《いつか見た夢》第1章

ふわふわとした、なんとも言えない心地良い覚。

いつまでも味わっていたい覚だった。 

『………』 

……? なんだろうか。 

『………!』 

そうか、音だ。音が聞こえる。 

だけども、この響きはどこかすごく懐かしく、なんとも言えない切なさをじさせた。 

『…お……ゃん!』 

違う。聲だ。 

その音は、誰かが俺を呼ぶ聲だ。

その時俺は、今自分が夢の中にいるのだとなぜか漠然と理解した。

『…お兄ちゃん!』

はっきりとその聲が俺の意識の世界に響いた。 

俺のことを兄と呼ぶのは、誰か。 

まだぼんやりとした意識の中で、俺は記憶の斷片から、聲の主を引き出す。 

そうだ。俺のことを兄と呼ぶのは、この世界でただ一人だ。 

それを理解した俺は、発したかのように溢れ出したの奔流に、飲み込まれていった。

「起きて! 起きてよ、お兄ちゃん!」 

妹が寢ているを激しく揺すっている。 

「んん……あぁ……すまんが、揺するのやめてくんねぇか?」 

「お兄ちゃん!」 

俺が起きるやいなや、今度は思いきり抱き著いてきた。 

「って、おいおい……朝から勘弁しろよ……」 

「え〜だってぇ………ん……お兄ちゃんの匂いだぁ」

Advertisement

「全く……ちったぁ兄離れしろよな」

「いや〜。んん〜……お兄ちゃん」

そういうと俺のにさらに自の顔をこすりつけてきた。

誰もが當たり前に存在する日常。これが俺の日常であり、當たり前の一日の始まりだ。 

ならば、次に放つ俺の言葉もまた當たり前になった日常だ。 

「おい、さっさと離れやがれ」 

「あ………」 

まだ寢ぼけ気味に、語気を強めながら強引に妹を引き離す。 

するとこいつは、その可らしい顔を、歪ませる。まるで、人に拒絶さられたかのような顔をするのだ。

いつからこんな顔をするようになったかは覚えていないが、えらくこっちが戸ったのは覚えている。 

「んな顔すんなっていつも言ってるだろ? さっさと著替えたいんだよ」 

毎度思うが、まさか演技なんじゃないかと思ってしまう。 大、兄である俺にちょいとばかし語気を強められたくらいで、そんな顔をする方がおかしいというものだ。

「ほら、早く出てくれ」 

しかし毎朝のことなので、今となってはあまり気にせず、苦笑しながら言う。

「うん……」 

妹はさっきまでの歪ませた顔を、今度はしゅんとさせうつむく。 

「お兄ちゃん」 

「ん?」 

今度は、再び可さいっぱいの笑顔で、

Advertisement

「おはよう」 

朝の挨拶をしてきた。 

「ああ、おはよう」 

俺が挨拶を返すと、満足げに部屋を出ていった。 

これが、俺が部屋を出るまでの日常。これまでずっと続いてきた、代わり映えすることなく続いてきた、儀式のようなものだ。 

制服に著替えた俺は、1階のリビングへ降りていく。リビングに降りたところで、母親が出迎えてくれる。 

「あら、おはよう。今日はいつもより早いのね」

「ん、おはよう」

時計を見ると、まだ7時をし過ぎたところだった。いつもなら、7時半を回る前に起きてくるから、確かにいつもより早い。

「まぁ……たまには、早起きもいいかなぁとね」

「ふふっ、というよりも、沙彌佳に早く起こされたから早くなっただけだろ?」 

父が笑いながら、コーヒーをすすった。 

「く……まぁそうだけどさ」 

「何、お兄ちゃん。言っとくけど私が起こさなかったら、いつも遅刻だよ?」 

そんなことはない、と言おうとしてやめた。確かにこいつのおかげで、今まで無遅刻でいられているのは、事実だからだ。 

「ま、一応謝しておいてやる」 

「お兄ちゃん可くな〜い」

やかましい! 

