《永遠の抱擁が始まる》第一章 二人の抱擁が始まる【そして死神はフードを被る1】
「あたしが怖い話嫌いなの知ってるでしょ!?」
 
責めると彼は「ごめんごめん」と笑って、あたしのグラスにシェリーを注いでくれた。
前菜は平らげてあるから、あたしたちの今の使命は次の料理を待つことだ。
 
「でもさ」
 
ふと彼の顔を覗き込む。
 
「今の話って、いつ作ったの?」
 
彼はというと、まだ愉快そうに薄笑いを浮かべている。
 
「なかなか良く出來た話だったろ?」
「そうかなあ」
 
あたしは首を傾げた。
 
「最後になんで主人公のお醫者さんが死んじゃったのか解らなかった。あと、あれもわかんない。ほら、えっと、振り向かない人?」
「振り向かざる者、ね。それが?」
「奧さん、なんで背中を向けてたの? 最初から主人公に襲いかかればいいと思うんだけど」
「ああ、そのことか」
 
彼は再び可笑しそうに笑う。
 
「次の話で解るよ。二組目の骨の話だ」
「もう怖い話は嫌」
「大丈夫だよ。もう怖い話はない」
 
言って彼は自分のグラスにもお代わりを注いだ。
そして死神はフードを被る
 
 
 
さらったの子が死神だった。
いやマジでだ。
うっかりしましたとか、そういうノリじゃ済まされない。
犯罪者が人間失格なのだとしたら、僕なんざ犯罪者としても失格である。
 
スタッガーリーの一人娘を拐すべく、小心者の僕にも実行可能っぽい計畫を立て、ガクガク震えながら待ち伏せをした。
やってきた若いの人に、僕はどうにか聲を振り絞る。
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「おおお、お父さんが大変なんです!」
 
聲が上ずったのは演技ではなかった。
 
「とにかく大変なんで、行きましょう!」
 
我ながら蕓的な慌て合だ。
 
娘はというと、ものの見事に全くじていない。
 
「お前は何か勘違いをしている」
 
冷靜な聲だった。
 
「勘違いじゃないんです! あなたのお父さんが、もう大変なんです!」
「大変なのはお前だ。私に父がいるのか?」
「いるじゃないですか! いやここにはいないけど!」
「どこだ」
「こっちです!」
 
娘の手を引こうと手をばす。
彼はそれを、すっとかわした。
 
「るな。案してもらおう」
 
最近の若いの人は王様みたいな喋り方をするのだなあ。
足の震えやの鼓を抑えながら、ぼんやりとそんなことを思った。
 
隠れ家に到著してする最初の仕事はドアに鍵をかけることだ。
次の仕事は、謝ること。
 
「ホントすみません! 実は、お父さんが大変というのは噓、ってゆうか。ええ。でもまあ、あの、ここでしばらく人質になって下さい! 危害とかは加えないんで、お手數ですけどもどうかお願いします」
「私に父がいるというのも噓なのか?」
 
不意を突くような質問をされ、言葉に詰まる。
 
「え?」
「二度言わせるな。私に父がいるというのも噓なのか?」
「え?」
 
問いの意味が解らない。
この子、なんで父親を存在から疑っているんだろう。
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椅子に腰を下ろし、足を組んで落ち著いている態度も人質の様子にしては不自然だ。
 
「あのう、スタッガーリーさんの娘さんですよね?」
 
恐る恐る訊ね返すと、娘は何かしらを察したような顔をした。
 
「そういった本人確認は、最初にするべきだ」
「ですよねー」
 
なんてこった、しまったァ!
と、心の中で絶する。
背筋に嫌な汗が噴き出し始める。
僕はこともあろうに拐する相手を間違えていたらしい。
スタッガーリー家とは無縁無関係の、赤の他人をさらってしまっていたのだ。
 
「ホントすみませんでした! 人違いでした!」
 
目覚しいスピードで腰を直角に曲げる。
どうお詫びしたら許してもらえるのかまるで見當もつかないけれど、取り敢えず今はこうすることしか思いつかなかった。
 
「人違い、か。確かに私は人とは違う」
 
不思議な発言に顔を上げる。
僕はそこでとんでもないものを見た。
 
「おうわあ!」
 
二度と発音できそうもない奇聲を発し、同時に後方の床にをつく。
目を疑えば疑うほど、自分の視力の良さを呪った。
 
「どうだ。『人違い』であろう」
 
ガイコツだ。
椅子に腰掛けた骨がなんか言ってる。
さっきまで若いだったはずが、いつの間にか白骨に姿を変えていた。
理科室に置いてあるような模型なんかじゃない。
膝の上で両手の指を絡ませて組んだ。
いてる。
 
