地面に吐き捨てる。
ビヨンドになってから毒のたぐいで苦労した記憶は無いが、キスをしなきゃならん時が來るかもしれん。
エチケットも紳士の嗜みって奴だろう。
土煙が晴れる頃にゃあ、一拍置いて騎士共が押し寄せた。
固唾を呑む音は俺の耳にも屆いたが、それは俺達のステップに見惚れたのかね。
なら次だ。
そろそろ三分くらいしただろう。
バーボンのビンを取り出して、片手で一気に呷る。
それを空に放り投げて、次はバスタード・マグナムの出番さ。
地面をえぐるような弾道で照準を合わせ、トリガーを引く。
ズドン、ズドン、ズドン!
俺の銃からビームが出た。
きっとその事実そのものこそが、こいつらにとっての恐怖だ。
「「「――!?」」」
飛び退いたな。
どうもありがとう、この間抜け共。
空中に、煙の壁を地面と平行になるよう展開だ。
こいつを上から下ろす。
「ぐえぇ」
「がはっ」
ご協力どうも!
舌噛むなよ!
『紀絵、耳を塞ぎな』
「は、へ?」
メガホンに持ち替えて、必殺の一撃だ。
息を吸い込んで――
「――ドカーンッ!!!!」
なんてんでやりゃあ、空気の痺れる音がする。
周りの連中は、耳を押さえながら悶絶だ。
そりゃあそうだ。
甲の上からじゃあ耳は塞げまい!
順繰りに足を引っ掛けてやりゃあ、鎧姿のナイスガイ共は揃って泥んことオネンネって寸法さ。
パチンッ。
「ワァアアアアッ!? ――っぷし」
律儀に踏み留まった連中は、足元から煙の槍で片っ端から吹っ飛ばす。
放線を描いて頭から泥に突っ込んでいく間抜け共を眺めながら歩き回るのは、実に愉快だ。
「こ、これは……何から何まで、面妖な……」
なんて捨て臺詞と共に、泥に倒れるナイトちゃん!
兜をブーツで踏んづける快と來たら、憂さ晴らしとしちゃあ悪くない。
「やはり、アレはオリジナルの黃のガンマンなのでは……」
「どうする? 他のエリアから応援を呼ぶか? もう三千人ほどぶつければ、勝算がなくもないだろう」
「間に合わん! 我々だけで死守するのだ!」
「馬鹿げた事を……! もとをただせば“降おり人びと”共が大挙してきてから、余計に混迷を深めたのではないか!? 奴らに義理立てする必要はあるか!?」
ふん、降り人ねえ。
……まさかとは思うが、北壁防衛隊とやらの面子は、その大半がこの世界の生まれってオチじゃあ無いだろうな。
奴らの時代じゃ、日本は子高齢化も程よくしてやがるだろうから二億四千萬も人はいるまいよ。
國民的人気ゲームといっても、ユーザーの數はたかが知れているだろう。
クローニングで子供を増やすなんて大事業をしてやがったら話は変わってくるが、ロナからそんな話はとんと聞いたことが無い。
「帰參者同盟など……!」
「いいか、機を見計らって倒れ伏したふりをするぞ。他のガンマンと同じ習なら、いている者を優先して襲う筈だ……魔師共になすりつけてやろう」
「ああ」
今のうちにリロードだ。
城壁の構造と、今ここにいる連中の顔ぶれを覚えておこう。
どうやら俺の想定している以上の、楽しい出來事が起きているらしい。
そうだな。
どう暴れてやろうか。
遠くから勇ましい聲が聞こえてくる。
「よォーし、今がチャンスだ! 奴らの犠牲を無駄にするな! ドラマチック☆ビギニング☆ファイ――ッ!? んっ、んぐぐ……」
俺はタオルを煙の槍に乗せて飛ばす。
奴の口を目掛けた、スペシャル速達便――名付けて“素人には退屈な長話マンボ・ジャンボストッパー”だ。
これだけで黙らせられる。
距離など問題じゃない。
「……よし、サプライズの容が決まった」
俺は一本の大きな煙の槍を、空中に展開した。
そいつに橫から腰掛けて、紀絵を抱える。
「き、來た……お姫様抱っこ! ついにわたくしも!」
「熱を出すにはまだ早い」
煙の槍を飛ばす。
これだけで全自直送強襲ロケット便の出來上がり。
地面がぐんぐん遠くなり、城壁は瞬き一つしている間に距離が詰まる。
「ひゃあああああああ!?」
いい悲鳴だ!
サソリになっていた時のお前さんは、平気だったろうに!
「ああ、くそ! 撃ち落とせェ!」
「無理です! 疾はやすぎます!」
「このままでは聖様に合わせる顔がない! どう責任を取ればいい!?」
「降り人の怒りにれた者達の末路を知っているか!?」
「くそっ! ああ! ちくしょう!」
せいぜい喚き散らせよ。
おそらくは、その聖サマこそが俺達を呼んだ奴だぜ。
凱旋なんて大層な演出までさせてくれやがって。
……ここは王都だ。
雇い主がいるとすりゃあ、城だろう。
いなくても、訊けば応えてくれる・・・・・・・・・。
だいたいの事は察しがつくってもんだ。
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