そんなやりとりをしながら、顔を洗い、テーブルについた。 

Advertisement

「「いただきます」」 

うむ、今日の飯もうまいな。 

「ん? どうした?」

隣に座っている妹が、俺の顔をやや上目使いに覗き込む。

「あのさ……今日のおかずの味、どうかな?」 

「おぉ、いつも通りにうまいぞ。こんな味いもん食える俺は幸せもんだ」

すると妹は、とたんに顔を赤らめながら、そっか良かった、とだけ言った。

だが妹よ。いつものこととは言え、兄相手にそんな風に顔を赤らめるなよ。 

その様子を見て、両親は微笑んだ。 

ちなみに、うちは父が元々和食派ということもあり、朝食はよほどのことがない限り、和食である。朝からきちんと魚の塩焼きと、恐らくは昨晩、妹が作っていたと思われる煮がおかずだ。

これが九鬼くき家の朝である。 

「ごちそうさま」 

「お末さま〜♪」 

俺は、歯を磨きに洗面所に行く。 

「あ。そうそう、新しい歯ブラシってもうなかったっけ?」 

「何? もうダメにしちゃったの?」 

「なんかすぐダメになっちまうんだよ」

「あんたし強く磨きすぎなんじゃない?」

「んー……そうなんかな。そういうつもりはないんだが」 

母とそんな會話をしていると、妹がやけにそわそわとしているのが目に映った。俺の目には、明らかに挙不審な態度だった。

「お、後一本あった」 

洗面臺を探してみたところ、新しい歯ブラシを見つけたので、古い方は捨てることにする。

「あ…! ダメ!」

突然妹が聲を張り上げた。綺麗な聲で、発音が淀みないためすごく迫力があった。思いがけず両親も驚いた顔をしている。 

「あ? なんでだ妹よ」 

「え? あ……え、えっと……その……えとね……そ、そう! その歯ブラシ私のなの!」

「そうなのか? いや、まとめて買ってあるんだから別に誰のとかってな――」

「私のなの!」 

先程よりも、し顔が別の意味で赤らめさせた妹は、それだけで可いなどと思った俺は、贔屓しすぎだろうか。

(それにしても、今日はやけに言い張ってくるな) 

