《都市伝説の魔師》第三章 年魔師と『幽霊、四谷さん』(12)
「……それじゃ、ユウさんはこれに反対ということですか?」
「まぁ、そういうことになるね。なくとも賛はしない。その後の展開が目に見えているし」
ユウの言葉を聞いて春歌は考える。でも、そうだとしても、何か策は無いのだろうか? 別に組織を一つにしてもいいのではないか――それが春歌の考えだった。
だが、そんな魔の素人が考えたような策が通用するならユウが悩む必要など無い。
「まあ、先ずは報収集だ」
そう言ってユウは椅子から立ち上がる。
「報収集?」
見上げる形となった春歌が、ユウに訊ねる。
ユウは、いかにも悪役ヴィランズのような笑みを浮かべて言った。
「ほかの魔師組織からも報を集める。共有する、と言ったほうが正しいかな? いずれにしても、今回のアレイスターが実施した方法は通常の方法とは異なるもので、赦されないものだよ。先ずはその処分をどうするか、決める必要がある」
6
羽田野ナナはモーニングの小倉トーストを口に頬張りながら考え事をしていた。
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「都市伝説の魔師……」
反芻するのは、ナナが四谷さんから言われた単語だった。
そもそも理解できないのは、承知している。
問題は、それをなぜナナに言ったのか、ということだ。それについては見解も無ければ理解も生まれない。まったくもって理解できないことなのである。
仮に。
仮にナナが四谷さんの言葉の意味を理解できたとして、彼に何が出來るだろうか?
それはナナ自もわからないことだった。
「どうした、お嬢ちゃん。そんな辛気臭い顔をして」
「え……そんな辛気臭い顔していました?」
マスターにそんなことを言われて、きょとんと目を丸くするナナ。
マスターとは長年の付き合いだ。一応言っておくと、別に嫌らしい意味でそう言っている訳ではなく、ただ単に昔からナナがここの常連になっているだけの話なのだが。
「マスターと言われて長い間この店から木崎という街を見てきた。だから解るんだよ、人間の面ってものが。大手に取るように見える。まるで魔のように」
「へ、へぇ……。それは凄いですね」
しだけ遠退ける形で頷いたナナ。
因みに一般人が一目で魔師と見分けることは到底不可能であると言われている。大が魔師の側から教えてもらうか、魔力を読み取る何らかの力を持っているか――まぁ、その場合それを一般人と定義して良いのかどうか危ういが――のいずれかだ。
「まあ、そんな肩の力をれる必要も無い。……と言っても大人にも解らない子供の事があるしな。ただ、応援してあげることしか出來ないよ」
そう言ってマスターは彼が食べている小倉トーストに粒あんの塊を載っけた。
驚いてマスターの方を見る彼に、マスターは、
「いいってことよ。とても味しそうに食べるものだからな。おまけとしてけ取ってくれよ」
「……ありがと」
そう言って小倉トーストを頬張ったナナ。
彼のスマートフォンが著信音を鳴らしたのは、ちょうどその時だった。
「……まともに食事を食べる時間すら與えてくれないのかしら?」
そうぶつくさ言いながら、彼はスマートフォンを作し、メールアプリを開いた。
メールの送り主はアレイスターのボスだった。
それを見て思わず彼は立ち上がる。なぜならアレイスターのボス……即ちこれから彼が就職する場所となる、そのリーダーが彼に直接連絡を取っている。それが彼にとってとても嬉しいことだった。
メールの本文を見はじめるナナ。その目線は真剣だ。任務かもしれないし、集合かもしれない。いずれにせよ、その命令に従わなければ意味がない。
「……何ですって?」
ナナはその言葉に絶句した。
そこに書かれていたのは……アレイスターとヘテロダインの全面抗爭が行われるということ、そして、そのために參加を要請する旨が書かれていた。
彼は確信した。この後何が起きて、何が始まるのかを。この抗爭に參加できることで、自分がどうなっていくのかを。
小倉トーストを早々に食べ終え、ナナはカウンターにぴったりの代金を置き、立ち上がる。
「ご馳走様」
「用事が見つかったのかい?」
「ええ」
マスターに笑顔を見せて、彼は店を後にした。
マスターはナナを、手を振って見送った。
◇◇◇
「……アレイスターに所屬している全魔師ならびに所屬予定の魔師に連絡、終了致しました」
「ご苦労様。あとはどれほど集まるか……だね。まあ、七割以上集まれば上々かな。そうすればなくともヘテロダインの魔師を數で上回ることが出來る。そうすれば、あとは簡単だよ。一人ひとりの力は、なくとも上回っているからね。向こうに勝ち目は無いよ」
「……お言葉ですが、アリスさま」
彼のことをそう呼ぶのは一人しか居ない。副長を務める神前時雨だった。
時雨は溜息を吐きながら、持っていたボールペンを指で回す。
「……どうしたの、時雨? まさか、あなたが怖じ気づいたとでも?」
「そういうわけではありませんが……今の狀況、これを見てまだ理解出來ないのですよ。この抗爭、する意味があるのか……ということについて。なくともこの抗爭の果てに見えるものは、魔師という勢力そのものの衰退しか見えません。それをして我々が何を得するのか……それについて理解出來ないのです」
「何を言っている」
アリスはぽつり、と呟いた。
まるで彼がそれを言うことを予測していたかのように。
「我々、魔師という勢力そのものを気にしているのではない。今回の抗爭は魔師そのものまで立ちるものにはなるまいよ。あくまでも、アレイスターとヘテロダインの抗爭で完結する」
「ですが……」
「君が心配する気持ちも解る。だが、だがね、問題は無いのだよ。私には凡てが見えている。この先に見えるのは、我々の勝利……ただ一つだ。だから、気にすることは無い。ただ戦って、勝てばいい。それだけでいいのだよ」
その言葉に、時雨は何も言い返せなかった。
アリスがそこまで言い切ってしまえば、何も返せない。返す言葉が見當たらない、と言えばいいだろうか。いずれにしても、その圧倒的な力――それに逆らうことは出來なかった。
そして。
時雨は無言でアリスの部屋を後にした。
歴史がき始めている。
魔師組織、二つの組織が全面抗爭を行うこと、そしてその先に起きたことは――魔師の歴史に殘る大きな事象となることは、まだ誰も知らない。
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