《いつか見た夢》第28章

サバカ・コシュカはちょうど開店したばかりだったようで、店はほとんど人はいなかった。

しかし、ものの30分もすると瞬く間に店は人であふれ、満員禮の狀態となっていた。それに紛れ、ガスの方が俺を見つけたようで、こっちに來たのだ。

ガスは、ラテン系と東洋人の顔を、足して二で割ったような顔立ちをしている。日本人の中にも、外國人かと思わせるような顔立ちをした奴らはいるので、そんな連中に紛れたら、日本人だと言っても、全く違和がないだろう。ヒョロリとした軀で、長も170をし越えるくらいだ。

俺は裏に存在する暗殺者の集団を知らないかと聞いたところ、存在は知っているようだったが、詳しくは知らないという。

俺はその集団のリーダーと思わしき人の名を教え、そいつを調べるよう依頼した。ついでにそいつについているのこともだ。

もちろん、俺の本命はどちらかと言えば、そっちのの方だがそれを言う必要はないだろう。ガスのことだから、いちいち理由を話さなくても、知りたいこと以上のことを調べてくれるのだ。

それと、これはついでに過ぎないが、真田の暗殺事件に関することもだ。真田がどんな事業に手を出していたのか、それはまだ気になっていた。おそらく、それこそが最終的に、自分の命を落とすことになったことに繋がるはずに違いない。俺はそうにらんでいた。

それだけ言うとガスは、分かったと短くいい、持っていたビールを一杯だけ飲んで店を出ていったのだった。仕事も早い奴だが、仕事に向かうのもまた早い。自分の生活がかかっているのだから、當然かもしれないが。

そんな俺は用件を済ませると、酒など一口も口にせず店を出て、ジュリオに言われた住所に向かうべく夜の街を歩いていた。

目的の凰館は、繁華街から外れた場所にある。サバカ・コシュカも外れた場所にあるので、ちょうど街を挾んで反対側になる。今いる場所から歩いて行けば、30分かそこらといったところだろう。

Advertisement

なるべく穏便に行きたいところだが、場合によっては一暴れしないといけなくなるかもしれない。

そう考えると、歩いていけばちょうど良いウォーミングアップになるだろう。何事にも、多の準備というのは必要だ。

繁華街を抜けると、小汚く、ごみごみとした街の一角には、何人も娼婦が立っていて、道行くサラリーマンや學生なんかを、その香にかけようと躍起だっている景が飛び込んできた。この時間帯なら、最初の獲を見つけるには頃合いと言っていいだろうから、達も必死とは言わず、どこか余裕がある。

信號に引っ掛かった俺を、一人の娼婦が靡な足取りで近づいてきた。まだ若い。歳の頃はまだ二十歳そこそこといったところだろうか。

だが、そのけばけばしすぎる化粧は、どこかアンバランスさをじ、もしかしたらもっと若いかもしれない。

あまり知られていないが、最近の日本でも、十六、七でありながら娼婦をしているだっているのだ。そのほとんどが、何かしら家庭の事であることが大半だそうだが、それだけでもないようにも思える。

この娘も、どことなくそんな完全な娼婦になりきれていない雰囲気を漂わせている。客の中には、そんなまだ娼婦として初々しさのある者を、好んで選ぶような男もいると聞く。

もしかしたらこの娘も、そんな男がいるということを知っているから、俺に聲をかけてきたのかと邪推してしまった。

「ねぇ、お兄さん。暇だったら私とどう?」

「悪いな。今からちょいと用事があるんだ。それがなければ遊ぶのも良かったんだが」

「え〜安くするからさ、遊ぼうよ。ねぇ」

普通なら仕事だと告げれば、離れていくところなのだが、そうしないところがまだ分かっていなさそうなじだ。

「そういうわけにもいかないんだ。悪いが他を當たってくれ」

苦笑しながらも、突き放すようにして言った。さすがの娘も、これには殘念そうにしながら一歩引いた。

「なら……仕事が終わった後なら……?」

Advertisement

隨分と食らいついてくる娘だ。娼婦といえ、ここまで食らいついてくるのは珍しい。

「いつになるか分からないぜ」

「いいよ、いつでも。あたしはお兄さんと寢たいの」

娘のきっぱりとした言いに、思わず唖然とした。海外なんかではこういうタイプも數が多いわけではないが、確かにいる。毎日でも娼婦街に足を運んでいれば、出會うことはよくある。

