《いつか見た夢》第117章
暗い夜道を一人、ぽつんと待っている男がいた。見つめる先には、つい先ほど曲がってきた目抜き通りへと続くそれなりの通量のある道路で、そこを何臺といわずに大小の車が列をなしているのが見えた。近くには主要駅があるため、家族や人、あるいは友人の送り迎えのための車ばかりだというのが、列をなす家庭用車種の多さから窺える。
すでに夜の帰宅ラッシュという時間帯にあたるため、その混雑さは運転する人間をうんざりさせるには十分なものだ。そんな彼らを包み込む暗雲たる気持ちを代弁したかのように、ばらばらと大粒の雨が降り続いていた。いや、この季節はずれの大雨のせいで人々の心のに暗雲を立ち込めさせたと言ったほうが正確だろう。
この突然の大雨の影響で、普段ならもっとスムースな車の流れが、今日ばかりはほとんどきがない。おそらく駅のロータリーまでこの渋滯が続いているのだろうと、男はその車の停滯ぶりを見つめながら思う。これなら逆に歩いていったほうがいいのだろうが、いかんせん今日はどういうわけか、それすらも躊躇われるほどの強烈な雨足だった。
晝間にたまたま見た天気予報では、なくとも今日からの三日か四日は雨が降り続けるという予報になっていた。明日には東京だけでなく、北海道をも含む日本列島全域が雨雲に隠れるという話らしいが、そんなことは観測史上始まって以來のことだといい、これも近年ばれる異常気象のせいではないかという話も聞こえてくる。
事実、男だって仕事がなければ、好き好んでこんな大降りの雨の中を一人外で待つなんてことは避けたいが、それも仕方ない。しかも、こんな雑居ビルの間に挾まれた薄汚い裏路地となると余計だった。だが、人目のつかないところで、ということでここで待ち合わせることになったのだから、これも仕方ないだろう。
暇を持て余していた男はおもむろに、よれよれなスーツのポケットからくしゃくしゃになったタバコの箱を摑んで出すと、一本取り出して口にくわえた。スーツの右のポケットには安い一〇〇円ライターがあり、それも取り出すや火をつけた。雨に消えないよう手でかざしながらタバコに火をつけるが、あまりに強いからなのか、ただでさえアルコールのなさに加えて頼りない火は、タバコに火をつけることすらままならない。
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何度か試みるが、なかったアルコールがついに切れてしまったのか、ライターは何度火を起こそうともまるで反応しなくなり、ついにはタバコすら吸えずじまいだった。
「ちっ、まだかよ」
男は吸いたくても吸えなくなったタバコをくわえたまま、半ば自棄になりながらそう吐き捨てた。スーツのポケットに使いにならなくなったライターとともにくわえたタバコを放り込む。そうしてビルの壁に背中からもたれかかると、その背中にスーツとシャツ越しにコンクリートの冷たさを伝えてくる。
ふと男の脳裏に、待ち人來ずなどといった言葉が浮かんだ。まさか、呼ぶだけ呼んでおいて約束を忘れているんではあるまいかという、嫌な予に頭が支配されそうになったときだ。見つめる通りに続く真っ直ぐな路地にようやく人影が見え、その影がこちらに向かってやって來た。
「約束の時間はとっくに過ぎてんだぞ」
「そういうなよ。こっちだって必ず時間通りに行くとは一言もいってないさ。こちとらあんたと違って、もう數時間後には日本を離れなくちゃならない。準備もあるってもんなんだ」
ようやくやって來たその人は、努めて明るくそういった。まるでこの雨を予想していたかのような、全を雨ガッパに包みこんでいて、フードを被った頭は遮られて窺うことができない。ただ、その聲からまだ十分に若い男だということだけは判斷できる。よくいる不良グループだとか、近年囁かれる半グレといったタイプの人間なのかとも思ったが、どうもその類とは勝手が違うように思われた。
「で、九鬼については」
「ご執心だね。ま、俺は金さえ払ってもらえりゃなんだっていいけどね。ほらよ」
そういって雨ガッパの男が手渡してきたのは、茶い封筒だった。男が黙ってそれを取ろうとするが、雨ガッパの男はそういかないという意思表示なのか強く封筒を握ったまま手放さない。
「おいおい、まずは禮が先だろ?」
「ちっ、最近のガキは隨分と生意気じゃねえか」
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「違うね。あんたは料理を注文して食ったのに、料金を払わないつもりか? そうじゃないだろう。こいつはれっきとしたビジネスなんだよ。俺だってこれに人生かけてんだ」
そこまで言われては男も金を払わざるを得ない。場合によっては金を支払わずに済まそうとも考えていたが、先を越されてしまった。もちろん、始めから金を支払わない魂膽でいたわけではないが、現れた奴が自分よりもずっと若い奴だと分かって、ついそうしようと考えてしまったのだ。だが、やはり向こうもそれなりにプロだというのが、このやりとりから判斷できる。
男は舌打ちしながら、スーツのズボンからくしゃくしゃになった一萬円札を取りだし、雨ガッパの男に投げつけるように渡した。それをけ取ったところで、ようやく男の手に封筒が渡る。この大粒の雨に表面が水分を含んでしまい、くたくたになりつつあった。男はそんなことはお構いなしにその頭を破って、取り出した中をしげしげと見つめる。
「それじゃぁまた頼むぜ」
男の様子に満足したのか雨ガッパの男は振り向き立ち去ろうとするが、それを男が呼び止める。
「待て。お前とこいつの関係は」
歩き出した雨ガッパの男がその言葉に反応してきを止めた。ゆらりと振り向いたその仕草がどこか稽だった。
「あんたにゃ関係ないさ。単に昔の知り合いだったってだけさ、その男……九鬼とは」
「知り合い……つまり、おまえもあの野郎の仲間だったってのか、え」
凄む男に雨ガッパは仰々しく肩をすくめ、んなことは関係ないさといった。
「仲間とはちょっと違うね。だが、一つだけ忠告しておくよ。あんた、もう手を引いておいたほうがのためだぜ。これ以上首を突っ込んだら、あんたの命はないと思った方がいい」
「はっ、おまえみたいなガキに心配されるほど落ちぶれちゃねえよ」
馬鹿にすんなと、男の言葉には興味などなく、雨ガッパは再び踵を返し、暗い路地へと消えていった。大粒の雨が降りしきる中、傘もささずに待っていた男だが、前にも雨の中でのやり取りを求めてきたのを思い出していた。とにかく素が知れない報屋というのもいないこともないが、あのような奴も珍しい。
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消えていった路地を見つめていた男だが、すぐに興味は手渡された封筒のほうに移っていた。ようやく摑んだ、あの九鬼という男の正、そして今まで記憶の中で引っかかっていたその名に覚えのあった男の正が、そこには確かに記録されていた。そして、それを見た男は、記憶に引っかかっていたそれをようやく思い出すことができたのである。
「九鬼……まさか、あの時のあいつだったなんてな」
男の記憶に蘇っていたもの、それはもう六年以上も前にあった一件の失蹤事件だった。當時、まだ中學校を卒業したばかりのが忽然と姿を消したというもので、懸命な捜査にも関わらず、結局なんの手がかりも摑めないばかりか、進展のない事件だったためなのか、上が突然の捜査中止を告げてきたために打ち切らてしまった事件だ。