「これが私の本當の姿だ」
 
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骨が聲を発した。
本當の姿とかって、いきなり簡単に見せてもらえるものなんだ。
と、驚愕とは裏腹に呑気なことを考える。
 
「ももも、元の姿にもどもど、戻ってください」
 
どうにか口をかす。
するとガイコツはすぐにさっきの娘の姿に変化した。
 
「デザインとしては人間と同じなのに、怖いのか」
 
同じっちゃあ同じだけど、人が骨だけの姿になるにはまず死ぬことから始めなきゃいけないわけで。
なんて冷靜に返したかったけれど、僕の心境はそれどころじゃない。
大パニックだ。
 
「あああ、あなた、なんなんですか!?」
「死神だ」
 
これで「ああ、死神だったんですか。だからかー。それで納得っす」なんて切り返せたらその人のは全世界神経の図太さランキング上位にっているだろう。
 
「死神って……?」
「その通稱は人間が勝手につけただけだ。したがって私は死の神様というわけではない」
 
なんだそっかー、だったら安心。
だなんて思えるものか。
 
「両親の記憶なんて無いからな。私がどうやって生まれたのかを私は知らない。そこでお前が父の存在を思わせるから興味を持って來たのだが」
「ホントすんません!」
「噓だったわけか。それはいけないな」
「ホントすんません!」
 
ここまで「ホントすんません!」を連呼するのもなかなかない験だけれども、他に言葉が出ないのだからしょうがない。
死神とは的に何なのか、正が骨って以外に他にどんな能力や特徴があるのかを知りたいなとはし思ったけど、正直な気持ちとしては帰っていただきたい。
 
「ホントすみません! でも、あの、人違いだったんで、お引取り願えないでしょうか……?」
「そうはいかない。常々、獲の生態や常識について知っておきたいと思っていたからな。しばらくはお前を観察することにした。だから私はお前の魂を喰わずに正を明かし、噓をつけないようにもしておいた」
「なるほど」
 
あまりに當然のように言われたので、思わず普通に相槌を打ってしまった。
えっと、どこに突っ込むべきだろう。
獲って単語がさらっと出たのは何故?
僕の魂を食べるとか何とかって、どういうことですか?
噓がなんだって?
 
「お前が私の質問に正確に答えられるよう、まずは私の事を覚えてもらおう。前報として死神の知識を持っておけ」
 
なんか勝手に仕切ってる。
 
「死神が他の生と最も異なる點は食事にある」
 
どうやら帰ってはくれないようだ。
 
「通常のは有機を捕食し、エネルギーを得てに変換させるが死神は違う。喰うのは人間の魂だけだ。とがれ、離れた瞬間に食事を自的に開始する。なのでしばらくは素手で私にるな」
 
用が済んだらってもいいと解釈できる。
 
「あの、魂を食べられちゃうとどうなるんですか?」
「知らん。魂を喰われたことがないからな。私は」
 
ごもっとも。
 
「ただ、なくとも死は殘る。抜かれた魂は私の一部になるわけだから、もし死後の世界があるとするならば、喰われた魂はそこに行けないだろうな」
 
ただ死ぬってだけでも嫌なのに。
 
「質的ながあるのに食料が霊的なであるという點が死神の特になるわけだ。摂取時には直に対象にれなければならない。そのために必要な能力が、今お前が見ている擬態だ」
 
もう僕のほうが帰ってしまいたい。
 
「催眠の一種だ。こちらが想定する姿形を相手の脳に直接認識させる。今お前が聴いているこの聲も、実は錯覚だ。私が実際に喋っているわけではない。喋ろうにも私には聲帯がないからな」
 
