《験生でしたが転生したので異世界で念願の教師やります -B級教師はS級生徒に囲まれて努力の果を見せつける-》合格祈願
1月1日、俺は住んでいる福岡県の太宰府天満宮に合格祈願に行っていた。
とは言っても俺の意思ではなく、親が一応行事として行っとけと言ったから親についてきたに過ぎない。
俺としてはこんな時間も勉強に回したいのだ。
なんといっても17歳、つまり高校3年生の冬。
ある國立大學を目指している俺は験まで時間がないのだ。
ここ數か月の平均睡眠時間は1時間半といったところだろうか。
最初の方はきつかったのだが、栄養ドリンクのおかげでなんとかここまで生きている。
しかし、時間がもったいないのも事実だ。
さっさと済ませてしまおうと思っていた。
だが、流石正月。
人が多く、全く初詣の列が進まない。
人波に飲まれ、もみくちゃにされながら単語帳を眺める。
ふと、目の前の単語が認識できなくなり、視界が歪む。
「あ、やばい」と思った瞬間にはもう遅かった。
足に力がらず、周りの人に支えられて立っている狀態になった。
數秒後、その均衡が崩れて崩れ落ちる。
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目の前が參道の石畳になったところで俺の記憶は途切れた。
次に目を覚ましたのは、社の中のようだった。
俺は最後の記憶を頼りに推測する。
本殿は重要文化財だからこんな簡単にることは出來ないはずだが……。
というかまず俺はなんでここにいるんだ。
「ようやく目覚めたかの」
奧から聲がかかり、顔を上げる。
「面をあげることを許そう。楽にせい」
「……菅原道真公?」
「その通りじゃ」
半信半疑で口にした言葉を肯定され、言葉に詰まる。
「うむうむ、そうすぐには信じられんじゃろう。じゃからまずはお主がなぜここにいるのかを説明しようかの」
菅原道真公はスラスラ話をする。
「まず、お主が倒れたのは過労じゃな。勉學に勵み過ぎたということかの。元々ギリギリで生きておったが、人ごみのストレスに耐えられず、心労がたたってしまったというところかの。その後、あの人ごみの真ん中じゃ。病院に運び込むのが遅れての。手遅れだったようじゃな」
聞き捨てならない言葉があったな。
「手遅れだった?」
「そのようじゃな」
「つまり、道真公はコスプレの人ではないと」
「こすぷれ? ようわからんが、わしは本の道真じゃ」
俺、死んだのか。
にしては実が湧かない。
というのも道真公の話し方が現代風過ぎるせいだろう。
「道真公にしては話し方が現代によっていませんか?」
「わしも日々進しておるのじゃよ。言葉がわからんとここに祀られておっても願いの聞き屆けようがないからの」
「なるほど」
流石勉學の神様として祀られていることはある。
コスプレがわからなかったが、ストレスはわかっていたのはコスプレについて人々が願うことがなく、ストレス関連は願っているということか。
現代の闇だな。
「それにしては語尾が変わっていませんね」
「こればかりはのぅ。何百年と使ってきておるわけじゃから。もう400年ほど前に諦めたかの。こうして會話は通じるしの」
単位が凄い。
大江戸時代くらいには努力してたってことか。
うん、まぁおおよそ事態は把握した。
「では、なぜ俺はこうして道真公と話しているんですか?」
「うむ、そこじゃ。しかし、これを聞いて揺せんとはお主肝が太いのぅ」
「そうですかね? あまりが表に出ないとは言われていましたが……」
揺はしている。
しかし、死ぬにあたって特に未練はない。
恐らく家族を悲しませてしまったことと、あれだけやっていた験勉強の果を発揮することなく一生を終えてしまったこと。
この2點だけは未練と呼んでもいいのかもしれないが。
悔やんだところでどうにかなることでもないだろう。
「まぁ、良い。こちらとしても話が進めやすくて助かるのでな。で、なぜお主がここでわしと話しておるのか、じゃったな」
「そうですね」
まさか死後の世界に道真公が案してくれるわけでもないだろう。
そういう神様じゃないし。
