《いつか見た夢》第4章

朝7時半。俺たちはいつもより20分は早く、家を出た。 

「沙彌佳」 

「うん?」 

「今日からしばらく學校への送り迎えは、俺がする。いいな」 

「え? な、なんで?」 

沙彌佳は、切れ長な目を大きくし、驚きの表をして見せた。

そりゃぁ驚くだろうな。今までなら、駅で別れた後に學校に行っていたのだ。それがいきなり、學校まで送り迎えされるとなれば、當然の反応と言えた。 

「まぁ……例のストーカー対策、だな」

すでに向こうに、一歩先を譲ってしまっているが、下手なことを言って不安を煽る必要はないだろう。 

「ストーカー対策……ですか」 

綾子ちゃんが、不安ありげに表を曇らせた。 

「ああ。俺と駅で別れた後、何があるとも限らないからな」 

「……分かった。お兄ちゃんがそういうなら従うよ」 

いつものこいつなら、お兄ちゃんと一緒だ〜なんて言いそうなものだが、さすがに今回ばかりは、手放しに喜ぶことはなかった。

「二人とも、そんな暗い顔すんなよ。折角の人がもったいないぜ」 

二人を元気づけようと、おどけながら普段の俺なら、歯が浮きそうなことを口にした。しかし真にけたのか、二人とも顔が赤く染まり、揃って俯いてしまった。 

だからな妹よ……綾子ちゃんならともかく、お前はそこでツッコミをだな……。 

しかしながら、こんな狀況でも相変わらず沙彌佳は、俺の腕にしっかりとしがみついていた。綾子ちゃんは、その様子を最初こそ驚きはしたものの、話しに聞いてた通りなんですね、と笑った。 

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駅を通り過ぎ、二年前まで歩いていた道を歩く。 

「この道歩くんも、久しぶりだな」 

「こうやって二人でここ歩いてたんだよね……」 

沙彌佳が慨深げに呟いた。最後にこの道を歩いたのは、確か中學の卒業式だった。在校生は休みだというのに、こいつはわざわざ著いて來たのを思い出した。

「お二人はいつもそうやって登校してらしたんですよね」 

「ああ、本當に毎日な。初めのうちはクラスの男子からからかわれてな、大変だったんだ」

俺はその頃のことを思い出し、笑った。 

「お兄ちゃん、すごく嫌がってたんだよね〜」 

「お前な、何、他人事みたいに……」 

俺達兄妹の會話を聞きながら、綾子ちゃんは口に手をやってクスクスと笑う。全く、一つ一つの作が一々お嬢様という雰囲気を醸し出していた。

「お前も、もうちょい、その辺見習おうな」 

「え? 見習うって?」 

「いーや、なんでもない」 

俺は、しがみつかれていない方の肩をすくめた。

「でも……羨ましいなぁ、さやちゃんは」 

「羨ましい?」 

「はい。私一人っ子だから、そんな風にお兄ちゃんやお姉ちゃんと一緒に、歩いて見たかったんです」 

「ああ、なるほどな。でも、こいつの場合はちょっと欝陶しいけどな」

急に言われると、慣れていても途端に気恥ずかしい気持ちになる。

「なっ……! ちょっと何それ! こんな可い妹が一緒に歩いてあげてるって言うのに!」 

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一度だって頼んだ覚えなどないのだが……。それに、自分で可いなどというものじゃない。