自分の事件ということはなく、當時の擔當となったのが、今は亡き畠という刑事だ。彼は叩き上げの刑事だったが能力もあり、上への昇進も求められていたにも関わらず現場を好んだ変わり者だった。粘り強く、被害者の目線に立って捜査するという姿は、まだ若かった自分の將來の姿寫しのようであり、また刑事という職の鑑でもあって素直に尊敬できたものだった。その畠が、定年も間近になり、おそらく最後のヤマになるといって出かけた矢先、そこで殉職してしまったのだ。
男は、その加害者がまさか、あの時の事件の被害者の親族だったなんて考えもしなかった。あの事件は結局ほとんど捜査の進展がなかったため、家族にはなにも報いることができなかった。おまけに、この資料を見ると、母親もあの事件の一年後には亡くなったと書いてあり、その後父はO市に移り住んだとある。この九鬼だけは父親についていくこともなく留まったらしいが、それも束の間、數日とせずに行方をくらましていたとあった。
行方をくらました後、あの男がどうなったのか、それについてもこの資料には書かれているはずだから、あの男の機が分かるかもしれない。おそらく、こいつと妹の失蹤はなんらかの形で結ばれているに違いないはずだ。刑事として過ごしてきた経験からくる勘ではあるが、たいていの場合はそれが実を結ぶ。なくとも、九鬼の経緯を知るだけでもしは進展をするかもしれない。
男は資料を丸めてズボンとシャツの間に挾むように突っ込んだ。徐々に寒さが増してきていたため、しでも風を通さないよう上著の襟を立てて通りへ向かって歩き出した。今の九鬼はすでに男の記憶の中にいた年とは違う。理由がそうあれ、何がなんでも逮捕しなくてはならない存在だ。
「けっ、傷に浸るなんて俺らしくねえ」
男――南部は吐き捨てるようにつぶやいた。どんな理由があろうとも、人を殺していい理由などないはずだ。なくとも、畠はあんな死に方をしていいような人間じゃなかった。妹の失蹤が絡んでいるとしても、それを理由にできるようなものでもないのだ。若い頃によく畠に言われた、けじめというのがに染みて理解できた南部は、しでも雨に打たれまいと足早に地下鉄へと向かっていった。
ゴロゴロと目前を一臺の軍用車が通り過ぎていく。昨夜の吹雪でまたもや大量の積雪があったため、車両が通るには進むついでに雪をかき分けながらでないとならないためだ。かき分けられた雪はすぐに通りの脇によけられていくため、近くにある建は場合によっては雪をかぶってしまうことになり、時折壁にまで雪が當たっては地面に落ちていた。
車両はつい一時間かそこら前に、基地の口へと向かっていっていたので荷を降ろし終えた帰りだろうか。そこを出たとなると當然連中の向かう先はここを出て、再びどこか別の場所に向かって移するということだろう。一どこに向かうのか、どうでもいいことに興味を惹かれながらも去っていった車両後方を見つめながら考える。
ふと、ため息をついていた。そんな景をしばしば見かけていたからか、いい加減そんな景にも飽きてきていた。特に何をするでもなく、ただぼうっと変わり映えすることのない景を見続けていると、なんとなく自分も空虛になっていくのをじるからかもしれない。これが毎日の多忙さから解放されるためならばたまにはれも良いのだろうが、俺の場合は単に現実逃避というから笑えない。
つい昨日のことだ。今いるツングースカ基地の責任者であるレオンという男と出會い、彼がこのツングースカのを教えてくれたのだ。もちろん今いるこの町が実際には、どんな地図にも載ることのない都市であることから、もツングースカにあるのがとんでもないだということくらいは予想がついた。
しかし、そこで行われていたのは、俺の想像を遙かに絶するものだった。おそらく地下に軽く一キロ以上、周囲二〇キロに及ぶ巨大すぎる裝置は元より、ここではクレムリンの連中ですらほとんど知ることのないタイムワープの実験を行っているというのだ。それだけでも信じられないことだが、連中はその過程で、すでにの転送裝置すら完させたというから、これを驚かざるしてなんといえばいいのか。
しかもそれだけじゃない。連中がこんな巨大な実験と裝置を作ったのも、そもそもかつてツングースカ上空で起きた隕石による発事件が発端なのだという。すでに一〇〇年以上も前に起きた事件だが、この際に起こった事象を再現させるための裝置として、この巨大基地は存在しているらしい。
途方もない計畫だが、そんな途方もない計畫が立案したのがかのスターリンだというから、基地の規模もさることながら。その歩んだ歴史も大したものである。レオンの言い分によれば、それが舊ソ連の歴史と重なるため、まさしく舊ソ連の真の歴史だといったも過言でもなく、事実ここからでは、すでに次世代兵の開発も行われているというから本當に大規模だというのがよく分かる。
なにより、この裝置がほぼ完の域に達しているというのが最も驚かれることだった。レオンがいうには、すでにタイムワープとしての実験は行われており、果も出ているのだというのだ。彼はそこで得られたデータは見せられないとした上で、近未來及び近い過去にまではを転送できるといい、その一端を見せた。
さすがにこの連中にも、しは人としての道理というのが存在していたようで、まず送られたのは人間などではなく言わぬ無機な存在だった。それは何千トンもある巨大な巖石で、それを時空の彼方に飛ばすことに功したという。この結果、巖石はアメリカのある山に衝突し、巨大な噴火を引き起こしたというのだ。
その噴火というのが一九八〇年に起きたアメリカ、ワシントン州にあるセント・ヘレンズ山の噴火だというのだ。まさか、そんな話を信じられるはずがないが、山が見事に崩壊したセント・ヘレンズ山にできた巨大な噴火口は、まさに隕石の落下により形されるクレーターのような形になっており、言われてみるとそんな気がしないでもないという位には思える。
なぜアメリカなのだという疑問にもレオンは答えていた。これも、すでに裝置の周囲が地球の周囲に対し二〇〇〇分の一ということがヒントだった。つまり、あの巨大な裝置の底は、地球上を模しており、そこを座標指定することで自由に送り込めるということらしい。もちろん、単純に二〇〇〇分の一だからといって簡単にその座標通りに送り込めるわけではなかったらしい。
セント・ヘレンズの大噴火は、このときの座標の微調整を行わかったゆえの事故であるらしい。そのため連中は、より座標ポイントを正確に行うために地球上をありとあらゆる方向から観測し、その度向上に務めた。これを実現するのに一役買ったのが、かつてアメリカと競うように行われていた宇宙開発には、いつからか、この裝置の運営のために行われた一面もあるというのだ。
確かに舊ソ連は、人工衛星打上げや有人宇宙飛行に留まらず、無人機による月面著陸、宇宙ステーションといった宇宙開発計畫の分野において、いくつもの世界初を打ち立てた最先端の國家である。特に今でこそロケットの打上げ回數はアメリカのほうが上回っているというが、舊ソ連の場合はほとんど極に行っており、事実上もっとも多くの人工衛星の打上げを功させているのが舊ソ連であり、その國家継承をしたロシアなのである。
