見た目は似ているのに似ていない姉弟を見比べて、典はつい聲に出して笑う。それが不愉快だったのか、座ったままの赫がじろりと睨みあげてきた。かぐやと違って直接的な戦闘能力はないようだが、彼によく似た顔立ちに厳しさがじると恐ろしさが先に立つ。典は話題を変えるように咳払いをした。

「そ、そういえば、月の話はどのように仕れたんだ？　遠見でも使えるのか？」

縁を切るような形で地上に殘った以上、彼らにその報を伝える者がいたとは考えにくい。ゆえに典は異能の一種である「遠見」を口にする。しかし、返ってきたのは羅快の否定と赫の鼻笑いだった。

「いや、先日、革命軍から使いが來た。平たく言えば和平渉をしにな」

「『月から離れたあなた方まで咎めようとは思いません。お互い不干渉ということで済ませましょう』、ってところかな。彼らも月の鬼神を再び相手にはしたくなかったみたいだね。隨分と慎重な言いだったよ」

曰く、かぐやの召喚に失敗したと報告をけた彼たちの父王は、家族を連れ出奔。大臣や近衛兵も同様に逃げ出した。するとその報はすぐに國中に広まり、革命軍が一気に王都に攻め込んだ。上層部があらかた逃げ出し瓦解した王都の制圧完了には長くはかからず、その後數日のうちに逃げ出した王たちも捕まった。王たちは処刑され、新たに革命軍から王が立てられた、とのことだ。

革命軍の使者が伝えたという容を聞き終わると、典は改めてかぐやがどれだけ彼らにとっての脅威であったかを認識する。話に聞く限りではほぼ圧勝の形で國を覆した革命軍。その彼らが、かぐやが國を捨てたことを知るまでの間進攻を躊躇せざるを得なかったというのだ。普通では考えられない。

「帝が絶対に政爭には巻き込まないと念書までしたためられるわけだな」

それは典の主から聞いた話。騒ぎの収束を行う合間に、帝は翁とかぐや宛に文を送ったらしい。その容は今典が口にした通り、かぐやを決して歴史の表に出さない、というもの。政爭に巻き込まない代わり、彼にも決して表に出ないように、と約定をわすものだったと聞く。

「ああ、それ父さまたちが話していたよ。かぐやったら、『ちょうどいいから私がもう大人しくしてなくていいように噂流して』なんて言ってた。まぁこの通り、功しているわけだけど」

赫は過日を思い出したのか呆れたように長く息を吐く。この通り、と言って見やったのはまたも別の男を相手取るかぐやだ。見れば垣を越えて人が並んでいた。

今世間に流れている噂は、「かぐや姫は天人の姫であったが、実は大層なじゃじゃ馬であったため、天人たちも呆れ返り結局連れて行かれることはなかった」というもの。肝心なところは隠されているが、ほとんど合っているのが恐ろしい。さらにその噂を裏付けるようにかぐやが貓を被ることをやめたため、噂は彼のしさが音に響いた時同様に広まった。

「かぐやが死ぬまで、だったかな。殺されはしないだろうから、何千年後の話になるやら……」

ぽつりと赫がもらすと、典ははてと首を傾げる。

「天人にも壽命があるのか？」

地上の伝承では天人、そしてかぐやが食らったという鬼も不老不死の存在だ。かぐやの話から殺されることがあるのは理解したが、典は未だに彼らに壽命があるとは思っていなかったのだ。その不思議そうな顔を、赫はすがめながら見上げる。

「あるよ。僕たちは長壽なだけで不老でも不死でもない。かぐやだって若く見えるだけで、多分あなたと同い年くらいだよ。――もっとも、鬼を食べてその生命力を得たあのは、あなたはもちろん、純粋な天人の羅快や僕より長生きするだろうけどね。……ところで、あなた敬語抜けるの早すぎない？」

敬語が抜けていることを指摘された典は視線をそらして小さく咳払いをした。見た目がまだ若いのとかぐやの弟という気安さから、つい普通に話してしまっていたのだ。何と言い繕うか考える典に、赫は「まぁいいけど」とどうでもよさげに言ってやる。安堵の息を吐いた典は再びかぐやに視線を戻し、今度は別のことに首を傾げた。