たとえ自覚があるにしても、だ。

「ま、まぁなんだ。男にも一人になりたい時ってのがあってだな……」 

「うふふ。本當に仲良いなぁ」 

その時、朝日に照らされて、綾子ちゃんの見せた笑顔に俺は、心臓を鷲摑みにされたような気持ちになった。 

二人を學校に送り屆け、一人駅へと引き返す。校門の前まで沙彌佳は、俺と腕組み続けた。 

しかも、その反対には綾子ちゃんというお嬢様もいたとなれば、俺は、中學生達や、校門にいた教師達の注目の的になった。 

だが、あれは二年前までの日常そのものだった。來年からあれがまた繰り返されるのかと思うと、俺はついため息が出てしまう。 

ホームに立って、いつもよりも遅い電車を待っていた。

次の電車が、なんとかギリギリで間に合う最後の電車だ。しかもラッシュは過ぎているので、いつもに比べ、人もまばらだ。 

プルルルルルル――

『間もなく○×行き普通電車が參ります。白線の側までお下がりください』 

アナウンスがあった直後、電車がホームにって來た。

人が降りていき、電車に乗り込もうとした、その時、またも例の視線をじた俺は、電車に乗り込まずに、後ろを振り向いて周囲を見回した。

しかも、前二回よりも強い視線――。

いる。ストーカー野郎がこの近くにいるのだ。 

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プルルルルルルルルル――

到著する時よりも長く、発車を知らせる音が鳴り響いている。

プシュー 

扉が閉じ、電車は行ってしまったが、今はそれどころではない。 

今までなら、俺が周囲を気にしたらすぐにじなくなった視線は、今回は未だに途切れることがなかったためだ。 

(どこだ? どこにいる?) 

この絡み付いてくるような視線を、送ってきやがる奴はどこだ! 

ふと、反対のホームに目を移した。大きなガラス張りの壁で、の反合によっては、鏡のようにも見える。 

俺のいるホーム側には、駅を出たすぐ橫に歩道橋があるが、その歩道橋に、いつもならあるはずのない影が出來ていた。 

その影を注視してみる。影は、俺に見られていると気付いたのか、ふっと移し、ガラス鏡の中から消えた。

(あいつだ!) 

一瞬しか見えなかったが、間違いない。

そいつは、黒いウィンドブレーカーとそれに據え付けられたフードをし、下も黒のズボンという出で立ちだった。 

俺は、階段を三段四段飛ばしで、駆け降りる。改札をジャンプで飛び越え、駅を出て歩道橋へと走っていく。 

後ろから、駅員と思われる人の聲が聞こえるが、今は構っていられない。説教なら後でたっぷりと聞いてやる! 

歩道橋の階段を全速力で駆け登り、最上段までのぼりつく。そこから數歩あるき、俺のいたホームの反対側のホーム上に設置された、ガラス張りの壁を見た。 

(ここから奴は……俺をあのガラス越しに見ていた) 

ガラスを見ながら、奴と同じ行をとってみる。 

(ここで俺を見、そして後ろに引くようにいた……) 

當然、後ろには、今しがた自分が上ってきた歩道橋の階段。のホームからここまで、20秒と経ってない。

(俺の見間違い……か? それともその時間の間に走り去った……?) 

もしそうなら、これだけ見晴らしがよく、開けたロータリーで見落とすはずがない。 

(それとも、他にも逃げ道が?) 

俺は上ってきた階段を數段下りて、手摺りからを乗り出し下を覗いた。眼下に、人一人がれるかどうかという隙間があった。その隙間からは、どうも線路のすぐ脇を數十メートルほどの、隙間道が延びているのが分かる。

(ここだ) 

下までは數メートルの高さがある。死にはしないだろうが、気をつけなければ足を挫くかもしれない。 

階段の下には、先程の駅員と思われる人がこちらに向かって走ってきていた。 

(迷っている暇はない!) 

俺は、手摺りに足をかけ、飛び降りた。 耳に、誰かがんだような聲が響いた。 

飛び下りた場所は、歩道橋の階段橫にできた、四方わずか2メートル足らずの小さなスペースだった。飛び下りた衝撃で、足が痺れたが、今はそんなことを気にしている暇はない。

だが、うまく著地できたようで、足も怪我らしい怪我はしていないようだった。俺は、隙間道をを橫にしながら、進んでいく。 

どれほど進んだか、背中にあった壁が途切れ、開けた場所に出た。俺はそのまま、真っすぐ進んでいったものの、そこは橋になっており、上に昇れそうにない。 

その橋の上では、朝の通勤ラッシュのため、車の往來が激しそうに行き來しており、橋の真下にいる俺には、やけに反響して聞こえた。

そんな俺の視界の脇を、何かがうごめいていた。 

それは全を黒ずくめの奴で、線路を橫斷し、なんとか上に登れそうな場所を見つけたのだろう、四苦八苦しながらも、必死に上へ登っていたのだ。 

(逃がすか!) 

