《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task4 作戦開始まで部屋で待機しろ

パチンッ。

俺は円を描くようにして歩き回る。

これより始まるは、ほんのしの長話だ。

俺は、クラサスの野郎とは違う。

五分から十分程度で終わらそう。

「――ロナとアンデルトを誑かし、聖サマに大恥をかかせたクソ野郎。

優しい優しい依頼主サマは運悪く、そのクソ野郎ビヨンドを引き當てちまったが、大人だから我慢して使ってやることにした」

(もちろん、この予想が幾つかあるうちの一つなのは言うまでもない……)

「備蓄カネは充分にあるからして、代わりのビヨンドは幾らでも用意できるというのに! ……さあ、どうかな?」

ああ。

どうして俺が幾つかの単語を並べた途端、どいつもこいつも目のを変えちまうのかね。

それをやっちまったら、もう答えは出ているようなもんだ。

「なかなかに察しが良いですねぇ? 推論の理由を聞かせて貰ってもいいですぅ?」

「ふはは! まだ俺に長講釈を垂れろというのかい。今回の依頼主サマもとびきり底意地がよろしくないらしいぜ、紀絵」

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「……えっ、ええ! その通りですわ! レディに名乗らせておいて“どうでもいい”ですって?」

「つまり、名前を覚える価値すら無いって事だろうね。捨て駒にしようっていうのなら、それでも構わん。

それで出し抜かれて大損ぶっこくとしても、恨みっこなしにしようぜ」

「格好をつけただけの、単なる命乞いですかぁ? ゆぅい、あなたの事ぉ誤解してたみたぁい。

もうちょっとスマートで~、の大きい人だと思ってたのにぃ?」

「確かに、お前さんが勿ぶった歓迎なんざやらなけりゃ、もうしスマートに話が進んだかもしれん。

だが。お前さんには、それができない・・・・・・・理由があった。違うかい」

その理由こそ、俺が睨んでいる“ヤマ”にほかならない。

「その通りですわ! ――えっと、先生? わたくしにも教えて頂けませんこと?」

二言目から先が無けりゃ、サマになっていただろうに!

仕方のないお嬢さんだぜ。

「強風で倒れた植木鉢を起こすときは、せめて風除けくらいは用意するものさ」

「……う~ん」

紀絵は、顎に手を當てて俯きながら唸る。

時間にしておよそ數十秒だが、解き明かすにはどうやら紅茶とスコーンか何かが足りなかったらしい。

「うぅ、わかりませんわっ……!」

涙目で訴えられてもねえ。

まったく、俺にそこまで義理立てする必要は無いってのに、律儀な奴め。

案の定、依頼主サマは軽く拍手して続きを促してきやがる。

「はぁい、コントおしまぁい! ガンマンさぁん? 自分がスマートであると証明したければぁ、さっさと部屋に案されてくれますぅ?

……ゆぅいに恥をかかせた事、しーっかりぃ、償ってもらいますよぅ」

「付き合いの悪いも、嫌いじゃない。どんなスイートルームか、今から楽しみだぜ」

パチンッ。

依頼主サマが指を鳴らす音と共に、側近共が両側から俺を引っ摑む。

紀絵も同じようにされながら、不安げな眼差しを俺に寄越す。

俺はウィンクで応じた後、依頼主サマに向き直る。

「じゃあ、北壁防衛隊に死者がいないか訊いといてくれ。夜伽に來た奴と話し合いたい」

「あ、あの、スー先生……?」

「あの寢坊助さんはキャンセル料すら勿無いんだとよ。好きにやらせとけ」

外から呼び寄せたって事は、つまり俺を引き當てる可能を見越していたんだろうがね。

或いは初めからそのつもり・・・・・だったか。

―― ―― ――

さて、腕も懐中時計も無い俺と紀絵は、隣り合う鉄格子にそれぞれ放り込まれた。

石造りの四角い部屋に鉄格子が配置されただけの簡素な牢屋だが、俺達は首でスキルを封印されている。

(といっても、もう手遅れだという事に奴らはしも気付いちゃいないのが実に哀れだ)

しょっぴかれるまでの茶番も堪能したし、大出ショーの準備も済ませた。

前もって指に留めておくのは序の口だ。

細かい手順を思い返すのは、後でいいだろう。

見張りは常に二人。

一人ずつ代するから、理論上は警備にが開かない。

こいつらのスカーフは緑だった。

「どうぞ」

想なメイドが、鉄格子の隙間からトレーを蹴りれる。

薄茶が、床に飛び散った。

代して出ていくメイドが、肩越しにニヤニヤしてやがった。

ついでに言えば、さっきまで話しをしても通じなかったクソ執事も、この時ばかりは楽しそうだった。

しかし、この世界で初めての食事がこれとはね!

笑っちまう程のハイセンスな調理法だ。

しょっぴかれてから何時間待たされたと思ってやがる。

常に二人制で監視するのは構わんが、だったらここにキッチンを作っちまえば良かったのさ!

……仕方ない、ねぎらいの言葉でも掛けてやろうかね。

「ご苦労さん。それで、どうだったかい。北壁防衛隊に死者は?」

トレーを片手に尋ねりゃ、メイド君はカビだらけの柑橘類を見るようなツラで、首をかしげる。

「……なんの話ですか? 業務命令にも引き継ぎにも、そのような容はありませんでしたが」

いいねえ!

そっちがそのつもりなら、もうし遊んでやろう。

言葉をわしてくれるだけでも萬々歳だ。

何せ、こっちは一人じゃない・・・・・・。

「なあ紀絵、今回の依頼主サマはとんでもない寢坊助らしいぜ」

「取引の禮儀も知らないお子様ですもの。気長に付き合ってあげましょう」

お!

メイド君が口元を歪めてやがるぜ!

こりゃあ効いたかね。

「とっとと契約を切っちまえば良かったのさ。俺を使うという事実・・・・・・・・・がしいのなら、話は別だがね」

メイド君は、今度は合點がいったらしい。

「……なるほど。その線はありますね。が、表立って使っていると知られれば、救世聖様のお立場が危うくなる」

「よく理解してやがるぜ。その通りだ。どうせ何かしらサプライズを懐に忍ばせてやがるんだろう」

それにしても救世聖ねえ。

現地の奴らをよく捨て駒に割り振るくらいだ。

今回は前にもまして・・・・・・・・・碌でもない真似をしてやがるに違いない。

何せ、前と違って今は命を張ったリアルのデスゲームだ。

「あ、あの……先生? わたくし、話がちょっと見えないのですけれど……」

「さっきの大歓迎を見ただろ。あれだけの防衛網が必要な相手を手懐けたとあれば、切り札としちゃあ悪くないカードになりうる。ここから先も解るかい」

「――それについては、私が。そこのガーリック味のり弁・・・・・・・・・さんは、あまり頭の回るようなお方ではないようですので」

「なんてことをおっしゃいますの!? というか、何そのあだ名!? ひどくない!?」

「事実を申し上げましたまでです。あだ名は、語が似ていたもので。それで、続けても?」

「ああ、続けてくれ。暇つぶしにはなるんじゃないかね」

「お気遣いどうも。では改めて……」

後で紀絵はめてやるとして、今は腰を據えて拝聴しようか。

俺のコレクションを小馬鹿にしやがったんだ。

さぞかし、天にも昇る眠たくなるご高説に違いない。

こうして俺は、依頼主サマが直々にやってきて、早速この俺様に仕事を振ってくれやがるまで、聖典の朗読に耳を傾けた。

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