《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Extend10 ミミックオクトパス
外見コピーからの死収納は潛伏活もできるし、合法的にゴミ掃除もできる。
まさしく、一石二鳥だ。
ここまでで、大の報は出揃った。
パワーバランスはおおよそ、ゲームの頃と変わらない。
あたしが死んでから大規模アップデートも無いのか、最新レギュとモンスターの強さは的には変わらない。
急所を狙うと倒しやすいというのと、死が消えない事。
王都アルヴァント以外の街は、全的に衰退気味。
王都には、以前と違って天商は殆どいないけど、代わりに遊詩人が帰參者連合を讃える歌を歌っていた。
多數のギルドが帰參者連合に加盟している事も、あたしがいた頃とは大きく変わっている。
……あと気がかりな所といえば、召喚の石版が流通していない事。
治安回復の為なのかな。
ありえないと思うけど、異世界化した時點で消滅した可能も捨てきれない。
そう思って、酒場などで報通っぽい奴に訊いてみた。
どうせこの外見ガワも使い捨てだ。
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流れ者らしい見た目だし、藪蛇でも問題は無い。
案の定、酒場からつまみ出された挙句、衛兵共に追い掛け回された。
(つまりそれについて尋ねるのは忌という事だ。テロリストの道になりうるもんね)
逃げ回る道中、ちょうどいいガケ・・・・・・・・があったから、飛び降りて、斷末魔のび聲を上げておく。
指から死を取り出す。
そぉれ、サクッとな。
ゴミ置き場にそびえ立つ鉄パイプ的な何かに、を貫かれて絶命――という事にしてしまえばいい。
苦痛に顔を歪めた、流浪の冒険者の死。
いくらあいつらが他殺を疑ったとしても、三日やそこらじゃ真犯人は割り出せないだろう。
本職の警察が、組織単位で召喚されていたら話は別だけど。
それならそれで、別の手段で足止めしてやるだけだ。
はい、追手を撒いた。
あたしは晴れて自由の。
ここまでで三時間ちょっと、かな?
気配を消して、買い出しに來たメイド達を尾行する。
――そして殺す。
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悪いけど稅金の著服とか吐き気が催すんだよ、メイドのクラーラさん。
……せっかくのいい名前も、もう誰かに呼ばれても聞けなくなっちゃうんだね。
殘念だ。
今日は牢屋の見張りを擔當するらしい。
スーは、あたしが化けている事に気付いているのかな。
話を聞いてし安心した。
それから、スーが敵のアジトへ行かされるとかで(相変わらずあのの口調が鼻に付く)、あたしは當番を終えた。
―― ―― ――
その後はしばらく、メイドの姿で街に出て、報収集と妨害工作。
これが三日間。
結実するまで待つことしばし、更に三日間。
さて、次に移ろうと思った所で、予期せぬ邪魔がった。
……クソが。
「やぁ、クラーラ!」
「……はい?」
見るからに、初心者裝備っぽい男キャラ――あー、こっちでは“降り人”と言われてるんだっけな……。
とりあえず、どうしよう、こいつ。
「忘れたのかい? 今日は僕と寢てくれる約束だったじゃないか。一週間が待ち遠しかったんだ!
良かったよ~、この前のガンマン侵騒で隨分とてんやわんやしてたろ? すごく心配したんだよ。
今は聖様が手懐けたらしいけどさ」
初心者裝備の男キャラは、にじり寄ってくる。
おえっ……。
どうして、法律の緩い場所じゃあどいつもこいつも丸出しなのか。
或いはこの姿のコピー元のが、こいつに目を使っていたせいなだけで、他はまともなのか。
いや、どうせまともじゃない。
「そうでしたっけ。ごめんなさいね。激務が続いて、記憶がちょっと曖昧で……」
「まぁそうだよね~」
うるせーよ、クソが。
「肩が凝ってるなら、マッサージしてあげようか? こう見えても、元の世界の職場では神の腕を持つ男と呼ばれてるんだ」
……?