線路を橫切ろうとした時、あまりの興のために俺は、列車が近づいて來ていたことに気付かなかった。 

電車は、もう俺のすぐ橫にまで來ていたのだ。

ガタンガタンガタンガタ…ン…タタン…タン…… 

「……さ、さすがに死ぬかと思ったぜ」 

真橫までにきていた電車から間一髪、後ろに飛びのけることができたため、なんとか助かった。それでも、飛びのいた時にを打ち付けたようで、その瞬間に痛みが走った。

電車との距離もなるべく開けるように顔を背け、を仰向けにしてへばり付かせていたために、最悪の自は避けられたのだ。

俺は危うく死にかけた。列車に轢かれ、人間としての原型を留めないような死に方など、したくはない。 

列車が去った後、線路の向こうを見れば、奴が上に登りきり、ご大層にもこっちを見下していた。もしかしたらさっきのもたついた登り方も、ただの演技だったのかもしれない。 

黒づくめ野郎は、俺が死ななかったのが悔しかったのか、自の前にあるガードレールを蹴り、そこから立ち去っていった。 

俺も線路を橫斷し、のろのろと上へのぼって奴がいないか辺りを見回したが、さすがに奴も走り去っていったのだろう、見つけることはできなかった。それに例の視線も、じることはなかった。 

(周りの人間にまで、手を出すような危険な野郎だとは思ってはいたが、 まさかここまでするとはな……) 

いつの間にか、俺は怒りで、握りこぶしを作っていた。 

し頭を冷靜なろうとした時、恐らくは、さっき電車に轢かれそうになった時になってしまったのだろう、制服が破け、怪我をしていることに気付いた。

冷靜になろうとした頭に、また怒りが込み上げてくる。今日は、このまま學校をサボりたい気分になった。 

ピリリリリリ―― 

サボろうかと決めた時、攜帯が鳴って、畫面に見知った名が映し出されていた。斑鳩からだ。 

「もしもし?」 

『よぉ、おはよーさん。今日はどうしたん? もしかしてサボり? 九鬼がサボりなんて、こりゃ明日は雨だな』

最近、どこかで聞いたような臺詞を吐きながら、斑鳩が電話をかけてきた。 

「そういうお前こそ、珍しく文明の機なんて使っているじゃないか」 

そう、斑鳩は攜帯は當たり前、デジタルなんてつくは、まともに使えないのだ。 所謂、機械音癡……いや、機械そのものは使えるから、デジタル音癡といったところか。

しかし、相変わらず目ざといくらいのタイミングだな……。 

『小町ちゃんがお前のこと、心配してたぜ』 

小町ちゃんと言うのは、うちのクラスの擔任で、ナイスバディなお姉さんだ。やけにフェロモンたっぷりで、お姉様なんて慕っている子もいる。あまり興味はないが、いい目の保養にはなってくれている。ちなみに、この斑鳩の憧れのらしい。

「そうか。そいつは栄だな」 

『お前、絶対にそんな風に思ってないだろ。……まぁいいか。で、どうすんの學校』 

「ああ、どうしようか迷ってる」

『もしサボるんなら、俺も付き合うぜ?』

「んー……どうしようかな」 

俺はその時、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。その手に、コツン、といものが當たる。 

「っと、コイツの存在をすっかり忘れてたぜ」 

『あん? なんだって?』 

「いや、こっちの話だ。ところで斑鳩。今日、青山のやつ來てるか?」 

『青山ぁ? 來てないけど、あの暗がどうかしたん?』

「まぁ、ちょいと野暮用がな」

『お前もさぁ、あんなんと付き合うのやめろよ? いてもいなくてもどうでもいいけど、なんつーかさー、変なことに首突っ込んでそうだし』 

斑鳩、お前、その勘を活かした職に就いたら、間違いなく功するぞ。 

斑鳩の言ったことは、當たらずも遠からずだ。青山というのは、うちのクラスにいるちょいとヤバイ趣味をもったやつで、先の隠しカメラの設置場所等、俺に教議してくれたやつだ。