レオンがいうには、その打上げが極に行われた最大の理由の一つに、この裝置に必要となる衛生からの座標位置の割り出しを行うためなのだという。そのデータを元に、あの巨大な裝置に地球の二〇〇〇分の一という、比較的近い數字に裝置の大きさが決められたということだろう。つまり、衛生にも何かしらの転送裝置のために必要なエネルギーが積み込まれているのかもしれない。その辺りは質問してもレオンは答えることがなかったので推測でしかないが、おおよそそんな合だろう。
しかし、転送自が功しはしたものの裝置が完璧というには言い難く、結局のところいくつかの課題を殘す形となった。まず、スイッチの起から各衛生に送られる信號にわずかなタイムラグが発生するということ、転送中に巖石の一部がセント・ヘレンズの奧深くに殘ってしまったらしいこと、何より転送後出現位置に多大な地形的変化およびその被害が大きすぎたということなどが挙げられる。
つまり全を通じて、裝置の度が舊ソ連の研究者が思っていたよりも低かったということであり、さらなる度向上が求められたということにもなる。同時に、この実験は西側の大國であるアメリカの持つ対ソへの火を焚きつけることとなる。これで、アメリカがかつて一九八〇年代という時代に行った軍主導による、異様ともいえるタイムワープの実験を行うことにしたのか、その理由が判明した。
連中からしてみれば回數こそ多くとも、史上初という偉業はいつもソ連に奪われていたわけであり、たとえそれが冷戦が収束に向かい、世界にようやく平和が訪れようとしていた頃であっても、一度焚きつけられ、叩きつけられた挑戦狀はけないわけにもいかなかっただろう。もっとも、それは二一世紀にった現在においても変わらないが。
そして舊ソ連にとってもそれは同様で、自分たちの技が現制では限界が近いことも分かっていたのだ。つまり舊制では、いくら優秀なスパイを量産しようと、それにも限界があるのは俺がに染みて分かっていることであり、クレムリンの連中にもまた分かっていた事実である。そこで連中は開かれたソ連を演出し、資本主義からその技を流しやすくするという路線転換をしたわけだ。
これに當時抱えていた多くの問題にカムフラージュさせ、舊ソ連崩壊という歴史的大事件を自ら引き起こした。開かれたとはいっても、舊ソ連崩壊という事件と共に機とされていた多くの事柄もまた闇へと葬られたことにもなった。崩壊した舊制からは多くの亡命者も現れ、彼らは舊制時にの任をけ、世界に散り散りになっていく。もちろん、すでにその第一陣、第二陣、あるいは第三陣として多くの亡命民が西側諸國に流れたのは言わずもながらである。
中にはそれこそ、アレクセイ、ノーマン・ガルーキン兄弟の両親のような人もいる。これについても舊ソ連は実に気の遠くなるような時間をかけた計畫を打ち出したのだ。優秀な學者であった二人が亡命した先はアメリカであり、そのアメリカを拠點に二人の息子にスパイとしての教育をけさせているほどなので、自然発生的に西側にいながら対西側思想を持ち合わせた人間を量産していくという、なんとも気の遠くなるような計畫を持ち上げた。
彼らはアメリカでの生活をしていく上で、自然とアメリカの現狀を知り、同時に生まれながらのソ連側のスパイとしての格も持ち合わせた。レオンによれば、そういう人間が西側諸國を中心になくとも數萬人が生活しており、いつでも、あるいは常に報員、工作員としての活を行うというから、長期的な戦略としては大した功を治めたといっても過言ではないだろう。
おまけに彼らには、ロシア側からも西側諸國で生活に困ることのない程度に報酬も支払われているというから、まさしく致せり盡くせりである。そして何より、亡命した人間は全員が舊ソ連時代にそれなりの役職や立場に就いていた人間ばかりだというから、ほぼ全員が國粋主義者であるといってもいい。
そんな人間ばかりが亡命という形でスパイとして送り込まれたのだから、ソ連、新制のロシアにそれらの新技や報が流されたことは想像に難くない。なくとも、ガルーキン兄弟を見ている限りでは、十分に功していると考えていいだろう。ただし、あの兄弟に関しては最後の最後で俺と関わり、命を落とすだけでなく與えられた任務まで失敗してしまったので全てというわけでもないが。
ともあれ、これまでの閉鎖的な舊ソ連とは違ってオープンになったロシアというのを演出してみせたのは、見事としかいいようがない。特に一九九〇年代後半以降は、より資本主義的、あるいは民主主義的な一面を強く見せていたこともあり、世界的なロシアの印象は表面的には大分変わったといってもいいかもしれない。こうした政策は、あまり効果がないように思われるかもしれないがかなり有効である。
実際のところ、それ以前を知っている人間からすると突然オープンになっても、それ以前のイメージのせいで戸いか、あるいは疑の念があるくらいだろうが、それもある程度の時間、年月が経てば徐々にその新たなイメージに馴染んでいき、意外なほどに互いがオープンになるというものなのだ。
國家のトップくらいになれば、そんなのはあくまで表面的な対外向けの仮面に過ぎないと冷靜な対応をするだろうが、これが一般レベルになるとそうはいかない。中にはそれを見抜ける奴だっているだろうが、そんな人間はごく一部だ。ほとんどの人間は大抵その対外的な仮面に騙され、そこから友好関係を築こうものなら、いらぬことまで口走ってしまうのは目に見えている。
そうした辺りから徐々に狹かったはずの門が徐々に開かれていき、ついには會社の機や新技までが奪われてしまうということに陥りかねないのだ。いや、そうした長期的に心理的な作戦を用いて舊ソ連のスパイどもは世界中で今なお暗躍しているのだ。こうして、かつては一級の殺人機械を育て上げることに注力した組織は、遅ればせながらも産業スパイを量産することで、手間も時間もかかる俺のような殺人機械よりも高効率的に敵の報を盜み出すことに功したというわけだ。
だが、俺みたいな殺人機械を完全に黙殺したわけではないというのは、水面下で行われているという地下戦爭で明らかである。単獨でける者、あるいは組織だってく者、その形態は様々だろうが、確実にそういう濡れ事に通した人間が未だに現場の最前線に投されているという事実が、クレムリンの連中が場合によりけりで使い続けている何よりの証拠だ。そして、おそらく現在はチームを結させ、その中で単獨にく者を同時に配置するという、中々に巧妙になりつつあるというのがでじ取ったことだった。
ガルーキン兄弟にしろ、あるいはドッグもそうだったし、これまで出會ってきたスパイのほとんどが単獨できつつも、常にそのバックグラウンドに何かしらのチームが存在していたので、たとえ頭が潰れなようとも、簡単に作戦が阻止されないような仕組みが取られているのだ。だから、一人が死んで任務が続行できなくなっても、チームの誰かが任務を引き継ぐことが簡単に可能になる。人數の全員が報を共有し、全員が単獨でけるような訓練をけているためだ。
そこでふと考えに耽けた。俺が今そんな世界でにかけるほどの有名人になってしまったのは、ある一人のスパイがクキという、俺らしき人間の名を置き土産として吐き捨てたせいだ。そいつにどんな企みがあったのか知らないが、このおかげで俺はどうにも狙われなくてはならなくなったというから、いかんともしがたいというのが本音だった。
