《ゆびきたす》【9話・神乖離集合構造

日張丘雲雀が私のシャツのボタンを外した。彼の手が、私のをなぞり、お腹からにかけてゆっくり上がってくる。ブラの隙間から指をれられて、その手の平が私の房を包む。彼のもう片方の手が、私のを這いながら、ゆっくりと背中の方へと回された。

私が勢をかすと、彼の手が私の背中へと回しれられて、ブラのホックを外される。冷たい空気が、わになった私のれた気がした。私の首へと両手を添えられて、そのに私はし肩をすくめる。

「結之さん、良いのですか」

日張丘雲雀は顔を真っ赤にしていて、怖ず怖ずと、そう言った。彼の顔が目の前にあって、その赤く染まった頬が、微かに震えてみるのが見えた。

「日張丘さんは私にれたいと思うんですか」

「えぇ」

私の上に覆い被さる様な格好であった彼が、肘を曲げて顔を近付けきて、私の耳元に口付けをした。彼の長い黒髪が流れるようにして、その肩からり落ちきて、甘い香りが私をくすぐった。彼は、私の元に躊躇いがちに口付けをして、そうして私を上目遣いで見つめてきた。

姿勢を変えようとした私が、膝を曲げると、私の太が彼の付けれた。水音がして、私のり気をじる。彼が短い詰まった聲を、聞いたことのない聲をらす。

私のお腹をでながら、彼はもう片方の手で、私のれた。ゆっくりと何度も同じ所を繰り返してでられる。その指先が私の膝のあたりから段々と昇ってきて、最期に私の部にれた。私は目を瞑る。

やっぱり、私は彼に劣なんてしなかった。

【9話・神乖離集合構造

作者・さたけさん

日張丘雲雀の家を出て自宅に帰ってくる。家には誰もいつも通り居なかった。日はとっくに落ちていて、私は部屋の燈りのスイッチをれて闇夜を追い出す。LEDの電球がオレンジ混じりのを発した。

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誰にも會いたくない私にとって、誰もいないことは好都合であった。リビングで私はソファに寢転がる。夏の夜風よりも、この家の中の方が寒いような気がした。

この家には、私以外誰もいない。

昔から出張の多かった父は、仕事以外はどうでも良いと思っている人間であった。故に、家庭には寄り付かなかった。父とこの家で過ごした時間は、本當に數えられる程しかない。父が帰ってくるとき、長期の出張からであったにも関わらず、彼はいつも手提げの鞄一つだった。荷は何処かに預けたか、次の出張先へ送ったか、全て捨ててしまったか。いずれにせよ、父はこの家には何も置かなかった。そして何も持って行かなかった。

彼にとっては此処は、中継地點でしかないのだろうと思っていた。私にとって、父は実のないまるで概念のような存在で、この家に彼の私が何もないことが、その考えをより一層強くした。痕跡一つも殘さない彼は、本當は虛構の存在で、父と名付けられた全く別の概念であるような気がしていた。私と彼の間に親子という線が繋がっている筈でも、本當は私達の線は平行であるような気がした。

母は、私を産んで直ぐに死んだそうで、寫真でしか彼を知らない。寫真の中のを母であると教えられただけで、実も実もないそれは、ただの設定付けであるとしか思えなかった。それはまるでロールプレイングゲームみたいだと私は思っていた。役割上の設定を與えられ、そう演じるのが必要であると。

私の母代わりとなったのは祖母で、県外の実家からこの家に住み込んだ彼が、いつも私の面倒を見てくれていた。この家では私と祖母のいつも二人きりであった。

祖母はいつも優しくて、父と母が居ないことで私が寂しさをじないように、いつも気を使ってくれていた。けれど、そんな祖母も私が小學生の時にこの世を去った。

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その日から私は獨りぼっちになってしまった。

それ以來、私は一人でこの家の留守番をしてきた。様子を見に來る親戚は、私が高校生になると來なくなった。たまに帰ってくる父も居付くことはなく、私はずっと此処で一人で暮らしてきた。それは寂しくもあった気がしたが、どうしてかあまりそうでもなかった気もした。

寂しさとか悲しさとかおしさとか、私はそういったものを何処かに置いてきてしまったようであった。この家は何も私にくれなかったから、私はこの家で何を返すわけでもなかった。

「馬鹿みたいだ」

帰宅してシャワーを浴びていると、祖母の事にまで考えが及んだ。急に昔の事を思い出してしまった私を、私はあざ笑った。誰の気配も無い家の中で、誰に見られている筈もないのに、私はバスタオルをに巻き付けてを覆い隠した。中に、日張丘雲雀のが殘っているような気がした。乾いたはずのが、今も私のを濡らしているようで。

