《いつか見た夢》第116章
目の前の男は、鋭い視線をしもそらすことなくこちらを見據えている。それが今語ったことが真実だと告げる。頭の中じゃ、そんなの噓だと考えるかたわら、最近ではまるで當たり前のようにすらなった、現実としてけれる自分が、レオンの話を肯定していた。あるいはそれを真実として肯定しておかねば、次に話が進まないことによる思考停止なのかもしれないが。
「はっ、一國の最新鋭の科學者たちがこぞってそんな話を本當に信じたってわけだ。どうしたってそんな結論に至ったんだ」
「うむ。普通はそれが當然の反応さ。だが、今からそれを見せてやろう。ちょうどこれから実験するところなのでな」
レオンはここからは歩きだといって、上著のポケットから手のひらサイズのカードを出すと、おむろにそれを掲げた。すると、突然立っている床が地響きをさせながら、ゆっくりとき始めた。
「これは」
「地下にるための非常用階段の一つさ。ここでは、高度の認証システムが至るところに設置されている。こうするだけで、それがかざしたこのキーを読み取れるようになっているというわけだな。また、この基地には至るところにそういう出用の抜け道となる通路や階段があるのだ。私のような立場になると、それを使って行き來したりするものなのだ。本來はあまり使わないがね」
「なるほど、VIP待遇だしな」
ニヤリとしながらいう俺に、レオンは小さく肩をすくめ、床に現れた地下への階段を降りていく。まったく、ここが最深フロアだなんてよくもまぁ言えたものだ。まだまだ下があるではないか。
「階段は暗いから気をつけたまえ。ああ、それとここが最深というのは、來客があった場合に訪れることができるのがここまでという話だ。もちろん、ここから下だってあるさ」
表に思ったことが出ていたのだろうか。レオンがそういいながら、口元を吊り上げた。読心がないとは言わないが、だとしてもそこまで言い當てることなどできるわけがない。何か納得のいかない俺は、首をかしげながら階段を降りていった。
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「何ここ、全然先が見えないじゃない」
俺の後ろをいく遠藤が、あまりの暗さに聲をあげた。階段を降りた俺も遠藤と全く同様の想を持った。階段は隨分と暗く、照明といえば赤い非常燈程度のものが申し訳程度についているだけだった。非常用というだけあって、階段や通路自は道なりにいくだけのものなので迷うこともないが、夜目の利く俺ですらほとんど先を見渡せないというのに、細いだけでなく、一メートル先ですら見えないほど暗い中を戸うことなく進む男の姿に妙な違和を覚えた。
「ここだ」
通路同様、暗闇に紛れて全く分からなかったが、進んだ先にあったのは存在すらじさせることのないドアだった。そのドアのノブを捻って開けたその行為も、量のほとんどないこの通路でほんのしの探す作もなくよくぞわかったものだ。だが、ドアを開けたおかげでようやく通路にもいくらか可視化出來る程度の明かりがもたらされる。
ドアをくぐってった先は、いわゆる作室であるように思われた。室は上段と下段に分かれており、上段に三名、下段に五名ほどのオペレーターが詰めており、俺にわからない畫面を見やりながら、裝置から表示される數字やメーターの確認をしていた。その數値やメーターなどに変があると、それを正常値に戻すためだろう、機械についているダイヤル式のボタンをっている。
「ここで何をしようっていうんだ」
「君は優秀なスパイのようだからもはや知っていることだろうと思うが、今各國は水面下で報合戦が繰り返し行われている。その加熱さは、冷戦時と同様、いやそれ以上かもしれん。現在はスパイ合戦も主に報戦に変わったから、目立ったものはないが。もちろん言うまでもなく、これは今に始まったことではなく、冷戦が終わったとされる以前より現在も行われている結果に過ぎんがね。
これから君に見せるのは、なぜ各國がこうもスパイ合戦が加熱したのか、その要因となったものだ」
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「戦狀態にあるアフリカや一部の國なんかで次世代生兵が使われたって聞いたぜ。その元をたどっていくと、このツングースカに辿り著く。だから、今見せなくともすでに一端と原因は知ってるぜ」
「NEABが使われた結果に生み出されたという生兵のことだな。ふふ、確かにお前の言う通り、それも大いにあるだろう。だが、それは以前から各國研究機関により進められた結果に過ぎん。全てはここから始まったのだ。今からここで起こることから始まったのだ。だからこそ、各國も我々に追隨する形になった……それを見せてやろう。準備が整い次第始めろ」
レオンがオペレーターに命じる。彼らはすぐにも実験が行えるよう、著実に準備を整えていく。そして、ものの一分と経たずに連中は準備し終えた。
「準備完了です」
そういったオペレーターに頷き、レオンは持っていたカードキーを目の前にある特殊な裝置にかざすと、直ちに裝置がカードキーに収められているらしい報を読み取り、裝置がうっすらと青白いを放ちだす。それとともに、周囲の至るところにある裝置やら何やらが、途端に唸りをあげるように作し始めた。
「今から何が……」
目の前に展開されだした景に、俺は息を呑んだ。これまでも様々なものを見てきたが、これは現在人類が造りうる最大のものにして驚異といっても過言ではなかった。
これまで、薄暗い中で行われている裝置の作に、目の前のモニターへ行われるという実験のデータや何かが映し出されるのかと思っていたがそうではなかった。モニターだと思っていたものは、とんでもなく分厚いガラスだった。それも數十センチなんてものではなく、おそらく軽く一メートル、いやもしかしたら二メートルにすたなるほどの分厚いガラスだ。
分厚さにも驚いたが、それ以上に驚いたのはそれだけの分厚さにも関わらず、ほとんど曇っていないのだ。よほど特殊なものなのだろうが、そのために、ガラスであることも瞬時に理解することはできなかった。目の錯覚というのもあったが、一瞬、吹き抜けになっているのかとすら思えたほどだ。ここが特殊な実験を行う施設であるということが、このことからも十分に窺える。
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裝置が作し始めたことにより、これまで暗闇に溶けていた風景が一気に浮かんだ。どうやらこのオペレータールームは、數キロに及ぶ巨大な真円を描く空間を見下ろす形になっていて、モニターだと思っていた分厚いガラスの窓は、突き出たように斜めに據え付けてある。その作りはまさに、ガキの時分に漫畫やアニメなんかで見ていたSF作品に出た、巨大戦艦の舵室を思わせる。
レオンの説明によれば、このオペレータールームは先ほど立っていた床から約四〇メートルほど地下にあり、最深フロアの床が今は真上にあるということになる。またその床は特殊合金で作られた巨大な蓋の役割を果たしており、これから行う実験のために必要な裝置の一つとしての機能があるらしい。
反対に、眼下に広がる底には、どんな役割を果たしているのか用途不明の大小様々な幾何學的モニュメントが、中央に寄り添うように寄り集まっているのが見える。あのモニュメント群のある底まで、きっかり六三〇メートルもあるという。また、聳え立つモニュメント一つ一つの形や大きさも、実験のために全てその規格に當てはまるよう設計されているというか、相當なものだ。
そして、底のほうから徐々にカードをかざした裝置のような青白いを放ち始め、その際に発される振がこのオペレータールームにまで徐々に響き渡りはじめた。様々な形を見せるモニュメントは集こそしているが、そのどれもがきちんと獨立したものになっているのが、発される淡いがそれぞれの隙間から真っ直ぐにれているのが確認できる。はそのモニュメントの間をうように輝いていることから、モニュメントの底がどのような形になっているのかも良く見えた。
