《都市伝説の魔師》第一章 年魔師と『七つ鐘の願い事』(6)

香月が目を覚ました時、彼は石畳に橫たわっていた。

そしてすぐに両腕が拘束されていることが解った。

「……不覚だったな」

香月はシニカルに微笑む。

あの後。

香月は渉している最中、背後から何者かに頭部を毆打された。

もし僅かでも背後に気配をじていれば、コンパイルキューブを使って応戦することが出來た。

だが、あの時――相手は完全に意識を移す魔を使っていた。

冷靜になっている今ならば解る。

「ほんとうに、不覚だったな……」

狀況を一通り整理したところで、香月は胡坐をかき、一面を見わたせる態勢を取った。

「……何もない」

見事に何もなかった。

し高い位置にある窓から日差しがっており、そこが明かりと同じようになっている――ということくらいしか言及する點が無かった。

いいや。

正確には違った。

壁に何かが憑れ掛かっていた。暗いところだったので何が何だか解らなかったが、近付いてみるとそれが人間であるということが解った。

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薄汚れたワンピースを著ただった。濃い青の髪はとても鮮やかで、白いワンピースと対比していた。

「おい、大丈夫か?」

香月は彼に聲をかける。

はじめ、彼は目を覚まさなかった。見れば周りにも蠅が集っていて、どちらかといえば死骸か何かに見えた。

「……ダメだったか」

香月は呟き、諦めた様子を見せる。

「う……ん……」

が目を覚ましたのはその時だった。

踵を返し、香月は近付く。

「大丈夫か?」

香月の言葉に、はゆっくりと頷いた。

見れば彼の足には鎖が繋がっており、それがし離れた位置に置かれている鉄球につなげられていた。

「コンパイルキューブは……」

すぐに彼はポケットの中にれていたコンパイルキューブを探そうとした。

だが、彼の両手はふさがっておりそれが出來ない。

「……どうすれば……」

「あなた……誰?」

の聲は、き通った聲だった。凡ての雑味を抜いた、明な聲。マイナスイオンがその聲から染み出ているようにも錯覚する、そんな聲。

「僕の名前は柊木香月。一応、魔師をしている。まあ、今はコンパイルキューブが無いから何も出來ないのだけれどね」

香月は彼の問いに答える。

「コンパイル……キューブ?」

は首を傾げる。

――もしかして、コンパイルキューブを知らないのか?

香月は思った。コンパイルキューブを知らないということは、魔師の存在を知らないということに等しい。コンパイルキューブは魔師以外に使いこなすことはできない。神力を魔力に変換するためだ。もし、それが別エネルギー同士の変換が可能ならば、世界のエネルギー問題は解決する。

もっとも、それをやろうとして誤った方向に向かった魔師も居たのだが。

「コンパイルキューブというのは……なんて説明すればいいのかな。魔師が魔を使う上で必要不可欠な機材のことだ。大きさは手のひら大。僕が見たときは最大が五メートル四方だったかな。五メートル四方にもなればエネルギーの変換量も多い。しかし、デメリットもある。変換量が多いということは、元々使う神力も多いということだ。……人間の神力を使うにあたって、一番ちょうどいい量が人間の手のひら大程の大きさ、ってことになる。……おっと、難しい話になってしまったな」

「……つまり、どういうことなの?」

はまったく言葉を理解できなかったらしい。目を丸くして香月の話を聞いていたからだ。それに、香月の話を聞いていた間ずっと何もしなかったというのも挙げられるだろう。

香月は苦笑いをして、話を続ける。

「まあ、別にそんな難しい話を知らなくても問題ないよ。ただ、魔師が使うものだということを覚えてくれれば」

「ふうん……。そうなんだ」

は一瞬俯いて、すぐに顔を上げた。

「わたし、アイリスって言うの」

――アイリスは言った。

「アイリスはどうしてここに?」

「……何故かな。覚えていないや」

「覚えていない?」

何か不味いことを聞いてしまったか――彼はそう思った。

しかしアイリスは微笑む。

「覚えていないってことは、覚える意味も無かったってことだと思うの!」

そんなことを元気よく言ったアイリスに彼は戸いながらも、話を聞いていく。

「というか、ここはいったいどこなんだ?」

「ここは地下の……牢屋だったと思うよ」

アイリスの言葉に頷く香月。

地下の牢屋ならばあの高い場所にしかない窓にも納得がいく。

「……コンパイルキューブさえあれば、魔を使うことが出來るんだがなあ」

ぽつり、香月は呟いた。

「コンパイルキューブを使わなければ魔を使えないの?」

「ああ、殘念ながら」

「コンパイルキューブの場所は?」

「解らん。だが、どこか大事なところに仕舞っていると思う」

「……だったら、話は早い」

カシャン、という音を立てて足首と手首につけられた首が外れた。

「いったい、何を――」

「簡単なこと」

は両手を、何かボールを持っているように構える。

そして、その手の中心に何か白いボール狀のが生まれる。

それを見て香月は確信した。

「まさか……いや、そんな、あり得ない! そんな魔師が居てたまるか!」

そして、そのボールが投げられて――壁に衝突。同時に壁が破壊された。

「……これはいったい」

「話はあとにしましょう。取り敢えず今はあなたのコンパイルキューブを探しに行きましょう。あ、そうだ」

アイリスは彼の目の前に立って、人差し指を上から下にゆっくりとかした。

それから一瞬遅れて、彼につけられた手枷が外れた。

「問題なさそうだね。それじゃ、向かうよ。いろいろあるだろうけれど、話はあとで。ここを出してから凡て、私の知っている限りの報を話すよ。ただし、ここにれられた理由はまったく覚えていないけれどね。さあ、どうする? 私と一緒に出する?」

「當たり前だ」

差し出された手を、香月はしっかりとつかむ。

――香月とアイリス、二人の同盟が結された瞬間だった。

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