「はぁ……分かった分かった。そんじゃぁ今日まで古いやつ使う。それでいいだろ」

「ぁ……うん……。……ごめんなさい」 

「謝るんなら最初から言うなって。また別の新しいのに代えればいいんだしな。というわけで母さん、新しい歯ブラシ買ってきてもらうと助かる」

「はいはい。今日ちょうど病院の日だから、ついでに買ってくるわ。他にも何かしいのある?」 

俺は首を橫に振った。

母である九鬼遙子くき ようこは、いつも気丈にしているが昔からが弱く、どこのが弱いのか詳しくは知らないが、月に1度醫者にかかっている。 

「さて、私もそろそろ出勤するとするか」

7時40分を過ぎた頃、父・真太朗しんたろうが出勤の準備を始めた。とは言っても持っていくの確認くらいなものだが。 

「はいあなた、お弁當」

「おお、いつもすまんな」 

「今日のメインは私が作ったんだよ〜。楽しみにしててね、お父さん」 

「そうか、楽しみだな。……では、いってくるよ。それと今晩は遅くなるから先に寢てなさい」 

「分かったわ。気をつけてね」 

「いってらっしゃ〜い」

母と妹は、そうやって毎朝父を玄関でお見送りしている。歯を磨き終えた俺は、そんな家族のやりとりを見ながら、仲の良い家族だとしみじみ思った。 

玄関で靴紐を結び終えたところで、妹に聲をかける。

「おーい。もう行くぞー」 

「はーい。ちょっと待っててー」 

「早くしろよ」

ったく。 いつも俺よりも早く起きているくせに、どうして俺より遅くなるかね。ま、その辺はの事ってやつなんかねぇ。

「ごめん、お待たせっ」 

2階から勢いよく、駆け降りてきた。……見えるぞ。 

「うしっ。んじゃま今日も學生しに行きますか」 

「いきましょ〜」 

「「いってきま〜す」」 

ハモる。言っておくが、別に合わしたくて合わしているわけではない。毎朝思うことだが、こいつ、わざわざ俺のタイミングに合わせてるんじゃないか、と勘繰ってしまう。

九鬼沙彌佳くき さやか―――俺の2歳年下で、現在中學3年生。容姿端麗、績優秀、格良しの三拍子揃っている。

趣味は、料理と適度な運、歌を唄うことと読書。 

特技は、英語他、外國語の習得、ピアノと鑑賞と家事。 

好きなもの、お兄ちゃん………。

 

嫌いなもの、お兄ちゃんを傷つける人と泥棒貓。 ……泥棒貓? おかしいことになんだかデジャブがする……。 

そんな妹と二人揃って登校する。俺の腕に抱き著き歩くのにも、もはや慣れてしまった。これが人ってんなら、なんとも嬉しいところなんだが……。 

「なぁ」 

「んー?」 

「お前さ、高校どこけるんだ?」 

なかば予想はできるが聞いてみる。

「もちろんお兄ちゃんと同じ金城高校だよー♪」

「……やっぱりそうか……」 

「何よお兄ちゃん、私が同じ高校行くの嫌なの?」 

こいつは、俺がしでも否定的だったり曖昧な態度をとると、途端に不機嫌そうになる。事実、喋り方がいつもののんびりした話し方でなくなり、鋭い喋り方になっている。抱き著いた俺の腕に力が込められ、し痛い。 

「おい、手が痛いぞ」 

「だって……」 

まただ。またこいつは、淋しそうな顔をするのだ。俺は小さくため息をついた。 

「別に。たださ、お前ならなくとも金城より2ランクは……もうちょい頑張れば3ランク上、狙えるだろ」

「だ、だってそんなことしたらお兄ちゃん………」

「あ? なんだって?」 

最後の方は、うまく聞き取れなかった。

「な、なんでもないよ! とにかく私はもう金城って決めてるんだから!」 

「……さいですか」

「そうよ! それにあそこの制服ってすごく可いし!」

「ん、それに関しては否定しない」 

そう、うちの高校の子の制服はこの辺りじゃ、ちょっとしたブランドだったりする。しかも通っているの子も、割と可い子が多かったりと、男としては最高の環境なのだ。 

しかし、もしうちに通うようになったら、學校著くまでずっとこうなんだろうな……。 

そう考えるとまたため息が出た。いや、沙彌佳に好かれるのは全然構わない。実際見た目は可いし、もしこれで妹でなければこの環境は最高だろう。 

とうの妹を橫目でちらりと見ると、頬を緩ませながら顔をし赤らめさせていた。どうせ、俺と學校まで腕を組んで登校している妄想でもしてるんだろう。もしそいつが実現したら、また何かと友人連中から々と聞かれるんだろうな。面倒臭いぜ、全く。 

沙彌佳とは、小學生の頃から俺と手を繋いで登校していた。おかげで、俺も沙彌佳もガキ大將のいじめの対象だった。

だけども、俺はそのつど沙彌佳を守った。しかし、それがいけなかったのか、歳を重ねるごとに俺への依存が強くなっていったように思う。 

今なら解るが、ガキどものいじめの理由は、対象への嫉妬だとか、対象が可いからなのだ。そして、異質と思われるようなやつ――せいぜいこれくらいだ。 

それなりに整った顔をしているらしい(妹談)ので、そのやっかみもあったのかもしれない。ただ、両親は互いの良いところだけを、妹が持っていったと言っていたが。

しかし沙彌佳は、稚園にる前から可い容姿をしていたし、學校でも晝休みとなれば俺のクラスに來た。

俺も俺で、恥ずかしいから來るなと言っても、毎日のようにクラスに訪ねてくる沙彌佳を無下にはできなくなった。となると、兄妹でいじめられる要素が揃っているならば、ガキどものそういう対象になってしまうわけで。 