だがこの日本では、ほとんどお目にかかるようなタイプではない。普通の男なら、そんな娘の態度に敬遠したくなるかもしれないが、俺は逆に興味が沸いた。

ここは一つ、試してみるとしようか。

「そんなに俺と寢てみたいのか? 別に俺なんかじゃぁなくても、君なら他の男とだって寢れるだろうし、金もとれるだろう」

「……そうだけど、時には娼婦だって、損得抜きで男と寢てみたいって思うものよ」

娘は瞳を潤ませながら、しなしなとに絡んできた。やれやれ、歳や経験はどうあれ、娼婦は娼婦ということか。

「……分かった。ただ、今日に仕事が終わるとも限らない。本當にいつになってもいいのか?」

俺の言葉に気を良くしたようで、娘は娼婦としてではなく、一人のとして笑ったように俺には見えた。

「いいよ。その代わり、連絡して。番號教えるから」

こいつは本當に珍しい。たかだか娼婦がそんなことをするなど聞いたことがない。これはもしかすると、本気かもしれない。まだ鵜呑みにはできないが、とりあえず俺も遊んでみてもいいという気になってきた。

「あ、ごめんなさい。何か書くもの持ってない?」

「悪いが持ってない。だけど安心しなよ。暗記は得意なんだ」

「本當に? なら番號言うよ?」

自信ありげに俺は頷くと、娘は自分の番號を言った。その番號を二度三度復唱し、再び頷いた。

「良し、ちゃんと暗記したぜ。仕事が終わったら連絡するとしよう」

「本當に? 忘れちゃ嫌よ」

「ああ、約束する。なんだったら今日の仕事は、君に賭けてもいい」

「分かった。それなら、今日は私のために頑張ってね……?」

Advertisement

娘は潤ませた瞳を、上目使いに見上げてきた。その仕種に俺は、商売だと分かっているにも関わらず愚息を反応させてしまった。

娘と別れ、次こそは寄り道せずに凰館へと向かった。凰館のある地區は、繁華街と商業ビル街とのわずかな間に立ち並ぶ、知る人ぞ知るといった雰囲気を漂わせた一畫だった。

住所を調べ、凰館を探すとすぐに見つかった。背の高いクリームをした壁は、五、六メートルはあるだろうか。その上には、先の尖った柵が何本も突き刺さっており、壁の外観は西洋の貴族の屋敷を思わせる。

屋敷は、そんな壁に四方を完全に囲まれていて、壁の向こうを窺い知ることはできない。ざっと四方を廻ってはみたが、門はたった一つだけのようだ。そこらへんがいかにもクラブという雰囲気だ。

高い壁に合わせて、やはりかなり大きな鉄製の柵門をくぐり、屋敷の扉に向かう。外庭にはコンクリートではなく、しっかりと砂利が敷き詰められた手の込みようが、まさに歐州庭園というに相応しいだろう。

のジャケットを著込んだ俺は、この中にいては、どう見ても浮いてしまっているだろうが、気にしないでおこう。

砂利を踏み締めて扉の前の階段に來た。階段の橫には黒服を著た門番が二人いて、いかにもこれ以上は通さないという雰囲気を醸しだしている。そのの一人が、俺の方に來て言った。

「當館の會員証のご提示をお願いいたします」

隨分とずんぐりとした奴で、せっかくの黒服もあまり著こなせていないが、その下には分厚い筋が隠されているのだろう。このことからも、なんとなくここは何かありそうなことを匂わせる。

まぁ、それだけのことで斷言はできない。クラブでもなんでもない、普通のクラブにだって、そういった門番をきちんとつけているところもある。

「こいつでいいかな」

そう言って俺は赤いカードを差し出した。

「では、お預かりいたします。々お待ち下さいますよう、お願いいたします」

門番の黒服は、指紋を付けないよう、きちんと白の手袋をはめてカードをけ取って、もう一人の方へ持って行った。

もう一人の黒服は、何やら機械を持っていて、その機械にカードを通している。時間にしてわずか二、三十秒ほどだったが、何やらイヤホンを手で當て、中の人間とやりとりしている。

(まさか、バレたか?)

