《帰らずのかぐや姫》おわり 5

倒れた相手の上に、勝者は腰を下ろしてふんぞり返る。その様に心痛の溜め息を吐くのは翁と嫗の2人。彼らの視線の先にいるのは、呵々大笑している娘と、ボロボロになりその下敷きにされてしまっている青年。ようやく落ち著き場所をみつけたのかと安心していた老父母の心など、勝利に酔う姫君は知る由もない。

「ばっかじゃないの、あの

心底呆れきった呟きを吐き出し、赫は天井を仰ぐ。羅快は目を瞑って引きつった顔で沈黙した。否定が出來ないのだ。

「自分の天力をほぼ全部渡せるくらいあの男に惚れているくせに、何で勝っちゃうんだか」

典がかぐやの能力を使ったのを戦いの最中目撃した時、その方法こそすぐに思い至った赫だが、その理由はまるで理解出來なかった。天人には確かにその力を人に分け與える方法がある。自らのに能力を刻み、相手に飲ませる、というものだ。もちろん得た力は時間が経とうが消えない。かぐやが不思議がったのはそのせいで、赫たちに視線を送ってきたのは殘っているかを確認するためだ。

しかし、その方法を実際にやる者はない。何故ならこの方法は確実に相手に能力を與えるが、與えた分を回収することが出來ないからだ。それにも関わらずかぐやは典に天力を與えた。しかも、暴走したかぐやを止められるように配慮したのか、かぐやに力の気配を殘すのに必要な最小限を殘して全て渡したらしい。戦いの後に彼と改めて顔を合わせた赫と羅快はそのことをに衝撃を覚えた。今彼を超人たらしめているのは、生まれつきの天力ではなく彼が文字通り命をかけて得た鬼の力ということだ。

「それにあの男も馬鹿だね。他の奴らには〝勝てたら〟って言ってるのに、自分には〝倒せたら〟って言われているのにまるで気付いてない」

その発言には羅快は苦笑を返す。あの場で「倒せたら」と言われたら「勝てたら」という意味で捉えてしまうのは仕方のないことだろう。ひとまずは放っておくつもりだが、果たして典はいつ気が付くだろうか。倒す、が単純に転ばせることも含んでいることに。

「確かに傍から見ると呆れてしまいますが、男の機微ですので、しばらく見守られてはいかがでしょうか? 姫様の力を得てしまった以上、典殿の壽命もびたはずですから」

天人から天人に能力を與えるだけであればただの譲渡だ。しかし典は地上人。彼はかぐやの力を得るのと同時に、その長壽の恩恵もけてしまっているはずである。

「父さまたちが生きている間に安心させたいから、あんまり長くかかるようになったらどっちもばらすよ」

もう一度呆れたため息をつき、赫は手をひらひらとさせた。とりあえずしばらくの間見守ることに異論はないようだ。

「ほーんと、馬鹿な奴ら」

ぽつりと呟いた言葉は、立ち上がって再戦を申し込む典の聲にかき消されてしまう。

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