《ムーンゲイザー》新學期

教室の窓からは飛行機雲が見えていた。

私はその雲を眺めながら、ツムギのことを考えていた。

今、何をしているんだろう。

アメリカは深夜だから、ぐっすり眠っている頃だろうか。

それとも、時差ボケで起きているかもしれないな。

2學期が始まって1週間が経とうとしていた。

ツムギと最後に會ったのは海に行った翌日の夜だった。

その日はいつもの、あのベンチで手をつないで2人並んで座っていた。

「ついにこの日が來ちゃったね。

あー、ツムギに會えたおかげですごく楽しい夏休みだったなぁ。

明日はフライトだね。気をつけてね、長旅。」

私は寂しい思いをこらえて明るく振る舞った。

「うん、ありがとう。

時差ボケがひどいからしばらくは夜起きてるだろうなぁ、、

しばらくまだ學校は始まらないんだけどさ、母さんがちょっと調崩していて。

しばらくは弟の面倒と、家事手伝いだよ。」

「そうだったの?

大丈夫?お母さん。

心配だね。」

「ありがとう。

うん、持病があって、頑張りすぎると悪化しちゃうんだ。

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俺が帰るまではお手伝いの人が來てくれてる。

俺、長男だから支えてあげないと。」

「ツムギ、すごい。

大変なこと、たくさんあるのに、前向きだし本當にすごいよ。」

「前話したやつ、覚えてる?

人生ゲームだからっていうやつ。

なんか苦難があると、それを思い出してるよ。

ゲームの中で戦う主人公を作してる自分を想像したら、なんてことないんだよ。

絶対大丈夫って思えるの。」

「はぁ、目からウロコ。

確かにそう思うと、ちょっと楽になる気がする。」

「うん。

自分が生きてる現実が全てだと思うと苦しくてしょうがないけど、自分が主人公の映畫観てる、と思えばちょっと肩の荷が降りるんだ。

し高い視點から自分を見る、っていうじかなぁ。」

「面白い話だね。

絶対忘れないね、そのこと。」

ツムギはいろんなことを教えてくれる。

これからもずっと彼のそばにいて、たくさんの話を聞きたかった。

明日から會えなくなるなんて。

今日だけは笑顔でバイバイしよう、って決めたのに涙腺がゆるんでくる。

そんな雰囲気に気づいたのか、ツムギはそっと私の肩を抱き寄せた。

「明日からしばらく會えないけど、もう二度と會えなくなるわけじゃない。

お互い頑張ろう。

人生楽しむゲームを、ね。」

「うん、頑張るね、私も。」

私はそれだけを言うのが一杯だった。

涙が溢れてきて、その後のことはぼんやりとしか覚えていない。

ツムギとしばらく寄り添っていたっけ。

私の涙がようやく止まって落ち著いた頃に、

「ありがとう。

夕香子に會えて本當によかった。」

とツムギが言い、そっとキスをしてくれた。

とても靜かな夜だった。

その後、自転車で家まで送ってくれて、笑顔でバイバイをした。

そこまでがツムギとの夏の出來事だ。

翌日、私は1ヶ月ぶりに制服を著た。

鏡に映った自分が大人びて見えた。

また単調な繰り返しの日々の始まりだ。

ツムギに會えないのが寂しく思う時もあったが、

私の心の片隅にはキラキラした寶箱があって、いつでもツムギとの思い出を取り出すことができた。

授業中や、友達と會話している時でも、ふと彼のことを思い出す瞬間があった。

その度にがドキドキして、切なくしい気持ちでいっぱいになった。

友人のようちゃんにはもちろん、ツムギのことを掘り葉掘り聞かれた。

學校からの帰り道、ようちゃんと一緒に歩きながら夏休みに起こったことを大話した。

ちゃんは「何それ?ドラマ?ロマンチックー!」

と終始、興気味だった。

「でもさ、會う約束とかしてないの?

來年とかも會えないの?

次いつ會えるかわからないなんて、ほとんど生き別れじゃない?」

ようちゃんは相変わらずはっきりしている。

私は確かにそうかもしれない、と思った。

いつ會えるかわからない人なんて、果たして人と呼んでいいものなんだろうか。

「うーん、そう言われると辛いんだけど、、

そりゃ、私だって離れるのは寂しいし、ずっと一緒にいられる人だったら、どれだけ良かったか、って思うよ。

でも、好きになるのは止められなかった。」

「ひょー!

今のセリフ、ドラマみたいだよ!

夕香子、なんか大人っぽくなったね。

そう言えば見た目も変わった気がする。

痩せたし、綺麗になったね!

やっぱりは綺麗になるってほんとだね!」

「やめてよ、恥ずかしい。

あー、普通のをしたかったよ、私だってさ。」

そう言って私は立ち止まって空を見上げた。

空はだいぶ高くなった。

もう秋が始まりそうだ。

「ねぇねぇ、コンビニでアイス買って帰らない?」

し先を歩いていたようちゃんが振り返って言った。

「うん!」

ツムギとの出會いは神様からのプレゼントだから、心の寶箱にきちんとしまっておこう。

いつでもその箱から思い出を取り出せるのだから。

そう思いながら、私は駆け出した。

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