《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Extend13 砂塵と雨音

「ここまでが限界よ」

「……充分です。どうも」

倒壊した尖塔のに車を停めてもらって、あたしは降りた。

塔の大きさは、三両編の電車を四つ束ねたくらい。

元々は、結構な大きさなのかもしれない。

「ロナ」

「何です?」

「気を付けて」

「……今更でしょ。言われるまでもありませんよ」

こんな、今日はじめて手を組んだ相手だっていうのに。

どうしてだろうね。

しだけ、嬉しいと思ってしまったんだ。

あたしはきっと、騙されて、利用されているだけの筈だというのに。

「でも……ありがとう」

「……そんな顔も、できるのね。あなた」

気にかけるような言い方されてもさ、困るんだよ。

どうせ、あたしを騙そうとしているくせに。

解ってるんだ。

お見通しなんだよ。

ただ、その事実に対してどうけばいいか判らないだけ。

……。

殺してはり代わって、り代わっては殺して、しずつ近付いていく。

良心の呵責なんて、あるわけない。

だって、あのに與するのが悪い。

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逆らえないから?

恐いから?

じゃあ、あたしは何だというんだ。

逆らったよ。

周りに、訴え続けたよ。

それとも、あたしの前例を見て、叛逆する気が失せた?

違うだろ、それは。

一緒になって、あたしの事なんて忘れて、甘い啜ってきたじゃん。

同じだろ、みんな。

あとし。

あとし。

あいつのツラを拝んで、ぶん毆ってやる。

あたしの偽者をどうやって生み出したのか洗い浚い吐かせて、吊し上げてやる。

でも、その前に、罪を。

罪の開示を。

ああ!

なのに!

それなのにどうして――

「――彼はロナの一つの側面が、現化したものです。私達の出を阻む者達……滯留主義者達によって生み出されました」

さっき城で暴れた時のあたしの姿が、白い四ツ足の怪――アルタステラの死骸をスクリーン代わりにして映し出されていた。

なるほど、あたしの姿は怪そのものだった。

あたしが怪である事に異存はない。

けれど、ゆぅいがそれを言うのは、我慢ならない。

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「私の古い友人をこのような形で冒涜するなんて……とは思います。でも、憎しみ合う戦いがどれだけ醜いものか、きっともう、皆さんも理解しているでしょう」

お前が、それを言うの?

憎しみの原因を作ったお前が?

どうなっている?

あたしの見立てでは、危機が去ったタイミングで吊し上げが行われていてもおかしくない筈だった。

じゃ、報を集めて伝えた、通路の脆さと補強は……?

「他國より王都アルヴァントに潛してきたスパイによって、巧妙な工作がなされていました。

予算に対して実際の費用を不當に削減し、その分を送金していたのです。

もちろん、犯人のクラーラを逮捕すべくきましたが、彼は抵抗したため、やむなくその場で処刑したのです……」

何だよ、それ……。

「相次いで不正が発覚し、つい先程も混に乗じて賊が侵

出のために召喚式を研究していたチームが、その攻撃をけました……。

親衛隊の活躍によって事なきを得ましたが、資料が一部焼失……課題は山盛りです」

なんで、こんな。

こんな……。

「このエリル・アザイルから元の世界に戻るには、滯留主義者達を倒すなり説き伏せるなりする必要があります。

此度の戦いは、その第一歩なのです! さあ、皆で生き殘りましょう!

悪魔の用意した恐るべき虛像と巨獣を打ち倒し! 祝杯に明日への活力を注ぎ!

そして、元の世界へと帰參するのです!」

「「「「「おォーッ!!!」」」」」」

あたしが解こうとした何もかもを、覆すなんて……。

これじゃあ、あたしのしてきたことは一、何だったのだろう……?

馬鹿げている。

……絶対に、馬鹿げている。

「どけ……! どけ……!」

加熱する

どこまであたしのを貶めれば気が済む?

だけど一方で、冷靜なあたしが窘める。

落ち著け、あたし。

を潛めて、ゆっくりと……。

確実な距離で、思いきりブチ抜いてやる。

【↑出來ないことは心の中であっても宣言するもんじゃないよ】

うるせぇ。

ションベンらして命乞いする姿を目に焼き付けたいだろ!?

やろうよ!

「この後は護衛をお願いしますぅ。ゆぅいの命を狙いに來る奴は――」

あたし達の・・・・・ダーティ・スーに、気安く話しかけるんじゃねェ、このクソアマ。

殺す、歪む、殺す、歪む、殺す!!

歪む、殺す、歪む、殺す、歪む!!

「――アハーハハハハハ! 百萬回ブチ殺して差し上げるぞ、クソアマぁ!」

翼手で摑んだクソアマ。

突き付ける銃口。

錯覚!

腹の中!

のたうち回る蛇!

……待て、待て待て待て、正気に、戻れ。

あたし、まだ大丈夫。

まだ行ける。

【↑無理するな?】

「あたしの目の前で見えいた茶番ぶっこきやがってよォ!」

駄目だ、自分を抑えられない。

つむじを絶え間なく冷やす雨をもってしても、心から流れ出す溶巖が冷え固まる事は永遠にあり得ない。

「ぐぇェ゛!」

橫腹に衝撃をけて、踵が土を削る。

の再會っていうのは、きっとこういうのを言うに違いない。そうだろう、ロナ」

水中のような鈍い耳が、聞き慣れた聲を拾った。

霞む視界の中、見慣れた姿を捉えた。

ダーティ・スー。

やっぱり、こうなっちゃった。

どこかで戦う事になるとは思っていたけど……。

あたしは、あたしは……――

―― ―― ――

――ガタンッ!

