《姉さん(神)に育てられ、異世界で無雙することになりました》との戦い

グリフォンーーその獅子の下半と鷲の上半――つまり、獣と鳥の王が融合した架空の生

地球ではそう言われていた。

しかし、ここでは架空の生ではなく、実在の魔として存在しているというわけか。

に隠れるも、グリフォンの気配はまっすぐこちらに向かってくる。

慌て、恐怖し、絶するチッケとは裏腹に、俺は冷靜にさっき見たグリフォンを思い出した。

んー、あの速度、俺が走るよりは遅いけど、それでもかなりのもの。普通の人間や馬が逃げても逃げ切ることはできないだろう。

もっとも、俺が本気を出せば、チッケを抱えた狀態でも十分に逃げられる。

「チッケ、逃げよ――」

逃げよう。

そう言おうとして俺は言葉を止めた。

チッケは震えながらも、恐怖しながらも、その目には怒りのが篭められている気がした。

「あのグリフォンとなにかあったのか?」

「……おいらの村は、グリフォンに滅ぼされたんだ。グリフォンは一流クランが退治するような魔だ。小さな村の男たちで対処できる魔じゃない」

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に村が滅ぼされる。

ゲームなどではよく聞く話であるが、現実にそんな話があるのか。

「チッケ、一つ聞きたいんだけど、グリフォンを倒したら誰かに怒られるってことはないよな?」

「え? そりゃグリフォンは魔だから、討伐対象だし、怒られるなんてことは――でも――」

「それだけ聞けば十分だ」

俺はそう言うと、拳に力を込めた。

この世界にいるという異世界βからの侵略者を倒そうっていうんだ。そのためには、まずはこの世界の基準を知っておかないといけない。

(大丈夫、あの速度が全力の一割程度だったとしても、俺には対処できる)

ただ、どうやって戦おうか。

闘気を飛ばして撃ち落とそうかとも思ったが、さっき著地するときに闘気をかなり使った。できることなら節約したい。かといって、接近戦で武もないのはな。

俺はそう思うと、何か武がないか確認した。

さっきの荷の中には武らしきものはっていなかった。

「チッケ、なにか武になるようなものはないか?」

「武……護用のナイフならあるけど」

「ちょっと貸してもらっていいか?」

「あ、あぁ」

チッケが俺にナイフを渡す。

は青銅でできているらしい。あまり頑丈とはいえないが――しかし、俺の闘気を纏わせれば――

俺は、隠れていた巖を斬りつけた。

巖の上半分が切り裂かれ、奧に落ちた。

巖の綺麗な斷面がわになる。

「な、おいらのナイフで巖を真っ二つに……いったいどうやって」

「よし、問題ないな」

俺はチッケの質問には答えない。

巖が斬られたおで、視界も広がる。

グリフォンはもう目と鼻の先にまで迫っていた。

俺は落ちた重さ數百キロはある巖を、円盤投げのように投げた。とほぼ同時に、俺はナイフを構えて駆け出した。

回転しながら飛んでいく巖を避けようと、グリフォンが衝突直前に降下し、バランスを大きく崩した。

(いまだっ!)

俺はを大きくひねりながら跳躍し、グリフォンの上にるように著地する。

『KYUUUUUUっ!』

鷹のような鳴き聲をあげるグリフォンは、俺を振り落とそうとを大きく揺するが、しかし――

「終わりだ」

俺はさっき巖を斬ったようにグリフォンの首を切り落とし、返りが俺にかかるよりも前にそこから飛びのいた。

グリフォンの首が地面に落下し、十數秒後、グリフォンの首が落ちた約百メートル先に躰も激突した。

よかった。

勝てるとは思っていたけれど、思っていた以上に余裕がある。

「じゃあ、チッケ。そろそろ行こうか」

「テンシ様っ!」

チッケが大きな聲を上げた。

あれ? さっき俺のことを呼び捨てにするって言ったのに、なぜか呼稱が大仰になっている。

「いや、先生! おいらを弟子にしてくれ」

「で……でし!?」

「先生! 先生は強い強いと思っていたが、おいらが見た人間の中でもダントツだ! 頼む、おいらを弟子にしてくれ!」

「ちょ、ちょっと待って、チッケ。その先生ってやめてっ!」

「老師っ!」

「もっとやめてっ!」

一気に敬稱のランクが上がった。

いろいろとすっ飛ばしているだろ。

先生の次が老師ってことはないだろ!

「じゃあ、なんて呼べば!」

「……師匠……とか?」

「はい、師匠っ!」

「って、違うっ!」

先生の次は師匠だろ、と思っていたせいで言ったけれど、俺は弟子を取るつもりはない。だって、俺は異世界βからの侵略者を倒したら地球に帰るんだから。

最後まで責任を持つことができないのなら、弟子なんて取るべきではない。

「落ち著いてよ、チッケ」

「落ち著いてるよ。頼むよ、師匠! 師匠のためなら、おいら、なんでもするから」

「なんでもって、そんなこと言われても」

「師匠になら、おいらの初めてをやってもいい」

「だから、そんなこと言われても……ん?」

あれ? いまおかしなこと言わなかった?

「チッケ……チッケっての子?」

「……師匠、もしかしておいらのこと男だと思ってたの?」

ごめんなさい。

俺は本気で謝った。

い、いや、口調が俺の知っているクラ・トーラス語基準では男っぽい口調だったし、てっきり可い男の子だなと。

俺は拗ねるチッケを宥めた。

結果、弟子を取るかどうかの問題は後回しになって、師匠呼びがずるずると定著してしまった。

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