《帰らずのかぐや姫》おわり 3

「それにしても、改めてそう聞かされるとあいつの怖いもの知らずが際立つな。いくら強大な力を持とうと、殺されることだって十分ありえる。だというのに、ひとりで敵と向かい合える豪膽さはどこから來るのだか……」

しみじみと典が呟けば、赫は「神経が図太いんでしょ」と投げやりな答えを返す。

その彼らのやり取りを後ろに控えて聞いていた羅快は、ひとりその答えを考えた。恐らく、かぐやの持つ答えに一番近い所にいるのは彼だろう。ゆえに思う。

あの方は自ら死のうとなさっているのではないか、と。

わざと危険にを曬しているのではないか、と。

このひと月の間に、翁・嫗に今までのかぐやの向は大聞いていた。

義俠心が強いこと。

孤児を何人も引き取っていること。

無意に暴力を振るう者を嫌うこと。

どんな危険にも率先して立ち向かっていくこと。

夜、ひとり闇の中にいることを恐れること。

それらの行の全てが、月でのかぐやの境遇に起因するのだろう。かぐやはい頃から戦場に立っていた。そうなると必然的に、親を亡くす子供も無意に力を誇示する者も見ることになる。また、かぐやは國を守るために最前線で戦っていた。弱きを助く、という想いが生まれてもおかしくはないし、危険に立ち向かうことも慣れるだろう。

そして――これはかぐや本人に聞くまでにわかには信じられなかったが、彼の両親は暗く狹い檻に彼を閉じ込め、地上に追放したという。それから翁に助けられるまでずっと、彼はひとり暗闇の中にあった。長壽の天人にとっては僅かな年月。しかし天人は青年期から長が遅くなるので、年期の長速度は地上人と変わらない。戦時の彼かったことを思うと、多な時期に闇に閉じ込められていたことになる。それは、暗闇も怖くなるだろう。鬼のすら耐えたかぐやでなければとうに狂死していたに違いない。

だが羅快の目には、耐えられてしまったからこそ、かぐやが無意識に〝それ〟を――自分を殺せる存在を、求めているように見えていた。あの天真爛漫な明るさの下にある、「守り通すために得た力が滅ぼす力になる」ことへの恐怖。それが、羅快が戦いの最中見つけた答えだ。

もっとも、彼はそれを口にするつもりはない。かぐやが自覚せず、また他の誰もが気付いていないのであれば、わざわざ指摘する必要はないと思ったからだ。それに、このひと月でもうひとつ気付いた、かぐやが隠している――否、同じく無自覚に抱いている思いがあれば、彼の不安定さも和らぐような気がしている。

羅快は思考を表に戻すと、未だにかぐやの思を図ろうとして唸っている典の背中を軽く叩いてやった。

「姫様のお考えは姫様のものさ。それより、空いたぞ」

指差す先にいるのは並んでいた男たちを全て追い返した(一部は逃げ帰ったのかもしれない)かぐや。暴れ足りないのか、足りなさそうに竹で演舞を始めている。

典は見抜かれていた気まずさに思わず息を飲むが、しばしの逡巡の後、歩き出した。その背に微笑ましさを覚えながら、羅快は心で応援し、赫は興味なさそうに軽く息を吐く。

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