の虛が、睡眠への逃避行をうけれども、今眠れば鈴乃音鈴乃が夢に出てくる確信が私にはあった。彼は今の私になんて言うだろうか。それを聞きたくなんて無かった。

鈴乃音鈴乃の言葉を思い出す。彼が何者であるかは私がよく知っているはずだと。その空想上の存在との馴れ初めを、私は覚えていない。どうして彼の様な存在が現れて、そうして今も尚、私の夢に現れ続けるのか、私には見當も付かない。

私は鈴乃音鈴乃を避けてきた。生理的にそれを嫌悪し、拒絶してきた。だから私は鈴乃音鈴乃をよく知らない。

イマジナリーフレンドは、期の子供が現実と空想の區別を上手く付けることが出來ずに生み出してしまう。それは空想上でありながら、ある意味では現実世界の存在でもある。鈴乃音鈴乃だって、その類から大きく外れるわけではない。

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コーヒーが飲みたくなって、私はようやっとソファからを起こした。バスタオルをに巻き付けたまま、私はヤカンでお湯を沸かす。微かな湯気が現れては直ぐに消えていく。いつも通り砂糖もミルクもれずに黒いままのコーヒーに口を付ける。獨特の苦味が口の中に溶けていく時、私は溜息を吐いた。

期の私は、どうして結之柚子乃の様な存在を空想したのだろうか。

そんなもの、私はしくなんて無かったのに。

  ◆  ゆびきたす  ◆

週が空けて月曜日の朝。私は何をする気にもなれなくて、學校に欠席の連絡をれた。擔任の心配する言葉を私は早々に打ち切って、そうしてからまた布団に潛り込む。やることがあるわけでもなく、しかし暇であることには変わりないので、攜帯電話で何となしにネットを見ていた。

行き當たりばったりにリンクを辿っていくと、最終的にについて語ったブログへとたどり著いて。私は攜帯電話を放り捨てた。き聲が部屋の天井にぶつかった。

日張丘雲雀の顔が脳裏を過ぎって、私は手の平で視界を半分覆った。分からなくなる、私が日張丘雲雀を好きなのかどうかを。

「あぁ、畜生」

霧野家桐野の基準に従えば、私はそれにそぐわない。彼と寢たって、私は彼に劣なんてしなかった。日張丘雲雀の様なを抱けなかった。彼とのは、ただ私の上を通り過ぎていっただけだった。

それでも私は、やっぱり彼に近付きたいと思うのだ。

確かなのは、それは日張丘雲雀にとってのアプローチの仕方とは違っていたということである。そのズレに、きっと私は嫌になってしまっている。同じ気持ちになれないことを。

と同じであるから、私は彼を好きであると信じたのに。それに私は苛ついてしょうがない。

一時間目が終わった頃に唐突に攜帯電話が鳴った。出てみると霧野家桐野の聲がした。

『ゆずっち、どうした』

その質問はむしろ私の方がしたいと思った。霧野家桐野がこんな時間に突然、電話をかけてくる理由が分からない。何か急用でもあるのであろうかと思って私は聞いてみる。

「何ですか」

『ゆずっちの教室行ったら休みって聞いてさ』

「何か用でもあったんですか」

私の教室へ上級生の彼が訪ねてくる理由なんてそうそう無いだろう。よっぽどの急用か何かであろうかと思った。しかし霧野家桐野が私の問いに対して、別に、なんて言ってはぐらかす。

その摑み所のない飄々とした態度に私は急に苛立つ。軽い言葉と、何もかも放り出したような態度。その結果が、私を苦しめている遠因の一つでもある、と私は彼を詰りたくなる。彼が続けるどうでも良い冗談を私は遮る。

「何で、私に掲示板なんて、援助際なんて教えたんですか。こんな気持ち、こんな揺、こんなの何も要らなかった。私はしくなかった。こんなに悲しい気持ちを抱きたくなんてなかったんです」

それは八つ當たりでもあると私は分かっていた。けれども、言わずにはいれなかった。私が抱いたは理不盡で、それを解決するなんて、論理的な筈もないとは思った。霧野家桐野が揺して、言葉にならない嘆詞を何度かいた。私がつい溢してしまった言葉を取り繕う方法は知らなくて、何も続けることが出來ない。戸った返事が返ってくる。

『生徒會長と何かあったのか』

「私の質問に答えてください」

霧野家桐野が暫しの沈黙を経てから口を開いた。

『実しかったんだ』

「何のですか」

『ネットの上での出來事は虛構なんかじゃないっていう実が。だから現実と差するものが見たかった』

私達の報化社會は高度に発達しすぎた。この世界に本當に神様がいるなら、きっと予想もしていなかっただろうくらいに。

その結果に、もしかしたらその過程に、私達は今の世界と平行のもう一つの線をばしてしまった。そうしてそこに私達は新しい世界を作り出した。現実から切り離されたもう一つの平行線。そこがあまりにも居心地が良いから、私達はそこに私達を作り出して、いや置き去りにしてしまった。