と浮遊に、あたしの意識が切り替えられた。

「――ん、うぅ……?」

……ここは、車の中だ。

ご丁寧にシートベルトを締めた狀態で、助手席に座らされていた。

さっきまで、あたしはスーさんと戦っていた筈だ。

あれは全て夢だったのだろうか……。

「どんな夢を見てたの? 骨くわえた犬みたいな唸り聲を上げてたわよ。歯も、こんな、剝き出しにしちゃって」

「あたし、どれくらい寢てました……?」

「さあ? アルタステラの死骸の山から引きずり出したけど、それだけじゃ判らないわ」

なくとも戦ってた事は現実なのか……」

どうりでが臭いわけだ。

とか臓とか、雨とか……そういうのが乾いてへばり付いた跡がある。

【↑それが罪の痕跡と拠だ。世界中の家畜を皆殺しにしたところで、あたしの空虛な臓腑が満たされる事など無いというのに】

……おぇッ。

「スーさんは?」

「彼? いなかったわよ」

「……」

勝負はついていなかった筈だ。

だとしたら、途中で撤退した?

それとも、この世界から退去した?

……いや、気にする必要なんて無い。

だって、どう考えても、勝手に裏切ったのはあたしだ。

育てられた恩も忘れて、たった一人でなんでもできると勘違いして。

いいよ。

スーについて考えるのは、もうやめよう。

が痛くなってくる。

それよりも復讐だ。

「……連合は、あの化けの群れをきちんと食い止めたんですかね?」

「そのようね。城下町で凱旋と祝賀會をするって言ってたわよ」

「……そっか」

無事に食い止めたのは、別にいい。

あたしの策が実行されているなら、ログアウト・・・・・の手立てを探っている人達は無事に逃げられた筈だ。

それでいて、おおっぴらに「なんで生きてる!?」と詰問するわけにも行かないだろう。

信用できる奴(特に、阿呆だけど腕は立つ奴ら)を選別して護衛に充てた。

騙し討ちでも喰らわない限りは大丈夫……きっと。

「なあに? そんな難しい顔しちゃって。せっかく助かったのに」

「助けてくれた事については、ありがとうございます。でも……」

「……大丈夫。笑ったりしないから、言ってごらんなさい」

「あたしの復讐は、ちゃんと機能しているのかなって。やったつもりになって、踴らされているだけなんじゃないかって……。

その……あはは。こんなこと、今更かよ、って話ですけど」

「そうかしら? 々なプランをあなたは、たった一人で考えて、一つずつ実行していった。

一杯、できることをやったのよ。これで駄目なら他の子でも駄目よ」

「そう、ですかね。いまいち実湧かないっていうか……」

「私から見ても涎が出るほどの逸材よ。概念汚染を患ってもお釣りが出るわ。

世間様とやらの文脈なら、いい教育者に恵まれた、とでも言うのかしら?

もっとも、あなたの大切な人は“勝手に育ったのさ”なんて答えそうだけどね」

「あぁー、言いそうですね、確かに」

戦い方というか、仕事における考え方は割とスーのやりやすいように合わせたつもりではあるけどね。

一緒にいて頼りになる、それでいて出すぎず慎ましく支えるような相手であれば、そう捨てられはしないだろうと思ったから。

ときどき意地悪な事をしたり言ったりするのは、どこまで許されるか試したかっただけ。

本當は恐いんだ。

捨てられるのが、嫌なんだ。

だから、勝手に育ったなんて言わせない。

あたしが育てさせたんだ・・・・・・・。

……やめようって言ったよ、あたし。

【↑未練がましい】

「そういえば、次の策は既に考えてある?」

策と言ったって。

もう大やりつくした。

その上でアレじゃあ、手のうちようがない。

「これ以上、どうしろというんです?」

「まず、ディスガイズ・ダガーはもうちょっとだけ使わせてあげる」

なんて気軽に投げて寄越される。

あぶねーわ馬鹿。

刺さったらどうすんだ。

「どうも」

「……それとね。これ、何だと思う?」

「――」

ジェーンが手に持って掲げてみせたのは、鈍い銀を放つペンダントだ。

あたしは一度、これに助けられている。

パンツ姫もといサイアンが暴走して、あたしの神が乗っ取られた時、これのおで正気に戻ってこれた。

「……ステータス異常防止、ですか」

「そゆこと。軍神の加護って呼ぶことは、もうご存知よね」

そこまで知ってるなんて。

こいつ、どんだけ調べたんだ……?

「神様と友達同士って、こういう時に便利だと思わない?」

そう言ってにっこりと笑うジェーンの表は……。

とてもじゃないけど、どう見てもまっとうな神様とは思えないくらい邪悪だった。

まぁ実際、まっとうじゃないけど。

「――さあ、存分に……リベンジしてらっしゃい」

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