――『父さん、こう見えても職場では神の腕を持つ男と呼ばれていてな。部長の肩こりを治したのが出世にプラスしたんだよ』
似たような臺詞を吐く奴が、他にもいるなんてね。
まぁそういうもんか。
「あー、大丈夫です……今は一刻も早く眠りたくて。またの機會にお願いします」
「そう言わずに! 生理はこの前終わったばかりと言ってたじゃないか!」
「こ、困ります! あ、こッ――の……これ以上近付いたら――」
ナイフを引き抜いて、脅すつもりだった。
それなのに。
「うぅッ!?」
刺し殺しちゃった。
こいつのに、ナイフは無慈悲に突き刺さって。
ぼたり、ぼたりと赤黒くて生ぬるいそれが、床に滴り落ちてゆく。
まぁ、正當防衛だし仕方ないけど……。
気持ち悪いなぁ……。
「あなた! 勇賢さん! どこにいるの? 聖様の衛兵さんがお呼びよ!」
勇賢……クソ親父と同じ名前だ。
それに、死ぬほど聞き覚えのある聲だった。
あの聲の主があたしの母親だったとしたら?
まさか……いや、まさか!
「これマジで、あいつなの……?」
死骸を見下ろしながら、思わず呟いた。
あたし父親を殺しちゃったの……?
立ち盡くす暇なんて無い。
あたしはすぐさまクソ親父の姿に化けて、咄嗟にメニュー畫面を呼び出して通販機能で赤ワインを買った。
の跡にワインをこぼし、雑巾で雑に拭いた。
クソ親父の死と赤黒くなった雑巾を収納指にれて証拠隠滅完了。
親父がどんなにクソ野郎だとしても、実の家族だ。
どんなに恨み辛みがあっても、しは揺するものじゃないのか。
なんで、あたしこんなに冷靜なの……?
けれども、しのママクソババアはあたし(姿はクソ親父のゲームアバター)の思いが結論に至るまで待ってはくれなかった。
「もう、どうしたのです? 急に何処かへ行ってしまって。今日は大事な日だから、なるべく部屋でおとなしくしていろと言われていたではありませんか」
クソ親父め。
おとなしく部屋で休んでいれば良かったものを。
そして、母さんも母さんだ。
正直、思ってたんだよ。
ダンナ相手に敬語とか、時代錯誤も甚だしい。
半世紀前じゃないんだからさ。
いくら相手がかつての上司だったといっても、それは結婚する前の話だ。
結婚して壽退社した後、家庭にまで引きずるやつじゃないだろ。
生前「かつての上司に申せないから、娘のあたしに當たり散らしたの?」なんて訊いたら、もの凄い形相で髪を引っ張ってきやがったからやっぱり図星なんだろうね。
クソが。
キャピキャピしたアバター使いやがって。
普段からテレビのタレント相手に“歳考えろ”って悪態ついてたのは何処の誰だったっけ?
いいよなァ!
ゲームのアバターなら、化粧に時間を掛けてダンナに文句言われなくて済むもんな!?
「勇賢さん、私に何か付いていますか?」
「いや……酒が強すぎたのかな。頭がボーッとしちゃって」
「部屋まで歩けますか? 肩をお貸しします」
「いいよ、大丈夫。ししたら一人で帰るから」
あいつだったらそう答える。
何故かって、帰ってきた時だいたい酔っ払いながら玄関で寢転がるからだ。
そういや、あたしが塾帰りに、玄関で寢てたあいつをいで行ったら『おっ、今日はピンクか!』なんて言ってたっけ?
……ハハハハ。
やっぱり殺して正解だったかも。
馬鹿は死ななきゃ治らないって言うし。
生前を追憶すればするほど、憎悪は蛇口から流れて、あたしののバケツを満たしていく。
理、良心、法律。
その後のこと、人間関係、リスクとリターンを天秤にかける行為。
バケツの側の壁面にはそういうものが書かれていて、憎悪の水位が上がってゆくにつれて、覆い隠されてくに違いない。
「あなた? どうかしましたか? そんなに怖い顔をして」
おっと、いけない。
「胃をやっちゃったかな……し痛むみたいだ」
理由としてはこれ以上無い程の“それらしさ”だろう。
「だからお酒は程々になさらないと――ああ、ごめんなさい。言葉が過ぎました」
なんでそこで謝るんだよ、しかも皮っぽくなくて、マジトーンで!
