《鸞翔鬼伝〜らんしょうきでん〜》天命.一 邂逅〔參〕

一方…。

志木は翔隆に顔を向けながら、重々しい口調で語り出した。

「まず、お主が日頃 疑問をじていた〝我らが何故ここに居るのか〟という事を教えねばならん。…心して、聞かれよ」

最後の〝敬語〟が々引っ掛かったが、翔隆は靜かにうなずいた。

「…古より、二つの〝〟と〝〟の一族が存在した。それらの名は、〔不知火一族〕と〔狹霧一族〕。両一族は、互いに宿敵である。帝の相続爭いや天下の大事に関わって戦ってきた…。我らはその、〝〟である不知火一族だ」

「しら…ぬい……」

聞いた事も、見た事も無い名前…。

しかし、の二つの中で何故“”なのか…?

ふと思ったが深く考えなかった。

尚も志木は話す。

「我ら不知火の使命は、〝宿敵〟の狹霧一族を滅ぼす事! …絶対に、滅ぼさねばならんのだ…!」

その言葉が、切なげに聞こえるのは気のせいだろうか…?

続いて爺様が翔隆を見つめて、

「では、一族の〝掟〟を教えよう」

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そう言い、ゆっくりと喋る。

「…一つ、長たる者 一族を統率し狹霧を滅卻すべし」

そう言い、翔隆の顔を見てまた喋る。

「一つ、長の族で子が生まれし時は殺すべし」

また區切って言い、じっと見てくるので翔隆はうなずいた。

「一つ、長の族の長男で、嫡子ではない時は狹霧に送るべし」

爺様は一つ言い、翔隆がうなずくのを見てからまた話す。

「一つ、一族は長のみを主君とし、他に主君を持つは死罪である」

その言葉の後にうなずくが、爺様はじーっと翔隆を見る。

〈…?〉

もう一度うなずくと、爺様はため息をついて話す。

「一つ、長が主君を持つも大罪であり、その処罰は頭領と一門で決めるべし」

…ふっ… 笑いがれた気がする…。

「一つ、狹霧に送りし長男は、嫡子が連れ戻すべし」

クッ… 憫笑のような、含み笑い…気のせいではない。

気にはなるが、とにかく真剣に聞いた。

「一つ、〝掟〟は七つの年に教えるべし」

その言葉に翔隆はぎょっとした。

〈七つ?! それじゃ俺はすでに掟を破って…〉

「一つ、掟破りは死罪」

死罪!?

翔隆は蒼白して何か言い掛けるが、皆の顔を見て止まる。

拓須はうつむいているが、皆こちらを見て真剣な顔でうなずいたからだ。

〝大丈夫だ〟と言わんばかりに…。

〈知っていて…皆が黙っていた…〉

もしかして掟を教える年の七つに、森を出るのを許された日…

あの時に…

の馬に乗り、じっと一點のみを見つめる年………吉法師。

翔隆は食いるようにいつまでも見とれていた。

彼が誰なのか判らないままに一目惚れして、森に帰ってから嬉しそうに皆に話して回った。

大人達は皆、苦笑したりしながらも話を聞いてくれた。

だが、志木だけが〝そうか…〟と哀しそうに呟いた。

もしかして、あの時に〝掟〟を教えるのを、やめてしまったのではないだろうか…?

余りにも楽しそうにはしゃぐ自分の姿を見て…

「ずっとあの人を見ていくんだ!」

と言ってしまったから…

だから、皆も掟破りを承知の上で黙ってくれていたのではないか?!

そう思うと翔隆はきゅっとを噛み締めて、その言葉一つ一つをよく頭にれた。

「この八つじゃ…。よいか、翔隆…この事決して忘れるでないぞ?」

「――――はい!」

翔隆はきちんとそれらを理解した上で答え、うなずいた。

「…俺は不知火一族で、その“狹霧”を倒すんだね?」

「そうじゃ」

「話は…終わり?」

「うむ。…ん? いや」

まだ何かを言おうとするが、翔隆はすでに聞いておらず立ち上がる。

「じゃあ俺、義と修業するって約束してるから…。義! 早く行こうよ、楓姉さんも待ってるよ!」

「ん? あ、ああ…」

は戸うが、翔隆は明るく笑ってさっさと行ってしまう。

仕方なく、義も刀を手に一禮して後を追った。

「…これから、大事な話があるというのに…また!!」

志木がぶ。

まだ肝心な…嫡子なのだということを伝えていない。

嫡子なので、兄を迎えに行かなければならない事と、弟がいるという事を。

「明日また伝えましょう、頭」

千太がそう志木をめた。

「あのすばしっこさは、誰に似たのやら」

爺様が言い、皆はため息をつきながらも小屋を出た。

睦月も苦笑して見送ってから出掛け、拓須だけが殘る。

拓須は一人、冷笑した。

〈クックククク……せいぜい〝束の間の幸せ〟とやらに浸っているがいい!〉

睦月はいつものように薬箱を背負い、籠一杯に薬草をれて村外れに向かう。

木のに腰を下ろして籠を置き、薬箱から薬草をすり潰す為の鉢と棒、それに薬草を小さく挽く為の薬研やげんを取り出す。

まずは薬研に薬草を千切ってれて細かくなるまでゴリゴリと挽いていく。

それを鉢に移してすり潰していると、好奇心旺盛な子供達がわらわらと集まってきた。

「今日は何を作っとる?」

「ふふ…さて」

睦月は微笑んで丹念にすっていく。

すると、人が集まり始めた。

その中から、が側に寄っていく。

「むつきさん、うちの人が熱出してまったでぇ。何ぞええもんねゃあかねぇ?」

「風邪か? 咳や鼻水は出るか?」

「でら咳して、辛そうで…」

「ならば食事の後に、このを湯にれて飲ませなさい。咳が止まらなかったら、この丸薬を一つ飲ませて…一日四個までだよ」

そう言い睦月はそのに、末にした薬を紙に包んだを八個と、丸薬を八つ渡した。

「すまなかったなも。今度、大持ってくるだで」

「いや、要らないから…よく汗を掻かせなさい」

は何度も頭を下げながら、駆けて行った。

すると、今度は左足に火傷を負った男がおずおずと睦月に近寄ってくる。

「その…」

その足を見た睦月はすぐに薬箱から、すった薬草を取り出して火傷に塗る。

「これは酷い…何でこんなになる前に來なかったんだ?」

「…そのよ、おめゃあさんが怖くて…」

男は俯きながら申し訳なさそうに言った。すると睦月は苦笑する。

「…怖い事はないさ。わたしは、ただの人だよ」

そう言う睦月は、し凄然として見えた。

そう思ったのは、民衆に紛れた佐々蔵助。

〈…銭を取らんとは心だ。だが、やはり只者ではないな…〉

銭を取らない所を抜かせば、異國の薬売りに見える…。

しかし、その軀から滲み出る〝気〟が尋常ではない、と…未蔵助にも判るのだ。

〈さて……どうやって連れ出す? …ただ〝來い〟…と言って來ると思えない。何か、気を引くような言葉を―――〉

相手は薬師だ…。

蔵助は、うんとうなずき前に出る。

「おめゃあさんー! 薬師だと聞いて駆け付けたで! 河原でわしの仲間がどえりゃあ痛がって……助けてちょーだゃあ!」

「! 判った!」

睦月はすぐに薬草や道を薬箱にれて、籠を持って立ち上がる。

しめた!

「こっちだで!」

蔵助は心ホッとして、主君の待つ河へと大急ぎで案した。

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