４

そしてその衝撃は地下深くにあるヘテロダインのアジトまで直ぐに伝わった。

「魔障壁、二十四層のうち半分が一回にして消失！　破壊した相手は……え、人間!?」

「油斷するな！　相手は人間じゃない、俺たちと同じ魔師だ！」

ヘテロダインアジト、コントロールルーム。

モニタを見つめながら、二人の魔師がアジト部に指示を送っていた。

とはいえ現狀、ヘテロダインは大半の魔師をアレイスターの魔師と戦わせるため、外に送り出している。全員が居なくなったわけではないが、なくともここに居る魔師だけではとてもあれを抑えることは出來ない。

「いや、そもそも……。あれはほんとうに魔なのか？　破壊、完全なる破壊……。いいや、違う！　あの魔障壁は三層分だけでもICBMに耐えうると言われているんだぞ……！」

即ち。

単純計算でICBMの四倍にも及ぶエネルギーが、僅か一回の魔で消費されたこととなる。

屬は不明。完全なる無を産み出す魔。

そんな魔を使いこなす魔師に――立ち向かうことは出來るのか。

彼らは不安で仕方なかった。

彼らは孤獨で仕方なかった。

相手は、ほんとうに自分たちと同じ魔師なのか――？　そう思う魔師も居た。それは當然の考えであり、寧ろそれを考えないほうがおかしいだろう。

「ボスが居ないとやっぱり……」

今回の襲撃はボスであるユウ・ルーチンハーグの居ないタイミングで起こった。まるで彼が居ないタイミングを、どこかで確認していたかのように。

「だが、これは予測では無く確定事項だよ」

まるでそこだけ空間が綺麗に切り取られたようにぽっかりと開いたを、アリスと時雨は降下していた。このように重力に逆らってゆっくりと降下するのも――他ならない魔によるものだった。

「魔は凡てを産み出すことが出來る。人の妄想であり想像できるものは、創造出來る。人間の想像力は、人間が思っている以上に実現たりえるものだよ」

「この空中浮遊に似た魔も、あなたの妄想の賜……ということ？」

「間違ってはいないかな。したいと思ったから願った。願いは必ず聞き屆けられるものではないが、聞き屆けられた願いは必ず葉う。その葉えるためのプロセスが魔で、葉えるためのがコンパイルキューブというわけだ。人間というのは、時に與えられた力を自らが手にれたものだと過信する。だから滅びるのだよ」

「滅びる……って？」

「文字通りの意味だよ。いや、この場合人間はけになるから滅ぼされる、と言ったほうがいいかな。神の怒りを買うから、容易に滅びるわけだよ」

「……まるであなた自が神様になったような言い回しですね？」

「馬鹿な。私はただの一魔師だよ。……まあ、確かになりたい気持ちはあるがね？」

そして彼たちは降下を続ける。最初は底無しのに思えたが、徐々にその全貌が明らかになってきた。

「やっと底が見えてきましたね……。えーと、もう一回？」

「そうしないと辿り著けまいよ。大丈夫、今度は調整する」

そしてアリスは何も言わないまま――右手を振りかざした。

空気を伝わる振。そして目の前で再びえぐり取られる地面――その底に、針のよりも細い小さいが見えた。

それを見て、にい、とアリスは笑みを浮かべる。

「見えたぞ、時雨。あれだ、あれがヘテロダインのアジトだ！　こんなに地中深くに沈めておいて……漸くその姿を拝めることが出來たということだ！」

「……まさかこんな地下深くに埋まっていようとは、誰も思いませんでしたよ。さすがですね」

「しかしこんな辺鄙な地方都市の地下に、どうしてこうして作ったのだろうか？　……まぁ、七不思議のエネルギーも手にれたから良しとしようか」

そして、アリスと時雨はの中にっていく。

すとん！　と足を著地させたその場所は一つの通路だった。

「……これで潛、ですかね。まぁ、最初の衝撃で私たちがやってきたのはバレバレでしょうけれど」

「なに、溜息吐いているのかな？　私は全く理解出來ないのだけれど」

「いや、まぁ……。問題無いですよ。ところで、ヘテロダインを制圧してどうなさるつもりで？」

「言ったでしょう？　ヘテロダインのボス、ユウ・ルーチンハーグを拿捕する。その後は……出來ることならばあまり言いたくないのだけれど」

その表を見て、しだけそれに畏怖を抱いた時雨。

「……まぁ、いいよ。特に無理して言う必要は無いし。取り敢えず、私としては何を目的とすべきか明確にしたほうがいいかな、と思ってね」

「る程ね。それは論理的考えだ。いい考えだと思うよ？」

さて、と言ってアリスは一歩ずつ歩き出す。敵の魔師がやってこないうちに行しなければならないからだ――もっとも、そんな魔師が現れてもアリスはそんなことものともしないのだが。

「さあて……とにかく始めましょうか。ユウ・ルーチンハーグを炙り出すために、先ずはこのアジトに居る全員――私の魔力の『糧』となってもらいましょうか」

◇◇◇

「……嫌な予がする」

スノーホワイトアジトにて會談をしていたユウは何かの気配をじ取った。

「嫌な予……って、どういうことですか？」

「解らない。けれど、アジトに何らかの危険が押し寄せてきていることは間違いないわ！」

立ち上がり、踵を返して扉へと向かうユウ。

「待って、ユウ」

「……いくらあなたに止められようとも私は行くわよ。組織のみんなを、見殺しになんて出來ない」

「これは罠よ、ユウ。それでもあなたは行こうというの？」

「それが組織を束ねる者としての常識でしょう？　夢実、春歌、あと高知さん、行きましょう。……我々の、戦いの地へ」