《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Extend8 心の痂

ごきげんよう、あたしだ。

スーには悪いけれど、今回の依頼は蹴った・・・。

意思確認して請け負うと言った舌のも乾かぬうちにドタキャンとは、あたしはやっぱり最低のクソだ。

(まぁ、その依頼も含めて仕込みなんだけどさ……だからこそ、あたしはクソだ)

出発直前にキャンセルしたもんだから、スナージさんは不思議そうにあたしを見たのが印象に殘っている。

――『行かないのか?』

――『そういう作戦なんですよ』

――『はあ……それならいいんだが、単獨行をする奴は何種類かに分けられる。

依頼主に恨みを持つ奴、依頼主とグルになって同僚をハメる奴――って、そんな怖い顔すんなよ……』

――『あたしを自殺に追い込んだとグルとか、吐き気するんで冗談でも言わないでくれます?』

――『例えばの話だよ。まったく、あまりカリカリすると、余裕をなくすぜ?』

余裕が無いからカリカリしてんだよ。

なんて、あのオッサンには言わないであげた。

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いつまでもめてられない。

拠點時空とそれぞれの世界は時間の流れが同じらしいから、今は一分一秒も無駄にしたくない。

だから無視して転移魔法陣に足を踏みれた。

迷ったりもしたけどさ……。

いくらスーがある程度あたしに対して寛容(最初は無関心とも思っていた)だったとしても、その好意や恩を仇で返すのは抵抗がある。

でも、けれど……。

これを逃せば次は無いというのなら、いに乗るしかないじゃん……。

……きっかけは一週間ほど前の事だった。

この時、あたしはそもそもゆぅいから依頼が來ることすら知らなかった。

あたしが一人の時、スマホに非通知の電話が掛かってきた。

狙ったんだろ?

……わかってるよ。

――『久しぶり、お嬢さん。空母では、あなたのダーティ・スーが世話になったわね。ウフフ……』

あたしはこの聲の主を知っている。

イゾーラだ。

あの空母で、目の前で復活してみせたイゾーラが、こうしてあたしに電話をかけてきた。

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何かの思じずにはいられなかった。

――『挨拶だけなら切りますよ』

――『あなたを陥れたゆぅいというがいるでしょ? あの子に復讐してみない?』

――『は?』

意味がわからなかった。

けれど、その後の説明を聞いて概要だけは理解できた。

イゾーラの話によると、ゆぅいはダーティ・スーに恥をかかされてからは人員の流出に悩まされていたようだ。

けれど“原因不明・・・・の異世界化現象”によって、Sound of Faithはデスゲームと化した。

ゆぅいはそれに伴う混に乗じて周辺勢力を併合、その頂點に立った。

そしてイゾーラの提示する、こちら側の行としては……、

イゾーラがゆぅいを唆して、ダーティ・スー宛てに依頼を出させる。

あたしがそれの諾を打診して、出発直前でキャンセルする。

イゾーラ側の依頼で召喚されて獨自行

々やって復讐。

――『彼らが依頼主の世界に飛ぶ寸前にキャンセルして。私があなたを直接指名して依頼するわ。現地で落ち合いましょう』

――『あんた、何者? どうやって現地で落ち合おうっていうんです? イゾーラさん』

下手に藪蛇つっつくのも面倒だと思いつつも、そこを訊かないでおくのはちょっとね……。

だって、裏から調べようにも、あちこちの別世界を依頼書で召喚されもせずにフリーパスで飛び回るようなイカれただ。

とてもじゃないが信用できない。

――『私は特別な力を持っているから、ある程度は自由にいろんな世界を行き來できるのよ。

今は私の詳しい素より、あなたがやらなきゃならない事のほうを優先すべきじゃないかしら?』

――『目の前で吊るされた人參に夢中で、地面のぬかるみに気付かない……なんて事があっては困るんですよ。レースに勝つ為にはね』

――『私はね、助けてあげたいって思った相手には、萬全のコースと蹄ひづめを用意してあげる主義なの。

で? やる? それとも、罠だと思って報告する? どっちでもいいわよ、私は。

ただし、今この瞬間も五を共有しているから、あなたの行は筒抜けよ。

もし彼に明かせば、二度目のチャンスはあげられないということだけは覚えておいて。私の顧客は沢山いるの』

々と怪しすぎる……けど、それでも。

イゾーラの問いかけの後に出てきた言葉と行は、あたしの逡巡を吹き飛ばすには充分すぎた。

――『私が知る限り、ちひろちゃん・・・・・・はあの程度・・・・で満足するほど、支払った代償は安くないと思うのだけれど?

折角なら鼻を明かしてやりたいじゃない。あなたの元カレ、あきらくん・・・・・も闘むなしく結果は出ていないみたいだし』

恐ろしくて仕方がない。

どこまで調べたんだろう?