そいつが産業スパイという話だったが本當のところどうなのだろう。いかんせん命を狙う敵の心當たりが多すぎて思い出せないということが手伝い、常に心のどこかにそのことが引っかかっていた。各國の諜報機関に名が割れたというのは、一殺し屋にとってあまりに危険なのだ。だが、今回ばかりはそれが逆に助かったという面がないわけでもないので、なんとも複雑な気分だった。
レオンの説明では、ある目的を果たすために俺を雇いたいというものだった。もし引きけてくれるなら、すぐにもロシア國での俺の容疑を帳消しにしてもいいという條件でだ。俺には願ってもない條件だが、その目的というのがどうにも胡散臭いもので、武田を始末してほしいというものだった。
もちろん、俺にとっては條件がどうあれ武田の始末をつけるのは當然だと考えているため、願いを出すなどどうでも良いことなのだ。あの野郎も俺の命を狙う人間の一人なのだ、そんな人間を放っておけるはずがない。奴が存在するだけで、俺の命はいつまでも危機に曬されたままというのだから、そうなるのは必然である。
となると自が取るべき選択肢は、やはり同じ目的でありながらより旨みのあるロシアと手を組むというのが、現段階では最上だというのは考えるまでもない。考えるまでもないのだが、どうにもあのレオンという男を信じることができないでいる。いや、信じる信じないの問題ではない。信じてはいけないのだ。奴の腹では、きっとそこで何かとてつもない企てをしているに違いないのだ。
これは経験則だが、奴のような人間は常に相手に飛びつけるような條件を出しては、自分たちはその上の甘いを吸いたいという思が常に存在しているはずなのだ。見上げた商人魂と似たもので、損得勘定で全てを片付け、かつ負けることはないという意味不明の自信を持っている連中なのだ。
俺はどうにもそういう商人魂とは正反対に當たる反骨らしい。もちろん、俺とてそういう駆け引きのある部分がないとはいわないが、それでもああいった人種を見ると、損得勘定など関係なしにその高々に示された天狗鼻を元からポッキリと折ってしまいたくなってしょうがない。いや、それは正確な表現ではない。二度とその鼻が再生することのないよう元からこそぎ奪い取ってしまいたいのだ。
(だってのに)
苦い表を浮かべた。俺は、俺という人間の本質を一瞬でも揺るがすほどの餌を與えられてしまったのだ。しかも、その餌というのが自分でも馬鹿げていると鼻で笑ってしまいたくなるようなもので、レオンの奴は破格の條件でそういってきた。だが、あんな條件を出されたら揺るがされても仕方ないのではないか。一瞬でも揺らいだ自分に、そんな言い訳をしている自分がいた。
ぼうっと目の前に広がるやや灰がかって見える雪世界を見つめる俺の服の袖が、不意に引かれた。
「こんなところにいたの」
「沙彌佳か」
どんなに待とうが一向に変わり映えするはずのない景を見つめていた俺に、いつの間にか店にってきていた沙彌佳が聲をかけた。そうして俺の隣の椅子を引いて腰掛ける。もっとも隣とはいっても、椅子は小さな丸テーブルを四方から囲むように四つ配置された形なので、隣というのは不正確だった。
「これ、飲まないの」
特に興味なさそうに沙彌佳は、なんとなく話題を作るためなのか視線を落とした。目の前には明なのウォッカがほとんど口つけられないまま置かれていた。酒がしくないわけではないが、どうにもウォッカは合わない。やはりウォッカよりもウィスキー、スコッチをがしているのがよく分かった。もっといえば渇とったほうが近いかもしれない。俺にとってはあれこそ酒であり、これはその模造品といった印象があった。実際にはそうでもないのだが、どうにも俺はウォッカを飲むと悪酔いしやすい質らしい。
この酒が示す通り俺は一人、酒場を訪れて酒を煽っていた。普通であれば、敵地のど真ん中で酒などと思うところだが、これもレオンの計らいで俺が答えを出すまでの間は、一切手を出さないと固く約束したからだった。レオンは、俺が答えを出すまで一日の猶予を與え、その間は誰にも手を出させないよう一級の命令で基地の人間に通達し、俺はもちろん、同行者である沙彌佳たちにもまた同じ條件で町を過ごしていいという、なんとも気前のいいことをいって、町にある簡易施設に泊まることすら許可した。
このおかげで、俺たちはようやく泥のように眠ることができたが、一度目が覚めるとすぐにここが敵地だということを思いだし、眠気などあっという間に吹き飛んでいった こうした経緯から俺は晝も過ぎてないうちから酒場に浸り、酒を煽っているという狀態になっていたのである。
「別にいい。なんならお前が飲んだっていい」
「いらないわ。こんな強そうなお酒、私は好きじゃない」
「そういえばお前は昔から酒はあまり強くなかったな」
いつだったか甘酒を飲んで眉をひそませていた沙彌佳を思いだし、俺は笑みを浮かべていた。
「別にいいじゃない。お酒なんてなくたってどうとでも生きていけるもの」
「おいおい、悪いだなんて一言もいってないぜ、俺は」
ニヤリと口元を吊り上げた俺に、沙彌佳はもう取り合いたくないと外の景のほうへとそっぽを向いた。そんな沙彌佳の様子がおかしくて、俺はつい意地悪してやりたくなるがこれ以上は沙彌佳も本気で嫌がるだろうと自粛しておき、代わりに姿の見えないもう一人のことが気に掛かり聞いた。
「遠藤は」
「彼のところ」
そう簡潔に告げた沙彌佳の言葉から察するに、遠藤は今レオンのところにいるらしい。この場において、もはや俺のの保証がされたこともあり、ここにいる間だけはしばかり羽をばさせてやってはどうだというレオンの提案に、俺と沙彌佳はその提案をけれた。というよりも、ほぼ一方的だったといったほうが正確か。
ただ、この申し出を飲めという意思を示したのは、他でもない沙彌佳だった。元々武田という共通の知り合いがいたこともあるだろうが、その方がいいと拒否しようとした俺を止め、どうやら沙彌佳には沙彌佳なりの考えがあるらしくその提案を飲んだのである。一どういう意図があってそのようにしたのか今だ俺には解りかねるが、今はそうしてという沙彌佳の言葉にもはや斷定の意味が込められているのを察して、仕方なくけれたのだ。
「そうか。なら、そろそろあのを野放しにする理由ってのを教えてくれ。もう後でっていうのは無しだ」
俺から話しかけるのは、いつもこんな事務的、あるいは仕事のことばかりで聞いている時分に辟易してくるが、どうしようもなくそれは仕方のない話だった。それでも、いつまでも沙彌佳もこんな態度ではこちらもどう接すればいいのか戸うのも當たり前というもので、それならばということになる。
しかし、沙彌佳もそう言われたところで特に気にした様子はないようだった。それに、元よりそれを言いに俺のところにきたのか、特に何かを隠すでもなくいった。
「あの人が私の知り合いというのはもう分かっているでしょう? 彼は私のこと知ってるのよ」
「お前のことって、まさか、その質のことか」
「そう。私がヨーロッパを活拠點にしていた頃に、彼とはあの人を通じて何度か會ったことがあるの。三度目に會った時、彼が突然私と二人だけで話がしたいといってこの質のことを言い當てたわ。そしたら、彼が実はロシア國のどこかでNEABについての実験をしてるって、自分で言い始めたの。
今思うその頃から彼、あの人と決別したかったのかもしれない。あの人、彼に対して私の知らないところで偵を送っていたみたいだから、危機を持ち始めていたのかも」
「確認するが、あの人ってのは武田のことか」
