風呂から上がると、翁は典に奧にある修練場に涼みに行ってはどうかと勧めてくれる。そこは本來かぐやの稽古場であるため部外者や下の者が立ちることは許されていないのだが、典はもはや部外者ではないだろうと特別に許可してくれた。なんでも景がいいらしい。遠慮よりも景観への期待が勝った典は、それは楽しみと足取りも軽くそちらへと向かっている。

歩を進めて行くと、廊下に備えられている火がなくなってきた。徐々に暗くなっていく先に目を凝らしていた典は、不意にどこからか強いがれていることに気が付く。そしてそれが、し進んだ先の角を曲がった奧の部屋からだと分かると、そっとそこに忍び寄った。

近付けば障子が開いている。典はそれに背中をつけてかに中を窺がった。そして目にった景に、息を呑む。

部屋には満月の夜に地上に降り注ぐような強い月のが満ちていた。しか

し部屋にあるどの照明道も火は燈していない。それでもこの部屋が晝と間違うほどに明るいのは、部屋の中央に寢ているかぐやが原因である。は、寢ている彼から発せられていた。

何事か分からず呆然とその景を見ていると、突然発するようにが強くなる。

「……っなん、だ……!?」

悪夢でも見ているのであろうか、かぐやはうなされていた。どうやらあのはかぐやに呼応しているらしい。かぐやの手が握り締められると同時にがさらに強くなる。

「痛っ！」

しかも今度はただのではないようだ。僅かに障子から出ていた右手が灼かれた。咄嗟に手を引いたものの軽度な火傷を負ってしまった右手を見つめ、典は唾を飲み込んだ。頭が混しているのが自分でも分かった。

（只者じゃないとは思ってたが……まさか、人外のモノなのか……？）

心音が大きくなっていく。目が回ってき始めたその時、逆側の廊下から慌ただしく走る音がした。誰か來たのかともう一度部屋の中を覗けば、あのいつも落ち著いている嫗が駆けって來た。珍しく慌てた様子を見せる彼は、が自を灼くのも構わずにかぐやを抱きしめる。繰り返し繰り返し呟かれているのはかぐやの名前だろうか。

やがて典や嫗を灼いたが消え、後には最初のらかな満月のだけが殘った。そしてかぐやが縋るように嫗に抱きつくと、先ほどので灼かれたばかりの嫗のが見る見るに治癒していく。こっそりと出した典の手も、そのらかなをけて痛みを消した。

何とかなったらしいという安堵と抱く反面、自が験した怪我と回復にまた混し出した時、典はかぐやの異様な雰囲気に気が付く。嫗に抱きしめられているかぐやはゆっくりと視線を持ち上げた。そして、知り合ってから初めて見るような憎しみに満ちた目で何かを睨みつける。何かいるのかと廊下側から同じ方向を見上げれば、そこにあるのはただ月のみ。翁が悲しげな目で見上げた、あの満月のみだ。