――『さては証拠がしいのね? いいわよ。たった今そっちのインベントリに送信したから、それで判斷してみて』

――『準備がよろしいことで。どれどれ』

収納指の中に追加されたのは、一冊の雑誌だった。

誌名は“バーチャルパラディーゾ”、略してVパラ。

VRゲームの雑誌で、あたしも仕事を辭める前は定期購読してた。

(ただし付録には興味がなかったから、書籍版じゃなくて電子版だったけど)

どうやら『バーチャルアバターに追いつく作り!』とか『ディスプレイとギャップのないを』とかいうクソみたいな謳い文句のクソ化粧品の広告は健在のようだ。

容としては、こうだ。

Vパラの記者から、あのゆぅいがインタビューをけた。

いわく“トップゲーマーの心得”を出版した取り巻きと、それを支えてマネジメントをした影の実力者“ゆぅい”が、今回のめ・・・・(部告発って言えよ)や一部メンバーの退をけて今後どのような展開を考えているのかというのを3ページも掛けて長々と語っている。

もちろん、たっぷりと正當化で塗り固めている。

なーにが「あくまで私のやってきた事は、それ以上の良案が現れるまでの繋ぎであり――」だクソアマが。

常識人ぶりやがって、謙虛なふりしやがって。

けて見えるんだよ……「“結果殘した奴だけが人間だと認められる社會”に順応できないはみんな奴隷だ」と笑顔で言い放てる、腐りきったが。

その記事の中では、あたしの元カレは勝手に勘違いして抜けていったことになっているらしい。

あとは新人が沢山ってきた事とか、他のゲームでも活を広げるといった話をしていた。

他にも、専用チャンネルのクソくだらない配信畫について、死ぬほどクソくだらない解説がたっぷり。

他人をダシにして笑いを取って、それでお金まで貰えるんだ?

いやー大変ですねー。

(死ね)

更に、巻末には増刊號とやらが付いていた。

異世界と化したエリル・アザイルに來てから刊行されたものだと書かれていて、なるほど確かに紙の材質がひと目見てすぐ解るくらい違う。

その増刊號は、更にをかけて酷い容だ。

(前にあれだけ大恥かいて?)

尚も懲りずに活中だイェーイ☆

しかも大きな組織のリーダーやってまぁす☆

ゲームのログアウトできなくても大丈夫ぅ!

解析班を集結させて、帰りたい人を必ず帰すからね☆

前任者の優秀な男が死んじゃったから、彼を偲んで責任持って実行しまぁす♡

……的な。

うるせえブッ殺すぞクソが。

必ずや衆目の前に引っ立てて、鼻っ柱を叩き割ってやるからな。

逆さ吊りで溜めにそのツラを突っ込んでやる。

トロールのウンコを肺に溜め込んで窒息死しやがれバーカバーカ!

――『だいたい摑めたかしら?』

――『オーケー。舊支配者の時代にサヨナラだ。奴らの大腸を凍らせて踏み砕いてやる』

ねぇ、ゆぅい。

あんたは何を思って、その高みを目指した?

冷酷非なあんたの事だから、あたしのに思う所なんて無いだろうけどさ。

わざわざ誰かのギルドを乗っ取らなくたって、普通に強豪ギルドを作れた筈。

作為的なものをじなくもないけれど、それを裏付ける確証がない。

まぁ、これに関してはに訊いてやるか。

……あーあ。

さすがに、ここまでされたら斷れないよなぁ……。

証拠もほぼほぼ出てるし。

――『で? 行く? 行かない? これが最後よ。NOと言ったら次を當たるわ』

――『行きますよ。折角のチャンスですから』

二度目がないなら、乗るべきだ。

こいつの素なんて、後で聞けばいい。

それに、あたしは……――

あたしはあまりにも、スーあいつと一緒にいることで幸せになりすぎた。

あたしが、あたしじゃなくなってしまうような……そんな気がした。

不幸に溺れてこそ、あたしじゃないか。

わざと足を踏み外して、思いきり転んで、傷まみれになってこそ、あたしじゃないか……。

生前には絶対に味わえない快楽だって、今のあたしは知っている。

覚共有スキルでスーの五をこっちが一方的にエミュレートできるから、挿する側の快楽を、高鳴る鼓を、熱を、香りを覗き込めた・・・・・。

道徳も、しがらみも、恐怖も、その時だけは忘れることができた。

……けれど、もういいんだ。

もう充分だ。

今回ばかりは、あの人を巻き込むべきじゃない。

震える右手を、覚束ない左手で押さえながら。

言い聞かせるように、あたしは呟いた。

――“亡霊は共に墮ち、共に足掻く”、か。

手放さないって誓った筈の自分自すら裏切って、果たして得られるものはあるのだろうか。

―― ―― ――

そうしてあたしは、この“Sound of Faith”の世界――エリル・アザイルの大地に再び足を踏みれた。

目も當てられない冒険世界エリル・アザイルへようこそ。

最高のタイミングでやってくるクソッタレなトラブルが君達を歓迎するだろう。

さぁ、お姫様の諸君。

を開き、目と口と、ついでに心を閉ざし、白馬の王子サマに備えよう。

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