そうやって抑え込んだ嫌な気持ちの捌け口は誰?
捌け口、もういないけど?
死んだけど?
「いいんだ」
「……」
「どうかした?」
「いえ、なんでも……」
「俺が俺じゃないみたいって言いたい?」
「え、あ、そ、そんな事……」
「大丈夫、俺だって々と考えて反省したんだ」
大丈夫。
何もかもが噓っぱちで、あんたもいつかは棄てられる。
最後に、あんたが幸せだと思い込んできた――思い込もうと努力してきた何もかもが、結局は質たちの悪いペテンだったと知らされた上で。
「こちらにおいででしたか。どうぞ、ご案いたします」
メイド服に簡単な鎧を付けた衛兵がやってきた。
相変わらず高そうな鎧だ。
金屬部分はないけど。
売ったら幾らくらいするんだろう?
「あら、私達の借りているお部屋でしたよね?」
「そうでしたか?」
「ええ、そうです」
……管轄外の奴には余計な報を與えない。
あの頃からしも変わらないね。
そして、この組織の致命的欠陥はそれだけじゃない。
厳罰主義が怖くて、末端から中間管理職まで揃って失敗を隠そうとする。
だって降格したくないもんね?
時効にしちゃえば犯人探しどころじゃないもんね?
そうして、木のに潛んだ菌糸がしずつ腐らせてゆく事から目を逸らすんだ。
いつか大木が倒れる事も知らんぷりしてさ。
「近頃は騒ですからねぇ。現地人の連中が、いつ殺しに來るかも判りませんし。
こっちとしては協力し合って、私達をこの世界に縛り付けている元兇を排除したいんですがねぇ」
「やりづらいわね……」
「ですよね~」
なんなのきみたち?
揃いも揃って白々しいわ、バーカ!
―― ―― ――
武裝メイドと一緒に案された場所は南館三階の、中庭に面した部屋。
勇賢とその妻・弘芽ひろめに宛てがわれた寢室だ。
「じゃあ、私はこれにて。娘さんとの再會をゆっくり楽しんで下さいね」
耳を疑った。
娘って、誰だよ。
あたし以外の誰だっていうんだ。
「ねえあなた。いよいよ、ちひろに會えるのね」
若作りのアバターが、よく知る聲で言う。
背筋が凍った。
ちひろ。
あたしの名前だ。
あたしがもう一人いる事までは、頑張って報収集しても摑めなかった。
あたしは故人だし、今ここにいる。
なのに目の前のは、會えると言った。
しして、ドアを開いて現れた、そいつは。
そいつは――。
「ああ、ちひろ……本當にちひろなのね!?」
――そいつは、あたしのゲームアバターに瓜二つだった。
「……うん。久しぶりです。お父さん、お母さん。心配かけてごめんなさい」
後頭部が浮き上がりそうな、奇妙な目眩をじた。
それが苛立ちである事に、すぐ気が付いた。
「いいのよ。今まで、酷いことばかり言ってごめんね……私、どうかしてた……もう言わないわ。また、やり直しましょう……」
「うん、お母さんっ! あたし、大丈夫。気にしてないよ」
は、ははは。
あははははアハハ……。
何が“酷いことばかり言ってごめんね”だよ。
その臺詞は、このあたし・・・・・が聞きたかったよ。
できれば、死ぬ前に。
何の疑いも持たず、関係を修復できると信じたかった。
なくとも。
こんな瞬間なんて見たくなかったよ。
「――」
うう!
あ、ああ……あああ、あたま、いたい。
あたま、いたい!
なにか、ながれこんで、くる……!
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