沙彌佳は首を縦に振った。あの人が武田ということは、ここでの彼というのはもちろんレオンのことを指しているということだろう。再會してからの沙彌佳はどうにも彼だとかあの人だとか、人のことを三人稱で指すから判りづらい。何か意図してそんな話し方をしているのか分からんが、なんでそんな遠まわしな言い方をするのか今ひとつ理解できない。それがどうにも、俺には今の沙彌佳を完全にけれきれない部分として、しこりがあるようにじるのかもしれない。
いや、俺に関してはあなたとしか言ってないのを考えると、とても他人行儀なじがしてどうしても違和があった。俺が間抜けだったこともあるせいかもしれないとも考えるが、今のこいつの他人への呼び方を思い直してみると、どうもそれだけでは説明がつかないように思われるが、かといってそれを咎めるのもどこか変なじもして口に出せないでいた。
「だから、多分向こうは彼のこと煙たがってるはずよ。敵とまでは思ってないかもしれないけど、なくとも私たちよりは敵に近いと思ってるはず。だから、放っておいても簡単に私たちを襲うなんてことはしないわ。それに、一応別に監視は頼んであるから大丈夫」
回しのいいことだと心した。だが俺たちで監視しなくとも、向こうでしてくれるというのなら助かるのもまた事実で、どうせならそれに甘えておくとしよう。もしそうでなくなっても、しでも肩の荷を軽くしておきたいというの、當然の考えだ。
「彼、私の質のことを知ってるから、それについての対抗策もあるみたいだった。だからむやみに暗示とかは使えなかったのだけど、その必要もないことを示してくれたわ。彼、すでに暗示にかかってるみたいなの」
「すでに暗示がかかってる? お前、昔會った時にかけたってことか。それか、偶然か何かか」
「ううん、違う。魔……彼の仕業だと思う。これはこの力がある私にしか判らないことなんだけど……暗示がかかってる人は判るのよ。なんでっていうのは、覚的なものだから言葉にするのは難しいのだけど、判るの。
他の人、例えばあなたから見ても多分彼の行はし変わって見えたと思うわ。もう半ば本能的な行はそう簡単に変えられない。食とかそういうものやずっとに染み付いた言とかそういったもの。けど後付けとなったような、特に人後ににつけたような立ち居振る舞いなんかはある程度変えることができる。
それだけじゃないわ。簡単な行くらいだったら制限や、もしくは行的付加を命令することくらいできる。あなたも気になったでしょ? 暗闇の中でほとんど躊躇わずに真っ直ぐ進み続けたりしてたの」
「そう言われると確かに……」
俺はこれまでのレオンの行を思い返していた。都市であるこの町に、いくら一時的に手を組んでいるとはいえ調という完全な部外者がやってきたというのに、あの男はまるで鼻にもかけずに俺たちを基地の中にまで案した。その時のレオンは沙彌佳が今いったように、どこか不自然だった。そして、そこでは本來大統領すら滅多とお目にかかれないであろう実験の一部始終を目の當たりにすることにもなった。
あの男は単にVIP待遇の中でも特別待遇ということでそれらを見せたが、確かにあれは明らかにおかしい行だった。あの男のいうところ、俺を武田の暗殺に仕向けたいという思があったにしては、あの実験をいちいち見せる必要はないはずだ。つまり、あのような行に出るよう何者かに暗示をかけられていたという沙彌佳の話は、辻褄の合う話ではある。
「つまり、ここは今彼のテリトリーになってる」
「テリトリーってお前」
「彼いってたわ。私たちは知らず知らずのにテリトリーを持ちたがるって。ううん、多分テリトリーって言い方は正しくないかもね。派閥……っていうのかな、そんなじ。
良くいうでしょ? 類は友を呼ぶって。それと似たようなじなのよ。私たちはいつもどこかで人をいつの間にかるようになってしまうらしいの。るっていっても、全員に片っ端から暗示をかけるって意味じゃないわ。かけるのは數人だけど、それから先は彼らが勝手にやり始めるの。そういってたわ」
「いってたって、その魔とやらに會ったことがあるのか。そういえば、以前に一度だけそれらしいことを言ってた気もするな」
「そう。けど、別に対立してるとかってわけでもない。どちらかといえば、すごく仲間意識が強いほうだと思う」
「だったら、そんなに構える必要はないんじゃないのか。今のお前、警戒してるってじだ」
「そうなんだけど……私、あまり彼のこと好きになれないの。私がこんな質になってるのも知って、助けてくれたりもしたから嫌いする必要はないはずなんだけどね」
沙彌佳は明らかにその彼、魔と呼ばれるのことを気にっていない様子だ。何がそうさせているのか俺にはわからないが、いわゆる生理的に合わないというやつなんだろうか。たとえば、俺にとっての藤原真紀やなんかのような。こいつがそんなことをいうだなんて、よほどのことだとどこか不思議なじがしながら聞いていた。
「あの人、なんだかすごく人間離れしてる気がするの。魔って呼ばれるくらいだから當然なんでしょうけど、なんていうか……そうじゃないの。彼、すごく怖いっていうか」
怖い……こんなこというのもなんだが、今の沙彌佳なんて俺からしたら怖いもの無しのスーパーマンみたいなものだ。沙彌佳はだからこの場合はスーパーウーマンか。とにかく、そんな沙彌佳が怖いだなんてただならぬことではないだろうか。俺には、沙彌佳のいっていることが分かるようで、どこか浮世離れして聞こえた。沙彌佳じゃないが、それこそ怖いの次元が俺とは違うベクトルを指して言っているような、そんなじだ。
「まぁいい。それで、そののテリトリーだっけか? だと何か問題があるのか」
「差し當たって問題はないと思うんだけど……彼がいってたの。私たちには適合者がいるんだって」
「適合者? お前みたいな力を手にれられるかどうかってことか」
「そう、だけど……その適合者も條件が揃わないと、こんな風にはなれないっていっていた。適合者の條件に、きっかけとなる人間が必要なんだと。それを私たちは探すために生きてるんだって。それが私たちという人間を人間たらしめる」
「なんだかよく分からん謎かけだな。要は、きっかけを作った人間を見つけないといけないってことは間違いないってことだよな」
「そうなるわ。適合者にはそれぞれ、きっかけとなった人間が存在するらしいんだけど、きっかけを作る人間は適合者のどちらかにも共用できるといってた」
「共用って、まるでモノ扱いだな。で、その魔とやらもそういう人間を探してるってわけだ」
思わず苦笑した。全く、半ばオカルトめいた話ではないか。語によくある、不吉なものを封印したり何かするためには、特定の呪文やアイテムを持ってこなくてはならないとかいう、あれと同じ類の話だ。そして、そんな話を本気になって聞いている自分が、本當におかしくて仕方なかった。
「何?」
「いいや。それにしても、私たちといったが、つまりお前は、普通とはやはり違うってことなんだよな。見かけは普通だが」
そういって思わず自分の失言に沙彌佳から目をそらした。クラスノヤスクの郊外にあった家でいっていたではないか、自分は特殊なことができても至って普通の人間なんだと。それを忘れてつい違うといった自分の間抜けさを呪った。
「いや、別に深い意味はないんだ。お前以外にも同じようなことができる奴がいるのかと思ってな」
取り繕うようにいった俺に、沙彌佳は苦笑して返した。
