《覇王の息子 異世界を馳せる》関羽 逆さに立つ
関羽は自から殺意が消えている事に気がついた。
いつの間にか、目の前の老人を殺したくないと思うようになっている。
もしも、「それは同ではないか?」と問われたら―――
「同である」と答える。
もしも、「それは憐れみではないか?」と問われたら―――
「憐れみである」と答える。
しかし、それは噓偽りのない本心なのだ。
その命を削りながら、死を迎えんとしながら戦いを続けようとする姿に、尊敬に似たが生まれてしまった。
戦場において武人同士の戦いは殺し合いである。
いくら、武道家、武家が武の道を説いたところで、命の奪い合いこそが本來の目的。
だが、それだけではない。決して、武人同士の戦いは殺し合いだけではない。
それ以外の戦いも存在していると関羽は考えている。
だから関羽は手加減をしない。本気で白刃を振るうつもりである。
殺し合いではないが・・・・・・ だが、真剣勝負なのである。
両者共に、相手を死傷させかねない武を向ける。
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その結果、相手は死ぬかもしれない。だが、その死は戦いの結果でしかない。
殺したのではなく、相手が死んだだけだ。
これは、常人には理解しがたい考えなのかもしれない。
しかし、そういう戦いもあるのだと―――
関羽は、ゆっくりと青龍偃月刀を振り上げ、頭上で止める。
長の関羽のから、さらに高く掲げられた青龍偃月刀は、見る者に尋常ではない威圧を與える。
関羽は自のに力を込めていく。
足の指は大地を摑み、を固定するかのように―――
前進しようとする下半を意志の力で押さえ込み―――
最良の一撃を放たんと、腰は後方へ反り―――
そして肩。腕。指。
足の末端から始まった力の流れは、手の末端へと辿りつき、青龍偃月刀を通じて外へと出力された。
放たれた一撃が轟音を上げ、周囲の音をかき消していく。
直後。
金屬同士がぶつかり合う高い音が響く。
老人は剣を橫に向けてけていた。関羽、渾の一撃をけきっていた。
思わず「見事な」と関羽は呟く。
死の直前こそが、人生でもっと強い瞬間であれ。これこそが武人最大の目標である。
目の前の老人は、明らかに劣る武を死を持って埋め合わせている。
なんと理想的な・・・・・・。
今なお、関羽の豪腕をけ、押し返そうとしている。
不意に相手の力が変化した。急に押し返す力がなくなったのだ。
これは老人の力盡きたのではない。力を抜き、こちらの勢を崩そうとする技なのだ。
関羽は勢を崩すまいと、力を抜いて相手のきに合わせる。
その瞬間である。力のきが押し返すものへと変わった。
青龍偃月刀が上へと、そして後方へと押し返された。
そのまま、関羽の目に映る景が回転する。勢を崩させた瞬間、捻りを加えられて投げられたのだった。
関羽が、そのことに気がついたのは天地が逆さまになった時である。
逆さかの視點で、老人のきが見える。
片足を大きく引き、上を後方で反らす。投げで著した間合いを最小の作で広げる。
そして剣を片手に持ち替えている。
このまま、投げられればどういった事になるか?
寢転んだ狀態で立った相手の突きを防ぐの困難である。
関羽は巨。相手の隙をついても、瞬時に立ち上がる事は難しい。
まして、関羽の武は青龍偃月刀。地面を背に青龍偃月刀を自由に扱う事など不可能だ。
投げられれば、絶対不利。ならばどうするか?
そして、関羽と地面が接し、周囲に激しい揺れと、轟音を響かせた。
「參った」
小さな聲であったが、その言葉は確かに聞こえた。
その言葉の主は関羽・・・・・・
ではない。
言葉の主は老人の口かられたもの。そして、老人の元には青龍偃月刀の刃が寸前で止められていた。
投げられてなお、関羽は倒れていなかった。
関羽はなど投げからを守る技の一切を拒否し、頭部から地面へと落ちていった。
そのまま地面とぶつかると、片手で地面を抑える。
そして、片腕と頭部で倒れないように均等を取り、逆立ちの狀態になり、殘った片手に青龍偃月刀を持ち、前へ突き出したのだ。
しかし、投げられるままに、頭部から意図的に落ちるとは尋常な覚悟では不可能だ。
自の重と同等の重りが頭部へ落ちてくるのを想像してもらいたい。
ヘタをすれば命を落としてしまう・・・・・・どころの話ではない。
生きている方がおかしいのだ。いくら鍛えられた関羽であれ無事ではすまない。
だが、関羽は逆さのまま立ち続けている。
それは、老人が下がり、剣を鞘に収めるまで続いた。
剣を収めるの目で確認して、ようやく後方へと倒れて大の字に寢転んだ。
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