その時は、危ない奴だと半ば右から左に聞いていたが、なんだかんだで、その知識が役立った。 

「そうか……すまんが、やっぱ今日はサボることにすんわ」 

『お? じゃぁ俺もサボることにするわ。ナンパにでも行かね?』 

「いいのか? サボったら小町ちゃんに嫌われるぞ。それに、別に遊ぼうと思ってるわけじゃない」 

ナンパもそりゃぁしてみたいとは思う。 だが、ストーカー野郎に殺されかけたのだ、今はそれどころではない。 

『う……そ、それは……』 

「というわけで、小町ちゃんには今日は休むと伝えておいてくれ」 

『そんなの自分で言えよー』 

……無理だから頼んでるってのに。

「良く考えな? 小町ちゃんと話せる機會を與えたいと思って言ったんだぜ、俺は」 

『おお! そういうことだったのか! さすがは心の友だ!』 

これで大丈夫だろう。斑鳩が、変なところで馬鹿で助かった。斑鳩からの電話を切り、次は俺から電話をかけた。 

プルルルル、プルルルル、プルルルル―― 

斑鳩との電話の後、青山に電話してみるが、やつは一向に電話に出る気配がない。 

「ちっ。まだ寢ているのか?」 

俺は攜帯をポケットにしまい、青山の家に行くために、一つ先の駅まで歩くことにした。とてもじゃないが、今、すぐそこの駅に行こうものなら、説教で時間をとられてしまう。

それに、ストーカー野郎を追いかけるためだなんて言ったって、どうせ信じはしないだろう。

目的地である青山の家まで、電車でおよそ四十分。さらにそこから、歩きで十五分ほど。だが今回は、更に一駅あるかなければならない。 

一年の時に、一度だけ行ったことがあるだけだが、なんとかなるだろう。全く……ストーカー野郎のおかげで、とんだ出費と時間をくいそうだ。 

一駅歩いて、駅の隣にあるコンビニで、消毒と傷薬と包帯を買う。俺をみる店員の目が、明らかに怪しんでいたのはこの際無視だ。この時間なら、普通電車であれば座ることができるだろうし、怪我の手當もできる。 

俺は切符を買い、ホームに出て椅子に座った。やっとこさ一息つけそうだ。 

攜帯で時間をみると、10時になろうというところだった。一時限目の休み時間も終わり、二時限目になろうといったところか。

電車を待つ間、俺は再度、青山に電話した。 

プルルルル、プルルルル、プルルルル、プッ 

(今度は繋がったか?) 

『……もしもし?』 

「青山か? 九鬼だけど、今いいか?」 

『……何?』 

相変わらずボソボソと喋って、良く聞き取れない。 

「ああ、実はなちょいと面白いが手にったんでな」 

『……』 

「でな、そいつを今からお前のとこに持って行こうと思うんだが、構わないな?」

青山の予定がどうあれ、行くのは決定事項として、話を々無理に進めることにする。

『どんなやつ?』 

いつも間を置いて、聞き取りにくい喋り方をするこいつの聲が、いくらか聞き取りやすく、間をおかずに直ぐさま返答した。 

興味のありそうなものならば、予定なんてものは、お構いなしな奴だ。だから俺も、多強引に話を進めたのだ。

「ああ、カメラだ。小型カメラ。良くは分からないが、多分高能だと思う」

『隠しカメラ?』 

(こいつ、自分の興味のある時だけは、食いつきがいいな) 

俺は思わず苦笑してしまった。

「良く分からないからお前さんに電話してるのさ。お前に、こいつを見せて意見を聞きたいんだ」 

『わかったよ』 

「今家だよな? 學校に來てないんだし」 

『家だよ。とにかく待ってる』 

「ああ。それじゃぁ1時間後くらいに行くぜ」 

それだけ言うと、どちらからとも知れず電話を切った。電話を切ったと同時に、電車がホームにってきた。 

青山邸につき、出迎えてくれたのは、意外にも青山の姉だった。 たしか以前ここに來た時も、青山の姉貴が出迎えてくれたはずだ。 

その時は、休みの日だったからなんとも思わなかったが、今日は平日だ。もしかしたら、大學生なのかもしれない。 

そんな青山の姉に、青山の部屋に案されることになった。俺を先導する形で階段を上っていく青山の姉貴は、まるで男をうような足取りで、階段を上がっていく。 

思えば前回も、こんな風に案されたような気がしなくもない。

青山の姉貴は、沙彌佳や綾子ちゃんとは、また違ったタイプの人だと俺は思った。のふちまで、そのラインがしっかりと分かるショートパンツを履き、し焼けた健康そうな生足は、否応なく俺の本能を刺激した。 

