《都市伝説の魔師》第三章 年魔師と『幽霊、四谷さん』(10)

イリアが廊下を歩いて、その突き當りに扉があった。扉は異質な雰囲気を放っており、魔師の中でもその扉の奧に進むのを拒む人はなくない。

だが、イリアは中にらなければならない。中にって、報告を直接しなければならないのである。

「はあ……なんというか、重々しい雰囲気よねえ……いつ來ても」

そう言って、イリアは背筋をまっすぐにする。子中學生――即ち義務教育が未だ終了していない彼であるが、それでも目上の人間に対するマナーくらいは理解しているつもりである。

イリアは意を決し、扉をノックして中にっていった。

中はおどろおどろしい――ロールプレイングゲームでいうところの魔王の間のような鬱蒼とした雰囲気というわけではなく、普通に窓が大きく壁に備え付けられている、開放のある部屋であった。

だが、一つ忘れていないだろうか。ここは地下室であり、太なんて見ることが出來ないということに。

では、この窓の存在は?

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「――ボス、またこのような戯れをして。予算も無限にあるわけではありませんよ?」

どうやら部屋には先客が居たようだった。青いショートカットの髪をしているだった。そして、その髪型とだけでイリアは誰であるかを理解した。

「あら、イリアちゃん。どうしたの?」

先にイリアの存在に気付いたのはボスと思われるの方だった。は一段高い段差の上にある玉座のような背憑れの高い椅子に腰かけており、イリアの存在に気付いて立ち上がった。そして駆け出してこちらに向かってくる。

そしてそのままはイリアに抱き付いた。ちょうど位置的に満なバストが當たり、々息苦しくなってしまう。

抱き付くのをやめて、改めて対面する。イリアもの恰好を見返した。

こう見てみると一言で言えば『癡』と表現するのが正しい恰好に見えた。レースのようにき通っている白いドレスにを包んでいる彼は、下著が丸見えだった。下著も下著で必要最小限の部分しか覆い隠しておらず、寧ろ布というより紐に近い下著だった。

普通のが著こなすことも容易ではないその恰好を、彼は恥ずかしげもなく普通に著こなしていた。それが異様であり、逆に見ている方が恥ずかしくなってしまう。

「あ、あの……ボス。報告を」

「報告? 何かあったかしら?」

きょとん、とした表で首を傾げる

こういうときは、大ほんとうに覚えていないパターンであった。

「ヘテロダインの柊木香月を観察してこい、と言ったのはボスでしたよね?」

「ヘテロダイン……柊木香月……ああ、そうだった! 忘れていたよ。どうだった? 彼の様子は?」

はあ、と溜息を吐き、イリアは話を始める。

「どうしたも何も、容態は安定していませんね。寧ろ悪化しているようにも見えます。今日が峠だと言われていますが、どうでしょうね。それを乗り越えたとしても普通の生活は遅れないようにしていますから」

「そうか、そうか。る程ね。相當ダメージを與えたからねえ。寫真で報告をけたけれど、ありゃ酷いよ。私だってあそこまではしないね。流石、斧乃井凌ちゃんの妹、ってところかな?」

「やめてください。姉と比較するのは。私は私です」

冷靜に否定するイリアにボスは溜息を吐く。失言であったことに気付いたらしい。

「ごめんねえ、イリアちゃん。私、ついつい忘れてしまうのよ。発言とか、気をつけなきゃいけない立場であることは重々承知しているのだけれどねえ。……あ、そうだ。イリアちゃん、彼元気だった?」

「彼……。ああ、ユウ・ルーチンハーグのことですか? 元気でしたよ、醫者と話をしていました。どうやらあの醫者も魔師のようですが」

「ふむ? 魔師に醫者、ねえ。あの病院に魔師っていたかな、メガネちゃん」

「私にはアレッタ・シームボルトという立派な名前があるんです! 覚えてください、アリス様!」

「いやだよ。私、名前覚えること、苦手だもん。四文字以上だとつらいなあ」

「ちょうど四文字じゃないですか! イリアは覚えてもらっているし! 一文字ですよ! 報量でいえば二バイトの違いです!」

「ああ、解ったよ。検討する。検討しておくから。……それで? メガネちゃんの用事は以上?」

アレッタです、と付け足してアレッタは答える。

「ええ、以上です。経理の問題しかありませんから、私が話す場合と言うのは」

「おっ、倒置法だね? 大分日本語を使いこなせてきたのではないかな?」

「……そうかもしれませんね、それでは」

頭を下げてアレッタは部屋を後にした。

アレッタを見送って、アリスは頬を膨らます。

「メガネちゃんも冗談が通用しないなあ。冗談だって言っているじゃないか」

「けれど、名前は覚えていないんですよね?」

「四文字以上の名前を覚えるのは、どうも苦手なの」

アリスは再び椅子に戻る為踵を返す。

イリアも報告を行うため、彼についていった。

「……では改めて、今後はどうしていきましょうか」

アリスの発言を聞いて、イリアは目を丸くする。

「あの……その発言の真意が解りかねますが?」

「真意? そんなもの、無いわよ。ただ私がやることは研究あるのみ。魔師が今後、さらに発展していくために……ね」

「人工魔師の開発、ですか」

「そう。魔師の魔を生み出す源は、どこからあるのか解らなかった。そして、最終的に生命エネルギーの生まれる場所、人間が行為を行うとき、その人間の最小の構要素が生み出される卵巣と巣から生み出されることが明らかになった。けれど、だからといってそれをどうすればいいのか……何も考えることが出來なかった。今までクローンのは作られてきたけれど、生機能を持っているクローンの例は殆どなかったからね」

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