《梨》羽蟲
冷たいタイルを這う羽蟲が死んだ。私が用を足している間の出來事である。一歩、二歩と重い足を運び、とうとう死んでしまった。目の前で命の絶えるのをみると改めて気づくのだが、常に何かが死んでいるようである。小學校の道徳では何秒に何人が死んでいるなどと言うけれども、実際に目の前で何人も死なれたわけではない。あれは噓なのか、はたまた死に気がつかないほど生きが多いのか。目隠しをされている気がする。死の予兆はきっと誰もがじるものだと思うが、ではあの羽蟲は死ぬとわかりながらどこへ向かおうとしたのだろう。とにかく私は、かたや用をたす命の前にひとつの絶命をみて怖くなった。
客席に戻りいくつかの皿を平らげ様々な會話をわした頃には、羽蟲のことなど微塵も覚えていなかった。し酒のまわった頭で、夜の道をあるく。一歩、二歩と重い足取りで自宅へと向かう。あの羽蟲のような男がショーウィンドウのガラスに見える。あんなに怖かったくせに、今まであいつを忘れていたことに気づき驚いた。でもまあ、なんというか、常に羽蟲を意識する人生など死んでいるようなものに違いない。死と隣り合わせという事実を意識していては生きていられないのだ。
ここへきてやけに、今日の自分の死への執著に気がつく。一歩、二歩、三歩、重い足を運ぶ。
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舊タイトル:「え? 僕の部下がなにかやっちゃいました?」ハズレギフトだと実家を追放されたので、自由に辺境開拓していたら……伝説の村が出來ていた~父上、あなたが尻尾を巻いて逃げ帰った“剣聖”はただの村人ですよ? 【簡単なあらすじ】『ハズレギフト持ちと追放された少年が、”これは修行なんだ!”と勘違いして、最強ギフトで父の妨害を返り討ちにしながら領地を発展させていくお話』 【丁寧なあらすじ】 「メルキス、お前のようなハズレギフト持ちは我が一族に不要だ!」 15歳になると誰もが”ギフト”を授かる世界。 ロードベルグ伯爵家の長男であるメルキスは、神童と呼ばれていた。 しかし、メルキスが授かったのは【根源魔法】という誰も聞いたことのないギフト。 「よくもハズレギフトを授かりよって! お前は追放だ! 辺境の村の領地をくれてやるから、そこに引きこもっておれ」 こうしてメルキスは辺境の村へと追放された。 そして、そこで國の第4王女が強力なモンスターに襲われている場面に遭遇。 覚悟を決めてモンスターに立ち向かったとき、メルキスは【根源魔法】の真の力に覚醒する。【根源魔法】は、見たことのある魔法を、威力を爆発的に上げつつコピーすることができる最強のギフトだった。 【根源魔法】の力で、メルキスはモンスターを跡形もなく消し飛ばす。 「偉大な父上が、僕の【根源魔法】の力を見抜けなかったのはおかしい……そうか、父上は僕を1人前にするために僕を追放したんだ。これは試練なんだ!」 こうしてメルキスの勘違い領地経営が始まった。 一方、ロードベルグ伯爵家では「伯爵家が王家に気に入られていたのは、第四王女がメルキスに惚れていたから」という衝撃の事実が明らかになる。 「メルキスを連れ戻せなければ取りつぶす」と宣告された伯爵家は、メルキスの村を潰してメルキスを連れ戻そうと、様々な魔法を扱う刺客や超強力なモンスターを送り込む。 だが、「これも父上からの試練なんだな」と勘違いしたメルキスは片っ端から刺客を返り討ちにし、魔法をコピー。そして、その力で村をさらに発展させていくのだった。 こうしてロードベルグ伯爵家は破滅の道を、メルキスは栄光の道を歩んでいく……。 ※この作品は他サイト様でも掲載しております
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