「ふふ、これで驚いてもらっては困る。こんなのは序の口だよ、クキ。なんだったら、もっと前に行って良く見てみるがいい。だが、その前にこれを持て」
そういってレオンが手渡してきたのは、鋭角なデザインをした遮グラスだった。わけが分からずも、俺はその遮グラスをけ取った。さほど眩しいわけではないが、ここからが強まるという意味なのだろうか。
「では、あれを投しろ」
レオンに促され、俺たちはのろのろとした足取りで、見やすい窓ガラスの前までやってきた。下から上に向かって徐々に広がるように傾いた窓ガラスは、より立的に眼下を見下ろす形になっており、思わず足がすくむ。しかし、おかげで全が良く見渡せ、數キロ先にある巨大な壁も実は何萬何十萬枚とあるパネルが、隙間なくピッタリと覆って作られているのも分かった。その一枚一枚の間から、かすかにがれているように思える。そのせいで、壁はまるで巨大な網の目のようにも見えた。
そして、そこにどこからともなく、一匹の奇妙な獣らしきものが現れた。投といったレオンの言葉をそのままけ取るなら、どこかにあの獣を囲っていたものがあったのだろうが、周囲のに包まれて全くどこにそれがあったのか判斷のしようがなかった。
底まで六三〇メートル、外壁からは軽く一キロ以上離れた場所にいれば、見える異形の獣の姿など米粒ほどにすら見えないはずだが、それはあくまで長二メートルかそこらの人間に限ったもので、あれは明らかにその三倍、いやもっとあるかもしれない。とにかく、こんな遠方からでもはっきりとその姿かたちと、所々に特徴的な部位も見て取れるのだから一〇メートル近くあってもおかしくない。
だが、問題はそんなことよりも現れた獣らしきものの正のほうだった。なくとも、あの獣は俺の知りうる限り、決して自然の中で生まれ育まれるような類のものではなく、明らかに、もっと人工的な意図を持った姿かたちをしているのだ。そして、それは俺の脳に、ある一つの単語を浮かび上がらせるに十分なものだったのだ。
「狼男……なのか、あれは」
獣らしきもの顔部分はまるで狼のように面長で、顔に沿って流れるような長い耳、それに人間ならばあるはずの頭髪はそのまま首から背中、そして尾へと連なっていて、たてがみのそれそのままだ。しかし、そのたてがみも自然なじはせず、むしろ不自然にじられるほど逆立っており、針のように尖っていた。
しかしの方はといえば逆三角形になり、発達した筋に肩筋、首元もまさしく狼などの食獣などに見られるように太い。くびれた脇腹にもしなやかに、しかし確実に強靭な筋がついていることが窺え、部や太ももの筋はやはり上半同様に鋼のごとく発達している。なのに、手足は発達しているのは分かるが、妙に細く見えてアンバランスだ。
なにより、その異形の姿を俺は知っていた。その姿は以前にも見たことがあったのだ。それは、坂上の研究所で出會ったゴメルや、シンガポール沖でしかったが異形へと変わっていった怪と同様だが、あの姿そのものを俺は確かに見たことがあった。
「あれも、まさか人実験によって造られたのか」
「詳しいことは私も知らん。ある人が提供してくれただけだ」
「ある人?」
振り返った俺の質問にレオンは答えることはなく、ただ今から起きようとしていることに注視するよういった。俺はそれを忌々しく思いながら、再び眼下に視線を戻した。これまでは単なる予備作といわんばかりに、裝置とは思えない巨大なモニュメント群がいよいよ本格的に作し始める。
「ふふ、始まるぞ」
俺たちの頭上で、レオンがいった。そしてその通りに、続いていた微振が徐々にその振を強くしていき、その揺れは爪先のすぐ前がすでにガラスになった足元にはとても気が気でなくなるほどで、無意識に近くの手すりを摑んでいた。ここですらじる振が強いことを思うと、あの場に投された獣にはもっと強くじているに違いない。その異常さをじ取っているのか、おろおろとしているようにも見える。あるいはただ振のためにそう見えるだけなのか。
振がさらに強まる。これとともに、淡かったもまただんだんと強烈な発へとなりつつあった。青白いが強まることで、底にいる獣の姿は見えなくなってしまい、こちらも手をかざさなければとてもじゃないが目を開けていられない。そして、いよいよその発が強まるとさらに大きなの渦へと変わっていき、それはここにいる俺たちすら巻き込むほどの巨大なへと膨らんでいく。
「念のためにいっておくが、手渡しておいたものをつけておかないと失明の危険があるぞ」
「さらにが強まるっていうのか」
ここから先のことを知っているためだろう、すでにレオンは遮グラスをつけている。それに習って、俺たちも遮グラスを付ける。それでも隙間からがってくるが、こうして、もはやの中心が見えなくなっていた中心部分もうっすらと判別できるようになった。確かに、これほどの強い発現象ならば、遮グラスなしではとてもいられない。だというのにレオンの口ぶりからは、ここから更にが強まるのだという。
底の方では、獣の影も見える。強すぎるに、俺たち同様に手を目の當たりにかざしているのが見えた。その仕草は、人間のそれと同じだ。やはり、狼男というに相応しいその仕草に違和を覚える俺に、今度は大きなうねる音が鳴り響きだした。もちろん、振による音だが、その鳴り響いてくる音はそれまでとは質が違って聞こえる。
ゴンゴンという地響きにも似た音が鳴り響き、それがさらに巨大に、さらに短い周期になってくると、遮グラスを通して見えるが一回りふた回りと大きさを増していくではないか。
それだけじゃない。つい先ほどまではモニュメント群の底から輝きだしていたはずの発が、不思議なことに今では、モニュメント群の底からではなく、上空で巨大なとなっているのだ。遮グラスごしには、は小さな太のごとく、ゆらゆらと周囲を揺らめかしながら力強く輝いている。
すると、今度は俺たちの真上にあった巨大な蓋の底が、徐々に下に向かってき出していた。數十メートルの厚さに及ぶ巨大な蓋。その蓋がゴンゴンという音を発しながら下に向かっていていくのは、まさに圧巻だった。俺たちのいるオペレータールームを通り過ぎる頃には、その蓋がどういう理屈なのか、分離していくように見けられた。
それも、ただ分離するだけではなかった。ゴンゴンという音の意味が、ただ底に向かっていているから鳴っているわけではないということが判明したのだ。直徑六キロというから、ざっと周囲二〇キロに及ぶ巨大な蓋。その巨大な蓋の縁が時計回りに回転していた。そして、どういう理屈かで分離した最外周部の縁から側の部分が離れていき、それが反時計回りで回転している。
「あれは、周囲にある超強力な磁力によりあのようなきを実現させた。いや、そうしなければ、あのようなきを保てないのだ」
蓋の上部は今だ天井にぶら下がったままであることから、どうやら蓋全が落ちているわけではなく、縁の部分だけが徐々に落下していく仕様になっているようだ。しかし、落ちていく縁の部分は何かに吊るされているわけではなく、説明による磁力だけでこれを実現させたというのか。俺は再び息を呑んだ。
周囲およそ二〇キロにおよぶ回転する蓋の縁が落下するスピードに合わせ、の輝きが再び強さを増し始めた。一端は収していくだったが、それは収というよりもむしろ圧、あるいは濃しているかのうに思わせる。そのおかげで、遮グラスが一點のみ焼き付けられているようにじられて仕方ない。
そして一気に凝されたの輝きが再び増し始める。今までは圧されて輝きが増したようなじだったが、今度はその強さのがより周囲を包み込むように渦巻き始めた。が渦巻くなど有り得ない……普通であればそうだ。だが、目の前で起きている現象は、そう思えてならないほどの奇怪なきを見せていたのだ。
