《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Extend15 きっとこれは奇跡なんかじゃなくて
あの時、もう一人のちひろを見た。
俺は……どうすればいいのかわからなくなった。
どっちのちひろも本だろう。
けれど、俺はどっちを信じればいい?
ここで選択を誤れば、今度こそ俺は永遠に失ってしまうだろう。
大切な人を。
その魂を。
誇りを。
……そんなのは、駄目だ。
よく考えろ。
思い出せ。
――『釈放よ。ただし、條件付きでね』
――『どういう意味だ』
俺達を牢から解き放ったのは、違和だらけのメイドだった。
蜂のような金髪に、夜明けの空のような青い目。
けれど綺麗さよりも、どこか恐ろしさを包していて。
鷹のようでもあり。
或いは、蛇のようでもあって。
――『北壁に、敵の大群が押し寄せてきているそうだわ。では、あなた達に求められる役割は?』
――『役割って……?』
――『あなた達は咎人。そして力もある』
――『つまり、死にに行けと』
――『正解!』
頬の橫で人差し指を立てながら、彼は首を傾げて笑った。
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可らしい仕草であろうとも、何故かの奧がピリピリとしてくる。
直が告げている。
……このは危険だ、と。
もしかしたらこれは罠で、走を企てたと帰參者連合側に思わせて、俺達を始末するつもりなのでは。
そう考えたりもした。
けれど……。
けれど、結果は違った。
事前に聞かされていた報では、全員が死力を盡くしても北壁を突破して街に到達していたかもしれなかった怪アルタステラ達。
黃のガンマンはそれらの半分以上を、簡単に片付けてしまった。
それこそ、イワシでも捌くかのように。
だからなのか、北壁の數百メートル手前で事態は収拾しつつあった。
そんな時。
“もう一人のちひろ”が現れた。
最初は、何が起きているのかわからなかった。
俺は荒んでいないほうのちひろと一緒にいたから、背中から青白い腕を生やした“もう一人のちひろ”が別人なのは知っている。
そうして黃のガンマンは“もう一人のちひろ”と戦った。
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かつて、あいつが“もう一人のちひろ”を連れて行った筈なのに。
俺は、それを遠くから見ているしかできなかった。
本來なら、アルタステラは(黃のガンマンがそうしていたみたいに)片手間で倒せるような相手ではない。
ましてや、俺一人で戦っているわけじゃないし、殘り一匹というわけでもない。
犠牲が出るのは、嫌だ。
だから、その戦いから目を逸らした。
容赦なくなぶられる“もう一人のちひろ”。
黃のガンマンは一通り弄んだ後、倒れたアルタステラの下敷きになった。
石版で呼び出された魔神は、死になった後は三日間ほど瘴気を撒き散らしながらゆっくりと消えていく。
ボスクラスのモンスターですら避けて通るほどの、濃な瘴気だ。
人が長く留まって無事でいられる筈がない。
元々は同じ場所に何匹も呼び出した場合の弊害として設定されたものだ。
その理ことわりがそのまま、この世界でももっともらしい・・・・・・・理由を付けて存在し続けている。
だから“もう一人のちひろ”がどうなったかは、解らなかった。
見ようともしなかった。
まだ、その時じゃない。
俺一人で解決できる問題じゃない……なんて。
俺はまたしても……。
またしても、目を逸らしたんだ。
凱旋、そして宴。
提供された食事は贅を盡くし。
――『此度の防衛戦、皆様の頑張りのおで想定よりもかなり被害を軽減できました』
演説の容は當たり障りのない、ねぎらいの言葉。
聞く価値なんて、皆無だ。
頬杖をついて橫目に眺めていると、肩を軽く叩かれた。
――『ねぇ、あきら。ちょっと夜風に當たって行かない?』
今までの出來事など知らないと言わんばかりに、ちひろは何でもない顔で俺の手を引いた。
言いたいことは山ほどある。
訊きたいことも同じくらい。
――『ああ』
だから訝しむ視線を無視して、ちひろに委ねた。
それに……ゆぅいは北壁の戦いの後、言った。
初夏の旅団が捕らえられたのは、ゆぅいの言う“滯留主義者”から自領の人達(降り人も現地人も)を守る為だと。
どうせ噓だ。
でも、味方はいない。
牢屋にれられて以來、ユズリハとチパッケヤはあからさまに俺から距離をおいていた。
それも道理だ。
元カノ死なせたダメ男な上に、元カノそっくりなスパイに惚れ込んで何をしでかすかわからないのだから、そんな俺の近くにはいられないだろう。
噴水のある広場へ。
夜風は涼しくて、北壁での死闘が噓みたいだった。
大恐慌も、今は見る影もない。
――『あっという間、だったね』
――『々なことがありすぎた』
自分でも、恨みがましい言い方だと思う。
けれど、実際に騙されたのだ。
しは責めさせてしい。
――『……うん。本當に、ごめんね』
――『教えてくれ。ちひろが、どうやってここに來たのか』
――『それ、は……』
――『俺を帰參者連合に引き込む為に、ゆぅいに利用されてるのか?』
自意識過剰だろうとは思う。
けど、牢屋での會話から判斷するに、それしかない。
――『そろそろ、いいのかな。あきら……あきらは、もう薄々気付いていると思うけど、あたしは――』
――言いかけて、ちひろは口を閉ざした。
ぞろぞろと兵士達が大食堂へと向かうのを間近で見たからだ。
俺も、何も言えなかった。
――『あとで聞く。急ごう』
――『うん……』
廊下、階段を登って、大扉を開ける。
何人かが立ち上がっていた。
一、何があったんだ?