一瞬そう思ったものの、カードをけ取った奴が、ご案いたしますと言ったので、心でほっと安堵した。

カードを俺に渡して、先導する形で階段を上る。黒服が扉を開けると、中には更にもう一人の黒服を著込んだ中年、いや、どちらかと言えば、初老といったじのする奴が立っていた。

雰囲気としては、まさに執事というに相応しいが、佐竹の件もあってか、俺はどうにも警戒してしまった。まぁ、相手にはあまりこういうところには慣れてないので、張してる程度にしか思わないだろう。

「これよりは私めがご案させていただきます」

そう言われてその初老の執事により、屋敷の中を案されることになった。館は一見、普通のクラブというじがしたが、まぁ、普通がどうかなのかは俺も良く分からない。行ったことがあるのは、ヨーロッパでの仕事でほんの二、三回だけだ。

ビリヤードやダーツといったプレイルームは當然、図書室なんかもあった。図書室には今となっては絶版になってしまい、手困難なものばかりが集められているはずなので、俺としては後ろ髪の引かれるところではある。

他にも、時には一流料理人の手によって振る舞われるのであろう、晩餐會が開けるような広さのある食堂もあるし、バーやカジノルームも完備されている。しかもそれらは全て、念に趣向がこらしてあり、最高の贅をこしらえてあった。

どの場所にも、數人の會員達が好きに各々の時間を過ごしている。中には、どこかで見たことがあるような顔の奴までいた。

そして時折、慇懃いんぎんな顔付きの黒服達を見かけた。確かにジュリオの言った通り、何かしら訓練をけた奴らだというのは、どうも間違いなさそうだ。

俺を今からどこに連れて行こうとしているのかは知らないが、この初老の執事もまた、今でこそ客相手の気取った営業的な態度だが、慇懃そうな雰囲気を隠しきれていない。きっと客のいなくなった時には、執事という仮面の下に隠された、本當の貌を見せるに違いない。

執事は、俺を廊下の突き當たりの角にまで連れてきた。そこはどうやら大きなエレベーターのようだ。初老の執事がボタンを押すと、すぐに扉が開いた。まるで、俺のためだけに用意されていたかのようにも思えた。

執事が先に乗り込み、続いて俺がエレベーターに乗る。だが執事は乗ったまま、方向転換することなくそのままだ。これもよくある乗ったまま、進行方向に扉があるタイプなんだろう。要するに、扉が二つ互いに面を向けて存在しているのだ。

俺が乗り込んだのを察し、執事はボタンを押したようだ。扉が閉まり、下に降りていく覚があった。あまり速くかないことから、大地下三階くらいの深さだろう。

下に著いてエレベーターを降りると、そこは上とは丸っきり別世界だった。いやこちらが本當のところ、重要な施設なんだろう。

そこは、変態趣味を持った連中のためにだけに用意された空間だった。けれど、あまり大きな聲では言えないがこういった場所には、一度來てみたかったというのが本音だ。

SMプレイのための部屋から、様々なフェチシズムを持ったやつのために用意された部屋もあった。案書きがされているだけで、それぞれの部屋の中がどうなっているのか、人がいるのか分からないが、きっと中の部屋では、そういったプレイが行われているのだろう。

そんな地下のフロアを執事に連れられてまっすぐ行き、突き當たりを右のドアを開けてるよう促された。

「どうぞ」

無言で中にると、そこは部屋ではなく階段だった。先は真っ暗で、さらに下へと続いているようだ。

俺がると執事もってドアを閉める。また先導しながら、目的の所まで連れていくつもりなのだ。

やれやれ、一何が出てくるというのだろう。もしかしたら、すでに正は最上ではないことがバレていて、そんなことを知らない俺を、拷問室にでも連れていっているのだろうか。

もちろん、それが分かればこの初老の執事の命は、次の瞬間絶命しているだろうが。

「暗いので、足元にはご注意を願います」

そう行って執事は先導しながら階段を降り始めた。手にはどこから調達したのか、いつの間にか火のついた蝋燭の刺さった、蝋燭臺を持っている。

二十段かそこらの階段を降りると、さらにまっすぐと進んだ。造りは中世ヨーロッパの城の地下施設というにふさわしい。

一つあたり數十キロはありそうな石を、隙間なく積んでいるのだ。もちろん、床や天井もだ。そんな壁に気持ち照らす程度に、蝋燭の火がいくつか等間隔で設置され燈っている。

そして、ようやく目的の場所に著いたようだった。口にドアはつけられておらず、ただ暗幕だけが垂れ下げられている。

その暗幕を、執事がやはり俺を先に通すよう脇からそっと開けた。中は先程の石畳の通路の方がまだ明るく、さらに暗くなっていた。

そんな空間の中心には、どうやら何かパフォーマンスが行われるような、円形狀の空間があり、その周りに暗幕で仕切られ、一人一人が分かりにくいように観覧席が設置されていた。