「うむ、では本題にろう。お主には実験臺になってしいのじゃ」
「今俺凄い不穏なお願いされていませんか」
実験臺て。
「いや、これと言うのもな。この頃ある願いが増えてきとるが、わしとしてもどうしたらいいのかわからず困っておるのじゃよ」
「ずばり?」
「異世界転生させてくれ、とのことじゃな」
「……」
日本人……。
勉學の神様に頼むことじゃないよ、それは。
じゃあどの神様に頼むんだよって話にもなるけど。
「しかし、字面から意味は推測できるのじゃが、どうにも適當にやるのはおかしいじゃろ?」
「まず、出來るんですか?」
「まぁ、その程度はの。ほれ、今わしとお主が話しておるのもお主らの生きる世とは隔絶したものじゃろう?」
「それはまぁ、そうと言えなくもないですが……」
なんか歴史上の人と話すのと全く違う世界に行くのは全然違う気がする。
「で、実験臺と言うのは、俺が行ってくればいいんですか?」
「話が早いのぅ。しかし、良いのか? お主が斷るならこのまま極楽浄土へ送ることも出來るのじゃぞ?」
「それ今からもう1回死ぬみたいで嫌なんですよね」
いくらなんでも死んだままともう1回生きていいのとでどちらが良いかと言われれば、生きたい。
「えっと、俺が異世界転生するにあたって、なにかオプションとかあります?」
「おぷしょん?」
「あ、特典みたいなものです」
「ほう、覚えておくとしよう。しかし、特典のぅ。わしも所詮學問の神様じゃからな。そう大したことは出來んのじゃが……」
なるほど。
よくあるチートみたいなのは出來ないらしい。
息抜きがてらに數タイトルは読んでたから、そういうのにも興味はあったんだけどな。
「ただ、お主が生まれなおす世界についてはある程度の便宜が図れると思うぞ。なにせ、こちらの事で行ってもらうのじゃからな」
やろうと思えば問答無用で俺を送り込めたのだろうが、それをせずに最大限配慮してくれるじがとても好印象だ。
流石皆から敬われているだけはある。
しかし、どんな世界がいいか、か。
「基本的には皆が転生したい場所として思い浮かべられている場所になるんですよね?」
「そうじゃな。魔法というものが発達した世界線、ということになるかの」
まぁ、日本人ならそこを思い浮かべるだろうな。
折角なら、今まで勉強してきたことが活かせるところがいいかな。
もちろん、験勉強で得た知識など、日常生活で役に立つことは稀だから、勉強したら報われるシステムの世界、ならどうだろう。
「勉強したらしただけ報われる世界っていうのは出來るんですか?」
「出來るとは思うがな。しかし、才能というものが存在してしまうとは思うのじゃが……」
「それは仕方がないです。才能が全く関係ないものなんて存在しませんから」
「いい心がけじゃな。では、そういった世界に行くということで話を進めるがよいかの?」
「構いません」
「よし、では早速お主にはその世界に飛んでもらうとしようかの」
「向こうでしなきゃいけないこととかあります?」
「む? 特にはないぞ。お主の向をわしは知ることが出來るしのぅ。お主は第2の人生を存分に満喫するがよい」
「ちなみにですが、記憶は引き継がれますよね?」
「もちろんじゃ。そうでないとみなの願いにそぐわんからの。しかし、あれじゃ。母親がお主を、その、で育てる間は封印しようかと思うのじゃが」
「それがいいと思います」
俺も興味は薄いとはいえ、男の子。
赤ちゃんの時にそんな経験してもいいことはないだろう。
「よし、では、良い人生を送るのじゃぞ」
道真公が送り出す寸前、俺は質問を投げかけた。
「どうして、俺だったんですか?」
「む、そうじゃな」
道真公はし思案して、こう答えた。
「願う年齢層がお主に近かったというのもあるがな。まぁ、1番は、あれほど勉學に打ち込んだ人間を、わしとしては捨て置けなかったということじゃよ」
そう言って社の奧で朗らかに笑う道真公を最後に、社が真っ白に染まっていった。
俺の記憶は、そこで「お禮を言い忘れたな……」と思ったところで途絶えた。
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