《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Extend5 名譽の搾取
「――つまり帰參者連合は俺達を牽制する為に、黃のガンマン……そのオリジナルを召喚した?」
俺の問いに、チパッケヤはゆっくりと頷いた。
「そうなるな。現地人の中には俺達“降り人”を快く思わない奴がわんさかいる。
帰參者連合はそれを逆手に取って、黃のガンマンを差し向けて戦場を作れば……」
ああ、その仮説を証明してしまえば……。
俺はその続きが言えてしまう。
「俺達“初夏の旅団”は間違いなく厄介者の烙印を押される、と」
という俺の相槌に、チパッケヤは再び続ける。
「帰參者連合は各地で絶大な戦果を上げている。
國はそこで得られた特需の恩恵をけ続けているし、魔も連合が制を整えてからは半分以下に減った。
そりゃあ、民衆はそんな英雄の集まりの話を聞かないわけにはいかないだろうな」
「防衛隊の死者が一人もいないのも、自分達の戦力を失わせないようにする為ですね?」
と、ちひろ。
「でもあの人達、そんな判りやすい事してくれるんでしょうか? それって、マッチポンプって言うんですよね?」
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と、ユズリハ。
「わからん。もしくは、本當は死者が出ている事にしたかったが、通者のリークで死者ゼロという報が伝わったか」
いつも通り死者が出ているという事にすれば、俺達から真っ先に疑われる。
敢えて初歩的な報統制をしようとして失敗したふうに見せかける場合、あいつらにとってどんなメリットがあるか。
通者を敢えて泳がせる・・・・・・・というやり口には、見覚えがある。
「――機がすまで待っているつもりだ」
俺は、確信していた。
奴らが何よりそれを得意としている事を、俺は知っていたからだ。
「救世聖と名乗っているあいつは……“ゆぅい”は、昔からそういうのが得意だった。
ふと気付いた頃には結果が出ていて、一見すると本當にそう思えてしまうような理屈の裏で、とんでもない事をしている。
で、従わない奴を次々と生贄にして、共通の敵として認識させる。誰も、あいつには逆らおうとしなくなる」
「的に、どうやって共通の敵と認識させるんだ?」
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「……悪評を流すんだよ。出処を巧妙に隠して、誰が言いふらしたかも解らない。
そして、噂が広まっている頃には、どう反論しても誰にも聞いてもらえなくなっている」
教師すらも巻き込んでクラスに蔓延するいじめのように。
誰も彼も疑うのでなければ、人の善を信じるだけであるならば、その毒牙からは決して逃れられない。
「あのギルドの恐ろしい所は、ギルドでの結束だけじゃなく、周囲を巻き込んで結託する事だ。
徹底的な合理主義と、有無を言わせない空気作りがミソだな」
「あたしと一緒で、元ギルメンだもんね」
「ああ」
この場であいつのやり口に一番詳しいのは、俺とちひろだろう。
チパッケヤが、し考え込んだ後に口を開く。
「合理主義っていうのは、ゲームじゃなくなった今でも通用するのか?」
「裝備は能重視、目的に合わせた最強裝備を常に取り揃えている」
「レギュレーションが変わっても、それに合わせてたのか」
「データ検証がされて、三日する頃には最強裝備が揃っている」
「廃人だな……」
「私も人のこと言えないけど、廃人ですなぁ……」
チパッケヤもユズリハも、死んだ魚のような目で頷く。
俺も正直、三日でデータ検証を終わらせるとか人間業じゃないと思う。
「あとプレイヤーの適で役割を振り分ける。
外回り組、往復組、勤、沸かし――俺が抜ける前は、この四種類だった。今でも同じシステムだったかはわからんが」
「外回りと往復は何が違う?」
「外回り組はPKをするプレイヤーのうち、ギルドで指定されたターゲットを倒しに行く奴。
往復組はモンスター退治する奴。指定の狩場でボス倒して、次のボス湧きまでに戦利品を運搬する為に拠點と往復する」
「外回りはともかく、往復が酷いな……それ以外に何もさせてもらえないのか?」
