《永遠の抱擁が始まる》第二章 死神の抱擁が始まる【地球の名曲】

「人類最大の発明は何だと思う?」

 

死神からの唐突な問いかけに僕は戸う。

 

「急に言われても……。えっと、なんだろう。お金かなあ」

 

なんだか違うような気がするけれど、でも、正しいと思われる解答がなかなか思い浮かばない。

なんだろうなんだろう。

きっと近なに違いない。

 

「あ! 解った!」

 

この閃きは間違いなく正解だろう。

僕は確信を口にする。

 

「言葉だ!」

 

自信のある答えだった。

しかしエリーはというと、フンと鼻を鳴らせただけだ。

 

「言葉? 確かに言語は優れた発明だ。しかし使いこなせる人間はない」

 

らしいシビアな演説が始まる。

 

「相手に理解させるための説明ができる奴は極めてない。相手からの説明を理解できる奴などさらに稀だ。人類に言葉などまだ早い。寶の持ち腐れだ」

 

相変わらず手厳しい。

では彼は、何が人類最大の発明だと言うのだろうか。

 

「間違いなく、音楽こそが人類の寶だろうな」

 

言い切るからにはエリーのことだ。

何かしらの拠があるのだろう。

 

「生學的に考えれば生きることに音楽は必要ない。音楽が無いせいで滅ぶなどいないだろう。人が音楽に興じるということはつまり、生として余裕があるということだ。他の生だったら生きるだけで一杯で、音楽どころじゃないだろうからな。音楽の発明は、人類が余裕のある生であることを証明している」

 

なんだか難しいけれど、なるほどなあ、と思う。

でも同時に、そうかなあ、とも思う。

音楽は、人類だけのものではないような気がしたのだ。

 

僕らは例えば、をする。

それは種族繁栄のためを思ってするのでは當然なくて、もっと個人的なによるものだ。

 

ある鳥は求のために鳴くとされているけれど、訊ねてみれば案外「自分の聲が好きでね。鳴きたいから鳴いているのさ」なんて、さらりとした答えが返ってくるかも知れない。

 

僕は立ち上がり、窓に手をばす。

 

「なにをしている?」

「君に聴いてもらいたい曲があってね」

 

唄う當人たちにしてみれば、それは奏でることを楽しんでいるだけなのかも知れない。

音を楽しんでいるのなら、それはもう立派な音楽だ。

 

窓を開けると、秋の風が鈴蟲の音を部屋に招きれる。

 

「どうだい? 人間の他にも優秀な音楽家がいるだろう?」

「ふむ、確かに」

 

珍しく友は自説を曲げたようだ。

 

僕らは長椅子に背を預け、ゆっくりと目を閉じる。

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