《都市伝説の魔師》第五章 年魔師と『一度きりの願い事』(2)

「だが、努々忘れないでくれ。その丸薬はあくまでも私が使っているものだということを。それが実際に普通の人間に適用されるかどうかは、不明瞭だということを」

「それは理解している。あくまでもこの丸薬は『方法のひとつ』だというのだろう。そうだとするならば、致し方ない。だが、もし可能があるのならば、これで解決できるのならば、藁をも縋る思いで私はそれを手にするよ」

「……それほどに大事にしているのだな、その年を」

サンジェルマンは笑った。

ただしそれは冷笑や嘲笑といった類のものではない。安堵としたものに近い。

サンジェルマンの表の変化を見て、ユウもまた笑みを浮かべる。

「何がおかしいのかしら? 人間が人間を大事にして何が悪いというの?」

「別に悪いとは言っていないだろう。……いや、忘れていたのだよ。私が魔神となって、不老不死のを手にれて……だけれど、大切な人だけは不老不死にさせることはできなかった。守ることはできなかった。だから今思えば君の考えも何ら間違っていない。一般的で、普遍的な考えだ。普通な考えだ。だからこそ、私がずっと考えていなかった……。魔神にとっては『イレギュラー』な考え方だった」

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「魔神もかつては人間だった……ということかしら」

「ああ、そういうことだ。魔神も人間という時代があった。それは必ずそうだ。どの魔神にだって言える。けれど、今は魔神だ。人間とも魔師とも違う第三のカテゴリー。その魔神が必ず私のように人間の思考をいまだ持っていて、懐かしむ心があるかどうかは解らない。あくまでも、私もまた、魔神の中でイレギュラーなのだから」

サンジェルマンの発言は、彼のほかに『魔神』が居ることを示していた。

それはユウたちにとって脅威ではないが興味の対象ではあった。

今まで文獻にしか描かれていなかった第三のカテゴリー『魔神』。

それは人間とも魔師とも違う、それらと畫一された新たなカテゴリー。人間と魔師のワンランク上の存在であり、自由に魔を使うことが出來る。なくとも、サンジェルマンはコンパイルキューブを持っているように見えない。

いや、普通に考えると。

コンパイルキューブ自、サンジェルマンの生きている時代には存在したのだろうか? ――この質問は愚問だ。サンジェルマンはいまだ生き続けている。だから、このように修正しなければならない。

サンジェルマンの伝説で語られていた時代には、コンパイルキューブが存在したのだろうか?

もし存在しないのならば、サンジェルマンはどうやって魔を使っているのだろうか?

それはきっと、サンジェルマンに質問しても教えてくれないことかもしれない。

「……さて、ここまで長話をしている必要はあるのかね? 君の言っていた、丸薬を必要とする人間はあまり息が長くないと思っていたが」

「あっ! そうだ、急がないと……。これを急いで香月クンにあげて狀態を見なければならない……」

「急いで戻りましょう。でも、どうやってここにやってきたんですか?」

「きっとそれは、君の持っている金の鍵だな。この世界に近しい分がっているように見える。だから、それを使ってこの世界と元の世界との扉を繋げたのだろう。思えば簡単な話だよ。……だが、それをどこで手にれたのかね? アリス・テレジアを倒しているならば、私はこの世界から解放されているはず。しかし解放されていないということは……まだアリス・テレジアは生きていると思われる。彼が生きていて、この永遠の牢獄にやってくることは……まず、彼の関與が無いと出來ないと思うのだが?」

「私も解らない。けれど……この鍵はハイドという科學者が去った時、私の手のひらにあったものよ。だから、きっとあの科學者が渡したものだと思うけれど」

ハイド、という言葉を聞いた途端サンジェルマンの目が丸くなった。

「ハイド……?! まさか、ハイド・クロワースのことか!」

「やつのことを知っているのですか」

「知っているも何も……。あいつ、まさかまだ生きているとは。あいつもまた私たちと同じカテゴリーに所屬しているということなのか……」

「どういうことなの……。ハイド・クロワースは私たちの時代だけじゃなく、サンジェルマンの伝説として語られていた時代まで生きていたということなの!」

「おそらく、だが……」そう前置きしてサンジェルマンは言った。「きっと、彼奴は私のような存在へと昇華しているのかもしれない。魔神たる存在、それは人間でも魔師でもない。そしてそれになる條件ははっきりしていないが……彼奴の場合は、魔に対する飽くなき探求心がそうさせたのかもしれない。厄介なことになったものだな。もしハイドが魔神だとすれば、非常に面倒なことになりそうだ」

「どういうことですか?」

「ハイド・クロワースは私が実際に表舞臺で活していた時代にも研究者として活していたのだよ。それも魔専門としてな。しかしハイドの研究は異端と言われ、嫌いされてしまった。しかしその中から徐々に生まれるようになったのだよ。ハイド・クロワースの研究には――『闇』がある、と」

「闇、ですか」

ユウはサンジェルマンの言葉を反芻する。

「ああ、そうだ。ある日ハイドの研究室を訪れた若い學生は、地下室で大量の人間の死を見つけたらしい。しかもその死はそれぞれ臓やらやら抜き取られていて、とてもじゃないが人間の完全のそれでは無かったらしい。それをハイドに聞く勇気は無かったらしいがね」

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