不思議だと思っていたが、その原因が周囲を回転する巨大な縁であった外裝置と、そこから分離し逆回転する裝置のおかげだというのがわかった。直徑六キロ以上に及ぶ巨大な縁、いやこの裝置が強力な磁力を帯びることで浮力と回転力を生み出し、その側に通常からでは考えられないほどの磁場を作り出す。
もはや、この基地が數キロに及ぶ巨大な裝置であることは疑いない。そして、その裝置とは強力な磁場を作り出すために必要なものであるらしいということも、今目の前に繰り広げられる巨大な裝置のきからなんとなくだが理解できる。
今起きている振も唸り聲にも似たこの音も、全てはこれら裝置が有り得ないと思えるほどの強大さをもって稼働し始めたことによるためだ。だが、だとするならこの目がくらむほどの眩いは一何を示しているのか。レオンの言ったことが本當なら、これはツングースカの発を再現するためだといっていたから、やはり発を表現したものだということなのか。
遮グラスをしていても隙間からり込んでくるに目を細めながら眼下の現象を眺めていると、これまで一切きのなかった天井の部分が不気味な音を立ててき始めた。天井の底から、厚さ二〇メートルにはなる円臺が下に向かって突き出てきたのだ。さらにその円臺から一回り小さい円臺が出てくると、またその円臺よりも一回り小さな円臺が、といった合に次から次へと段々狀になっていく。
その円臺が八段になったとき、最後と思われる段が突き出てくる。ここからはモニターに映る畫像からでしか確認できないが、頂點が鋭角に尖った四角錐のものらしい。こうしてできた段々狀の円錐は、広大なホールの中に底へ向かって、眩く輝いているへと向かって突き出る形になる。この円錐がどういう効果を生み出すというのか、そんなことは俺に分かるはずもなく、ただ息を飲んで見つめることしかできない。
円錐が完全に姿を見せると、この円錐に呼応するかのようにが大きく歪み始めた。同時に、巨大な外裝置とは逆回転している裝置のきに変化が現れた。だんだん回転する速度があがってきたのだ。これに伴い、外裝置もその速さを増した。いうならば、この裝置は一種のベアリングみたいなもののようだ。裝置と外裝置の間には何が走っているなどはないが、そういうものだと捉えたほうが分かりやすそうだ。
その外裝置にできた隙間に、周囲の空気が流れ込んでは吐き出されるというサイクルが生まれると、外裝置とその隙間に放電現象が現れだした。回転の影響から生まれた隙間へと流れ込む気流は、空気中に含まれるわずかな電子をぶつけ合わせる形で発生させた靜電気を、徐々に巨大なものへと変えてついには凄まじい放電現象を生み出したということだ。
そして、その放電が裝置の側へ、それが発を続けるへと流れていく。このためなのか、遮グラスを通して見られるが多方面に急速な回転をしているように見え、の周囲には裝置から流れてきた放電を吸収しているようでもあった。
すると天井の底から突き出た円錐狀裝置から、それまでのものとは違う放電とを伴ったものが発生し、それが徐々に尖った先端へと集まっていき先端は一気に赤とも青とも、あるいは緑ともつかない不可思議なを伴った源を作り出した。鋭角に尖ったあの先端にエネルギーを溜めているのだろうか、そんな風に見見けられる。突き出る先端の先には、もちろん宙に浮遊しているに向けられている。
もはや、このオペレータールームから見える広大な空間には、互いに逆回転する巨大な回転裝置により生み出される気流と、それに伴った大量の電気を帯びた空気が吹き荒れ、大きながそれを包みこんでいきながらも膨張と収を繰り返している。まるで、今にも発しそうな、そんな危うさを持ちながら何かを待っているかのようだ。
そう思った俺の予想は、次の瞬間見事に的中した。先端に充填されていたエネルギーが急激に熱を帯びたかと思うと、下に向かって一気に落下し、そのエネルギーが真下のにぶつかって瞬時に弾けた。落下して弾けたというのは正確な表現ではないかもしれないが、その速度は想像を絶するもので、そのように見えたという覚的なものでしかない。
エネルギーとが目の前で弾けたと思った次の瞬間、ほんの一瞬だが広大な空間に靜寂が訪れた。その間も放電とそれに伴う大気流はあったが、それすらも一瞬だけ止まったように見えた。そして一気に、これまでじたことのない発現象と地震に似た地表から、全てを揺るがすような地響きを辺りに響かせた。
その揺れはとても立っていられるようなものではなく、手すりを摑んでいたのに耐え切れずにその場に振られてしまう。瞬時に起こったその現象は、まるで世界の終焉がどんなものなのかと云えばきっとこんなものだと思わせるには十分なほどの衝撃力を持っていた。大気がれ、空間も歪み、全てが弾けたその中心に向かって吸い込まれていくような、そんな錯覚を起こさせる。
いや、それは全てが錯覚ではなかった。まだ続く揺れの中で一度でも倒れてしまうと中々起き上がれないため、俺は倒れながらも歯を食いしばりながらそれを見続けた。初めは錯覚かと思った。揺れが続く中で、自の遠近がうまくとれずにいることが原因なのだと、そう思った。しかし、錯覚かと思ったそれは俺には考えもつかない現象を引き起こしていた。
「あれは……歪んで、いるのか。空間が……?」
自分でも何をいったのか理解できていなかったんではないか。俺自の言葉は的外れのようにも、現実を告げたようにもどちらとも取れる、曖昧なものだ。だが、どう言葉にしていいのかわからなかった俺の脳みそが、目の當たりにした事象にそう勝手に口をつかさせていた。
辺りに響かせた巨大な衝撃とともに、遮グラスなしではとてもいられなかった強力な発現象も収まっていた。そのが晴れた先には、どういうわけか異様なものが存在していたのだ。これまでだって様々なものを見てきたが、あれはそういう常識の外にあるものだと脳みそが告げている。
あるいは、の屈折なのかとも思った。視覚などとはいうが、目で見えているものも所詮はの反とその屈折によるものだ。その屈折率が高すぎるため、そのように見えているに過ぎない……このようにも思えるものだが、屈折というには余りある現象で、その中心に向かって、全てのものが吸い込まれていっているようにも吐き出されているようにも見える。そしてそれらは、引きばされては収するということを繰り返している。
「ふふ……その通りだよ、クキ。渦のようにも見えるだろう。あれが空間を捻じ曲げ、通常からは考えられないほどの強力な磁場と重力を生み出しているのだ。だが、まだ続きがあるぞ。良く見ているがいい」
ようやく収まりだした地響きにくようにいった俺に、レオンはそう続けた。まさか、空間が歪むだなんて、そんなことがあり得るというのか。仮にできたとして、それを可視化できるというのか……。そんなことができるだなんて想像もつかなかった。
レオンのいうように、それまであっはたずのが消えたそこに、考えられないようなものができていた。周りにだけ渦を作り、その渦に周囲にの屈折でえぐられるように引きばされては回転に巻き込まれ、そしてまた引きばされたように吐き出されていく周囲の景が見える。
中心だけはによるものなのか、もはや予想や想像、あるいは経験からくる全てのものの範疇を遙かに上回ったものが、多方面に収と膨張を繰り返している。それがまるでのように見えるのだ。そして時折放電したかと思えば、それが中心に向かって吸い込まれていき、中心のきが活発になり、數秒後にはそれも収まる。
「これからあそこにミサイルを発させる。面白いぞ」
レオンが愉悅に染まった聲を響かせながら、発せよという指令を下した。オペレーターは命令に従って、即座に発ボタンを押した。すると、何キロも先にある左手の壁から薬を搭載したミサイルが五発発され、ものの數秒後に今できた空間の歪みに向かって飛んでいき、それが音もなく周辺の渦に巻き込まれたかと思うと、中心に合わせ鏡のような奇妙な姿を見せ、一直線に向かったはずのミサイルが全く別の方向に飛んでいったのだ。
