《帰らずのかぐや姫》其の五 11

「あんた、月に帰んなくていいわ。ここにいなさい。一緒にあのクソジジィたちが滅びるの地上で見しよう」

きっぱりと言い切ると、かぐやは歩き出した。咄嗟のことで何を言っていいか、どう反応すればいいのか分からない赫は呆然としたまま天に浮かぶ満月を見上げる。それを遮ったのは慌てた様子でやって來た羅快だ。

「赫殿下、お怪我はございませんか?」

慎重に上半を起こされ、赫は彼に視線をやってから、かぐやの背中を目で追った。彼が向かっているのはすっかり怯えきっている文たちの元だ。逃げようとするも足が竦んでけないらしい彼らに近付くと、かぐやは殺気を大量に混ぜて僅かな外能力を発した。それは、彼らがここに來た時地上人たちを跪かせたそれと同じもの。殺気に竦んだ天人たちが一斉に屋に沈むように跪く中、かぐやはとある一人に――長に近付き髪を摑んで引き上げる。

悲鳴をあげ青ざめる彼を、かぐやは殺気をまとわせて睨みつけた。

「月の連中に伝えろ。私と赫、羅快は地上で生きる。邪魔をするつもりなら、今度こそ國を滅ぼす、と」

帰らなくていい、と言われた赫のみならず、羅快もいつの間にやら含まれている。當の2人が驚く中、長は引きつった笑みを浮かべた。

「そ、そのような者たちを引き取るなど酔狂な。姫様、ご無禮をいたしまして誠に申し訳ございません。手荒なことをした我等が間違っておりました。どうかご一緒に月に帰ること、今一度ご検討くださいませんか? いえ、姫様がおみでしたら新たに建國をしてもいい。わ、わたくしめもお供いたします」

手をり合わせ甘言を紡ぐ長を、かぐやは冷めた顔で手放す。解放されたと長はほっとした様子を見せた。しかしその直後、後頭部を思い切り踏みつけられ瓦に顔を埋めることとなる。

「くだらないことを吐くな。耳が腐る」

短く言い切ってから、かぐやは気を失ったらしい長の頭から足をどかし、ひれ伏したままの天人たちを見回した。

「今言ったとおりだ。私はくだらん爭いに巻き込まれるつもりは頭ない。それでも私を連れて行こうとするなら滅びる覚悟をしてから來い。覚悟がないなら――去れ」

その言葉凄絶ながらも姿は凜としてしく、揺るがぬ意思は月昇る大天を駆ける。

再び放たれた強烈な殺気は、戦を知らぬ文たちにすら明確にじ取れたらしい。天人たちは慌しく車に長をはじめとした倒れている者たちを詰め込み、早々に地上を後にする。赫、羅快を殘して天人たちが皆姿を消すと、嵐が去った後のように周囲は靜けさに包まれた。

殘された地上の人々の視線は、月明かりの下で一人勝ち誇る月の佳人の姿に注がれている。

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