《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Extend6 滲んだ
ナイン・ロルクこと館場顕良たてば あきら。
俺は自分の名前を再確認する。
この作業だって、何度やったかも思い出せない。
それでも、俺には必要だ。
この世界・・・・に來てからは、ずっとそうしている。
水溜りに映った、自分の顔を見る。
これは俺の顔じゃない。
髪も目も黒だった筈で、今は金髪碧眼だ。
目の前に手を広げて、一本ずつ指を握ってゆく。
俺のじゃない。
こんなに背は高くない。
けれど、確かに聲は俺のものだ。
その差異ギャップが、靜かに、靜かに俺を蝕んでゆく。
いつか俺は自分が館場顕良だった事すら忘れてしまうんじゃないかと、そう思わせてしまう。
ましてや、檻の中で何日も過ごしている。
何かにしがみつかないと、俺は、俺である事を保てなくなってきている。
……黃のガンマンが帰參者連合に使われているという仮説は、正解だった。
けれど、最悪な形で証明されてしまった。
檻の中で俺は上を見た。
天井が崩落しているおで、白く曇った空模様がよく見える。
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昨日まで、ずっと雨が降っていた。
俺達は雨の中、馬車に運ばれ。
そして檻に放り込まれた。
ただ一人を除いて。
俺とチパッケヤとユズリハが、牢屋に放り込まれた時。
り口の橫にゆぅいがいた。
ちひろだけは、ゆぅいの隣にいた。
――『ロナ、ご苦労様でぇす』
――『……ありがと』
――『どういう事だ……一緒に戦ったじゃないか!』
――『ああでもしないと、アジトの記録裝置であたしが通者だってバレちゃうんだよ……ごめんね。
それで、ナイン……あなたを勧したいんだけど、ちょっと時間を置きたいよね。それじゃあ、また』
この世界に現れた今のちひろが、あいつの差し金だったとしても、何も不自然じゃなかった。
……どうしてそれを、一番に考えなかったのか!
俺は……救いようのない馬鹿野郎だ……!
俺は失ったものを取り返そうとして、あらゆる可能から目を逸らした!
ここには、俺の咎をめてくれる人なんていない。
膝枕をしながら「仕方がなかったんだよ」と言ってくれる人はいない。
初めから騙されていた?
いや、違うんだ。
あの・・ちひろは、最初、俺に手を差しべた。
はにかんだような笑顔で遠慮がちに「また一緒にやろう」と言った。
あいつのフラッシュバックがなだれ込んだ今なら、わかる。
この世界にいるちひろは、やっぱり平行世界からやってきたんだ。
抗うことを諦めて、全てをけれた世界から。
だからあいつは、ゆぅいに対しても複雑な表だった。
心から俺を許したわけじゃあないのに、それでも俺をめてくれた……。
一、そこにどれだけの葛藤があったのだろう?
「返答次第じゃ容赦しないが、ロナとはどういう関係なんだ。なんで黃のガンマンが、ロナの名前を呼んだ?」
チパッケヤは俺に目を合わせもせず、靜かに問う。
聲音からは怒りが、失が込められていた。
「……死んだ彼が、まるで蘇ってきたみたいだった」
舌が錆びついたように、言葉がちっとも出て來ない。
なんと言えばいい?
それでも。
しずつ、これまでのことと、彼についての思いを語った。
昔、俺とちひろと何人かの友達とで立ち上げたギルドのこと。
人が増えていくうちに、ゆぅいに乗っ取られていったこと。
それが原因で、俺がちひろと喧嘩したこと。
ちひろはその後、嫌がらせを苦に自殺したこと。
自殺したちひろは何故か幽霊になって、黃のガンマンと一緒にゲームに現れたこと。
……。
詳細を伝えてゆくうちに、しずつチパッケヤとユズリハの表は険しさを増していった。
「えっと、それは……」
「ううむ……」
ああ、わかってるよ。
そんなあからさまな罠なのに、どうして引っ掛かったのかって。
実際に験してみなきゃ、誰も信じられないだろう。
ちひろは間違いなく自殺した。
そこにどんな葛藤や絶があったかなんて、きっと知ったかぶりをすればあいつを冒涜する事になる。
これは憶測だけど……現実で何もかも上手く行かなくてゲームの他に居場所が無かったのに、それを最悪な形で奪われた。
その彼が、また蘇ってきた。
何事もなかったかのように……いや。
すべてを知っていて尚、それを許しているかのように。
俺はもう一度、その笑顔を守りたかった。
あの時やり遂げられなかった事を、今度こそやりたかった。
「――以上が、ロナと俺の関係だ」
全てを話し終えた。
こんなの、全く知らない他人に解るものか。
事実、チパッケヤもユズリハも、とても納得できたとは思えない表だ。
「解らないなら……それでいい。巻き込んで、すまなかった」
崩れた床に、仰向けになって寢そべる。
空は相変わらず、晴れない。
聲だけが、頭に響いてくる。
――『できれば一緒に戦ってくれる、仲間がしかった』
【↑誰も頼りにならなかったし、誰もが目を背けた】
本當は俺が、その最初の一人になるべきだった。
――『いつしか、この戦いは無意味だと知った』
【↑勝ち目など、初めから無かったから】
ほんの一握りでも希が與えられるように、道を切り拓くべきだった。
――『だからこそ、あたしは全てを許した』
【↑だからこそ、あたしは全てを憎んだ】
辛い決斷を強いてしまった。
――『この神こころを生贄に、事実をけれた』
【↑この臓いのちをに、助けを求めた】
そんな事をさせる必要は無かったのに。
――『結果なんて、解っていたでしょ』
【↑知ったかぶりも甚だしい】
ちひろは何も悪くなかったのに。
――『だから言ったのに。“もう大人になろうよ、あたしが悪かったんだ”って』
【↑そんなの聞いてない。あたしは“大人の定義”なんて信じないし、絶対に認めない】
手を差しべられない、手遅れなのか。
繰り返されるフラッシュバックと、心の垣が曖昧になる瞬間。
俺を構する何もかもが剝がれていくような、ちりちりと脳裏が焼かれるような錯覚。
ひび割れた神に、染み込む。
じわり、じわり。
……ちひろが殘していった記憶の殘滓が、怨念が、悔恨が、乾いた地面に流し込まれたタールのように、俺の神に広がってゆく。
意識が飲み込まれ、沈んでゆく。
その場に倒れ伏して、頬に冷たくいが伝わってくる。
エコーを伴ってやってくる足音も、誰のものかも解らなくなってしまっていた。
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