そう尋ねることもできないくらい、辺りは迫した空気に包まれていた。
――『聖とはよくいったものだな! この人でなし!』
誰かがそう言って、ゆぅいを指差した。
それが合図になって、一斉に“水面下の計畫”について暴を始めた。
宴會の様子は、楽しい雰囲気を皆で共有するという名目で、街中で水晶球による映像投影が行われていた。
だから、この暴大會の様子も筒抜けだった。
――『これについては、どう釈明する?』
――『侵攻ルートと、市街地における防衛を想定した計畫書ですぅ』
――『まだそんな口を叩けるのか……連れてこい!』
俺とちひろの橫を通るのは、両腕を縛られた暗殺者……それも、複數人。
縄に繋がれたそれを兵士達が引き連れていた。
出の為に研究をしていた召喚式解析チームは、暗殺者に狙われていた。
城下町を避難している最中に、アルタステラに襲わせて殺す計畫が失敗した際、暗殺者が手を下すという手筈になっていたようだ。
――『まだあるぞ』
続々と証拠品が運び込まれた。
一、どこからそんなに沢山の証拠品が出てきたのか。
途切れることなく朗々と読み上げられた罪狀は、なるほどこれまで何も知らないでいられた人達にも解りやすい容だった。
中には“初夏の旅団”が“王都アルヴァント帰參者連合”のマッチポンプとして作られた組織だったという、決定的な証拠まで……。
ゆぅいの側近達が野次を飛ばすなりして妨害しても、彼らを止められなかった。
――『以上。もう言い逃れはできないぞ。聖を騙る売め!』
放り投げられるグラス。
締めくくりの言葉が発端か。
それとも、発言の主が撃ち殺されたことがトリガーなのか。
――『殺せ!』
どっち側・・・・の誰が発した言葉なのか。
一即発の構図は、いよいよ地獄絵図に。
拳と拳がぶつかり合う。
宴會の參加者側に武なんて無い。
だから何人かは、親衛隊から武を奪って戦った。
數分もしないうちに、魔法が城の外から叩き込まれた。
北壁防衛隊だった者達が次々と、帰參者連合に反旗を翻したためだった。
もちろん、晩餐會は中止だ。
ゆぅいは親衛隊に守られながら、宮殿の方角へ向かった。
俺はそれを、茫然と眺めるだけだった。
何をすべきかすら解らないまま。
まだ戦うのか……?
どうして殺し合う?
答えが見えなくても……ゆぅいを追いかけないと。
ゆぅいを捕まえて、連れてきて、終わらせてもらおう。
馬鹿げた茶番を、その罪を償わせないと。
――『ちひろ。著いてきてくれるか?』
――『もちろんだよ。こうなっちゃったら、止める側に回るしかないもん』
宮殿方面側の大扉を一文字に切り裂いて、廊下へ。
……遠くの渡り廊下が崩れている。
迂回路は……確か地下からだ。
廊下をし進んで螺旋階段を降りる。
牢獄広場をまっすぐ進む。
この辺りは、釈放された時に通った道だ。
牢獄広場を抜けて、次は曲がり角……と。
……その時だった。
「ちひろ!?」
目の前にいるのは。
“もう一人のちひろ”……或いは“本のちひろ”だ。
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