「別にいいよ、無理しなくて。私が普通だっていうのは、単に自分の願い事みたいなものかもしれないから。改めて思うと、し見つめただけで人を催眠にかけたり、墜落しかけてる飛行機から何の裝置もなしに助けようとしたり、あの飛行機の中で起こした高熱にしたって、普通じゃありえないものね。けれど、そうね。何人いるか知らないけど、私以外にもそうしたことができる人がいるというのは本當」
「その一人がその魔か」
「そうなるわ。だけど、あまり魔って呼ばないで。なんだか私までそんな風に言われてるみたいな気分になるから」
「分かった、極力使わないようにしよう。
それにしても、おまえのような質になった魔……そのがなぜきっかけとなった人間を必要とするんだ。人間たらしめるってのはどういう意味なんだ」
「私も詳しくは知らない。彼からそこまで聞けなかったから。だけど一人、私がこの質になった人間一人見つけるだけで十分だといっていたから、彼は私にそんな人間が見つかったらすぐに連絡してとだけいってたわ。その時に教えてあげるとも」
「なるほどな。そのも々とワケありってことか。にゃの一つや二つあったほうが魅力的というが、それを地でいってるな」
くつくつと笑う俺に、沙彌佳は複雑げな表を浮かべ口をきつく閉じてみせた。その表に、かつてだった頃の妹と不意に重なった。俺が何かやろうとしたときは、決まってそんな顔をしてた気がする。
「まぁいいさ。そのの言い分が本當なら、おまえにもきっかけを作った人間ってのがいるんだろう。誰か目星のついてる奴はいるのか」
重なった過去の妹の表にドキリとしたのを悟られまいと、無理矢理にそういうと今度は見つめていたその目を伏せ見がちにさせた。何か曰くありげなその視線に、俺は奇妙なを抱きながらその表に眉をひそめて返す。
「絶対じゃない、絶対とはいえないけど、多分そうじゃないかなっていう人はもういる」
「その人間ってのは……」
もう言わなくても、その先の言葉を理解している自分がいた。これまで何度かあったシチュエーションだ。人間同士の持つコミュニケーション能力の高さを表しているような、そんな直ともいえるそれを理解して、俺はそこに続く言葉を口にしなかった。
「絶対とは言い切れないけど、多分、今私の目の前にいる人、だと思う」
複雑そうな顔を見せていた理由、それを理解したと同時に、そこにあったもう一つの真意に気づいた俺はなんと言葉にすればいいのか分からず、考える必要もないのにし頭を整理するようにあれやこれやと脳みそをフル回転させ、ただ頷くだけという考えるお末な回答をはじき出した。
見つめ合う二人の間に、妙な沈黙が降りていた。それはまるで人との間にできるそれと全く同質のものだと、どこかでじ取っていた。
互いに見つめ合う俺たちが、どちらからというでもなくそっとを乗り出したときだった。
「お取り込み中のところ悪いがね」
どこか冷やかしのった言葉を投げかけて、一人の男が店の中にってきた。確認するまでもなく、男の聲がレオンだということを告げている。
「いいや、別にかまわんさ」
「そうかね、お邪魔して申し訳ないね」
「別にいいといったさ。それで、あんたが直々にきたってことは何か用事があるんだろ。まぁ、言わなくとも大分かるがな」
立ち上がってそういうと、レオンはニヤリと嫌な笑みを浮かべる。その笑みを半目になって冷たく視線を突き刺すも、男は平然としている。もっとも、こっちのこんな程度の態度で萎するような連中ではないことくらいは心得ているつもりだが、それでもこちらの気がすまないというものだ。
「何やら、私はお前に隨分と嫌われたものだな。それとも、こちらの出した條件では不服だったかな」
「いいや、十二分に考えさせてもらった。だがな、それでもどうにもその條件を丸呑みってのはできない」
「ほう? なぜだ。お前と私、共通の敵である武田を討れといっているだけだぞ。それだけで、お前のロシア國での行は全て水に流そうといっているのにか。お前がむというのなら永久的にロシアに留まってもらっても構わん。それくらいはいくらでも手配することはできる。浪費しすぎては困るが、サラリーマンの平均二倍の額を毎月支払おうじゃないか。まだ足りぬというのなら、私ができる範囲でなら口利きしてもいい。
だというのに何がそんなにお前を不満にさせるというのだ? 通常では考えられないほどのVIP待遇なのだぞ。この條件だけで、世界中の殺し屋はもちろん、亡命民が大挙してきてもおかしくないほどなのに」
そうなのだ、この男はどういうわけか破格の條件で俺を雇うつもりでいるのだ。確かに武田の野郎には必ず俺の弾丸をぶち込んでやるつもりであり、決定事項でもあるがそれはあくまで俺の意思なのであり、決してこいつらに”お願い”されたからであってはならない。それでは暗殺が功しようが失敗しようが、そこに俺の意思は介在していないことになる。
もちろん、仕事となればまた別の意思が働くが、それはあくまで仕事だ。俺にとって自で決めたことは誰かの為でもなく、自の誇りのために行わなくてはならないのだ。人はそれを自己満足とでもいうのだろうが、他人にとやかく言われる筋合いなどない。向こうも俺を狙っている。その人間をどうして他の意思が介在している中で行わなくてはならないというのか。それはプロとしてあるまじき行為ではないか。
よって、この連中にお願いされてけるわけにはいかない。ましてや、こいつらはとにかく気にらない。よって、そんな連中の頼みごとなど聞かなくてならない道理は一ミリだってありはしない。
「あんたみたいな人種にゃわからんだろうがな、こっちは仕事に対して誇りをもって行ってる。人殺しなんざ決して誇れるようなもんじゃないが、だとしても人に頼まれて嬉しそうに行うもんじゃないってことだけは確実だ。よって、あんたの條件を飲むわけにはいかんってわけさ。いいや、條件とかそんな話じゃない。あんたからの話そのものをける気はないっていってるんだ」
睨みつけるようにいった俺に対して、今度は向こうが冷ややかな視線を浴びせてきた。そこには、同時に半ば呆れているようにもじられる。
「全くわからんな。これ以上の條件でお前を匿えるような國など、我國をおいて他にないのだぞ。聞けばお前は日本でも追われているなのだろう。だったら、日本など捨ててロシアに住めばいい。仮にロシア國外を旅行して他國に捕まったりしたとしても、お前の柄は約束されることを保証しよう」
「はっ、あんたにゃ隨分とまぁ発言権があるようだな。逆に聞きたいね、あんたが武田を好ましく思ってないってのは事実だろうよ。だがな、なぜそこまで武田に固執する? 第一、あんたの出した條件はもちろん、お願いをける気にならないのにはいくつも疑問がある。俺が武田を狙ってるって分かってたようだが、だったら初めからし手を貸すってくらいで十分のはずだぜ。そうだろう? それだけで気にらない武田を抹殺できるうえ、大した経費もかからない。普通、権力者ってんならそうするはずだがね。
だというのにあんたは、そんな破格な條件で俺を雇いれようとしてる。あまりに不自然だというのを自分で言ってて気づかないのか。確かにノーリスク・ハイリターンってのは旨味があるが、それもありすぎると逆に疑っちまうってのが人間ってもんだろう? こちとらこの世界で何年も食ってるんでね、あまりに不自然なことには簡単に何かあると考えるのが當然というものだぜ」