誰も知らない場所に、誰も知らない自分を。それはきっと、下手すれば、自分とも繋がっていない様な存在にり果ててしまっていた。

乖離したもう一つの自分は、私達でありながらこの世界において私達ではなくなり、私達はその隙間の埋め方なんて知らなかった。

『ゆずっちが前、聞いたことあっただろ。ネット上のあたしは、あたしなのかって。ゆずっちの見方に倣えばそうじゃないって言ったけど、やっぱりそいつはあたしなんだよ』

霧野家桐野は求めてしまった。平行線に置き去りにしたもう一人の自分、それが実在しているという証明を。ネットの世界はあまりにも自己完結しているから、切り離されてしまっているから、そこに置き去りにしてきた自分を「自分」へと結び付けようとした。その世界にれたいと思ってしまった。でなければ、その自分は存在出來ないと思ったから。

霧野家桐野はそれで何を得ることが出來たのだろうか。

「それで満足したんですか」

『どうだろうね』

まるで本當はそんなことどうでも良い。そんな風に思っているかの様な口振りで、しかしそれでも霧野家桐野は言葉を続ける。

『あたし達はネットに多くのものを預けてきた。最後には自分という存在さえ。多分、このあたしもネット上に作り上げたあたしもきっと同じあたしなんだろう。でもそれはきっと全く別の存在になってしまった』

私はそこで言葉が詰まる。何も言えなくなる。彼の言葉とは違う世界が一瞬ぶれて見えた。

その存在は電子の海に溺れているだけではない。私達の抱えた場所の深い底へも、私達はその存在を沈めたのだろう。まるで日張丘雲雀や立田達巳の様に。

「じゃあその人は何処に行くんですか」

そう例えば。もしも、霧野家桐野がまなくても良いほどに。その二つの平行線が近付いてしまったなら。そうした時、自分という存在は重なってしまうのだろうか。それで、一どうなるのだろうか。

高度に発達し過ぎた私達の報化社會は、きっとそれを、今にも実現してしまいそうで。

私達はきっと溺れているのだ。

『あたし達は誰かと絶えず繋がるを手にれた。現実と結び付けることが可能になるくらいに。なら、ネットに作り出した存在が現実と繋がってしまったとき、そいつはそのあたしで居続けられるのか』

も思想も趣向も、全てを預けてしまったら、その存在はきっと完璧なになるのだろう。それを許容するだけの深さを、其処は抱えている。そうやって全部沈めてしまったのなら、私達のと結び付けられた心と、それは一何が違うと言うのだ。

他の誰もが知らない其処で、生み出された存在はきっと完璧な存在で、けれどもそれを誰も知らない。ならば、平行線上の存在同士が差してしまうとしたら、重なってしまうとしたら。その存在は何処へ行くのだ、何処に帰結するのだ。

それとも何処かへ置き去りにされてしまうのだろうか。

私達は、何を置き去りにしていくのだろうか。

「じゃあ、先輩は何処にいるんですか」

『その質問にゆずっちは答えられるの。そんな実がゆずっちにはあるの』

  ◆  ゆびきたす  ◆

放課後、日張丘雲雀からメールがあった。調が悪くて休んでいるという旨の返信をすると、今すぐに此方に來ると言う。斷ってみたが食い下がるので住所を教えた。

數十分後、玄関のチャイムが鳴る。日張丘雲雀であろうと思って私はベッドからを起こした。調の悪いフリだけでもしておいた方が良いのだろうかと思い、私は薄手の布を肩に羽織った。

ドアを開けると息を切らせた日張丘雲雀が居た。彼の慌てた様子が、何故か面白くて私はし笑った。彼の手に提げていたビニール袋には、スポーツドリンクと熱冷ましシートが覗いていた。

調はいかがですか」

「別にそんな大したことないですよ」

大げさにしなくても、と私は笑った。私は日張丘雲雀を部屋に上げた。お邪魔しますと、上った聲で彼は言った。キャラクターもののクッションを彼に渡して、私はベッドの縁に腰掛ける。

「寢ていなくて大丈夫なのですか」

「もう平気ですから」

クッションの上に正座をし、所在なさそうに部屋中を見ている彼の姿に、何か見られて不味いものが無かっただろうかと不安になる。彼は書棚の一點を見ていた。書棚の下に置いてあるアルバムが気にかかるのかと思って私はそれを引っ張り出す。表紙の埃を手で払って、私はアルバムを手渡した。

