《都市伝説の魔師》第四章 年魔師と『二大魔師組織間戦爭』(9)

ユウ・ルーチンハーグは走っていた。

それを追いかける形となる隼人と春歌、それに夢実も何とか追いつこうと走っているが、しかし魔を使って走る速度を速くしているのか、なかなか追いつかない。

「ユウさん……そんなに速く走るとこっちが持たないですよ……!」

息も絶え絶えに、春歌は言った。

だが、その言葉はユウに聞き屆けられることはなかった。

はそれほどに怒り、嘆き苦しんでいるのだ。

自分がいない狀態で、敵が直接自分たちの本拠地へと突したこともそうだが、彼が戦うべき相手がかつての知り合い――アリス・テレジアであるということも、彼にとって相當心に引っかかっているポイントでもあった。

「ユウさん!」

思わず、夢実は聲を荒げて言った。

それを聞いて彼は我に返り――魔を停止し、立ち止まる。

振り返ると、ユウ以外の人間は息も絶え絶えにしていた。見たじ、疲れている様子がありありと解る。

ユウはすぐにそれの原因が自分によるものだと理解し――謝罪した。

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「ごめんなさい。頭の中が、敵のことでいっぱいで」

「いや、ユウさんはわるくないですよ。問題はその敵。アリス・テレジア……でしたっけ? それをどう倒していくか、そこが問題になりますよ。だって、アリス・テレジアはかつてのユウさんの上司……即ち、ユウさんよりも強いのでしょう?」

「それがどうしたと? まさか、私が負けるなんてシナリオを考えているなんて、言わせないわよ」

「それは考えていませんよ。けれど、念には念を押して、です。実際には違うかもしれませんが、そうだとしても……萬が一もありますから」

「萬が一にも億が一にも、それはありえない。確かにアリス・テレジアは優秀な魔師だった。けれど、それも昔の話よ。だって……彼は『一度』死んだのですから」

「……なんですって? 今、ボス、何て言いました?」

「死んだ、と言った。アリス・テレジアは一度死んでいるのよ。それがどういう原因で、誰に殺されてしまったかどうかはもう定かではないけれどね。現に、私はもうそれについて忘れてしまったし」

「……一度よみがえった。それは事実ということでいいんですか?」

ええ、と言ってユウは頷いた。

それを聞いて全員に衝撃が走った。この狀況においてユウが噓を吐いているとは到底思えない。となると、ユウの言ったことは真実ということになる。

によって生き返ったのだとすれば、そこには人を生き返らせるほどの威力をもった魔があるということになる。

しかしそれは、ほんとうに正しいものなのだろうか?

ほんとうに、人の命を生き返らせる魔があるというのだろうか?

「……それについて、疑問を抱いているのは間違いじゃない。むしろ正しい判斷よ。けれど、これだけは言える。もし仮に、人の命を生き返らせるような魔があるとすれば……それは神への冒涜よ。だって、人が人を生き返らせることが出來るのだから。人にはできない、人間の命の再生……。それこそ、人間が神と同化する、第一歩ともいえるかもしれない」

「人間が神と同化する、第一歩……? それはいったい、どういうことだというんだ」

そう言ったのは隼人だった。

ユウの話は続く。

「アリス・テレジアは、ある研究をしていた。魔師を集めて、魔師の地位を高めようとしていた。でも、それだけじゃない。もっとあったのよ。アリス・テレジアが行おうとしていた、その目的が」

「……それが、『神になる』ことだった、ということか?」

「ご明察」

隼人の言葉を聞いて頷くユウ。

「その通り。その通りだよ。アリス・テレジアは神になろうとした。でも、正直なところ、そう簡単になれるわけがない。だから、結局彼の研究は終わりを迎えた……はずだった。しかし、まだやってくるところを見ると、まだその研究は終わっていないのかもしれない。続けられているとするならば、驚きだよ。そこまで『神』に拘る必要があるのかどうか……」

「あるかどうかではない。あるかもしれない、ということを考えないとまずいな。可能は無きにしも非ず、ならば猶更」

そう言って隼人は歩き出す。

それを見ていたユウだったが、すぐに踵を返し再び走り出した。

――この先に、何が待ちけているのか、まだ誰も知る由もない。

◇◇◇

水晶。

占いなどでよく見かけられるそれは、魔においても重要なファクターである。

例えば、何かを見たい時に魔を使う場合、そのものを映し出すためのが必要となる。そうなれば、純度の高い水晶のほうが見通しも良い。

今、アリス・テレジアは椅子に腰かけて水晶を見ていた。部屋にいたであろう何人かの魔師はみな眠っているのか、橫になっている。

「ふふふ、どうやらユウもこちらに向かってきているようね。ちょっと遅くないかしら、いくら何でも気づくまでに時間がかかりすぎな気がするわ。あの子らしくない」

「それは仕方ないのではないでしょうか? ヘテロダインとスノーホワイトの『協定』を結んだばかり。そのためにスノーホワイトのアジトにボス自らが向かっていたとなると、やはり時間を要するのも致し方ないかと」

時雨の言葉に、アリスは微笑む。

アリスはワイングラスを片手に、水晶を見つめた。

「それもそうね。まあ、別にこちらとしては彼がこっちに向かってきてくれればそれでいいのだけれど。私としては、ほしいのは『彼』だけだから」

「ユウ・ルーチンハーグのことですか? ……なぜでしょうか」

「それもあるけれど。まあ、今回の場合はユウじゃなくて、彼。城山春歌のほうね。なんだっけ、力の流れを見ることが出來る目だったかしら? そんな不思議な目を持っているらしくて、しかも魔師らしいのよ。才能も類稀なるものをもっているというし。ぜひ手にれたいのよ」

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