《都市伝説の魔師》エンディング001 ひとまずの結末と不安の種

大きな戦いはここに終わった。

しかし、犠牲もあった。

「……まさか、現実世界がここまで破壊されているものとは、思いもしなかった」

現実世界へと解放されたサンジェルマンは首を鳴らしながら、そう言った。

その後、アレイスターの魔師たちはアリスと時雨が死んだことを知って解散した。もともとアリスに忠誠心など無く、アリスさえいなくなってしまえばそこに居る価値など無かったということになる。

香月はすっかり荒れ果ててしまった木崎市の街並みを見つめていた。

「……すっかり眠っている間に、変わってしまった。これを戻すには、時間がかかるだろう」

「それは、私たちがひとつづつやっていくしかない。協力することも理解している。だってこれの引き金を引いたのは、ほかならない私たち魔師なのだから」

「おお、そういえばそうだった」

サンジェルマンが何かを思い出したかのように言ったのは、その時だった。

「そういえば私を助けてくれたお禮に何か願い事をかなえてやろうと言っていたな。……何がいいかなあ。いっそ、この町の荒廃を、アレイスターのテロが起きる前に戻してやろうか? むろん、死んでしまった人間も戻してやろう」

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「そんなこと……出來るの?」

ユウの言葉にサンジェルマンは頷く。

「ただし、人々の記憶まで書き換えることは出來ない。死んでしまった人を戻すのだから、それについての記憶はある程度改変することは出來るだろうが、ここに魔師どうしの戦爭が起きたという事実を修正することは出來ない。だから、それについては君たちが修正していくしかない。魔師に対する価値観の矯正も、だ」

「解っている。それくらい、理解しているよ」

ユウの言葉にサンジェルマンは再び頷いて、目を瞑った。

ふう、と溜息を吐いてふわりと浮かび上がる。

「それでは、お別れの時だ。最後にその魔を行使して――最後としようではないか」

ステッキを手に持ち、サンジェルマンはシルクハットを外す。

頭を下げて、ステッキを持ち替える。

「サンジェルマン、貴重な巨大魔だ。とくとご覧あれ」

そして――すべてがに包まれた。

◇◇◇

目を覚ますと、香月は病室にいた。

起き上がると、ベッド近くの椅子には春歌が座っていた。

「……春歌」

香月がその名前を告げると、春歌は頷く。彼の眼には涙が溜まっており、今にも泣き出しそうだった。

春歌はゆっくりと言葉を紡ぎ始める。

「どうして、香月クンは……一人で危険な行に走っちゃうの?」

その言葉は彼にとって想定外の言葉だった。だから、彼はただ口を開けているだけだった。

春歌は香月のに飛びつく。

「香月クン……約束して。魔師として活してもいいけど、単獨で危険な行に走らない、って。大変なのも解るけれど、もう、一人にしないで。あなたを大切に思っている人は、あなたが思っている以上にたくさんいるのよ……!」

そして、ついに彼は大粒の涙を流し始めた。わんわんと泣き出した。

香月はただ、彼の頭をなでることしか出來なかった。

◇◇◇

「また、ハイド・クロワースを逃したか……」

ユウは溜息を吐いて、ウインドウを眺める。

「今回はサンジェルマンに救われたな。それにしても、『魔神』が魔師と接を試みるとは聞いたことが無いぞ。今までの歴史では、魔神は忌ともいわれている存在だというのに」

柊木夢月は頷いて、そう言った。

その隣に座る香は笑みを浮かべて、

「まあまあ、それで町がもとに戻ったのであればいいではありませんか。問題は……魔師に対する不安の種を一般市民に多數植え付けてしまったこと、ですけれど……」

「それは私も理解している。問題だ。大問題だ。アリス・テレジアめ……。ほんとうに余計なことをしてくれた。ちくしょう、これならば『斷罪』と稱して火あぶりにでも処するべきだったか……」

「ユウ、言葉が過ぎるぞ。いくら敵とはいえ、言っていい発言と悪い発言がある」

夢月にとがめられ、彼は俯く。

「……済まなかった。ちょっと考えがうまくまとまっていなくてな。ちょっと反省する」

「まあ、いい。ゆっくりと考えていくしかないだろう。何も起こらなければいいが……な。人々の不満が発するのが先か、魔師による抗爭が再び起きるのが先か……。いずれにせよ一般市民からすれば魔師はいまだに恐怖の対象と思っている人間が多數だからな。それについては致し方ないことだろうと思っているよ」

「それもそうですね。……では、一時散會とします。何か意見は?」

二人の顔を互に見やるが、何も反応が無かったので、ユウは立ち上がった。

「それでは、以上とします。ハイド・クロワースの案件は様子見案件として、今後も監視していきますのでよろしくお願いしますね」

そう言い殘して、ユウは會議室を後にした。

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