要するに「娘に見えるけどホントは骨で、人間のやり方で喋ろうとしたらカタカタ鳴るだけですよ」ってことか。
 
「魂は人間のが一番だ。の魂を喰うことも可能だがそれらはいくら摂取しても満たされない。だからこそ私は人間の街を點々としているというわけだ」
 
そこを僕が間違ってさらってしまったというわけだ。
 
「さて。私についてはそんなものだ。理解したか?」
「え、あ、はい。たぶん」
「では訊こう。今のこの私の姿、初対面でいきなり人にれることに適しているか?」
 
突然の質問に戸う。
彼が今の姿ではなく、例えば柄の悪い大男や酷く顔の悪い亡霊みたいな風だったら警戒されてしまって、初対面の相手に直接れるというのは難しいだろう。
でも、今目の前にいるような若くて可らしいの子の姿だったら、そりゃちょっとは相手の地にれる確率が上がるかも知れない。
どうしよう。
そのことを教えたら犠牲者が増えてしまうじゃないか。
 
「いやあ」
 
犯罪者失格ついでだ。
僕は口を開く。
 
「もっとこう、なんて言うんですかね? 髪を振りしての涙を流しながらやたらシャカシャカと無駄にく機敏な老婆のほうがいいと思います。噓だけど」
 
応え終えた瞬間「あれ?」と、つぶやく。
可笑しそうに死神が笑った。
 
「そうか。この姿では駄目か」
「え? え、ええ。そうですね、良くないです。噓だけど」
「ではしばらく、このままの姿で行するか」
 
納得されちゃった。
そもそも僕は、どうして噓を噓だって自分から暴しちゃっているのだろう。
 
死神が何事もなかったように続ける。
 
「どうしてこの姿が良いのか、他にはどんな姿が警戒されずに済むのか、そういった法則を私は知らないからな。しばらくはお前に憑いて、人間を間近で研究させてもらうとしよう」
「あの、それはいいんです」
とだけを返したつもりなんだけど、自然と口がってまたしても「噓だけど」と、僕の口は僕の意に反して付け足している。
「あれ? まただ。なんで勝手に口が……?」
「お前はもう噓を言えない。正確には、噓を口にすることは出來るが、直後にそれが噓だと自供してしまう」
「なんですって!?」
「二度言わせるな。自分ので験済みだろう。暗示の一種だ。この擬態が『脳の思い込み』を利用しているように、私はそういった暗示をかけることに長けている。お前はいきなり私に噓をついたからな。それでは困るので噓と誠を判別するためのをお前にかけておいた」
 
あっさりと重大なことを告げられる。
噓を言うと、勝手に口がいてしまうだなんて、そんなバカな。
確かめなくちゃ!
 
僕は思いつくままに噓を並べ立てる。
 
「僕は大統領だ。噓だけど。あ、ホントだ。昨日は空を飛んで鳩とスピードを競った。噓だけど。ああ、やっぱり! くっそう。僕は今まで噓をついたことがない! 噓だけど。駄目か! ええい! お前のことが大好きだー! 噓だけど。ああッ!」
「落ち著け」
「元に戻してください!」
「駄目だ」
「そうですか」
 
こんなザマじゃ拐をやり直そうにも絶対に失敗してしまうだろう。
さらわれる側だって、いきなり知らない男に「お父さんが大変なんです。噓だけど」なんて告げられた日にはリアクションに困るだけだ。
僕はがっくりと地面に両手をついた。
 
死神が椅子から立ち上がる。
 
「お前は普通に生活するだけでいい。私は時に質問をするだけで、お前の邪魔はしない」
 
それを聞いて僕は「ああ」と言い、さらに首を地面に向け、曲げた。
 
隠れ家と稱した小屋を出て、街に戻る道を行く。
腹が立つぐらいに天気が良い。
強い日差しが僕と死神と、木々と小鳥とをまんべんなく照らしている。
 
死神はずっと僕の橫を歩いているから、知らない人が見たら健全なデートに見えるかも知れない。
僕に人や奧さんがいなくて良かった。
  それにしても死神だなんて。
 
僕は溜め息をついた。
こうして並んで歩いている今でも信じられない。
効率良く人の魂を喰らうために人間を研究するだなんて、僕のいないところやってほしい。
だいたい、この子はいつまで僕に付きまとう気でいるのだろう。
用が済んだら、もしかして僕は食べられてしまうのだろうか。
そんなのめちゃめちゃ嫌だ。
ってゆうか今が夏休みで本當によかった。
常に若いが隣にいるこの狀況は、とてもじゃないけど皆に説明できない。
あと、拐も諦めなくちゃ。
 
