―――これは原風景―――

業火が唸りを上げる音。轟音にかき消されることなく、の甲高い泣き聲が混じっている。

あれは……あのは俺だ。宇喜多直家だ。

俺が、まだ八郎と呼ばれていた時代の俺が泣いている。

誰かが呼びかけてくる。

「八郎、起きろ八朗」

八郎？誰のことか？いや、この聲は聞き覚えがある。

目をそっと開く。

まだ、周囲は暗闇が支配している。

いや、開かれたふすまから月のが室へび、俺を呼ぶ人の姿を見せる。

そこには老人がいた。

その老人は宇喜多能家。俺の祖父がそこに立っている。

宇喜多能家の表は、普段の俺へ向けるものとは別であった。

その姿は、まさに『武人』

家督を親父に譲り、引退したはずの武人が存在している。

「戦でございますか？」

祖父は靜かにうなずいた。

いつの間に、ここが戦場になっていたのか。

おそらく、城の者々は武人へと変貌を遂げているはず。

なのに、自分はどうか？　戦の匂いに気がつかず、すやすやと惰眠を貪っていた。

これが恥じ以外のなんであろうか？俺は自分を恥じた。

そうしていると、部屋へってくる者がもう一人。

父、宇喜多興家であった。

俺は父の姿に驚きを隠せないでいた。

戦鎧にを包ませた祖父、能家に対して、父、興家の服裝は平服であった。

なぜ、戦いを前に武裝をしないのか？

浮かび上がる俺の疑問。それに答えるように、父は俺にこう言った。

「おじい様へお別れを言いなさい」

「なぜ、これから戦いにむにお別れなどと、縁起でもありますまい」

俺の言葉に父は困した表を

祖父は笑みの表を浮かべていた。

「お前は父と共に逃げよ」

予想していた言葉とはいえ、実際に祖父の口から放たれると、それは重い衝撃として俺につたわる。

「いやでございます」俺は、反的にんでいた。

だが---

祖父と父の様子から、城へ攻め込んできた勢力が只者ではないと分かる。

「一、どこが攻め込んでまいったのでございますか？」

落ち著いて考えてみると、妙な話だ。

晝間の城の様子を思い出す。祖父も父も普段と変わらぬ様子であった。

いや、祖父、父以外の城の者共が戦の備えをしていた記憶はない。

今宵の奇襲。城の者、誰一人として想定していなかった。

敵勢力は何者で、どこから現れたと言うのか？

祖父は靜かに口を開く。

「敵は、島村よ。島村盛実じゃ」

「そんな馬鹿な・・・・・・」

俺は絶を理解した。

島村家は宇喜多家と同じ浦上の家臣。

つまり、これは---

浦上が宇喜多を攻めるのを良しとした。

そういう事なのだ。