《永遠の抱擁が始まる》第四章 三人の抱擁が始まる【エンジェルコール1】

今度の骨は三だった。

そのことが、まるで私たちの素晴らしい未來を暗示しているように思えてならない。

 

面倒臭がる彼に強引に頼み込み、正裝してもらって、あたしはあの店が良いと強くんだ。

 

「まあ、この店は僕らにとっても思い出深いからね」

「でしょ? 結婚記念日には最適でしょ?」

 

彼と結婚して、今日で丁度一年だ。

お祝いということで、しお高い印象のこのレストランを選んだ。

去年のあたしはここで、彼からプロポーズをけたのだ。

 

ウエイターがキャンドルに火を燈し、去る。

 

「ねえ」

 

彼に、見方によっては意地の悪そうな笑顔を向けた。

 

「また見つかったね」

「ああ」

 

彼がメニューから顔を上げる。

 

「僕も見たよ。今度のは三で一組」

 

去年、抱き合う男骨が海外で発見され、ちょっとした話題を呼んだ。

五千年から六千年前のもので、その抱き合う様は素晴らしく綺麗に見えた。

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的に「死ぬときはする人とこうなりたい」なんてのような夢想を、當時はしたものだ。

 

最近発見された骨はというと、親子バージョンとでもいうべきだろうか。

骨が抱き合っている。

やはり五千年以上も昔の人骨だ。

母親と思われると二人の子供。

外側の子が八歳ぐらいで、真ん中の子が五歳ぐらいと推定されている。

その三人が抱き合った狀態で発掘されたのだ。

 

「あの三人はさ、なんであんな風に抱き合ってたの?」

 

あたしが五千年以上も前のことを彼に質問するには理由がある。

彼は去年、太古の男が抱き合って果てた理由を獨自に想像していて、その語をあたしに聞かせてくれたのだ。

怖い話もあったけど、好みの話もあった。

彼のことだから今回の話も用意しているのではないか?

そう思ったのだ。

 

彼は「まずは乾杯しようよ」と、ウエイターを呼ぶ。

 

選んだ食前酒は去年と同じ銘柄だった。

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しかしあたしは別途ソフトドリンクを注文する。

 

「お互い、結婚生活一年達おめでとう」

 

グラスを鳴らせた。

 

「でさ、さっきの話は? あの三人はなんで抱き合ってたの?」

 

居ても経ってもいられないといったで、あたしはキャンドル越しに彼にせがむ。

 

「あれは殘念だけど、他者から埋葬された可能が高いね」

 

涼しい顔で、彼は手元にグラスを置いた。

 

「え?」

「何らかの理由で死んだ親子が埋葬時、抱き合わせられたんじゃないかな」

「なんでよ!」

「だって、下には花が敷き詰められた形跡があるんでしょ?」

「う。そうだけどさ」

 

なんだかガッカリだ。

彼のことだから、今度も何かしらのストーリーを思い描いていたのかと期待していたのに。

結婚二年目からして早くも倦怠期だろうか。

 

「そんなことよりさ、君、あの世から電話があったら、どうする?」

「へ?」

 

話の展開がまるで読めない変な問いに、あたしは間の抜けた聲を出した。

 

「あの世からの電話?」

「そう」

「どうするって言われても、誰からなのか、とか、何の用事なのかによるでしょ?」

「まあ、そうだよね」

 

そこで彼はクスリと笑う。

モニターにはある男の人の、ありとあらゆる個人報が映し出されている。

次のお客様はもういいおじいちゃんで、職業は裁判

頭が良くなきゃこなせないお仕事なんだろうな。

脳の能を見ると凄くいい。

賢い人ほど慎重だから今回は手強いかも知れないなあ。

 

僕はいつものようにヘッドフォンをし、カタカタとキーボードを作する。

今日は休日とあるから、長話に持ち込むのは難しくなさそうだ。

 

通話ボタンをクリックすると、呼び出し音が耳のそばで鳴った。

 

職場ではたくさんの仲間たちの話し聲がちょっとしたざわめきのように満ちている。

禮儀正しくデスクが並んで、その一つ一つにモニターと機、回転椅子と同僚がセットになって続いている。

真橫を向けば合わせ鏡みたいだ。

これが何列もある。

自分の職場ながら規模の大きさが頼もしい。

 

「もしもし?」

 

先方が出たみたいだ。

僕は丁重に聞こえるようにし高めの聲を意識した。

 

「お休み中のところ大変失禮いたします。わたくし、先日までお客様を見守らせていただいておりました天使のロウと申します」

「天使?」

「はい、さようでございます」

 

人間のほとんどはこの時點で驚きの聲を上げる。

この人も例外じゃないみたいだ。

 

「天使、とは? 見守っていた?」

「はい、見守らせていただいておりました」

 

噓じゃないよ。

モニター越しにだけど、この人のことは先日まで見てた。

 

「天使だとして、何故私に電話を?」

「はい、本日はですね? 人生に関わる重大な報をお知らせするため、お電話させていただきました」

「ほう」

「大変申し上げにくいのですが、地球はじき、星規模の天変地異に見舞われてしまいます」

 

そこで相手は返事をしなくなっちゃった。

この人頭いいから、きっと話の真偽を図っているんだろうな。

慌てたら怪しがられるから、構わず続けちゃえ。

 

