《帰らずのかぐや姫》其の五 10

「……お父様、お母様」

両親を抱き締め返し、かぐやがしかすれた聲を絞り出す。固唾を飲んで狀況を見守っていた地上人たちからはおおと小さな歓聲が上がった。翁と嫗は心の底から喜んだ笑顔で先ほどよりも強くかぐやを抱き締める。

「ああよかった、かぐや。いつものお前だね」

「全くこの子ときたら、いつも心配かけるのだから」

「ごめんなさい、お父様、お母様……お父様、腕!」

自分を抱き締める翁の怪我に気付いたかぐやが慌てて彼の腕を取り、著の裾をちぎって手早く止を行った。その間かぐやはすっかり青ざめてしまう。彼は自覚している。これが自分がやったことだと。

「ごめんなさい、ごめんなさいお父様……!」

震える聲で何度も謝り、かぐやは父の手を握り自の額に押し當てた。罪悪でいっぱいになっているかぐやに、しかし翁は気にした様子もなく微笑み、優しく頭をでてやる。

「大丈夫、大丈夫だから心配しなくていいんだよ」

いつも通りの聲で、いつも通りの顔で、あっさりと許しを口にした翁を、かぐやは涙を浮かべて見上げた。すると、そのやり取りを邪魔するように再びしい――かぐやにとっては不快極まりない――音律が響きだす。赫だ。

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涙を手の甲で拭い殺さんばかりの視線で屋の上を見上げれば、殺さんばかりにかぐやを睨みつけている赫と目が合った。相変わらず音はかぐやの心をざわめかせるが、先ほどの失敗を踏まえてからか、今度はかぐやの心を全て消そうとするものではない。この程度なら――。

「耐えられないほどじゃないっての!」

言下かぐやは地面を蹴って屋に跳ね上がる。壊れた木材の端にいったん足を著いたかぐやはそこを踏み壊すように蹴りつけ、放たれた矢の如く赫に突撃した。誰かが彼を守るように能力を使っても貫けるように準備をして。だが、結果として誰一人として彼を守ることはなかった。

何かの罠か、とも思ったが、屋に叩き付けた赫は背中を大いに打ちつけ苦しげに咳き込みいている。それでも笛を手から離していないのは大したものだ。

「あんた……赫って言ったっけ? 私の弟ってことはあんた次の國王でしょ? こんな所で私相手にしてないで敵國でも相手にしてなさいよ」

上にのしかかりながら冷たく言い放てば、赫は皮げな笑みを浮かべた。

「王太子なら月にいるよ。僕はね、君をるためだけに生まれて育てられたんだ。ちゃんと王の子として育てられたのは、僕より後に生まれた子達だけさ」

投げやるように口にされた言葉に、かぐやから表が抜け落ちる。赫はそんなかぐやを涼やかな――諦めた目のまま見上げた。

「覚えてる? 鬼はもう絶滅しているか絶滅寸前まで數を減らしているって。だから、僕のこの能力は真実君のためだけなんだよ。その君をれないんじゃ、僕にはもう生きてる価値もないんだ。ほら、こんな話をしている余裕があるのに、誰も僕を助けに來ないだろう? きっとどうやってここから逃げるか考えているんだよ」

くっくっ、と赫を鳴らす。表を浮かべないままかぐやが視線を巡らせれば、なるほど確かに、文たちは一様に下がり、車の周りに集まってしまっていた。その目がこちらを向いている理由は、かぐやの下にいる赫を心配してではなくかぐやがいつあちらに牙を向くかを警戒しているゆえ。

「――っとに、糞悪い連中」

毒づくと、かぐやは拳を振り上げた。赫は疲れたように笑って目を瞑る。

「姫様っ、おやめください! あなたの弟君です!」

下から羅快の聲が聞こえた。彼が地面を蹴っただろう音と共に典や両親の聲も聞こえてくる。だが、かぐやはそれらを無視して拳を振り下ろした。殘酷な結果を見まいと多くが目を伏せる。しかし、彼らの耳に聞こえてきたのはを潰す鈍い音ではなく何か固い々にしたような音。再び視線が集まり、同時に羅快がかぐやたちの近くにやって來た。ゆらりと立ち上がったかぐやの拳からは何かの欠片が剝がれ落ちる。それは――赫が持っていた笛だ。握っていた端の部分以外が見事に砕され、赫は橫たわりながら目を見開いていた。その彼を、かぐやはいつもの彼の表で見下ろす。

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