五発ともほとんど平行に飛んできたため、普通に考えれば大同じ方向に飛んでいくはずだが、五発は上下左右、全く違う方向に飛んでいき、それぞれがその先の壁にぶち當たって発した。一発はこのオペレータールームにほど近い部分の壁にぶち當たり弾け飛んだが、発による衝撃は一切じられない。
「なんなんだ今のは。ミサイルがあらぬ方向に……」
ほぼ並行して飛んでいた五発のミサイルが、あの渦を通過したと思ったら、それぞれが全く違う方向に飛んでいく……そんな有り得ない事象に、俺は混に陥っていた。どう考えても、そんな事実を頭の中で肯定できずにいたのだ。しかし、それぞれが全く違う著弾位置で破したという事実が、確かにそこにはあった。
ここが核シェルター並みの強度を誇るものだということがわかったが、同時に、大型の直下型地震と同等かとも思えるほどの揺れと地響きを起こした先ほどの事象は、相當のものだということもわかった。それだけの験をしたからこそ、遮グラスをとって底のほうに見えたそれの存在が際立った。
俺の視界に映ったのは、巨大な裝置起前に投された狼人間のような怪の姿だった。うつ伏せになって倒れており、ここから見る限りは四肢を力なく投げ出している。その様子からは死んだのか、あるいはまだ生きているのか判斷のしようがないが、核シェルターにも劣らないだろうと思われるここですら考えられないような衝撃があったのだから、生でそれを、ましてや俺たちよりも近い場所でそれをけたら、どう考えても無事ではいられないはずだ。
そうした常識的な観點から、あの狼人間も死んでいるに違いないと思った俺だが、幾ばくとしないに、その狼人間に変化があった。どういうことなのか、力なく倒れていた全にかすかな生命の鼓をじさせ、のろのろと上を起き上がらせるではないか。しかし、まだうまく力がらなかったようで、一度二度と両腕から力が抜けて地面に頭から倒れこむ。
生きていることも驚異だが、俺はあの怪が倒れている場所の不自然さにも考えを巡らせる。投時はもっと手前だったはずなのに、今はどういうわけか、その場からざっと一キロ近くも奧、だった渦のほうに移しているのだ。極めて不自然なその現場に、俺は頭を捻らざるを得なかった。もちろん、どうしてほとんど無傷の狀態でいるのかも気になるところではあるが。
「今回も功のようだな。ではあれを」
「おい待てよ、なんだったんだ今のは」
「落ち著くのだ、クキ。まだ実験は続いているんだ。話は後で聞かせてやる。それよりもグラスをつけておけ」
これが落ち著いていられるかという話で、俺はその前に説明を求めたがレオンは一向に無視し続け、俺たちにはなんの説明もなしに次の段階に進むよう指示する。俺はこの連中が何をしたいのかわけが分からず、仕方なしに再び遮グラスをつけ眼下に目をやった。
「クキ、良く見ていろ。これからあそこで何が起こるのか、その答えは必然的に武田の、そして私がお前を敢えて助けた理由にもなる」
つまり、武田の持つ行理念、それが今から起こることにある。そういわれては、俺も黙って見るしかない。
「第二、エネルギー充填開始」
オペレーターの聲ととともに、一端は納まった巨大な裝置の唸るような稼音が周囲に響き出す。天井から生えた四角錐の先端に、再び不思議なをした放電を伴ったが集まりだし、またも弾けるように瞬速でもって落下した。どういう原理かは知らないが、どうやらあれがこの裝置にとってもっとも重要な用力であるらしい。
空間の歪みに撃ち込まれたエネルギーは、先ほどと同様に瞬時に弾け、強力な閃を発生させる。遮グラスを通してもその眩しさは相當なもので、もしグラスなしであれば本當に失明しかねない。弾けたエネルギーにまた強い衝撃波が訪れると思い、姿勢を低く保ったまま手すりをしっかりと握っていたが、おかしなことに今度はその波が到達することはなかった。
「あそこだよ、クキ。あれだ」
レオンがそういいながら眼下に向かって指差した。向けられた先を目で追っていくと、そこには例の獣が何かに耐えているように見えた。弾けたエネルギーの衝撃波は想像を絶するものだが、あの奇妙な生がそれを食い止めているように思われたのである。太くしなやかな腕を空間の歪みのほうへ向かって上げ、弾けたエネルギーの流れをけ止めていたのだ。
いや、け止めていたという表現は正確ではない。どちらかといえばけ止めらざるを得ない、もっというと自然と発生したはずの強力な衝撃波があの生に向かって勝手にいってしまっているので仕方なしに、といった合だ。そのために、の周りにはここに來てからというもの、もう何度も目にしている放電現象が起きている。
しかしその狀態を保てなくなってなのか、エネルギーが弾けた際に発生した膨大なエネルギーと衝撃がの周囲かられ始め、次の瞬間、獣自が赤とも白とも、あるいは青ともいえないにり輝いたかと思うと、それに包まれるかのように一気にぜて流れていったようにも、瞬時に消えていったようにも見え、それがどこに行ったのか判らない。とにかく、俺の目にはそのように映ったのだ。
「今のは……一」
いた俺をよそに、オペレーターがレオンに報告する。
「対象、現れました」
「出せ」
短いやり取りの直後、畫面にどこかの映像が映し出される。そこには、廃墟と化した町の中を敵味方に分かれた兵士たちが何人も展開しており、互いが銃撃を繰り返しているという映像だった。どうやら、衛星による映像のようで、真上から映し出されている。だが、その中の雰囲気が突如として変化した。両者ともに、異様なものを見るように雙方の銃撃が止んだ。
モニター畫面の端に、突如として巨大な生の存在が現れたのである。始め、衛星による映像はサーモグラフィによるものであったため、熱源に反応して赤や黃に緑、それに青など様々なので熱の溫度を表現しているが、そこに突然巨大な熱源が現れたのだ。全が青っぽく、生というにはあまりに無機質にも思える影だが、そこから窺えるのは狼人間のそれだ。
そのサーモグラフィによる映像が切り替わり、現実の映像へと畫面が変わった。衛星からの映像ということもあり、畫面の映像がれがちな上、映るきの一つ一つが畫面を停止させながらのコマ送りのような印象をける。おそらく、これなら同様の裝置にしてもアメリカや先進國各國のもののほうがより高い解像度で見ることができるだろうが、ロシア製にそこまでを期待するのもおかしいというものだ。
しかし、これにより青っぽい巨大な影が、例の狼人間であるということの確認ができた。真上からの映像では一〇〇パーセント絶対に今、眼下にいた狼人間と同じとはいわないが、おそらく同じだろう。漠然としながらも、この裝置の実態が徐々に明らかになってきているので、それがまさか全く無関係とは思えない。
「どうだクキ、これが我が國が総力を挙げて研究し続けた結果の一つだ。もう予想がついているだろうがね、あれは今目の前にいたものだ。この基地は巨大な転送裝置の一つとして建造されているのだ」
「転送裝置……これが」
直徑が六キロにも及ぶという巨大とは言わず、巨大すぎるこの裝置が転送裝置だというのか。俺は息を呑んで眼下に広がる、まだき続けている裝置を見渡した。
「そうか……今各國で人知れず生兵が使われているのも、これのおかげなのか。あんなのをどうやって運んだのか気になってたが、なるほどな、これならほとんど瞬時に、連中のいる場所にまで送り込める。理屈はわからんが、そうなんだな」
「その通り。各國の部隊も一部は既に実戦投しているが、わざわざ現地にまで直接運び込まねばならない。つまり、時間的なデメリットが大きいというわけさ。しかし、この裝置ならばその時間はほぼゼロにできる。通常なら何時間もかけて行う輸送を、ほぼ時間差なしにできるというのは畫期的というには及ばない。
これこそまさに革命だよ。この裝置の誕生は、世界の構図を底から覆すことができる、究極の裝置なのだ。こいつをワシントンに送り込むだけで……ふふ、想像しただけでもおかしくなってくるものだな」