続けざまに、お前はあるにられてるんだろう?と言おうとしたが止めておいた。これはまだ切り札として殘しておく必要があるかもしれない。下手にいって、逆に窮地に追いやられでもしたら厄介だ。現在は事態が大きくなっていないので問題ないが、沙彌佳の話を聞く限りではなくとも地の利としてこいつらと見えない敵かもしれない奴にあるのだ。よって、事態を悪化させないためにも下手にいうのを止めたのだ。
「レオン、お前一何を隠してる」
「……全く、一なんのためにお前にあの実験を見せたのか、意味をまるで理解できてないようだな、クキ」
「なに」
突然男の雰囲気が変わった。これまでも決して普通の人間からはおおよそ考えられないような思考を持ち合わせていたようだが、それは狂信的な権力者としてのそれだった。だが、今こいつが見せる雰囲気は明らかに違う。
「私はお前に最大限の譲歩をしてやっているのだ。”お願い”? 違うな、これは命令だよクキ。
だというのにまるで理解できてないお前に、もう一度いってやろう。あれは人類史上最も偉大な発明なのだ。人類がいつも夢に見てきたタイムワープのための裝置、そうタイムマシーンなのだあれは。それをロシアが持っている、この事実を理解できているのか」
「お前の國の考えてることなんざ、いつの世も一緒だろうが。どうせ世界の覇権、昨日もお前が言ってた言葉だぜ」
「そう、あれこそ我が國が持つにふさわしいものだ。だが、あれはまだ不完全なのだ。これを完璧に作するには、あとし、ほんのあとしだけ足りないものがある。それが裝置にどうしても必要なものであり、それを屆けさせる手はずになっていた。それを使えば、一度使えば連発できないという予かねてより問題とされていたことが、ようやく解決されるはずだった」
そこまで言われてようやくレオンのいっていることが理解できた。あの実験は俺への懐と驚異の表明だった。と同時に、この地下に存在する巨大な裝置に必要だったという裝置の一部を、俺がダメにしてしまったことの責任を取らせようという魂膽なのだ。
「加速、冷卻裝置……だったか」
「思い出したようだな。そう、あれはこの裝置を使った最終実験のためにどうしても必要なパーツだった。それをあと一歩というところでクキ、どこでそれを知ったかしらんがよくも邪魔してくれたな」
なるほど。こいつが譲歩などといった理由がようやく理解できた。あと一歩で完するはずが、その寸でのところでその足を引っ張った俺のことがよほど気にらないと見える。その上でこいつは通常からは考えられない破格の條件を掲示してきたのだから、それがよほどの譲歩だというのは確かだろう。
だが、だとしてもそれは向こうがそうしてやっているのだという傲慢さが出た都合に過ぎず、當の俺からいわせてもらえばどうでもいい話でしかないのだ。こっちにはこっちの都合というものがあり、こいつらからのお願いだろうが命令だろうが知ったことではない。この手の連中と接していて時折じるのは、こいつらはいつも自分勝手にしかモノを提案しないということだ。
言い換えると、”この世の常識を作る”連中だけあって、その中ででしか人と接することができないのだ。だから俺のような人種に出會うと、いつもその表は同じだ。蔑むか、呆れるか、または嘲ったりといったものばかりだ。だからこそ、俺にような人種の気持ちなどこれっぽっちも分かりはしないだろう。
だが、いつの世もこういう連中にとって敵というのは俺のような自分たちの常識では通用しないような人間ばかりでもある。つまり、こいつらにとって俺はどうしても侮り難い敵でもあるということだ。実際にこいつがそんな風には思ってもないだろうが、大抵はそんな無意味な自信と考えから滅んでいくということもまた然りだ。
「どれだけあんたが凄もうが、俺の意思は変わらないぜ。どうしてもというなら、あんたが武田をやればいい。確かにあの野郎も俺の手で始末をつけないとならん相手ではあるが、もしあんたらが片付けてくれるってんならこっちも別に無理に奴を手にかける必要もないんでね。手下に仕事を與えてやるってのも上の大事な仕事じゃないのか。第一、そっちのほうがよっぽど安上がりだろうよ」
腹立たしい表を隠すことなくいる男の次の態度で、こっちの出方も変わる。そして、それもほとんど分かりきっていることでもあった。
「つまり、お前は私たちの裝置を海の藻屑にしたにも関わらず、どうとも思ってないと……そういっているわけだ」
「そんなもん當然だ。お前らの都合なんて俺が知るか。俺は今ここでひと暴れしてやってもいいんだ、お前らからの施しなんてごめんだね。當然だろう? あまりにフェアじゃない。あまりに話が旨すぎる。
大、人に依頼しようってのに隠し事をしてるってのが一番気にらない。人にモノを頼みたいならきちっと全てを話してからにしろよな。何を隠してるんだ」
「なぜ私が隠し事をしてると思うんだ」
「は、あんたこそ理解できてないんだな。俺だってお前らのような人種は今までごまんと見てきたんだぜ? お前らのように人の上に立つ人間ってのはいつも隠し事してるだろうが。そんなことそこらのガキだって知ってるぜ。まさか本気で分からないとでもいうのか。なぜ俺たちがここに來たと思う。ここに俺がいるって事実を考えてみろよ。
頭のいいお前ならもう分かったろ? さぁ言えよ。お前が言わないっていうなら、俺が言ってやってもいいんだぜ」
「……なるほど。私とて遠藤とかいうの言ったことを全面的に信じたわけでもないが、初めからここで行われていることを知っていて來たということか。全ては演技だったというわけだ。……だがだとするなら私がなぜ武田に拘るか、わざわざいう必要もないだろう」
半分はその場任せの出任せだったが、しばかり風向きが変わりつつあることをじ取った俺は続けざまに言った。
「全てというわけでもないぜ。だがな、あんたが武田に拘る理由、魔と関係してるんじゃないのか」
俺がそういうと、ここでり付けたみたいに冷たい表をしていた男の顔に変化が見られた。ほとんど沙彌佳から聞いた話からの推測にすら満たない勘みたいなものだったが、どうやら図星だったのか男の眉がぴくんと一瞬くのを見逃さなかった。
「やっぱりな。あんた、魔から何か聴いてるんじゃないのか。あんたがこいつと知り合ったきっかけも、元々その魔とやらから何か聞いてたからだな」
「ふん、何を拠に……」
言っているのだと言おうとしたレオンの言葉を遮って、俺は続けた。
「簡単さ。あんたが武田に拘る理由、にも関わらず俺に始末をつけさせようとする矛盾した理屈、それにこいつから聞いた話を統合すりゃぁいくらか分かるというもんだ。あんたは、武田に恨みがあるような素振りをしてみせるが実際には違うんだろう。気に食わないというのは本當かもしれないが、実際には武田を疎ましく思ってるのはそのだ。あんたはその指示に従っていている、ただの傀儡だ」
「傀儡だと? 私が」
「そうとしかいえないね。あんたは自分で考える以上に自分というものを持ってない。それをそのに見抜かれちまってたんだ。だから指示されて疑い無く簡単に従っちまう。
そう考えると、面白いことに俺がそんな破格の條件で雇いれようとする理由にも頷ける。多分、は武田と何か関係があり、それを快く思ってないんだろう。だが、遠まわしにあんたを利用して俺を使おうとしてる。聞いたが、その魔はちょっとやそっとじゃ死なないらしいじゃないか。だから魔と異名されてるってな。
そんな魔が、なんだって遠まわしにそんな不確定な要素である俺を使って武田を抹殺しようとしてる? よくは分からんが、そのは自分からできない何か理由があるってことじゃないのか。俺が武田を快く思ってないというのと、殺し屋っていう職業を利用したってだけでな」