「混させてしまい、誠に申し訳ございません。今から十六年後のことでございます。地表に生きる九割もの生が死滅するといった大規模な災害が起こってしまうんですね」

「それが事実なのだと、どう証明する?」

「未來のことですので証明自は難しいのですが、もしよろしければお客様がご覧になる今宵の夢にその災害時の映像を流させていただくことが可能でございます。そういった手段が使える點も考慮していただいて、わたくしが天使であることをご信頼いただければと思うのですが、いかがいたしましょう?」

「そんなことが出來るなら、やってもらおうか」

「かしこまりました。ただ激しい災害の夢でございますので、非常に恐怖をじさせる容となっているんですね? そこのところ、ご了承いただければと存じます」

「いいだろう。今夜だな?」

「はい。正確には明日の朝方ですね。起床される直前に夢を放映させていただきます」

「解った。それで、そんな大きな災害が起こることを教えて、どうしたいんだ? えっと、君は天使の……」

「はい、ロウでございます」

「ロウ君の用件は何かね?」

 

実はお願い事があるってこと、見抜かれちゃったかー。

察しがいいのは説明が楽になるから助かるけど、こっちのペースを崩されるから困るよ。

 

「はい。問題は、その天変地異が起きた後のことでございます」

「ほう」

「先ほど申し上げました通り、地表の生は九割も死滅してしまいます。そこで人間の數も著しく減してしまうんですね」

「そうなるだろうな」

「そうなりますと魂の調整が取れなくなってしまうのです。通常の場合ですと、人は死亡しますと魂が抜け、あの世に留まった後、再び人へと生まれ変わりを果たします」

「ふむ」

「しかし天変地異が起きますと一度に多くの魂が天に召されてしまうんですね? 一方現世では數の方しか生き殘ることができません。そうなりますと將來、多くの魂が生まれ変わりをする際、人間になりたくとも、その頃はもう人間の數が足りないのです」

「つまるところ、人間以外のに生まれ変わる可能が高いというわけだね?」

「はい、ご明察の通りでございます。しかも哺類や爬蟲類なども數が減ってしまいますので、プランクトンですとか蟲などといった、非常に小さい生に生まれ変わってしまう可能がございます」

「ふむ、それで?」

 

いよいよ本題その一だ。

僕はきゅうっと息を飲んだ。

 

「はい。そこで提案がございます。來世で人間になることを今から諦めていただきますと、私どもとしても助かるんですね。その代わりといってはなんですが、より充実した人生を楽しんでいただくために、わたくしどもからプレゼントをご用意させていただきました」

「プレゼント?」

「はい。願いを葉えさせていただいております」

「願い? 願いといっても、範囲があるんじゃないのかね?」

「ええ。一応ですね、こちらで設けさせていただいたポイントがございます。小さな願い事ですと數ポイントで葉いますが、大きな願い事ならそれだけ多くのポイントを消費するといった形になるんですね」

「なるほどな。だいたいでいいから教えてもらいたんだが」

「はい、なんでございましょう?」

「何を葉えると何ポイント必要なのか、一ポイントあたりの価値を知りたい」

「そうですね。まちまちではございますが、例えば億萬長者になるといった願い事ですと、その規模にもよるのですが、だいたい五百ポイントほど消費するかと思います。もし今何かしら葉えたいことがございましたら、わたくしがお調べし、消費ポイントのお見積もりをさせていただくことも可能でございますよ」

「いや、結構だ。それで、もし私がイエスといえば、何ポイント配給されるのかね?」

「はい、人生を楽しむに充分な千ポイントでございます。今を大切にするためにも、是非わたくしにお任せください」

「任せると言った場合は、的にどういった契約を結ぶんだね?」

「はい、この電話でお申し付けいただくだけで、わたくしが責任持って今後の生活を手助けさせていただきます。面倒なことは一切ございませんので、安心してお楽しみください」

 

すると、沈黙。

もう一言、僕からなんか言ったほうがいいのかな。

でも、考えてるのを邪魔して怒られても嫌だし。

 

「そうだな。し時間をもらえるかね。々と考えてみたい」

「そうですよね。大切なことでございますから、慎重になられたほうがよろしいかと思います」

 

こりゃ逃げられちゃうかなあ。

契約取れないと、お給料に響くんだよなあ。

 

「ロウ君といったな。明日の夜にまた電話をくれないか」

「かしこまりました。夜といいますと、十九時ぐらいでよろしいでしょうか?」

「そうだな。それぐらいで頼む」

「かしこまりました。それではわたくし、擔當のロウが、明日またお電話させていただきます。ご対応のほど、よろしくお願いいたします」

「うむ」

「今宵の夢は非常に恐ろしいものになるかと思いますので、どうぞ心を決め、ご就寢なさってくださいませ」

「解った」

「本日は電話のお時間をいただき、誠にありがとうございます」

 

それでは失禮しますって言って、僕は回線切斷のボタンをクリックする。

夢アリの欄にもチェックして、と。

これでオーケー。

 

ふふ。

僕が実は悪魔なんだってこと、バレてなさそうだ。

向こうから電話してくれって言ってきてたもん。

もしかしたら、明日はいい返事貰えるかも。

期待しちゃうね、こりゃ。

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