《都市伝説の魔師》第二章 年魔師と『地下六階の年』(9)
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目を覚ますと、彼の視界には白い天井が寫り込んでいた。
「……知らない天井、か」
「冗談を言える余裕があるのなら、大分回復したということでいいのかな」
起き上がると、そこにはユウが椅子に腰かけていた。
ユウは林檎の皮を、ナイフを使って剝いていた。
「ああ、起き上がらなくていいよ。まだ傷が痛むだろう? だったら、回復させて萬全の態勢にしておくのが一番だ。あいにく、あちら側からのアクションは未だ見られないがね」
「學校はどうなったんだ! それに、都市伝説は……!」
「殘念ながら、奪われた。しかし被害者はゼロ。でも子供たちには恐怖心が植え付けられたことだろうね。魔師に対する信頼も、世間に対するものが失墜した。我々も今、警察に監視されている。君もだよ、柊木香月クン」
「まさか……失敗したのか? そして、あんたはそれについて、手を拱いていたというのか!?」
「手を拱いていた、か……。言いたい気持ちも解る。だが、あの時は行できなかったのだよ。変に私たちが行をしてしまえば、謎の組織と既に警察に名前を知られている魔師組織ヘテロダインとの組織間抗爭、ということで結論付けられてしまう。その先に見えているものは、我々の解だ」
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「……確かに、な」
香月は俯いて、そう言った。
「あれ。意外とあっさり言ってくれたね? 何か君の中で心変わりでもあったとか……」
「別に。何だって構わないだろ。ただ、やることがあるのだから、まずはそれをしなくてはならない……ということだけだ」
「そう言ってくれると、僕もこれからの行をしやすいのでとても助かるよ」
ドアのにいた誰かが、病室へとってきた。
スーツ姿の男は、右手に紙袋を攜えていた。
そして、その男は香月も見覚えがあった。
「高知、隼人……か?」
「その通り。そして、今から大事な會議を執り行うというわけだ」
「會議?」
「ああ。君たちの組織が警察の監視下に置かれているのは知っているね?」
コクリ。香月は頷く。
それでいい、と隼人は言って話を続ける。
「先ずはそれを理解してくれないと話が始まらないからね。まあ、理解しなくてもいいのかもしれないけれど」
「そんな回りくどいことを言うためにわざわざお見舞いに來てくれたというのか? 國家権力というのは暇人ばかりが集まっているんだな?」
「香月クン!」
ユウが激昂するが、隼人はそれを宥める。
「まあまあ、いいではありませんか。別にそのようなことで琴線にれるほど、私も子供ではありませんから」
隼人は一歩、香月の方へと近づく。
「……それに、彼はもう一生魔師には戻れないのでしょう?」
「……え?」
香月は突然のことに何も言えなかった。
慌ててユウの方に目線を向けるが、ユウはそれについて目をそらすだけだった。
隼人は笑みを浮かべる。
「お伝えしましょうか。今、君のに起きていることについて。一番、それを聞くのがつらいのは本人だと思いますが」
「あなたは學校に向かう途中、『通り魔に狙われてしまった』。木崎市に通り魔が居ましたのは、ニュースでもよく言われていましたからねえ。あなたは運悪くそれに出會ってしまった。うん、とても運が悪い。通り魔は殘忍なやり方をしていてね。聞いたことはあるかい? そいつは臓を奪い取るんだ。どの臓かははっきりしていないがね。人によっては心臓もある。脳を取り出したケースもあったかな。そこで君は……殘念なことに男をで見分ける、數ないパーツを持っていかれた。それにより臓も損傷。一度は死にかけたんだよ。だが、通りすがりの通行人に君がまみれで倒れている姿を見つけて救急車で運ばれて……。うん、こんなところかな。実際問題、君は助かった。けれど、その代償として魔を使う力を失った。即ち君はただの一般人にり下がったということになる」
「あの……。り下がった、というのは々表現がよろしくないのでは?」
背後からユウの聲がかかり、隼人はそのことに気付く。
「おお、そうでしたね。すいません、つい強めの表現を使ってしまうのですよ。警察としての職業病かもしれませんね、ハハハ」
「……軽口を叩くために來たのならば、さっさと帰ってもらおうか」
「冗談だと言っているだろう。つれないねえ、君も」
「未だあまり會話をわしていなかったはずだが? どうしてそういう風に扱う?」
「そりゃあ、君を助けたいと思っているからだ」
「助ける?」
その言葉を聞いて、今まで俯いていた香月は顔を上げた。
「……出來るのか、そんなことが」
「サンジェルマンの逸話を聞いたことはあるかい?」
「サンジェルマン? ああ、有名な魔師だな。不老不死を実現した、最初で最後の魔師だろう?」
「ご明察。では、サンジェルマンの丸薬については?」
「魔師が躍起になって探しているという薬だな。何でも飲めばが回復し、欠損したものが治るという……。おい、まさか」
そこで香月は気付き、隼人に訊ねる。
隼人は笑みを浮かべ、言った。
「ああ、その通りだ。僕は君を助けることが出來る」
隼人ははっきりと彼に、そう言った。
――それが『理想』だった。
◇◇◇
現実は、理想以上に乖離していた。
心拍を知らせる電子音だけが部屋に響いていた。
「……これは」
扉には『面會謝絶』の札がかかっている。
「ユウに言われたからここまで連れてくることは出來たけれど、殘念ながらここからはダメ。いくら彼に言われてもね」
「……彼の容態は?」
「最悪だ。あれを見ればわかる通り。今、死と生の境界を彷徨っているとでも言えばいいか? いずれにしてもあまりいい狀態では無いということは、醫學に疎い警察サンでも解ることだろう?」
「……」
隼人は何も言えなかった。
ユウ・ルーチンハーグに話を聞いたときは、未だ彼は記憶障害がある程度で特に問題は無いと言っていたのに、僅か數時間でここまで容態が急変するなど思いもしなかったのだ。
「彼は、助かるのか?」
隼人は震えた聲で話す。
彼もまた揺しているのだ。
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