その一つに案され、席に著くように言われた。どうやら銃を抜く必要はなさそうだ。

だが、上著をぐように言われた時には、さすがに躊躇した。ジャケットの下には、最上の親父のところで手にれたワルサーが吊られているのだ。

けれども、ここまで來て上著をがないというのもおかしな話だし、これだけ暗ければ、なんとか見えないように上著を渡すこともできるだろう。

俺はそう思って席に著く前に、吊り下げられた銃がなるべく見えないようにして、上著をいだ。

はっきり言って、夜目のきく俺ですらぱっと見、銃が吊り下げられているのが分かりにくい。それほど暗いのだから、多分大丈夫だろうというのもあった。

上著をけ取り、執事は気の悪い囁き聲で話しかけてきた。

「間もなくショーが始まります。お飲みものはいかがいたしましょう?」

「ウイスキーだ。バランタインの30年」

「かしこまりました」

そんな短いやり取りの後、執事はテーブルの橫にある上著かけに、け取ったジャケットをかけ音もたてず消えたが、またいくらもしないうちにすぐ戻ってきた。

俺の座った椅子の橫にある小さなテーブルに、スコッチの瓶とショットグラスを置いた。

「お召しあがりはショーの後になります。ごゆっくりお楽しみください」

「かまわない」

執事は丁寧にお辭儀し、やっと俺の周りから消えた。ショーだと? 良く言うぜ。この雰囲気は、もう考えるまでもない。間違いなくの拷問を行うに決まっているのだ。

ヨーロッパにいた時もそうだった。全くそんなものを楽しみ、評論しようなんざ、連中は皆地獄に墮ちてもいい。

別に善人きどるつもりもないが、を責めるのはベッドの上だけだと決めている俺には、どうしようもなく腹立たしくじる。

仮にがボロボロになるくらいの被があるのなら、それでも良い。個人の主義や思想にまで、つべこべ言うつもりもない。需要と供給が、うまいことバランスよく存在しているなら、文句などつけようのないことだ。

だが、今から行われるのは間違いなく、そんな主義や思想なんていうのは一切ない、ただ己の加心を満たすためだけのものだ。責められるのは、そんなことをされたいとも思ってすらいない、普通のなのだ。

俺はそれが分かっているだけに、糞悪い気分でスコッチをドボドボとグラスにれ、一気にの奧に流し込んだ。の奧から一気に熱くなる。良い酒で、おまけに久しぶりのウイスキーだと言うのに、どうにもまずい。

こんなにまずい酒は久しぶりだ。舌打ちしながらもう一杯、グラスにいっぱいまで注ぎ、また一気に呑んだ。

グラスをテーブルに置いた時、中心の円形狀のステージを照らすように、いくつもの照明が照らされた。逆で、周囲の客席は完全に闇に溶け込んだことだろう。

そんな中、ステージの奧からプロレスラーのような大男と、それに連れられて、一組のい男が現れた。

大男の方は、長は百八十をし超える俺より、さらに十センチ以上はでかい奴だ。レザーのマスクに頭をすっぽりと被せて、頭全が目と鼻、口元だけが出し、後は完全にマスクに収まっている。

下はマスクと同じような薄いレザーのパンツ一枚と、やはり同じような素材でできたブーツを履いている。

に気が悪いくらいに発達した筋は、日焼けしているからか淺黒く、まるでラグビーボールでも付けているかのようだ。こういう奴は、脳みそまで筋でできていそうで、嫌悪が先立つ。

そんな大男に対し、い二人の男は大男と違っては純粋に淺黒く、おそらくは東南アジアあたりから売られてきたのだろう。二人はまだ五才から七才くらいのように見えるが、とにかくまだ十才には達していない。

そんな年との首には、金屬の首が嵌められていて、その首から垂れている鎖が大男の手によって握られていた。

二人は、これからそのにふりかかる運命など知らされていないはずで、不安そうに、その大きな両目をきょときょととさせ、を強張らせている。

は、おそらく年よりも一、二才下で、その不安から年にしっかりとしがみつくようにして、寄り添っていた。

(まさか、この二人……)

俺の脳裏に、あまり考えたくない単語が沸き起こって、かすめていった。そうであってほしくないという願いはきっと、もはやそうなのだと、肯定された雰囲気から滲み出たものなのかもしれない。