悅のった気の悪い笑みを浮かべるレオンに顔をやや引きつらせながら見上げた。世の中、どこか頭のいっているような人間がどんな世界の人間にも一人や二人いるものだが、こいつもそういった人間の一人であるようだ。自分たちが世界を征服したとでも、そんな妄想にとりつかれているのだ。
俺はかぶりを振りながら、再びモニター畫面に視線を移した。畫面では、突如として現れた奇怪な生の出現によって現場は混沌と化していた。そりゃそうだろう。兵士たちがどんな任を帯びているのか知らないが、なくともあの場で真剣な命のやり取りをしているはずあのだ。そこで水を差すなどと生ぬるいものではなく、あんなものが現れたら誰でも混するのは當たり前だろう。
兵士たちは敵味方関係なく、突然現れた獣に向かって一斉掃にあたり、互いに一歩一歩確実に後退していきつつあった。狼人間にしても突然どこだか判らない場所に出現してしまったら混するだろうし、そこにいきなりあんな一斉掃をければ暴れるのは目に見えている。予測通り、狼人間は始めこそ掃に甘んじていたが、それもすぐに形が逆転し、辺り一帯は夥しい赤に次ぐ赤へと変わっていった。とにかく、二の腕のあたりだけで周囲は軽く人間の回りの二倍、いや三倍はありそうなほどの屈強さを持っているのだ。
「対象、敵殲滅」
「想像以上の早さだ。良し、座標の確認次第、回収しろ」
レオンが指示すると、オペレーターがボタンを押して再び巨大な裝置が稼働し始める。どうやら、またエネルギーをあのうねりに衝突させる気らしい。するとまたエネルギーがうねりに向かって照され、広大な空間に眩い閃が辺りを包み込んだ。
遮グラスをしていなかったため目をつぶっただけでは耐え切れるようなものではなく、失明はなくとも強烈な殘が瞼を通して目の奧に焼き付いた。それは単に眩しいだとかそんなレベルではなく、瞼の奧に焼き付くような閃というのが一どんなものなのか、それををもって分かるほどのものだった。
あまりの眩しさにが収まった後も、しばらくの間まともに目を開くことができなかった。説明しにくいが、瞼の奧が白い何かにちらつかれて、うまく視神経が作用していないような、そんな合だ。おぼろげに、広島や長崎の原を目の當たりにした人々はきっとこんなじだったのかと、そんな風に思えるほどの強烈な閃だった。
確かにこれでは遮グラスなしではとてもいられるものではない。何度も目をこすり、瞬きを繰り返すうちに、ようやく目が周囲の明るさに慣れてきた。もっとも、なおも俺の眼球の奧で白い閃がちらついているような覚は未だにあったが、とにかくしはマシになった。
「ねぇ、あれ……」
遮グラスをしたままだった遠藤は、が収まった後にグラスを外していたようで、巨大なうねりの間近になった辺りを指差しながら一點を見據えている。それを追って俺も視線をやると、俺も遠藤同様に目を見開いた。どういうわけか、そこには今しがたモニター畫面の向こうにいたはずの、狼人間がいるのだ。ここからは聞こえないが、尖った口先を開けて上をのけ反らしているその様子は、咆哮をあげているようだった。
「……この転送裝置は、ただ送るだけじゃない。同じ要領で、元いた場所に戻すこともできるのか。まさか、こんなものが完していたなんてな」
「どうだクキ、素晴らしいだろう。これが我々の次世代兵にして、世界の覇権を制するに相応しいものだと思わないか」
頭上で誇らしげにいうレオンを、目を細くしながら冷たく見放した。だが、確かにこの裝置が驚異的なものであることは間違いない。転送するのに隨分と大掛かりではあるが、世界中で展開する戦地はおろか、各國要人のところにだって簡単に行ける。もっとも、こんなド派手なことをしていては、すぐに國際批判をけることは目に見えているだろうし、何よりもし大戦にでも発展しようものなら、ロシアだって決して都合がいいとはいえないはずだ。あるいは、ロシアにそうまでして覇権を取りたいという意思が強いのなら、またそれも頷けるというものだが。
「覇権ね……おたくの國とあちらさんが今だに冷戦狀態だってのは知ってるが、そこまで過敏にいうことなのか。仮に覇権を取ったところで、今度は何千萬なんていう死者數じゃ収まりきらないだろうよ。人っ子一人いない世界で覇権を取ったところで、なんの意味もない気がするがな。
そんなことよりも、今ここで起きたことの説明をそろそろしてくれてもいいんじゃないか」
レオンの戯言にいい加減うんざりしてきた俺は、皮をいってさっさと次の説明をさせてやることにする。どうせ話が長くなりそうなのは目に見えているので、説明したくて堪らないというのならさっさと説明させてやったほうが、時間の節約になる。
「見ての通り、この巨大な裝置はロシアが世界に誇る転送裝置の一つだ、君の言う通りな。だがそれだけじゃない。先に述べたように、これはあくまでツングースカで起きた発を再現するための裝置だということだ」
「つまりあんたはツングースカで起きた発は、急激な変異事象が起きたことによるがどこか別の場所に転送したってことをいってるわけだ。確かにな、今目の前で起きたことはそうなのかもしれないぜ? だがな、落ちてきた隕石が空中で弾けたってだけで、そんなことが有り得るとは思えないね。
今見たところ、いや、今も存在しているあの空間の捻れ……のようなものや、周囲を取り囲む巨大な円裝置もなかったわけだろう? まぁ、捻れに関してはいくつも隕石が落ちてそこに変異が起きたって説明もできるかもな。だが、強力な磁場だとかって説明にはならない。
第一、ツングースカの大発が本來は何倍も何十倍も大きかったっていう話自眉唾もんだ。ツングースカでそんな人智を遙かに超えたことが起きたなんて、とても考えられないな。そういう計算をしたってんなら、もしかしてどこかで計算間違いをしてるんじゃないのか。
今目の前にあるのがすごい裝置だというのは認めるし認めざるをえないが、こればかりは々話が突飛すぎるというものだぜ。おまけに、俺の知ってる限りの話だが、周辺の生態系にも変化があったんだろう? これについてはどうなんだ」
上機嫌になっている男に、俺はまくし立てるように立て続けに疑問をぶつけた。宇宙空間から飛來してきたものが、まさかそんなSFよろしく、空間を飛び越えたことを起こせるだなんてとても思えない。確かに隕石の落下というのは、実際のところ世界中に存在するどんなミサイルよりも速く移しているため、とてつもない衝撃を持っているということくらいは分かる。
いつのことだったか記憶が定かではないが、またロシア領の上空で飛來してきた隕石の空中発による衝撃波に、田舎町が被害を被ったという事件があったのを覚えている。そのとき落ちてきた隕石はだいぶ小さいもので、破による衝撃力も落下スピードもツングースカの比ではなかったそうだが、だとしても街中の窓ガラスが軒並み割れ、ちょっと老朽化した石やコンクリートの壁にヒビがるほどの衝撃波があったのだ。
仮にこれがもし東京やロンドン、ニューヨークといった巨大都市の上空で起きたとあればもちろん話は変わるが、それでもレオンのいうような変異事象など起きていないし、起きるとも思えないのだ。俺にはどうしても、レオンのいっていることが信じられない。するとレオンは俺のそんな臺詞は初めからお見通しだといわんばかりに続けた。
「普通ならそうだろう。だが、ツングースカの規模は、我々人類が考えている以上に大規模なものだったのだ。クキの言ったように、質量や落下スピードももちろんだが、含まれるそれ自も近年起こったものとは遙かに、比べにならんのさ。これから起きる事象を見ればそんな考えなどどこかに吹っ飛ぶ」
レオンがニヤリと口元を吊り上げた。蛇のような狡猾さを持ち合わせ、かつ殘忍さを持ち合わせた嫌な笑みだ。
「だが、なんの説明もないというのもなんだから、付け足しておこうか。前述の通りツングースカの発と隕石の質量は、従來考えられている數字よりも一〇倍以上の規模だ。ただの発であれば、先のエアバーストと同様の結果だったろう。規模が違うだけでな。だがツングースカの場合は違う。隕石に含まれる容が先のものとは明確に違うのだ。