「しんちゃん、お友達、來たよ?」 

って」 

された部屋の中から、聞き慣れた聲がしてきた。どうぞ、と手でジェスチャーされ部屋にる。 

「よぉ、悪いな、突然きちまって」 

「……別にいいよ。それより……」

「ああ、これなんだが……」 

部屋にり、開口一番に催促した青山は、心なしか、興しているようにも見える。

きっと、興味がありそうなものを提供されたうえ、それが高能かもしれない、という期待からだろう。

俺は、ポケットからカメラを取り出した。青山はそれを手に取り、いつになく真剣な表で調べだした。

俺には素人目でみても、せいぜいこいつが高能なカメラらしいということしか分からない。

「何かわかりそうか?」 

「見ただけじゃなんとも……でも今まで見たことがないタイプだよ」 

「初めて見るタイプってことか」 

「うん、そうなるね」 

「そうか……」 

「でもそれだけに、々調べがいがありそうだけど」 

「今から調べられるか?」 

「やってみるよ」 

そう言うと青山は、デジタルカメラでそのカメラを撮り始めた。

「何してるんだ?」 

「……見ての通り、デジカメでカメラを撮ってるんだけど?」 

「そんなのは見れば分かるさ。それでどうしようってんだ?」 

「うん、僕には分からないから、これを知ってるかもしれない友達に聞いてみるんだ」 

「そのためにわざわざ、デジカメで……」 

みなまで言わず、俺は口をつぐんだ。青山の友達と言えば、ネットでの友達に決まっているのだ。

青山のやろうとしていることに気付いて、いちいち問いかけることはしなかった。良く類は友を呼ぶとは言ったものだが、それはネットの世界にも當て嵌まるようだ。いや、ネットの世界だから、なのかもしれない。 

「しんちゃんるね?」 

その時、青山の姉貴が飲みと菓子を持って、部屋にって來た。お盆をテーブルに置き、青山の姉貴は青山に向きかえる。

すると、たった今の今まで仕事人の顔をしていた青山は、途端に表が曇った。

「何してるの? しんちゃん」 

「……べ、別になんだっていいだろ……」 

いつも何を考えているのか分からない、無表な青山が、 明らかに困と、恐怖を滲ませたような顔をして見せた。

「もう。またお姉ちゃんに隠し事? いつも隠し事はダメって言ってるでしょ?」 

青山の姉貴は青山とは対稱的に、明らかに場違いな笑顔をして見せていた。 

「た、ただ、デジカメでカメラを撮ってるだけだよ……」

おずおずと答える青山に、姉貴はずいっとをのりだす。その様子はまるで、支配者が奴隷にするそれと同じだった。

「……そう、ならいいけど。分かってると思うけど、もう二度”あんなの”カメラに撮っちゃダメよ?」 

「……あ、ぅ………う、うん……わ、分かってるよ………」 

俺はこの姉弟に、ただならぬ雰囲気をじた。なんと言っていいのか分からないが、とても普通の姉と弟の関係には見えなかったからだ。

何か、ただならぬ何か……。まるで……まるで一線を越えてしまっているような……? 

そこで俺は思考をストップさせた。馬鹿な。そんな漫畫や小説みたいなことが、そうそうあるはずもない。俺はかぶりを振った。 

「……ね、ねぇ……もういいだろ……友達が來てるんだ……」 

いつものボソボソした喋り方。青山がこんな喋り方なのは、もしかしたら、この姉貴が原因かもしれない。 

「……そうね。まあ、しかたないわね」 

「……」 

姉貴は俺の方を向き、ごめんなさい、ごゆっくり、と言い殘し、部屋を出て行った。 

「……く、九鬼くん」 

「なんだ……?」 

「……あ、その、……ご、ごめん……」 

俺はただ肩をすくめ、 

「気にしてないさ。お前も結構大変みたいだな」 

と引き攣りながら笑ってみせた。 

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