薄く笑みを浮かべた俺が今度は男を抜く番だった。そのほとんどが狀況証拠からの推測でしかないというのに、男はここに至って分かりやすくも目元の辺りをぴくぴくと引き攣らせるようにかしている。どうやら、本當のことであるらしい。思い切り蔑み返してやっただけでここまでとは、もしかしたらこいつにとってコンプレックスだったのかもしれない。
「ちょっと……」
俺と男の間にようやく靜寂が降りた。勝者が決したところで、立つ俺の袖口に沙彌佳がそっと手をれてきた。これ以上相手を挑発しては、いくらなんでもやり過ぎだといいたいのだ。しかし、こうまでしてようやく摑んだチャンスをここで使わずしていつ使うというのか。
「だが、俺もプロだ。それも、自の意思を持つれっきとしたな。だから、こちらから條件を出してやる。あんたの主人である魔とやらをここに呼べ。そうすれば今のあんたの話、聞いてやらないでもないぜ?」
「貴様……」
「あんたに選択権はないんじゃないのか。それとも、主人に逆らって今ここで俺を処刑するかい」
これが決定打だった。男は顔を真っ赤にして、勢い良く顔をそらし視線を下に向けた。この男の妙にでかい態度の理由も、そのが絡んでいたからかもしれない。もちろん、こんな巨大で、かつ機も機、歴史にすら関わる機事項をもったこの場の責任者というくらいだからそれなりの地位にいるのは間違いないが、おそらくそれ以上にに依存している部分があるのだ。それが今の態度から良く理解できた。
「……いいだろう、必ずお前には首を縦に振らせてやる。いいな」
「呼べるんならいくでも首を縦にしてやるさ。こっちはプロなんでね」
見下すように腕組をしていう俺に、もはや自分から話すことはなくなったのか、レオンは勢いよく店を出て行った。負け犬のなんともけない姿が完全に消えた後も、俺は殘心の構えでもって扉の方をしの間見つめ椅子に腰掛けた。そこでようやく張り詰めていた空気が和らいで、沙彌佳が話しかける。
「あの人、あれでよかったの」
「いいも何も、今俺たちができるのなんてこれくらいだろう。連中を地獄に引きずり落としてやる覚悟できたとはいえ、簡単にそれができないってことも分かってはいたからな。むしろ、有益な報を引き出せそうなら、こっちを選んだってだけだ」
「うん……」
おもむろにテーブルに殘っていたウォッカのったショットグラスを取って、躊躇うことなく一気にへ胃の中へと流し込んだ。明のが俺ので火をつけたみたいにじるのが、まるでウォッカがガソリンか何かのように思えた。
「とにかく、奴がどうでるかは分からんが、あの態度からは俺たちをすぐにどうこうしようって思はないようだから安心はできる」
「それはそうだけど。けど、私の話信じてくれたの?」
「信じるも何もそうしなきゃ始まらんだろうが。あの男は、この地下にあるツングースカの実験場がツングースカの発を再現するためだといった。そこで見つかったの存在もな。なのにあの実験ではそれらしい役割を持った存在が見當たらなかった。あえて言えば、あの狼人間みたいな奴がいたからな、もしあれがそうなのだとしたらの存在は非常大きなウェイトを占めてることにもなる。
それだけじゃない。そのがどこから現れたのか、はっきりしたことはまだ分からんがどこか別の場所から現れた人間、という可能が出てくるな。クラスノヤスクで見つけたレポートやレオンが言ってたろう、の存在は周辺ではいないはずの人間だったってな。だが、発から二〇年以上も経っていたにも関わらず、當時その前後に行方の分からなくなってしまったかもしれないの容姿が似てるって報告が、それを示してる。
多分、あのはどこかから転送されてきたんだ。ツングースカで起こった事象は全部が偶発的だったのかもしれんが、それでもその瞬間にとんでもないことが起こったことも間違いない。だからこそ連中はあんなに躍起になってるんだ。それに、NEABの存在だってその一つなんだろ。だったら、そう考えた方が筋が通る……というのが俺の考えだ」
沙彌佳を見るまでもなく俺はそう言った。それをどう捉えたのか判らないが、沙彌佳は小さく頷いてそうだねとだけ口にすると、そのまま口を開かなくなった。ちらりとそんな妹のほうに目をやると、なんとなく、はにかんでいるような、そんな表を見せていた。しかし、それも一瞬だった。またいつもの無表に戻ると、視線に気づいてこちらを見據えた。
「ま、ともかく會ってみようじゃないか、その魔とやらに」
レオンがと連絡を取るとは限らない。それでも、俺の中ではそうはしないということが決定事項として思っていた。それは今しがた見せたあの男の態度に分かりやすく現れていたので、そうするしかないはずだ。
もっとも、この行が俺にとっても吉と出るか兇と出るかまでは正直なところ分からないし、考えてもいなかった。だが、うまくいけば武田のことをもっと詳しく知ることもあるいはできるかもしれない。もし対等に話すというのなら、先ほどのレオンのいう條件もいい報酬として呑んでやってもいいと考えてはいた。
だが俺がそうは思っていなくとも、沙彌佳はどうなのかというのもある。それについても話し合わなくてはならないので、すぐに連中の言いなりになるわけにもいかなかった。沙彌佳のことを考えると、しでも保証されているところでを隠せる方が安全だというのは確かなのだ。だが、今の沙彌佳は俺とは違ってを追われる立場にはなっていない。もしそうなら、とっくの昔に沙彌佳もその対象として何かしら言及していたはずだ。
沙彌佳については今後のの振り方について話し合わなくてはならない。その上でこちらが掲示する條件を飲ませてやればいいのだ。とにかく俺には、沙彌佳がどうなるかということを考えることが最も重要なことだというのを忘れるわけにはいかない。
聖女が來るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖女が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?【書籍化&コミカライズ決定】
「私は聖女を愛さなければいけない。だから君を愛することはない」 夫となるユーリ陛下にそう言われた私は、お飾りの王妃として靜かに日々を過ごしていくことを決意する。 だが、いざ聖女が召喚されたと思ったら……えっ? 聖女は5歳? その上怯え切って、體には毆られた痕跡が。 痛む心をぐっとこらえ、私は決意する。 「この子は、私がたっぷり愛します!」 身も心も傷ついた聖女(5歳)が、エデリーンにひたすら甘やかされ愛されてすくすく成長し、ついでに色々無雙したり。 そうしているうちに、ユーリ陛下の態度にも変化が出て……? *総合月間1位の短編「聖女が來るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、夫と聖女の様子がおかしいのですが」の連載版となります。 *3話目だけ少し痛々しい要素が入っていますが、すぐ終わります……! *「◆――〇〇」と入っている箇所は別人物視點になります。 *カクヨムにも掲載しています。 ★おかげさまで、書籍化&コミカライズが決定いたしました!本當にありがとうございます!
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