そんな三人に遅れて、三人が出てきた場所とは違う場所から、一人の男が出てきた。

男子と言っても良い容姿をしており、日本人のはずだが、どことなくエルビス・プレスリーに似ている。高そうな白いスーツを著込み、その甘いマスクは世の達が放っておかなさそうだ。

だが明らかに、ねちっこい蛇を思わせるような男からは、慇懃な雰囲気が滲んでいる。その男が、まるでステージに立った詩人か何かのような口ぶりと態度で、高らかに宣言した。

「お集まりいただきました皆様方、ただいまから、この時間を持ちまして、本日のメインショー、き兄妹による、はかなくもしい、悲の終末の始まりにございます!」

俺は舌打ちした。やはりその通りだったのだ。

あのい二人の、特に年への寄り添おうとする様は、そんな雰囲気があったのだ。また、一目見た時から二人がどことなく似ている気がしたのも、そういうことだったからなのだ。

キザ男が言い終えると、周りを囲む仕切られた観覧席からは、いくつもの拍手が響き渡り、キザ男はそれに酔いしれるように深く頭を下げた。

頭を上げ、手でショーの主役となる二人のい兄妹の方を向けた。まるで、次の歌手にステージを明け渡すかのような仕種だ。

大男に握られた鎖を引かれ、二人は小さくいた。そして大男は、ステージに用意されていた臺から、一本の注を取り出した。

何をするつもりなんだ……もちろん、それをあの二人に打つつもりだというのは分かっている。問題は、その効果だ。その注の中にっている薬が、一どんな効果をもたらすのかは、推し知れない。

話を聞くところ、こういった殘なショーでは、被害者に覚がより敏になるよう、薬を打つと聞いたことがあった。あれも、それらの効果をもたらすようなものなのだろうか。

い兄妹は、その注を持って近づいてくる大男に恐怖し、を震わせていた。まず大男は、年のぐるみを剝ぎ取った。

ボロ切れ同然の下には、下著など一切つけておらず、まだ小さく、無の男があらわになった。それを見た幾人かの観客が、くように嗤った。それには明らかに、嘲謔のが含まれている。

それをうけて年は、前を隠そうと必死になったが、大男に鎖を引かれてそれもできそうになかった。

一手に二本の鎖を持っているため、同時に妹の方の鎖も引かれることになり、妹が苦しむようにいた。

それも仕方ないだろう。鎖の長さは、二人ともほとんど差はないのに、妹の方が長が兄に比べて十センチ以上は小さいのだ。妹の様子を見た兄は、抵抗する気を失ったようだった。

……全く、糞悪くなる景だ。あの大男は無言で、自分の言うことを聞かなければ妹が苦しむぞというのを、兄に示唆しているのだ。

単純に暴力を振るわない辺りが、なおのこと質たちが悪く、無言の暴力とプレッシャーをあのい兄妹に與えている。それに気を良くしたのか、大男は鎖を持った手で、暴に年の小さな男を摑み、持っている注をそこに打ったのだ。

い兄の口から、まるでの子のような悲鳴があがった。それも當然だろう、まだ二次徴すら始まっていない年なのだ。さすがにこの景には、こっちの愚息もみ上がりそうだ。気付けば俺は、顔を引き攣らせていた。

その悲鳴がふいに止んだ。大男が針を抜いたのだ。年は、うなだれるように膝から力が抜けて、倒れそうになる。それを大男が支えた。別に優しさからではないだろう。これからの本番のためにだ。

見れば、注の中にっていた薬は完全に無くなっていて、年のに注されたことを語っている。

妹は恐怖しながらも、心配そうに兄の肩に手をれようとしていた。きっと、二人はとても仲の良い兄妹なのだろう。

もし、こんなところに売り飛ばされなければ、きっと互いに妹思いの兄と、兄思いの妹として仲良く暮らせたことだろう。

そんな二人に、俺は一瞬だが沙彌佳のことがフラッシュバックした。もし、あそこにいるのが俺と沙彌佳だったら……そんなことを考えたのだ。俺はかぶりを振った。考えたくもない。だと言うのに、どうしてもあの二人に自分と沙彌佳を當て嵌めて考えてしまう。