んなことを考えているうちに僕らは街に辿り付いていた。
 
「ああ」
 
數度目になる溜め息が自然とれる。
 
「これからどうすればいいんだ……」
「二度言わせるな。お前は普通に生活をすればいい」
「その普通の生活っていうのは、いつもの人と一緒だと何かと困るんだよ。誰かに君のことを聞かれたらなんて応えたらいいの?」
「當たり前のことも言わせるな。そんなことはお前の采配でやれ」
「噓も言えないのに!?」
「ある程度なら私が話を合わせてやる」
「つまり、噓を言えるように戻してはくれないんですね……」
 
取り敢えずは便宜上ということで、僕は死神のことをエリーと呼ぶことにした。
安直な命名だったけれど、でも、とてもじゃないけど「死神さん」なんてストレートに呼ぶわけにはいかない。
そんなの誰かに聞かれたら困ってしまう。
そのことを告げたら、エリーは「そうか。エリーか」とつぶやいた。
 
「名前か。ふむ。人間から魂以外のものを貰ったのは初めてだ。そうか、エリーか」
 
なんか喜んでくれたらしい。
 
僕は知り合いに出くわさぬよう、家路を見渡す。
街は今日も賑わっていた。
出店に並んだ果実に足を止める者、通りを徐行して人波に気を遣う馬車、設置されたベンチで煙草を吹かす者。
僕の心とは裏腹に平和な景だ。
 
「一つ疑問があるのだが」
 
エリーが腕を組み、人差し指を顎に當てる。
 
「お前は最初、私を誰かと間違えていたな。誰と間違えた?」
「それはその、えっと、人さらいになろうと思って」
「何故だ。癖か?」
「求なわけないでしょ!?」
 
人に聞かれては困る會話になりそうだ。
僕はエリーを連れてそそくさとアパートの自室に引き篭もる。
 
「僕の職業は、小學校の教師なんだ」
「ほう。それがどうして拐犯に転職を?」
「本職にしようとしてるわけじゃない!」
 
こういうやり取りって喜劇の中だけだと思っていたけど、どうもそうでもないんだなあ。
なんて思いながら、僕はエリーに拐の機を話す。
 
僕の父親には夢がある。
最初は町外れに小屋を作り、彼はそこで塾のような活をしていた。
さっき僕が隠れ家として利用した小屋がそれだ。
 
父は昔から子供のことが大好きだった。
 
「子供にとって、毎日のように逢うことになる大人ってのは親だ。その次が學校の先生。だから教師は人間の見本でいなくちゃいけない」
 
父さんの口癖だ。
念願を葉えて今では小學校を設立し、父は子供たちの將來を助けている。
息子としては誇らしくって、しでも手伝おうと、それで僕は教員になった。
 
小學校を建てるにあたって父は借金をしていた。
富豪で有名なスタッガーリー氏が金を貸してくれたと父さんは喜んでいた。
擔保は小學校の土地だ。
その土地は元々、祖父がしてくれたものだった。
 
「なるほど」
 
エリーが頷いた。
 
「その金貸しがお前の職場の土地をしがった、というわけか」
 
察しが良い。
その通りだった。
スタッガーリーは様々な嫌がらせをして學校の評判を下げた。
あらぬ噂を流し、放火まがいのボヤを起こし、通學路に馬車を走らせ、生徒のまで危険に曬した。
 
「おたくの學校に息子を通わせるわけにはいきませんので」
 
保護者たちがそう判斷するのも必然だ。
 
このままでは學校が潰れてしまう。
借金が返せないことで、土地がスタッガーリーのになってしまう。
 
僕は強く両拳を握った。
 
「父さんがさ、黙って、汗流してさ、焼けた教室を片づけてたんだ。それ見てたら、スタッガーリーがどうしても許せなくなって」
「群れを作って生きる種族らしい発想だな。それで金貸しの娘を拐して代金を手し、手っ取り早く職場を救いたいわけか」
「もフタもない言い方だけど、その通りです。裁判を起こしたんだけど、スタッガーリーは口が巧くて、どうしても勝てないし……」
「サイバン? ああ、あの豪華な口喧嘩のことか」
「まあ、そうとも言えます。おや?」
 