おい、あれを」
指示に従って、オペレーターが作盤を作して、畫面にあるデータと思しきものを表示する。円グラフから棒グラフまでいくつかのグラフが表示されており、そこから導き出される數値を表にしているようだ。その裝置を時間の経過や、あるいはそれによる推移を表しているのだろう。ただ、その全てがロシア語で表示されているため、いくらかを読み取ることはできるが多くを解することはできなかった。
「ここでは基地の質上、隕石が引き起こす事象と、そこから得られるありとあらゆるデータが集められている。もちろん、先のロシア上空で起きたエアバーストについても然り、隕石に起因する事象は全てだ。そして、それらは常に分析、ツングースカの比較対象になる。全てはツングースカの比較になるためのものでしかないと言っていいだろう。そこに映し出されているデータは、そうしたものとツングースカとの比較図というわけだな。
この畫面に寫っている中央のグラフを見てみるがいい。それは一九五〇年代以降、數十年間に渡って現在まで、世界中に落ちた隕石の容の質量などを數値化したものだ。一口に隕石とはいっても、主に三種類あるといわれるがその中でも様々な容を有していることが、その図から分かるだろう。その多くにラジウムやイリジウム、ロンズデーライトといった質が含まれていることが多い。
鉄やニッケル、白金からトロイライトまで本當に様々だが、中にはそれらに混じって特殊なものが紛れ込む場合もあることが報告されている。もうお前も知っているだろうが、NEABもそんな中の一つだ。なぜそんなものが混じるのか我々には分からんが、とにかくそういったものが宇宙から飛來するという事実だけは間違いない。
中でも、ツングースカの場合は様々な點で特異が現れている。その図の青い線があるだろう。その青い線がある一點で高くなっている。それは他の隕石にも同質の含有を比較したものだが、ツングースカのところだけ異様に數値が高いだろう? これはグラムを一〇〇で検出した數値だが、ツングースカで検出されたそれは他のものと比べ圧倒的に高いことがわかる。それだけ濃度の高いものが含まれていたということだ。
ツングースカの隕石あった含有は、同質の含有をもったものと比べると、全てにおいて最も高い、それも圧倒的な高濃度をもっていたことがこれらの図からわかる。そして、ツングースカには他の隕石にはなかったが含まれていたというのが最も大きいだろう。それがこの巨大な裝置を生み出すに至るだけの理由になり、それだけこれが特別だということでもある」
データの映し出されている畫面が下にスクロールされていくと、そこであるレポートが書かれていた。あまりに専門的な語句が並んでいたため、専門家でない俺にはそれがどんな容であるか一〇分の一だって理解することはできないだろう。これが英語ならまだなんとかできたかもしれないが、殘念ながら全てロシア語表記であったからだった。
「このレポートは、ツングースカの大発が単にエアバーストで起きたものではないということを報告した容だ。読んでみよう。
ツングースカの発は、複數の隕石が地表五〇〇メートルから一五〇〇メートルほど上空で起きた。複數の隕石とはあるが、これは元は一つであった隕石が大気圏に突した際に分裂したためだと考えられる。大気中で複數個に分裂してできた隕石群は、音速の何十倍もの速度で地表に向かって落下しながら、大気中の空気を急激な熱圧を発生させ、それにより表面が徐々に分離し始めついには隕石の核たる部分に、その際に起きた熱が加わったことで発に繋がった。
核、つまりコアと呼ばれる部分には従來の隕石では考えられない、電子をもった鉱を含んでいたと思われる。また、大変珍しい発火の強い鉱も含まれていた可能が高い。この電子が急激な熱によって発的に熱膨張を起こし、これに比例してその鉱も熱源に反応し放電を起こしたと考えられる。このため、隕石は瞬時に発するに至り、この発により大量の電荷を発生させた……。
要は一個が大発したとき、同時に放電現象が起きたということだ。それも大変な量の電荷があったというから、それにより周囲にあった隕石群にも瞬く間に拡散していき、これら隕石群が反応し同様の現象を引き起こした。おそらく、これだけであれば今度のようなことにはならなかった。というのも隕石が分離していく過程で、偶然にも隕石群は半ば円を描くように落下してきたということだ」
「円を描くように落下したことが問題だっていうのか」
「そうだ。この時発により発生した大量の電流は、瞬時にして一つの円を描きながら放電していった。全くの偶然だったろうが、この結果一つのサークルが完し、その中央で発した隕石に必要以上の荷重がかかったのだ。
荷重がかかった発はヒロシマやナガサキの原のなくとも數百倍、現実にはさらにその一〇倍以上もの威力を伴った発を起こし、かつその発の際に発生したエネルギーが形された電気の渦の中心に流れ込んだ。これにより発生したのが例のツングースカ・バタフライというわけだな。
中心に流れ込んだ大量の電荷と発によるエネルギーが一つの歪みを生み出した。そして、そこで観測しうる最初のタイムワープが発生した」
「ツングースカで、最初のタイムワープが……」
レオンの発した言葉に俺は惚けたように口をついていた。確かに宇宙から飛來してきたものが起こす気まぐれなど、それを正確に計算されたものだとするなら、それこそ天文學的な數値なのは間違いない。この天の気まぐれによって、偶然にもタイムワープと似た現象が起きたというのだ。
それで分かった。この目の前の巨大な裝置が転送裝置というのは、おそらくタイムワープの過程で起きた副産に過ぎないのだろうと。だからこそ、連中は実際に起きた発の威力は今言われている數字よりも大きいといったのだ。俺はそっちのほうの頭はまるで持ってないので理解しようもないし、仮に理解できるくらいの頭を持ち合わせたところで、それを信じきることもできないかもしれない。
しかし、だとしてもツングースカの大発を再現するために様々な実験を行ってきた連中が、それにより生み出された大量の副産が今、世界で新型兵として使用されだしているという事実は変わらない。
「こうしてできた時空の歪みは、我々の持つ概念を大きく覆した。その際に起きたエネルギーの質量は凄まじく、その余波をけて周辺の生態系にすら影響させた。発現場周辺の生たちが伝的に変質したりしたというのは聞いたろう? 木々の年にそれ以上の長が見れなくなったり年が何倍もの速度で増えたのも、この時空の歪みが発するエネルギーの余波をけたためだ。
普通であれば、我々は數多ののや、植の葉や、を食べてエネルギーを供給する。植であれば、土中の養分に水、それと太からのを浴びて長するように、歪みが発生させるエネルギーにもまた、地球上に存在する全ての植に影響を與えることができる何らかのエネルギーが備わっているということだ。
しかし、歪みが発生させるエネルギーの余波はあまりに強すぎて、並みの生では影響が強く出過ぎるのだ。もちろん、それは通常人間にも同じことがいえる。過剰すぎるエネルギーの供給にが耐えられるはずもなく、伝子に強く作用してしまう。伝子が影響をけるというのはお前も知っているはずだ。がんの治療などで使われる、微弱な放線を使って行うあれさ。
だが、この発で起きたのは放能とは違う別のものだ。これをけると、全ての有機は伝的な変質作用を引き起こす。この変質は、我々が幾多の実験を繰り返してきた結果、一定のものではないことが分かっている。ある場合は伝的に何度も複寫され、同じ場所から手足が二本生えてくる。ある場合は伝的に本來置かなければならない配列が違う場所に組み込まれ、にあるべき部分になく、全く別の部分にそれが現れるといった合にな」
