《都市伝説の魔師》第一章 年魔師と『七つ鐘の願い事』(12)

「私個人としての意見、ですか」

ユウは溜息を吐く。

「ああ、そうだ。今までは『組織』としての、そしてこれから訊ねるのは『個人』としての意見だ。それくらい訊ねるのは當然のことだろう?」

その言葉に頷くユウ。

「ええ、ええ。そうですね。それについてはその通りだと言えるでしょう。まったくもってその通りですよ」

「屁理屈を聞きたいわけじゃない。ユウ・ルーチンハーグ個人の意見を聞きたいだけだ」

「あなたも隨分屁理屈を並べているじゃないですか。組織としての意見が否定的であったから、せめて個人的な意見は肯定的であると思っているのでしょう? だから、その質問をした。どうです? 間違っていますか?」

「……いいや、まったく間違っていない。その通りだよ」

ユウの言葉に夢月は肩を竦める。

昔から彼はこうなのだ。何と言うか、勘が鋭い。

「……私個人としての意見を述べるとすると、この街を守りたいのは確かです。ですから、彼とともに力を合わせてアレイスターを倒したいとも考えています」

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「ならば力を合わせて戦ってみるのもまた一興とは思わないか? 確かに君は昔と違って組織のボスという立ち位置にある。だから、君一人の単獨行はあまりましいことではないのかもしれない。だからといって、ここで手を拱いていると、ヘテロダインの活領域すら蝕まれかねないぞ」

「私がそれを解っていないと思っていたのですか?」

ユウは殘っていたワインを最後まで飲み干した。

「確かにアレイスターは脅威です。私たちヘテロダインにとっても、ユウ・ルーチンハーグ個人にとっても。ですから、倒すべき存在であるということも解っています。ですが……」

「ですが?」

「恥ずかしいことに的なヴィジョンが見えてこないのです。……組織を束ねる者としては恥ずかしいことなのかもしれませんがね。それが真実ですよ」

「ヴィジョンが見えない、か……。ユウ・ルーチンハーグらしくない意見だな」

「あなたもアレイスターの恐ろしさは知っているでしょう。実際問題、かつてのアレイスターも酷かった。まったくもって酷いものでした。しかしながらあの時はお互いがお互いの思想を持っていて、それぞれの組織に分離したために事なきを得ました。ですが、今は……」

「不純が無くなり、結束力が大幅に増した――と?」

「ええ。恐らくはそうとも言えるでしょう」

「まあ、簡単にクリアできる問題では無いだろうな。だが、お前にとっては自分の『庭』と言っても過言では無い場所を、勝手に荒らされてどう思っているんだ? 見ていて気分のいいものでもないだろう?」

「それはもちろん。最低最悪の気分ですよ。出來ることならばさっさと害蟲駆除を頼みたいくらい」

「かつて所屬していた組織を害蟲扱いか。そりゃあいい」

夢月はくくく、と聲を殺して笑みを浮かべる。

「……まあ、お前の言い分は解った。それじゃ、個人としてはさっさと潰してしまいたいが組織のことがあるから手を拱いている、そういう判斷で構わないか?」

「ええ。……それにしてもいったい何を……」

夢月は踵を返し、部屋の扉へと向かう。

扉の前で靜止して、呟いた。

「いや、なに。ここでけない君のかわりに俺が出撃するか……と思ってね。未だ俺の所屬は一応ヘテロダインになっているはずだが、それでも君が出撃するよりはマシだろ? 十年でランキングも隨分変して、俺もだいぶ下に落ちたとはいえ、実力が落ちたわけではない。殘念ながら確実に勝てるとは言い難いが、それでも戦力を幾らか削ぎ落とすことは出來るはずだ」

「無理だ……。君自ら死地へと向かうつもりなのか? せっかく十年ぶりに家族団欒を楽しめているんじゃないか! それを、無駄にするつもりなのか?」

「無駄にするつもりなんて無いさ。ただ……家族団欒を脅かそうとしているのなら、し思い知らせてやらないとな」

そして夢月は扉を開け――部屋の外へと出ていった。

「ほんと……そっくりだよ、二人とも」

ユウはそう言うと、空のワイングラスを傾けた。

◇◇◇

ディーは外に出ていた。

「やっぱり日本の地下道ってじめじめしているよなあ……。気候の問題なのかもしれないけれど。あのへんはちょっとつらいよね。換気扇でもつけてくれればいいのに」

そんなことを呟きながら、彼の手はスマートフォンにびていた。

どこかの番號にかけるディー。

電話はすぐに繋がった。

「ああ、もしもし。僕だ。ディーだ。無事キューブにエネルギーを充填したよ。ざっと六十回分かな? 相當のエネルギーだね。まさか一つの都市伝説だけでこれ程のエネルギーが溜まるとは。予想していなかったよ」

ディーは左手で白いルービックキューブ程の大きさの立方を弄ぶ。

彼の話は相槌をはさんで、続けられる。

「次は『地下六階の年像』だったね。々面倒ではあるが、次にそちらに向かうとしよう。報告は君に任せたよ。僕はこのまま向かうことにする。時間も限られていることだしね」

ディーは相手の話を聞く。時折相槌をえながら、話を聞いているようだった。

「……なんだって? 僕たちの行に勘付いているやつがいる? うーん……あの年魔師クンかなあ? でも、彼は隨分と痛みつけたはずだったけれど。……え? 彼、アイリスを連れ出したの? うーん、そいつは予想外だったな。オリジナルを奪われたとなっちゃ、『複製』が出來ないじゃないか。……え? それに警察もいているって? ははは、日本の警察には魔犯罪に特化した部署があるのか!ああ、ごめんごめん。別に君の言っていることを信じていないわけじゃないよ。ただちょっと、面白くなってきたな、と思ってね。それじゃ」

ディーは通話を切った。

彼の表が、無意識に笑顔を浮かべていた。

それはこれからの展開に対する希

と希を孕んだ、その中間。

ギャンブラー的なものかもしれない。

「楽しくなってきたね……」

そう言って彼は、白いキューブをポケットに仕舞いこんだ。

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