《帰らずのかぐや姫》おわり 4

演舞を楽しんでいたかぐやは、ゆっくりと近付いてきた人に気付ききを止める。

「面白いことをしているな、かぐや。調子はどうだ?」

いつもの皮な口調に皮な笑い。かぐやも応じていつもの悪の笑みを浮かべた。

「もちろん絶好調だよ。59戦59勝。でも相手が弱すぎちゃってねー。なまっちゃうよ」

ぶつぶつと文句を言いながら竹を振り回すかぐや。型にははまらないが、それに目標がいればとうにギタギタだろう。

「阿呆。お前の能力を全力で相手出來る奴が地上にいるか。……ところで、お前俺に何かしたな? あの使者の爺が來た日」

腕を組んで半目でかぐやを見れば、かぐやは悪びれるでもなく舌をぺろりと出した。

「さー、どうかなー?」

「とぼけるなって。いきなりあんな力使えるようになったから、あの後主たちに々訊かれて大変だったんだぞ。まあ、次の日から使えなくなっていたし、一時的だったんだろうが、ああいう力を貸し與えるつもりならちゃんと言え。気付かなかったらどうするつもりだったんだ」

呆れたように典は頭を抱える。本當にあの時思い出したからよかったものを、今考えると恐ろしさで背筋が冷えて仕方ない。そんな典の訴えをよそに、かぐやはぼそりと「使えなくなった?」と呟いた。そして、視線を縁側に腰かけている赫とその橫に立つ羅快に向ける。視線に気付いた赫は面倒そうな顔をするものの顔を橫に振り、羅快も赫を腕で示しながら小さく頷いた。

3人のやりとりに、典とちょうど表に出てきた翁たちは揃って不思議そうな顔をする。何だ、と典が問いかけるが、かぐやは「何でもない」と笑った。その笑顔はたとえ噓だとばれようと頑なに真実を口にしない時のそれ。気付いた典は先ほどと違う諦めを抱いて息を吐く。

そして、気を取り直すように咳払いをした。あの力についても実際訊きたかったことだが、今回わざわざかぐやの前に來たのはそのためだけではない。典は心の中で自を叱咤する。一言口にするだけだ。「自分も挑戦する」、と。

意を決して口を開きかけた、その時。

「ねぇ」

呼びかけ。ほぼ同時に元に突きつけられる竹。息を飲む典に、かぐやは悪のように笑いかける。

「あんたも挑戦しない? 他の奴らよりよっぽど楽しくなれるでしょ?」

気軽な口調でのい。それに嬉しそうな顔をしたのは典ではなく、赫たちとは別の場所に腰をおろした翁嫗の2人だ。これはもしやようやく意中の人を見つけたのか、と。

「……ああ」

小聲で返すや、典は真剣の隣に佩いていた竹を引き抜いて構えた。

「かぐや、俺の嫁になれ」

結婚を申し込んでいるのか決闘を申し込んでいるのか分からない口振りの口上に。

「――ええ」

かぐやはにっと笑って竹を構え直す。

「私を倒せたらね」

これまた結婚の條件を出しているのか決闘の買い言葉を述べているのか分からない返答。

互いに間合いを取り相対する。一騎討ちの前の。同等の思いは、子供が遊びを始める前のわくわくした覚。

風が一陣吹き抜けるのを契機としたのは、果たしてどちらであったか。

「いざ尋常に――勝負っ!!」

爽やかに弾けた言葉と打ち合いの高音が、雲ひとつない蒼天に響き渡る。

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