「効率よく狩る為の作戦會議と、失敗した時の反省會もやるよ。全部、自分達で決めた事という名目・・・・・になっている」
「ブラック企業そのものじゃないか」
「だろ? けど、まかり通ってしまう。結果を出したギルドには公式から報酬が支払われる。
課金アイテムの無料換チケットが。だから、みんな必死になっている」
「俺が言うのも何だが、たかがゲームに馬鹿馬鹿しい熱を見せるもんだな」
やめろよ、そういう事を言うの。
それで死んだ奴がいるんだ。
だからせめて、言い返す。
「今となっては、馬鹿にならないけどな」
「……まあ、裝備は死活問題だもんな、実際」
「それで、指定されたプレイヤーキラーはどうやって探し當てるんですか?」
と、ユズリハ。
「その報収集と場所の特定をするのが勤の役割なんだ。
勤と言うけれど、実際には各地で巡回したりギルド全発信のテキストチャットで絶え間なく報換をしている」
「休憩は無いのか?」
「シフト制だよ。“沸かし”を除けば、全くの不眠不休じゃない。けど、大はリアルじゃ殆ど仕事をしていない連中だった」
俺も、その一人だったけど。
……就職氷河期が訪れて、多くは非正規雇用での細々とした収に頼った。
稼ぎ口はなんでも探した。
日雇い、短期、派遣社員、それからネットオークションにアフィリエイト・ブログ。
もっと手近なSNSはいくらでもあるのに、ちょっと検索すれば誰でも書けるような、ただ転載するだけの簡単なブログなんて、収源としては最悪の部類じゃないのかと俺は思った。
けど、そんな悠長な事を言える立場なんかじゃない。
消費稅15%の経済じゃ、現実逃避に掛かる金額も馬鹿にならないのだ。
プロゲーマーという選択肢も、そのうちの一つだった。
でも、あんなやり方で目指すべきじゃなかった。
「ちょっと待った。“沸かし”は休憩が無いのか」
「ただめられる為だけにいる存在だからな」
「噓だろ……意味が、わからない」
レベル上げを敢えて中途半端にした狀態で激戦區に放り込んで、その様子を撮影した畫をみんなに見せる。
で“レベル上げは大事です”とか“環境に合わせたビルドをしましょう”とかを、伝える。
「ガス抜きだよ。さっき言った“Big Spring”……というより、ゆぅい個人の意にそぐわない奴が、沸かしにさせられる。
メンバーの優越の為に、一番下の階層を作っておくんだ。それでも“沸かし”の奴らは、ギルドにいられるだけでも名譽だと思わされてるから、不満は表出しない」
まるで“非人”だ。
農民達の不満を、更に下の階級を作る事で誤魔化す。
きっと、俺が直接験していないだけで、世の中にはそういう企業がいっぱいあるんだろうな。
でも、趣味の場所ですら、そんな事が。
……狂ってるよ。
あのギルドも。
見過ごしていた俺も。
「むごい……」
やっぱりそう言いたくなるだろ、ユズリハ。
「録畫機能とか、そういうので通報できなかったか?」
俺もそれは考えたし実行しようと思ったよ、チパッケヤ。
「アレはバグ利用とかそういうシステム面での不正しか通報できないよ。
ユーザー同士のトラブルは本人達で勝手に解決してくれっていうのが、運営のスタンスだったろ」
「そうだったっけか」
「ギルドやめる前に、規約を丸ごと読み直したんだ。一応、カスタマーセンターにも電話した。
そしたら、勝手に自殺されても會社としては責任を負いかねます、だってさ」
人が一人、いじめで死んでいるのに。
自社製品の誤用だというのに。
規約違反じゃないという理由だけで放置される。
「――殘念だが、世間じゃそれが普通だぜ!」
一気に殺気立つ空間。
聞き覚えのある聲に、俺達は立ち上がった。
ゲートがゆっくり開く。
おかしい……モニターには何も映っていないのに。
一、どうやってってきた?
スラム街とはいえ、たった一人で白晝堂々とどうやって出歩いた!?
「ごきげんよう、俺だ」
俺達が武を振りかぶる前の僅かな時間で、あいつは煙の槍を幾つも飛ばしてくる。
そういえば苦労して手にれる割には使い勝手の悪いスキルって噂だったっけな……なんて思いながら、俺は殺到してくる多數の煙の槍を弾き飛ばした。
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