ただ俺自わりと好戦的な格をしていたし、負けると分かっていても、絶対に逃げなかった。それに、もし逃げたりしたら、沙彌佳にそのとばっちりがいってしまうからだ。

そして事には絶対はない。いじめる側にとって、いじめられる側が反旗を翻し、自分達の立場が代わるなど考えもしなかったんだろう。 

確か俺が小5の時だ。ついに俺もキレたのだ。殘念な事にあまり覚えていないが、恐れおののき、逃げういじめっ子達の背中だけは、はっきりと覚えている。 

後には泣きじゃくる妹と、地に平伏しているいじめっ子達……元いじめっ子達と言った方がいいか……という有様だ。

冷靜さを取り戻した沙彌佳は、これをきっかけに俺が理想のナイトになってしまったらしい。それからの沙彌佳は、それはそれはバカップルも恥じる超絶ブラコンになっていったのだ。 

おかげで中學3年になった今では、周りからの好奇の目なんてなんのその、お構いなしに手を組んでくるようになった。 

「ねぇ、お兄ちゃん」 

「なんだ?」

「今日暇? 絶対暇だよね」 

「おいおい、勝手に決めるなよ」

「なにか用事あるの?」

「……いや、ないけどな」 

こいつがこんな風に聞いてきた時は、用事があろうとなかろうと結局付き合わされるハメになる。もう経験上、分かっていることだ。 

だからついつい話のこしを折ってやりたくなる。ささやかな抵抗というやつだ。 

「もう! なら最初っから話、折らないでよ。……それで、學校終わったらちょっと付き合ってほしいんだけど」

「なんだ、買いか? 買いなら先週行ったろ?」 

「ううん、そうじゃないの。 えっと……あのね――」 

今俺は一人で駅のホームにいる。

沙彌佳とは俺が使う駅まで歩き、そこで別れる。いつも駅が見えてくると、淋しそうな顔をするから周りの視線が々と痛い。 

俺は一人改札を抜け、駅のホームへ出る。だが、ここでの注意點がひとつある。それは人込みに紛れ込むこと、だ。

なぜかと言うと……チラリとホームの外をフェンスごしに見やる。視線の先に、沙彌佳が立っているのが見える。 

あいつはいつも、俺が電車に乗り込むまでそこにいるのだ。もしかしたら、電車が見えなくなるまで……いるのかもしれないが……。 

だが今日は不運なことに、紛れる人垣がなかったため沙彌佳に見つかってしまった。

「お兄ちゃーん!」 

その聲が、大きな聲で俺を呼ぶ。いつもより人がないとはいえ、さすがにこんな公衆の面前で振り向ける勇気は、俺にはない。 

沙彌佳はそんな俺のことなど知る由もなく

「お兄ちゃーん! どうしたのー? ここだよー!」 

先程よりも大きな聲で、俺を呼びやがった。

頼む後生だ、妹よ……そこにいるのはいい! だが大聲で俺を呼ぶな!

そんな俺の気持ちなど察することもなく、まだお兄ちゃん、 お兄ちゃんと言っている沙彌佳。

いい加減、周りも妹に応えてやれよみたいな雰囲気になってきたのが分かる。恥に耐えられなくなり、俺は仕方なくしだけ後ろを振り向き、右手をあげた。 

「やっと振り向いてくれたー」 

言う沙彌佳の顔は、見る者を引き付けてやまない、最高の笑顔だった。 

程なくして來た電車に早々と乗り込み、運よく空いていたシートに座って瞼を閉じて寢たふりをする。そうでもしないと、この恥に耐えられそうになかった。

俺はき出した電車に揺すられながら、せめて直に呼ぶのではなく 攜帯にかけてこいと、今日こそ言ってやらねばと心に誓った。 

晝休みのチャイムが鳴り、皆一目散に食堂へ向かう。

うちの學校には週に1度、メニュー半額の日があるためだ。今日はその日で、教室には殆ど人が出払っている。 今頃食堂では、いつも以上に人がごった返していることであろう。弁當のあるには関係のない話だが。

