《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第3章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 5 過去と未來(5)
5 過去と未來(5)
「わたし、伊藤さんから聞いていた話、ぜんぶ噓っぱちだと思ってたんです。だけど、もしかしたらあれって、本當のことだったんでしょうか?」
「何? 伊藤さんから、何か聞いてたの?」
「はい……でも、とても信じられるような話じゃなかったんです。でも今、実際わたしのに起きていることを考えたら、本當なのかもって、し、思ったりして……」
智子はさらにそう続け、伊藤から聞いたという話をポツリポツリと話し出した。
そして今、絨毯に座りっぱなしでテレビに夢中になっている。簡単な夕食を終えてから、もうかれこれ二時間以上テレビの前から離れていない。
ただ食事中、智子は両親のことなどいろいろ聞いた。
「ごめん、本當にご両親のことは知らないんだ。きっと調べれば、すぐに引っ越し先もわかるはずだよ」
そんな言葉を返した途端だ。
「あの、いいですか? そもそもあなたは、伊藤さんと、どういうお知り合いなんですか? だいたい、あなたの名前だって、わたし聞いてないし……」
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そう言って、剛志の顔をジッと見つめた。
この時、剛志はとっさに浮かんだ名前をあげて、
「ごめん、そうだね、名前も言ってなかったな。僕は鈴木……鈴木角治って言います。それで、本當に僕は、ご両親のことは何も知らないんだ。でも決して怪しい者じゃない。本當に、伊藤さんから直接頼まれたんだから……智子ちゃんを、頼むってさ……」
噓とホントの半分ずつくらいを必死になって聲にした。
これだけで、智子が納得したかはわからない。ただそれでも、彼はほんの一時黙った後に、急に顔を上げて剛志に向かって聞いたのだった。
「テレビ、見てもいいですか?」
それから智子は、〝欽ちゃんのどこまでやるの〟に大笑いして、今は〝特捜最前線〟という刑事ドラマを食いるように見つめている。その間、剛志はソファーに腰を下ろし、さっき聞いたばかりの話について考え続けた。
まるで學者のような見識かと思えば、ごくごく一般的な知識が欠けていたりする。
彼の時代には呼び方自が変わったのか、沖縄という地名さえ出てこなかったらしいのだ。
もしかしたら、現代とは比べものにならないくらい専門が進んでいて、そんな常識など必要としないのか……。
どちらにしても、伊藤が未來人であるのは疑いようがないだろう。
それでも、どうにもおかしいとじることがある。
中止にならないオリンピックを、どうして中止になると言ったのか……?
あの事件の翌年、確か十月の土曜日だったと思う。剛志は開會式の中継を一目見ようと、珍しく寄り道せずにまっすぐ家に帰っていた。まだまだ事件のショックを引きずってはいたが、日本で開かれるオリンピックにワクワクしていたのも事実だった。
家に帰るなり14インチテレビにかじり付き、開會式が始まるのを今か今かと待ったのだ。
この時の興を、剛志は一生忘れないと思う。
昭和天皇の開會宣言の後、國立競技場の上空に五のっかが浮かび上がった。
スタジアム上空三千メートルに、五のスモークによって五のが! ――と、こんなじのアナウンスを聞いて、彼は矢も盾もたまらず表に飛び出したのだ。母親の草履を突っかけて、商店街を抜け川土手までを必死に走った。そして土手の上から目を凝らし、遠く空の向こうに確かに見えた。
見えた! 見えた! この喜びを早く誰かに伝えたい。
そんなワクワクいっぱいで、剛志は來た道をさっき以上に慌てて戻った。
店の方から飛び込んで、仕込み中だった正一へ喜び勇んで告げたのだった。
「見えた! 國立競技場のっかが、土手の上からもちゃんと見えたよ!」
この時、店のテレビも點いていて、剛志の言っている意味がわかったのだろう。正一はほんのちょっと顔を上げ、「ほお、そうか」と嬉しそうに聲にした。
今になって思えば、高校二年生の割にずいぶん純粋だったと思う。しかしあの頃は剛志だけでなく、學校中みんなが同じように興していた。日本中の老若男が、オリンピックに酔いしれていたように思うのだった。
それでも國立競技場の上空は、剛志の住んでいた町から二十キロ以上離れている。
ブルーインパルスが描き出したスモークの五が、あの時本當に見えたのかどうか、今となってはかなり怪しいじがした。
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