「良いのですか」

「別に面白い寫真はないですから期待しないでください」

は私のアルバムを見始めたので、リビングまで行ってコップを取りに行く。私が部屋に戻ると彼はとあるページで手を止めていた。それを覗き込むと、黒いカーディガンにワンピースを著て不機嫌そうな顔をした私の寫真だった。私の橫には無表の父が並んでいる。その父が喪服だということに気付いたのか、私の顔をふと見つめて彼は言った。

葬式ですか」

「祖母の葬式の時ですね」

「そうですか。いつ、お亡くなりになられたのですか」

あれはいつの時だったか。私はふと記憶を辿る。確か小學生の時の事であっただろうか。祖母が死んだときの事を思い出していると、ふと誰かの言葉が蘇った。雑多な記憶の中でその言葉だけが強く響いた。

『じゃあ、半分こ。貰ってあげる。悲しいことも辛いことも楽しいことも、全部半分ずつ』

それは何処か懐かしい言葉だった。それを聞いたのは、確か祖母の葬式の日で。參列者の誰もが黒い服を著た景に私は怖くなって逃げ出して、會場の通路の隅で泣いていた。そんな私に、そんな言葉を言った人が居たのだ。

あの日の私は、祖母が死んだことが悲しくて、苦しくて。そんな心の苦痛を捨ててしまいたかった。

そんな私に、その人は、半分貰ってあげると言った。確かにそう言っていた。そして私は、それに頷いた覚えがある。

こんなに辛いなら、そんなは要らないと。

そうして私は私の半分をあげた。

あれは誰だったのだろうか。どうしてそんな事を言ったのだろうか。

気が付くと、アルバムを見終わった日張丘雲雀がふと言った。

「鈴乃音さんという名前の方はいらっしゃらないのですか」

「え?」

「結之さんの使った偽名は誰かから借りたものなのかと思いまして」

その言葉は確かに合っていた。私が始めて使った「鈴乃音鈴乃」という偽名は、借りである。

「知り合いではありますよ。でも、そいつの寫真は無いですね」

當然ではあるが、空想上の存在である鈴乃音鈴乃の寫真がある筈もない。日張丘雲雀が見終わったアルバムを私に返し、何気なく言った。

「きっと素敵な方なのでしょうね」

「え?」

「結之さんが鈴乃音さんと名乗ったのは、そうでありたいという願いがあったなのからではないのですか」

それは今の私を否定しているようにも聞こえた。

私は鈴乃音鈴乃になりたかったわけではなく、鈴乃音鈴乃をしたわけでもなく。

けれども、鈴乃音鈴乃は私の前に現れた。私とは全く違う彼から、私は彼の名前を借りた。

私の部屋の窓から夕が差し込んできていて、私達の間をオレンジに染めていた。窓のにいる日張丘雲雀が、オレンジの向こう側に見える。彼が何気なく見せた笑顔にふとが締め付けられて、訳も分からず苦しくなって私は問いかける。

「日張丘さんにとって、私はどんな風に見えますか」

私は鈴乃音鈴乃という名前を名乗った。鈴乃音鈴乃という存在を偽った。その分を借りて繋がろうとした。故に、日張丘雲雀が最初に求めたのは鈴乃音鈴乃で。

けれども、それを私はイヤになって、見て貰いたくて。そうして今、彼に見えている私は、どんな私だろうか。

「結之さんは結之さんですよ」

霧野家桐野の言葉を思い出す。その実は私にはあるのか、という問いかけを。それは今思えば自嘲の様であったとじた。

「そんなの分かるわけがないんです。言い切れる筈がないんです」

「でも、あなたがわたしにくれた告白は、結之さんの言葉だったのでしょう」

日張丘雲雀はそう言って恥ずかしそうに、はにかんだ。それだけで十分であると彼は言った。その答えは、私が求めていたものであったような気もしたし、てんで的外れでもあるようにも聞こえた。

私のあの時の言葉を、今も自信を持って言えるのだろうか。

「日張丘さんの事が好きなのか分からなくなっちゃったんです」

私がそう言うと日張丘雲雀がその表揺させて。

「あなたと同じ好きになれないんです」

そう、共有できなかった。日

張丘雲雀と同じ線の上に立っていたと思ったのに、私は彼と同じにはなれなかった。彼と繋がっていた筈なのにそうなれなかった。いつかの日張丘雲雀の言葉を思い出す。それを否定した筈の私は、今、彼と同じが見えないことを否定したがっている。

「私の心はどっかで迷子になってるみたいです」

【9話・神乖離集合構造 完】

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