それを払拭するため、俺はテーブルに置かれたスコッチの瓶に口を付け、グイッとの奧にを流し込んだ。

熱さを伴った流が胃に落ちていき、俺はしだが落ち著くことができた。

再びステージのほうに目をやると、次の段階へと以降していた。うなだれていたはずの年が、顔を上げて目を大きく開き、走らせている。

大男はいつの間にか鎖を手放して、下卑た笑いを浮かべながら、年の耳元で何かを囁いていた。

妹は兄に起こった異変に戸いながらも、大丈夫かと近寄ろうとした。だが、兄の間に目をやった時、歩み出そうとした足を止めた。俺の位置からもはっきりと分かった。小さな男が、はち切れんばかりに起していたのだ。

年は肩で呼吸しており、とても普通の狀態ではない。男がビクンビクンと脈打ち、先からはすでに先走ったが出ていた。

あの歳でカウパーなど出るものなのだろうか。殘念ながら、そこまで正確な知識のない俺には判斷のしようもないことだが、きっと先ほどの薬の効果なんだろう。いや、そうに決まっている。

そんな狀態の年は、さらにに一歩近寄ろうとした。はそんな兄にビクリとを震わせ、後ずさる。また一歩妹に近づく兄。それに合わせて後ずさる妹。その覚はだんだんと短くなり、ついには年は獣のような聲をあげて、自の妹に飛び掛かり、い肢を押し倒した。

が押し倒した兄に何かんでいる。英語であったため、俺でも聞き取れた。二人は、フィリピンの出なのかもしれない。あの國は確か、フィリピン語と英語のニカ國語が共用語になっていたはずだ。

そんなフィリピンでは、未だに人売買が社會問題になっていて、世界でも有數の人売買市場ができている。

日本人も一時は客としてこれに荷擔しており、フィリピンの市場にとって、最も近で最も金の落とし方も良いというので、隨分世話になっているはずだ。

バブルに湧いた日本の國際的な注目度の上昇によることもあり、日本ではそれらに関して最上級の刑罰が與えられるようになったため、日本への輸出は減ったが現在では日本ではなく、中國やインドといった國がそれに代わって臺頭してきている。

だが、それでも日本への輸出そのものが完全になくなったわけでもなく、それはさらに巧妙になり、さらに下に潛っていったに過ぎず、依然として問題は解決していない。

あの國は、中國なんかと同じでとても貧富の差が大きく、裕福な層の資産は、國全の八割りとも九割りとも言われている。

近年では中流層も増え始めているそうだが、當然ながらそれは都市部だけで、地方なんかではちょっとしたことで転落し、明日の生活費のために仕方なしにバイヤーに子供を売るという、負の習慣がまだまだ付いているのだ。

英語を喋るのも、都市部での人間が多いと聞くので、あの二人は元はそんな拡がりつつある、中流層の出だったのだろう。だがやはり転落してしまい、売られてしまったに違いない。

きっと仲の良い兄妹であったのだろうが、今回ばかりはそれが仇になったのかもしれない。

それでも、一人別々にされてしまうよりは、まだいくらかマシだろう。あの歳で一人にされてしまうなど、なおのこと辛くなるはずだ。

まだセックスなんて言う概念も知らない年頃だろうが、い兄はどうすれば間の熱くたぎるものを解放できるのか、知っているようだった。いや、それはもはや本能と言ってもいい。

きっと大男が今しがた耳元で囁いたのも、それを増長させるようなことを言ったのだ。本能はマスターベーションよりも、セックスを優先させるというのを本で読んだことがあるが、まさにその通りの景だった。

それに二人は、まだ自というものは知らないはずなので、當然の結果と言えるかもしれない。

さらに、こんな糞悪いことを考えた出した奴も、それを知っているから、兄に獣の本能を呼び起こさせたに違いない。そしていがゆえに、自の鎮め方を知らない兄は獣になってしまい、目の前に與えられた牝を犯すという、あまりに酷い仕打ちだ。

しかも、その牝というのはさらにい実の妹だと言うのだ。悪趣味にもほどがある。

の心からのびが、ホール全に響き渡る。それでもい妹の悲痛なびは、最も信頼しているはずの兄には屆かない。

兄はそのたぎる起を、妹の濡れてもいないぐらに容赦なく突っ込もうとし失敗していたものの、ついにそれをし得ようとした。こんな景、とてもじゃないが正視できるようなものではなかった。先ほどのように、また沙彌佳のことがフラッシュバックしたからだ。あそこで沙彌佳が犯されている……。そして犯しているのが兄である俺……そんな考えたくもない想像が生まれてくるのだ。

俺は腹の底から、どうしようもない怒りのが沸き、今すぐここにいる連中を皆殺しにしてやりたい衝を押さえるのに必死だった。

      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください