「やはり夢か・・・・・・」

目を覚ました直家はを起こす。

俺は、この世界に來てから、年時代の夢を見るようになっていた。

それも、城を奪われた時の夢だ。

まるで現実と間違えるほどの生々しい夢。

今では思い出すのが困難になっていたはずの祖父と父の顔。

なんせ、40年以上も前の出來事だ。

しかし、夢の中ではハッキリと思い出されている。

いや、それどころ、城の細部まで再現されているのだ。

この世界で使われる魔法という。もしかしたら、あの夢は魔法による影響をけているのかもしれない。

馬車の中、自然と直家はマキビの方へ目を向ける。

吉備真備。奇妙な男である。

今も、まっすぐに姿勢をばし、坐禪の狀態で座ったまま寢ている。

道と軍略を使い、自らを軍師と名乗っている。

この世界に來た時、偶然に出會った。

正直に言うと得の知れぬ男だ。

なんせ、一目で俺の病を見破り、治療を始めたのだ。

逆に下に就けと言われれば、俺とて従わざる得なかっただろう。

それを、同郷を理由に雇ってほしいと言い出したのはマキビの方であった。

と魔法の融合化を目的としているらしいが―――

得たいが知れぬという事は、信用できぬ相手ということだ。

つまり、俺はマキビを軍師として用しているものの、　マキビに対して裏切り、裏切られることを念頭においている。

それで立している―――いや、立させている仕従関係だ。

次に見たのは関羽という男。

・・・・・・おそらくは寢ているのだろう。

おそらく、生來のものか、目を大きく見開いたまま、橫になっている。

いや、もしかしたら、鍛錬によって目を開いたまま睡眠を取るを実につけたのかもしれない。

目を開けたまま寢ているだけではなく、巨ゆえ、布団からはみ出した両足が見え、中々稽な景になっている。

彼を評するに巨軀の武人という表現以外は思いつかない。

その長から繰り出される一撃は、けという武の概念を本から覆す。

直家は関羽との戦いを頭の中で反復させる。

折れず曲がらず日本刀と言われているが・・・・・・

もし、我が刀が備前長船　無銘でなければ、刀ごと切り殺されていたのではなかろうか

あの一撃は斬鉄。なまくら刀でければ、刀ごと切斷されるであろう。

否、それだけではない。直家はそっと、自の右腕をる。

すると微かな痛みが走った。

「完全にけ切ったところで、この痛みか・・・・・・」

直家は靜かに笑った。

そして、笑っている自分に驚いた。

強者に出會えたことで笑みを浮かべる。

そんな、武士らしさが自分にも殘っているのだと

そして、直家は最後に曹丕を見る。

他の二人と違い、極めて自然に寢っている。

すやすやと寢息さえ聞こえてくる気がする。

正直に言う―――直家には、この年の評がうまく思いつかない。

どこか普通であるという事を隠し、どこか異常であるという事を隠している。

群雄割拠の世を裏切りと謀で生き抜いた直家には、人を評することに自負があった。

人のはらわたの奧底に、どんな思考を隠しているのか？

それを読み解くのを得意としている。

だが―――

目の前の年から、それらを覗き見るのは恐ろしく困難を極める事になるだろう。

中々、面白い鬼じゃないか。

それが、曹丕に対する宇喜多直家評であった。