《都市伝説の魔師》第二章 年魔師と『地下六階の年』(3)
香月が著信をけたのはその時だった。
「……電話?」
そのスマートフォンを手に取って、香月は電話に出る。
「もしもし、僕だ。……何だ、どうした? 任務か? 未だ晝だぞ。昨日も早退したからあまり出ていきたくないのだけれど」
香月は最初否定していたが、徐々に話を聞いていくうちに――何回か相槌を続けていくうちに――最終的に解ったと一言だけ言った。
「……どうしたの、お兄ちゃん」
夢実の言葉に香月は答える。
「…………どうやら、『奴ら』が本格的にき出したようだ」
「……奴ら?」
「解っているだろ。アレイスターだ。さっき言った連中のことだよ。奴らと思われる魔師が木崎市の小學校に出現したらしい。大量の小學生と教師を人質に取っている。だからそれを何とかしろ、と言うことらしいが……」
「なら、行ってくれば? あなたは、それを追いかけていたのでしょう?」
「追いかけていたよ。だが、僕も中學生だ。昨日も早退したしなあ……。あまり多くの人間に魔師であることを公言したくないんだよ」
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「……だから、あなたは大量の人間を見捨てるというの?」
言ったのは春歌だった。
「見捨てる、ね。確かにそう言えば聞こえは悪い。だから僕が參加する、そう思ったのだろう? 春歌」
見捨てる――そう言ったのは確かに春歌だった。
でも夢実も同じ考えを持っているはず――それは彼が勝手に想って居ることだが――春歌はそう考えていた。
「そうですね。確かに……諦めるのはお兄ちゃんらしくない」
夢実はそう頷いた。
香月はぽりぽり頬を掻き、言った。
「……そうだよな。確かに、僕が間違っていた。助けを求める人が居るにも関わらず、僕は何もしたがらなかった。それはダメなことだ。人間として間違っていることだよ。それに、魔師が罪を犯すことをみすみす見逃すわけにもいかないからね。やっぱり……魔師の犯罪は魔師同士でケリをつけなくてはならない」
「なら……」
香月は頷く。
「行くよ、僕は。ふたりのおかげで決心がついた。ありがとう」
「それじゃ……」
「ああ、今から行くよ。仕事著に著替えてからだから……十分か。悪いけど、あとの対応は任せたよ」
「解ったよ、お兄ちゃん。頑張ってね」
夢実の言葉に頷くと――彼は走り出した。
その姿を、夢実と春歌はただ見守るだけだった。
◇◇◇
柊木香月は黒ジャージ姿で街を駆けていた。念のため魔師に見つからないためと一般人に不審がられないために、明化魔を彼のにかけている狀態となっている。
「……おかしい」
香月は思った。
――あまりにも街が靜かすぎる。
この時間は學校もあるため、人通りがないのは當然の事実。
しかしながら――そうであったとしても、若干の生活音があっても當然のことだ。
にもかかわらず、その生活音が一切聞こえない。
靜かすぎる、とはそういうことなのだ。
「どうやら気づいたようだね?」
彼の背後には一人のが立っていた。
ピンクを基調としたセーラー服を著ただった。艶のある漆黒の髪が耳を隠す程びていて、丸い顔と丸い頬はい風貌を見せ、そのせいか服の下からでも解るくらいかにした元には目線が行きがちとなる。
彼、普段はただの中學生だが――。
「……魔師、か!」
「ある時はネットアイドルクイーンマリー、またある時は普通の中學生……。そして、今は!」
右手を天に突き出し、彼は言った。
「あなたをここで止めるべく立ち向かう、魔師よ!」
彼は左手に握っているマイクを口に近付ける。最初は今から歌うのか、と思ったが――。
「……歌うと思った?」
――よく見ればそれは、コンパイルキューブそのものだった。
「響け! 私の魔ハーモニー!!」
同時に、彼の放った聲が『固化』して香月の周りに落下していく。
香月はそれを避けながら、いたって冷靜に狀況を分析していく。
(あのコンパイルキューブ……マイクのように使っているというわけか。ちくしょう、普通ならば気付いていたというのに!)
「普通なら? ということは、今は異常事態だから気付くことが出來なかった……ということ?」
気が付けば香月の背後にクイーンマリーは立っていた。
彼が気付かない程のスピードで、彼は背後に回り込んでいたのだ。
彼は急いで避けようとするも間に合わず。
クイーンマリーの放った聲が命中し、地面にを叩きつけられた。
「がは……っ!」
香月は肺の空気を吐き出す。
「ランキング……五位だっけ? まさかこんな弱いとは思いもしなかったよ」
クイーンマリーは香月の腹に右足を乗せ、ただ笑う。
香月は苦悶の表を浮かべたが、何もすることが出來ない。
彼の発した『聲』――それによって、香月の両腕はふさがれてしまっているためだ。コンパイルキューブに手をばそうにも、基本コードを言葉に出すことも出來ない。
「まあ、いいや。私のランキングがこれで上がるってものよ。これだけ上位の魔師を『殺した』って実績があれば、ね。そのためにも……」
彼はマイク型のコンパイルキューブに口づけして、彼は右手をそっと香月の首に添えた。
香月の首筋にひやりと冷たいものが流れたのは、ちょうどその時だった。
「手刀、って知っているかしら? 人の前を通るとき、或いは雑踏を分けるときに使うものなのだけれど、普通、自分は武をもっていないですよ、と言う謙虛さをアピールするものらしいのよね。この國らしいと言えばらしいのだけれど。し生ぬるいよね。というわけで私は……それを改良してみた、というわけ。いたら、あなたの首は完全にと分離される。聞いたことは無いかしら。首って、と切り離しても僅かに意識がある、ってこと。ということは、自分の首が切れた後も、切れた自分のを見ることが出來る、ってことよね? それって……とても面白い」
愉悅にも似た表を見せるクイーンマリー。
その顔はまさしく――狂人であった。
狂った人間。
時折魔師はそうなってしまうこともある。魔は、ひいては人間に扱いきれない、オーバーテクノロジー的な一面を持っており、魔師の中にはそれを使えるのは自分たちだけで、自分たちは選ばれた人間なのだと――思いこむこともある。
確かに、魔師はコンパイルキューブを使うことで魔を行使できる。それは即ち、コンパイルキューブを使うことが出來なければ魔を使うことが出來ないということであり――結果として、魔師が選ばれた存在ということに繋がるのである。
コンパイルキューブを使う事の出來る人間、その法則が未だ解明されていないこともそれを後押ししているのだろう。
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