玄関の方向からノックの音がした。
珍しいことに來客だ。
 
「エリーはここにいてください」
 
部屋に死神を殘し玄関を開ける。
 
「先生」
「なんだ、お前たちか」
 
生徒たちだった。
今まさに學校の話をしていたところだったから奇遇に思う。
子供らは三人で來ていて、それぞれが神妙な顔つきだ。
 
「どうしたんだ? 遊びに來たなら、僕は忙しいから駄目だぞ」
「うん……」
 
いつもは明るい生徒が、今日は明らかに沈んでいて様子がおかしい。
僕はしゃがんで目線を低くした。
 
「どうかしたのか?」
「先生、あのさ」
「うん?」
「學校、なくなっちゃうって、本當?」
 
どうやら子供たちの間でも噂になっているらしい。
僕は一杯に優しい表を作り、真っすぐに子供たちの目を見つめる。
 
「誰がそんなこと言ったんだい? 學校がなくなるわけないだろう? 噓だけど。げえ!」
 
しまった!
僕は今、噓がつけないんだった。
 
生徒たちは三人同時に「え?」と自分の耳を疑うような顔をする。
その怪訝な表をかき消すために僕は両手をバタバタさせた。
 
「違う違う! 違うんだ! 今のはな、そういう意味じゃなくって」
「うん? えっと、どういう意味?」
「つまりな? 學校がなくなるなんて話が噓だってことさ。噓だけど」
「え?」
「いやだから、學校は大丈夫なんだ。噓だけど。違う! 噓じゃない! 噓だけど。いやいや、噓なのは僕が最後に『噓だけど』って言ったことが噓なんだ。噓だけど。くっそう!」
「先生?」
「エリー! 今だけでいいから解除してくれ!」
「エリーって、誰か來てるの?」
「いや? あ、ああ。そうなんだ。先生の妹がな。噓だけど。どちきしょう!」
「どっち? ってゆうかさ、先生。もしかして、學校がなくなるって本當なの?」
「そんなことはない! 噓だけど。いやいや、解った! 本當のことを言おう! 僕に困った質問をしないでいただきたいと、僕は今思っている!」
「なんでそこで自分発見するんですか先生」
「僕もそう思った。まあまあ、落ち著こうじゃないか」
「先生だけだよ、取りしてるのは」
「全くだ」
 
咳払いをして、誤魔化す。
 
「ところでお前たち、そんな話どこで聞いたんだ? クラスのみんなも、もう知ってるのか?」
「うん、知ってる。學校にお金がないから潰れちゃうんだってみんな言ってる」
「マジか」
「マジ。大通りで今、ユニー達が募金活してるし」
「なんだって!?」
 
駆け足で街に出ると、エリーも當然のように著いてきた。
人込みの隙間をって進む。
まだ聲変わりをしていない、い大聲が耳にってくる。
 
「募金をお願いしまーす!」
「僕らの學校がなくなろうとしています! 募金をお願いしまーす!」
「お願いしまーす!」
 
男子も子も、聲が枯れていた。
ずっとずっとんでいたのだ。
普段無口のテフラも、いじめっ子のレレイも、ガリ勉のロークスも、必死になって聲を張り上げている。
 
ボヤの殘骸を片づけている父を見た時と同じ覚に陥った。
目頭が熱くなり、悸が早まる。
 
子供たちがんでいる。
自分のため。
學校のため。
聲をガラガラにしてび続けている。
お前たちも、父さんが作った學校を好きでいてくれたんだな。
 
「エリー、ああいうのを見て、どう思う?」
「群れを作らなければ生きていけない種族特有の発想だと思う」
「そうか。人間は違う考え方をするんだ」
「ほう」
「僕は決めたぞ」
「なにをだ?」
「僕はさっき、訪ねて來た教え子たちに噓をついて、それを噓だと言ってしまった」
「あれは面白かった」
「あの『噓だけど』の部分を、僕はこれから噓にする! 世界初、噓をつかない泥棒だ!」
「何を言っているのか解らん」
「學校を守るんだ」
「どうやって?」
「スタッガーリーの家に侵するんだ。お金か、土地の権利書を盜む」
 
エリーはそれで「発想が長していないな」とだけつぶやいた。
表世界で最弱だったが、裏世界では、最強そして、『二つの選択肢』
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