レオンの説明を聞いて俺は以前田神から聞いていたことを思い出していた。なぜそんなことが起きるのか分からなかったが、発によって生み出された空間の歪みは、生の伝子を組み替えてしまうような、なんらかのエネルギーを発していたからだったのだ。ふと、そんなことが起こりうるものかとも考えたが、確かにがん治療の例えも頷ける話で、がんというのがそもそも伝子の突然変異による疾患だと聞いたことがあり、だとするならそれを促す作用を持ったエネルギーがあっても不思議ではない。
ただ、今回の場合はがんなどのような悪腫瘍などを引き起こす類のものとは違い、もっと伝的に未完……とでも表現していいのか、そんな概念に近いように思われる現象が起きるということだろう。そう理解して俺は質問をぶつけた。
「伝的に疾患が起こるってのは聞いてたからな、これが原因というならそうなのかもしれない。だが……伝子なんて良くわからないからなんて言っていいのかわからんがな、伝的な組み合わせが変わって別のものになりうるのか」
「このエネルギーの持つ力は絶大だ、これですらほんのわずかに過ぎん。今天井から打ち込んだ赤いエネルギーの強さによって、得られる力が大いに変化するという結果も分かっている。その度合いが強ければ、お前のいうこともあるいは十二分に起こりうるだろう。その変質に細胞がついていけるとは思えんが、ついていくことができればそれこそ人類が夢に見た不老不死すらも可能かもしれん。
なんせ、ツングースカの隕石にはNEABという未知の質が存在していたからな。なくとも、あそこにいる化もまたそのNEABによって変質してしまった人間の一人なのだ」
弾みというわけでもなく、ただ流れでらしたレオンの最後の一言に俺は男のほうを向かざるを得なかった。今、こいつは間違いなく人間だと言った。あの狼人間は、まさか人間だというのか……。
「驚くことはあるまい? お前も言っていたではないか、人実験しているんだろうとな。そうとも、あれは人実験の過程で生まれたものさ。もっとも私もそう聞いているだけで、どのようなプロセスがあったのかは知らんがな。あくまで協力者からあれを譲りけたに過ぎん。
その協力者が言っていたよ、この実験にNEABを使った生み出したこの”兵”が存分に役立つはずだとね。彼の言ったとおり、本當にあれは役立っているよ。そしてそこから得られたのは、NEABはあのエネルギーに対して活発なきを見せるということだ。NEABの特異な質はもう言わずともいいな。
他の生の持つアミノ酸に結合し細胞にを張っていくという質は、過剰に與えられたエネルギーに反応し、本來その種を構する上で必要のなかった劣等伝子をも刺激するのだ。刺激されたこの伝子が、ついには寄生された生を全く別の種へと変貌させる。目下の問題は、得られるエネルギーの度合いによってどの劣等伝子が反応するのか、ということだな。
それが反応することにより、細胞は徐々に反応した伝子に適応するために、自らを構する形をも変化させていく。こうしてNEABの宿主は姿かたちを変えざるを得なくなり、結果全く別の種として生まれ変わる」
俺は睨むようにレオンを見ていた視線を眼下に移し、哀れな獣と化したかつての人間の姿を見つめた。一どんな人間だったのか、どんな経緯であんな運命をたどることになったのか知る由はないが、だとしても好きであんな姿になったわけではないということだけは間違いないはずだ。
「そうそう、中には退進化といってもいい現象も起きた。これは生命力の弱い生命によくあったものだ。生まれながらにして、生命としての形を持っていないという、極めて稀な例だった。説明したので繰り返さないが、本來なら新しい形になるはずだったはずが、どういうわけか退化したような、羊水に漂う數多の細胞群になったというものさ」
つまり、本來は結合し、生として一つの形にならなければならないところ、全ての細胞が個々にバラバラに分離したというのだ。分離してしまった細胞は、當然生きれるはずがなく、そのまま死んでしまったという。羊水に浸ったまま生としての存在を退化させられたなど、考えただけでも罪作りなものだがこいつはそう思っていないらしい。
これまでも頭のイっている連中は何人も見てきたが、どうやらこの男もそんな人間の一人のようだ。俺からしてみれば、多は良心の呵責といいうものが働くものと思うが、どうしてこういう連中はこんなにまでぶっ飛んでいるのか。そこまでして利益だとか名聲、あるいは権力だとかいった自己権威を持ちたがるなんて俺にはまるで理解できない。
俺のそんな態度が出ていいたのか、はたまたそれが當たり前だからこそ見越して先読みしていたのかは知らないが、男がいった。
「そんな顔をするなクキ。これも仕方がない。一度き出した巨大な歯車は、もう誰にも止められんのだ。お前にだって分かるだろう」
「だとしても、俺は自分がやめると決めたらやめるがな」
こんな野郎とほんの一ミリとだって同じ考えを持ちたくないと思った俺は、お前とは永久に分かり合えることはないというのを強調するように、嫌悪を滲ませながら返した。こうした俺の態度に野郎はただ黙って見下ろしながら、肩をすくませた。愚かな、とでも心で思っているのだだろう。
「ふん、まぁいい。だがこれでわかったろう、これが武田が世界に部隊を展開しようとした理由の大きな要因だ。あの男は、どういうわけかこのシステムのことを聞きつけ、気づけば私の周囲にいた。始め、私は愚かにもあの男に魅了され、奴の世界をにかけた行に共し自のもつ技をも流用させた。だが、たとえそうだとしても私にも立場というものがある。ここの存在だけは教えなかった。
ところがあの男はだんだんに要求をエスカレートさせていき、ついには今どんな実験を行っているのかということまで首を突っ込んでくるようになった。そこからさ、あの男のことが鼻持ちならない奴だと思うようになったのは。そして案の定、あの男はこれまで集めてきた人間をこぞって武裝化させ、ついには個人で軍隊を持つに至った。
……今思えば、なんであんな人間の行をもっと早く見抜けなかったのかとも思うがな。どういうわけか、あの男は人の隙につけるのが上手いのだ。ごもっともらしくいって、相手を納得させ、それを続けていき知らず知らずのうちに洗脳していくのだろう。お前も會ったことがあるなら分かるだろう? あの男の持つ獨特の雰囲気を」
「ああ。だが、俺は初めからあの野郎のことはどうにも気に食わなかったぜ。おまけに、なんの因果か知らんが、元々俺の命を狙ってたらしいしな。もし次に奴と會ったときは野郎の心臓に鉛玉をぶち込むさ、必ずな」
不意にレオンが口元を吊り上げた。まるで俺がこういうのを待っていたかのような、そんなじにも思えるタイミングだ。
「そうだろう。だからこそお前をここに呼んだ価値があるというものだよ、クキ」
「まさか、俺に奴を監視しろだとか、そんな面倒を押し付けようって気じゃないだろうな」
俺はどことなく嫌な気持ちになりながら喚く。こういう連中が含みを効かせる時というのは、嫌なことしか言わないということは理解しているので、余計に口うるさくなってしまう。
「いいや、そんなことはしなくていいさ。我々はある実験から、あの男に興味を持ったのだ。そこで、あの男を捕らえてほしいのだ」
「捕らえてほしいだと? 馬鹿いうなよ、俺にそんなことできるわけないだろうが。今野郎がどこにいるかも判らないというのに。俺から言わせてもらえりゃ、そっちのほうが遙かに面倒だぜ。
第一、俺は奴を捉える気なんざないね。俺は奴の心臓のきを止めるために奴を追うんだ。これ以外に奴と會う理由なんて必要ない。もし生きて捕らえたいなら他を當たるんだな」
そんな俺の臺詞もこの男はお見通しだったのか、続けざまに切り返す。
「そうかな? 私にはお前が嬉々として奴を捕らえようとする姿が思い浮かべることができるぞ。クキ、私たちが何も知らずにお前を選んだと思うか? お前がなぜ殺し屋などという世界に飛び込んでいったのか……もし、お前の家族が再び一緒になれるかもしれないといったらどうかな」