さて、今日の弁當は、と。蓋を開けた――瞬間に閉じてしまった。おいおい、マジかよ。もう一度開けて、中を確かめてみる。

間違いない。弁當には見事に、そぼろでハートマークが作られ、『兄らぶ』などと書かれているではないか。 

妹よ……お前はどれだけ兄を辱めれば気が済むのだ。

「よぉ九鬼ぃ。どうしたん?」

クラスメイト――斑鳩孝晶いかるが たかあきが聲をかけてきた。こいつはクラスは當然、學年でも一、二を爭うほどのイケメン野郎で、毎月のようにからコクられている奴だ。

こいつはいつも、いてほしくない時に限って俺の前に現れる。 

ちっ。なぜいつもタイミング良く……。 そう、こっちのタイミングを図っているんじゃないかと思うほどに。 

「い、いや、なんでもねえよ?」

さりげなく蓋を閉じる。

「本當か? ならなんで弁當の蓋閉めたん?」 

「見てたのか……お前」

「たまたまだけどな。で、どうしたん?」 

「いや……なんて言うかな。ほらよ」

観念して、再度弁當の蓋を開けて見せてやった。 

「うおっすっげぇなぁ、これ。『兄らぶ』って……」 

斑鳩はクックックと笑う。 

「すごいなんてもんじゃねぇ。……最近どんどん手が込んできてる気がすんだよ……」 

「相変わらずの超絶ブラコンぶりだな」

「何をどう間違えたらあんな風になるんだか……はぁ」

「くくくく。されてんなぁ、お兄ちゃん!」

「やかましい!」 

そしてこいつは、俺の妹を知る數ない人間の一人だ。俺は、そぼろをかきまぜて飯に食らいついた。 

一日の終了を知らせるチャイム。生徒たちは思い思いに散って行き、瞬く間に教室から人が消えていった。

俺は妹との約束の時間までしばらくの間、學校で暇をつぶすつもりだった。考えてみると、學校では必要最低限の場所にしか行ったことがないことに気が付いたためだ。 

ならば、時間が許す限り校探険と灑落込もうではないか。特に技棟には、數える程度しか行ったことがない。 

大して何かあるわけでもないのかも知れない。だけども、普段寄り付かない場所というのは、自分にとって非日常な空間にな

るのだ。

棟は4階まであり、普通科以外の科の連中が何やら々な実験をしたりしている。一応念のために、教室が開いてないか確認しながら、一人探険する。 

………全く、しけてやがんな、この學校。1階から4階まで、くまなく見て回ったが、結局どの部屋も閉まっていた。

何かありそうな雰囲気がある部屋も、それでは確認のしようがなかった。それと同時にちゃんと管理がなされていることは分かった。

俺は気付けば、技棟の屋上への階段の前まで來ていた。攜帯で時間を見ると、まだ時間があったのでこのまま屋上に行ってみる。 

この學校は丘に立っており、屋上は見晴らしがいい。それに技棟からなら、普段は技棟そのものが影になって見えない、遠くのビルなんかも見えるかもしれない。 まぁ、屋上の扉が開いてるかは分からないが。

階段を1番上まで登っては見たものの、案の定、扉には錠がおりていた。しかし扉の窓からは、遙か向こうに街のビルをむことができた。 

「それにしてもここは靜かだ……」 

一番上の階段に腰を降ろし、一人ごちた。殆ど人が來ないのであろう、良く見れば埃が溜まっており、おまけに蜘蛛の巣まで

しっかりできていた。

「でも……良い場所だな、ここは」 

変に孤獨癖のある人間にとって、こういった、どこか気臭い場所は、なぜか心安まるのだ。

今度から何かあった時は、ここで暇をつぶすことにしよう。 

「誰かいるの?」 

突然階段の下から聲がした。

階段の途中の踴り場には、いかにも優等生といった風な眼鏡をかけた、知的そうなが立っていて、こちらを見上げていた。 

      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください