《覇王の息子 異世界を馳せる》英雄の価値観

さて、どうするか?曹丕は考える。

しかし―――

「さて、どうしますか?私を切りますか?それとも応じますかね?」

曹丕の思考を読んだかのように司令は言う。

「今ここで私を切り捨てたならば、私の部下は躊躇なく、貴方を殺します。貴方の仲間たちが來るまで時間稼ぎでもしますか?

それに貴方、人を殺めた事ありますか?ないですよね?」

「なに?」

「切っ先が震えていますよ」

「―――ッッッ!?」

「図星ですかね?人を殺せぬならば、時間を稼がなければならないでしょ?この僅かな時間でも、我々は貴方達の報が―――」

司令は最後まで喋ることができなかった。

なぜならば、その首はから離れ、宙に舞っていたからだ。無論、それは曹丕の剣によるものだった。

周囲には赤い飛沫が雨のように降り注いでくる。

「確かに人は殺したことありませんね。ありませんが、狩りで獣を殺した経験は幾度とあります。

人と獣・・・・・・。大した違いもないでしょう」

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曹丕が言い終えると、周囲を囲っていた男達がき出す。

曹丕は剣を構え直し、向かい打とうとする。

しかし、彼らの目的は曹丕ではなかったのだ。

首を失い、倒れ行く司令を支え、無理やり押さえて立たせる。

1人は空中で跳ね飛ばされた司令の首を摑み取っていた。

そして、そのまま、首をへ―――本來、あった場所へ戻され―――

「お見事。首を刎ね落とすには、前かがみで骨と骨の隙間が広がった狀態でないとできないと聞いていたが・・・・・・

どういう技なのか後學のために聞いておきたいが無理なのだろうね」

司令の男は蘇生した。

あまりにも、あっけなく、簡単に蘇生した。

飛び散ったは、まるで意識を持った生のように変化している。

そして、司令を這い上がり、首まで帰っていく。

「そうか。貴方の部下たちが、四肢を捻られ、切り捨てられ、突き殺されたはずが、なぜ、全員が無事でこの場にいるのか、わかりました」

言った曹丕の聲は震えていた。

「理解が早くて助かります。これが魔法なのです」

「おう、おう、理解はできます。しかし、の震えが止まりません」

曹丕のは自が言うとおり、全が震えていた。

この世界には魔法という技があり、不可思議な現象を起こす。

曹丕は短期間で書を読み漁り、魔法に対する知識を蓄えていた。

理屈は聞いている。しかし、それを目にすると、あまりにも信じられぬ現象であったのだ。

頭では理解できてても、どこか本能的な部分が恐怖をじ、に震えを生じさせている。

そんな曹丕を橫目に「私も貴方のことがしだけ理解できました」と司令の男。

「理解?私のことを?」

「ええ、その通りです。貴方達《渡人》は、自分自を特別視している者が多い。

彼らは、宿命、天命、天運、道しるべ。そう言った事を口にします。

そう。そう言ったが実在するかの如く話、他人をペテンにかける者が多い。

貴方もそう言った類の人間ではないですか?」

「はて?天命がペテン?それはどういった意味でですかね?」

「簡単な事です。貴方は単でこの場に來た。

そして、この場から帰ってくると、付きの者達へ言うのです

『私には天命がある。この場で死ぬはずがない』

・・・・・違いますかな?」

「なにが言いたいのか、まるでわかりませんが?」

「そう言って自分が特別な人間だと嘯いて、箔をつけているだけではないのですか?

偶然でも生き殘れば、周りは勝手に騒いで稱えてくれる。

死ねば、ただ終わるだけ。それは楽な賭けじゃありませんか?

そうです。楽な賭けを行っている者。

多くの英雄の正は・・・・・・」

「自分の生き死にに無関心な人間と言いたいのですかな?」

「その通りです。多くの英雄が持つ価値観は、

『なぜ、人を殺しちゃいけないの?』

と質問する子供と同じくらい拙く、稚なものじゃないでかね?」

「ほう、ならば私も、そうの類の者だと?」

「その通りです。ところで王の素質ってなんだと思います?

が大きい事?それは、自分の出來事を俯瞰して見ているからではないのですか?

他者の事なんて、自分の事なんて、本當はどうでもいい。

だから、他人に寛大でいられるのではないですか?

周囲を引き付ける才能でありながら、同時に周囲を理解出來ぬ者。

だからこそ、強者でいられる。ある意味、究極の客観視ですよ。これは。

私のカンでは、貴方も、そういう部類の人間―――英雄であり、王様なのではないですかね?」

「・・・・・・」

暫し、沈黙が支配する。

「なるほど、確かに一理あります―――」

沈黙を破ったのは曹丕だった。

「しかし、ただ―――

それだけの事で、私を知ったかのように言われるのは

々、不愉快ですね」

曹丕は靜かに―――しかし、力強く、剣を向けた。

そして、こう付け足すのであった。

「それに、私はまだ、王ではありませんよ」

曹丕は笑う。それはどこか、狂気をめた笑い聲であった。

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