ニヤリと粘っこい、蛇を思わせるような一段と癪に障る笑みを浮かべた男が、妙なことを口走りだした。俺たち家族が一緒になれるかもしれないだと? おまけに俺が殺し屋になったその理由すら知っているというのか、こいつは。
いや、ありえない話じゃない。俺はここロシアで、確かにひと騒を起こしただ、そこから連中が俺の素を追っていくことになったというのは十二分に有り得る話なのだ。おまけに、このロシアという國は世界でも最も優れた諜報機関を有している國で、とりわけ工作技については折り紙つきだ。おおまけに、直々に仕込まれた俺がそうなのだから、それを疑うことなどおかしな話ではないか。
それどころか、この男は俺に妹がおり、その妹が失蹤したということまで言い當てた。以降、元から他を信じない俺の格に拍車をかけ、現在に至ったといいうことを。行心理學などいくつかの見地から、それは間違いないと分析していたのだ。もちろん、連中は俺がイギリスにいたこと、一時はフランスにも訪れたことなど、俺の過去をまるで自慢話のように赤々にしていく野郎に、俺はもう十分だといって話を止めさせる。
「結局何がいいたいんだ。おまえらのことだから、俺の家族のこともどうなったのか分かってるんだろうがな、家族と一緒になる? はっ、んなことができるもんかよ。あまりに非現実的だぜ」
親父は今どうしてるのか不明だが、まだ生きているし、妹に関しては々問題がないというわけではないがこの通りだ。唯一母だけはもう死んだ。俺の腕の中で、靜かに息を引き取ったのを昨日のように覚えている。心殘りが全くないというわけじゃない。もし母も失わずにいれるとしたらどれだけ良いだろう。
だが、そんなものは所詮夢語だ。今のままでも、これだけでも十分ではないか。結果論で全てを語ろうという気は頭ないが、それでも母を失わなければ、あるいは俺がこの男のいうような行を取るようになったという確証はない。俺が危険を冒してでもそうしようと考えたのは、母の死がきっかけだった。
いいかえれば、母を失う代わりに、俺は妹を手にれたともいえるかもしれないのだ。考えとしてはあまり気持ちのいいものではないが、そういう一面がないとはいえない。母とて、自分の生んだ子が離れ離れでい続けるよりは、いくらかは喜んでいてくれていると思いたい。
にも関わらず、一緒になれるかもしれないとは一どういう意味だ。行心理學やらなんやらと小難しいことをいって持ち上げてきたが、こいつらがそんな母親のことを知らないわけがない。それだけに、こいつの言ったことが妙に引っかかる。まるで俺ようなのそういった考えすら、些細なことで頭を悩ませている思春期の年と同じだといっているかのような、どこか人を小馬鹿にしているような含みがじられる。
「言葉の通りさ。失われた妹と母親も、全てを元に戻してやると言ってるのだ」
「はっ、そんな夢語、誰が信じるって言うんだ。今時、小學生のガキだって信じないぜ」
皮を込めていう俺に、レオンは一切それを介することなく続けた。
「ふふ、それができるといったらどうだ? いったろう、この目の前に広がる巨大な裝置は、全てツングースカの発で起きた全てを再現するための裝置だと」
「馬鹿な。これは転送裝置ではなく、まさかタイムマシンだとでも言いたいのか」
「だからそういっているのだ。転送裝置としての役割などほんの一端に過ぎんのだ。これの最終目標は、時間軸の流れを質を自由に行き來させるためなのだ。そう、タイムマシンなのだよ、これは。
我々は世界のどこよりも早く、タイムマシンという神の領域にすら踏み込んだのだ。いいや、もはや神すらも時間の中を自由に行き來したわけではない。つまり、我々は神すらも超越したのだ」
レオンはここで初めて、至って真面目な顔になり高らかにそう告げた。その様子に俺はただ、何度目かもわからない息を飲み込むだけだった。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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8 188【本編完結済】 拝啓勇者様。幼女に転生したので、もう國には戻れません! ~伝説の魔女は二度目の人生でも最強でした~ 【書籍発売中&コミカライズ企畫進行中】
【本編完結済】 2022年4月5日 ぶんか社BKブックスより書籍第1巻が発売になりました。続けて第2巻も9月5日に発売予定です。 また、コミカライズ企畫も進行中。 これもひとえに皆様の応援のおかげです。本當にありがとうございました。 低身長金髪ロリ魔女が暴れまくる成り上がりの物語。 元チート級魔女の生き殘りを賭けた戦いの記録。 212歳の最強魔女アニエスは、魔王討伐の最終決戦で深手を負って死にかける。 仲間を逃がすために自ら犠牲になったアニエスは転生魔法によって生き返りを図るが、なぜか転生先は三歳の幼女だった!? これまで魔法と王國のためだけに己の人生を捧げて來た、元最強魔女が歩む第二の人生とは。 見た目は幼女、中身は212歳。 ロリババアな魔女をめぐる様々な出來事と策略、陰謀、そして周囲の人間たちの思惑を描いていきます。 第一部「幼女期編」完結しました。 150話までお付き合いいただき、ありがとうございました。 第二部「少女期編」始まりました。 低身長童顔ロリ細身巨乳金髪ドリル縦ロールにクラスチェンジした、老害リタの橫暴ぶりを引き続きお楽しみください。 2021年9月28日 特集ページ「今日の一冊」に掲載されました。 書籍化&コミカライズ決まりました。 これもひとえに皆様の応援のおかげです。ありがとうございました。 2022年2月17日 書籍化に伴いまして、タイトルを変更しました。 舊タイトルは「ロリババアと愉快な仲間たち ――転生したら幼女だった!? 老害ロリ魔女無雙で生き殘る!! ぬぉー!!」です。 2022年2月23日 本編完結しました。 長らくのお付き合いに感謝いたします。ありがとうございました。 900萬PVありがとうございました。こうして書き続けられるのも、読者の皆様のおかげです。 この作品は「カクヨム」「ハーメルン」にも投稿しています。 ※本作品は「黒井ちくわ」の著作物であり、無斷転載、複製、改変等は禁止します。
8 112女の子を助けたら いつの間にかハーレムが出來上がっていたんだが ~2nd season~
高校卒業から7年後。ガーナでの生活にも慣れ、たくさんの子寶にも恵まれて、皆と楽しくやっていた大和。 しかし、大和と理子の子であり、今作の主人公でもある稲木日向は、父に不満があるようで・・・? 一途な日向と、その周りが織り成す、學園ラブコメディ。・・・多分。
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いじめのせいで不登校になっていた少年、夜月 帳(よるづき とばり)は、自分が引きこもっている間にパンデミックが起こり、世界中がゾンビで溢れかえっていることを知る。その中でトバリは、ゾンビと化した幼なじみの少女、剎那(せつな)に噛まれ、一度意識を失ってしまう。しかし目が覚めると、トバリはゾンビを操ることができるようになっていた。ゾンビになった剎那を好き放題にしたトバリは、決意する。この力を使って、自分を虐げていたクラスメイトたちを、ゾンビの餌にすることを。終わってしまった世界を舞臺に、トバリの復讐劇が今始まる! ※この作品は『小説家になろう』様でも掲載しています。
8 154戦力より戦略。
ただの引きこもりニートゲーマーがゲームの世界に入ってしまった! ただしそのレベルは予想外の??レベル! そっちかよ!!と思いつつ、とりあえず周りの世界を見物していると衝撃の事実が?!
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